胡蝶蘭原種を中心に月毎の出来事を記載したページです。2009年8月から更新します。

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5月

6月 7月

7月

コンポストの寿命 

 今月の歳月記のなかで、フィリピン再訪問の際、マニラ空港を出たときのマニラ市の暑さを冒頭で述べましたが、今週は東京がそれに近くなってしまいました。この東京の温度下で湿度が80%になった状況を想像していただくと、良く理解できるかと思います。会津の温室も寒冷紗を下して窓を開けても37Cで、水撒きを午前・午後それぞれ2回、計4回行うなど大変な状況です。さて今回はコンポストについて取り上げてみます。

 胡蝶蘭は気根植物であることから、コンポスト(植込み材)や取り付け材にはコルク、ヘゴ板などが適し、一方、やや乾燥気味な環境や湿気を好む種にはミズゴケで根を巻いたバスケットで良い結果が得られます。ポット植えではミズゴケ、クリプトモス、バーク、ヘゴファイバー(チップ)、ヤシ殻ファイバーなどがコンポスト(植込み材)として利用されます。それぞれ長所・短所は本サイトの植込み材のページで取り上げました。

 コルクやヘゴ板は根の活着用であり、毎回の灌水で肥料の残りは洗い流されることから大きな面積のものを使用すれば恒久的に利用できるように思われがちですが、2つの問題があります。一つは施肥の度合いにもよるものの、緑色の苔が付着することと、この苔がやがて根にも厚く付くようになります。これを避けるため薄い濃度の施肥を行う方法も考えられますが、わずかなミズゴケを根元に巻いているだけのこれら取付け材では、大半の根は露出しているため、肥料が留まることはなく、ポット植えに比べて成長が遅いうえに、さらに遅れることになります。これを避けるため置き肥をティーパックに入れて上部に吊るし、毎回の灌水でこの肥料を通った水を与えるのですが、やはりそのためか苔の発生は避けられません。

 もう一つの問題は株そのものの成長です。胡蝶蘭は単茎性であるため、徐々に茎は伸びて新しい根元が茎の成長に伴って上部に移動していきます。このため根元はやがて取付け材から徐々に離れていき、根が浮いた状態になります。一方、それまでに活着していた古い根はやがて枯れていきます。この状態になると新しい根はほとんど空中に浮かんだ状態か、古い根に並ぶか重なった状態となり、肥料、湿度ともにそれまでの環境とはかなり異なってきます。この結果やがて株全体が痩せて行き、弱弱しい株になっていきます。このような状況はバスケットであっても同じです。根はバスケットのミズゴケに潜ることはなく新しい根は外側に張り出していきます。

 この株の弱体化を防ぐには、浮いた根と取付け材の間に新しいミズゴケを挟んだりして、しばらくは凌ぐこともできますが、基本的な解決方法ではなく、結局、植え換えを行うしかなく、大きなダメージを伴うもののコルクやヘゴ板に食い込んだ根は切って剥がす以外ありません。これがコルクやヘゴ板の問題点となります。大半の根を切られても株は再生しますが、2つの注意が必要となります。一つは植え替える時期と作落ちです。植え替える時期は秋から冬の成長が緩やかな時期は困難です。この時期に大きく根を傷をつけることは好ましくありません。とくに移植の難しい種(一般に栽培が難しいとされる種)はまずこの時期の移植は成功しません。一方、作落ちは多くの根を切り捨てるかぎり、避けることはできず、古い葉の1-2枚が、移植後1か月以内に黄変し枯れていきます。多輪花性の種はそれほどでもありませんが、一般種では植え替えた年に花を付けることは難しくなります。

この主軸が伸びてコルクやヘゴ板を交換しなければならない時期が何年程度かは施肥の程度にもよりますが、3-4年です。ポット植えではミズゴケやクリプトモスの寿命は1年(ヘゴファイバーは2年)ですから、その交換時に古く黒くなった茎の下部とその部分についた変色した根は切り落とし、新しいポットとコンポストに植え替えるため、新しい根は常にコンポストに接触しており栄養も十分であろうと思います。

 すべての株のコンポストとして最適材は高湿度環境にある限りコルクであり、やや水分を好む種はヘゴ板ですが、これらとて上記したように万能ではなく、交換しなければならない時期があることは避けられません。この際の根の処理に伴う長所短所が悩ましいところです。

 筆者は最近では株が増えるに従ってコストの高いコルクやヘゴ板の使用は極力避け、小型種はヤシガラマット巻き、中・大型種はミズゴケ:ヘゴチップ=3:7で素焼き鉢3-3.5号に植え付けて斜めに吊るし、希少種の中・大型種をバスケット、P. lindeniiのような移植を嫌がる種はヘゴ板/棒、P. giganteaはコルクにそれぞれ例外的に取り付けています。今月末にでも現在実施している種別コンポスト一覧をこのページに掲載する予定です。


P. equestrisのフォームについて

 多くの種には、alba(白), aurea(黄)およびcoerulea(青)のそれぞれの変種(現在はフォーム)があります。P. equestrisも例外ではなくこれら3種のフォームが知られています。その一方で、P. equestrisleucaspisに見られるように、花被片とともにリップ色(7月の今月の花に掲載)は多様で、はたしてリップ色のみで前記のフォーム判断の基準になるかどうかは問題があるようです。

 P. equestrisにおいては一般に、リップの色がどのような色合いであっても花被片(セパルとペタル)に色が付いている場合はこれをalba, aureaおよびcoeruleaとは呼ばず、花被片が全て純白であることと、その上でリップだけが白、黄、青のものをそれぞれalba, aureaおよびcoeruleaと呼んでいるようです。自然界(山採り)ではalbaは数年に一度、aureaはごく稀に、さらにcoeruleaは発見が困難(ハンターでも一生に出会うかどうか)とのことです。よって我々がクローンや実生あるいは改良種ではなく、これらを原種として手に入れられるのは山採りからのKeikis(高芽)ということになるのですが、今回なんとか山採り株を所有し手放すのを嫌がるオナーを説得し、高芽と思われるaureaおよびcoeruleaをそれぞれ1本だけ入手することができました。どのような種でも、花はすべて出荷段階でカットするように依頼しますので、右端のセルレアは現地で撮影したもので実生ではありません。花つきのままの海外からの搬送は株にとって負荷が大きく作落ちの可能性が高いためです。1年後の開花で交配するための入手です。P. equestrisのalbaタイプは現在台湾で実生され広く世界に出回っており、国内でも3,000円程で入手できますが、下写真のようにリップやカルスまで白色はほとんど無く、薄い黄色がカルスあるいはリップの基部に入っており純白はめったに見かけません。


P. equestris f. alba

P. equestris f. aurea

P. equestris f. coerulea

 下写真のような全体が青色のタイプはセルレアとは呼ばず単に’ブルー’タイプという呼び方です。おそらく下写真の株と左のような純白のalbaとを交配すれば上写真の右のような実生が得られるのではと思います。リップの色が遺伝性が強い感じがします。花被片が全て純白でリップのみが赤である株を入手したいのですが、存在すれば新しいフォームとして上写真に加わります。これまでに自然界では見つかっていない幻の色のようです。原種とは呼べなくなりますが、一度種別ページの写真にあるようなワインレッド色のリップタイプと上写真の左のalbaを交配してみたいとも思います。


P. equestris blue

 今日市販されている多くのP. equestrisP. violaceaと並んで多くの改良品種と言われています。P. equestris leucaspisと呼ばれているフォームははたして自然種なのかどうかは疑問のあるところです。葉形状を見るとP. amabilisと見間違うほどの大株になり他のフォームには見られない生体的特徴があるように思われますが、フィリピン現地のオーキッドハンターの農園ではどこに行っても赤、オレンジ、ピンク、紫、青などの多様なリップ色のあるP.equestirsは見つけられません。Calayan諸島という説がありますので一度調査したいとは思います。しかし自然界において一つの種で、それほど多様な色合いが特定の領域内で混在して生息しているとも思えず、台湾にて改良されフィリピンに逆輸入された品種の可能性が高いかもしれません。


フィリピン再訪問(6月26日‐29日)

 昨年8月末以来、再びフィリピンに行ってきました。これで2年間で5度目となります。会津と東京を行き来する私にとっては、マニラ空港施設から出たとたん言葉を失うほどの暑さと湿気で、驚くというよりはむしろ人の住めようもない所に都市が厳然として機能していることを滑稽に感じたほどです。今度の訪問は胡蝶蘭原種の生息地を、現地のオーキッドハンターに伺い確認することと、大手ラン園ではなく、現地販売価格に興味があり、地元の人々に販売している中小のラン園を見学することでした。よってこれらラン園はCITES申請を含む海外輸出の経験が全く無いところとなります。

 生息地についてはこれまでに記載されていない全く新しい地域や、通説とは異なる地域、地域ごとの花の変化などが10種以上で分かりました。直接ハンティングしているハンターからの聞き取りであり、また彼らは英語が話せないため、英語の分かる人を介しての情報収集となりました。

 なかでもルソン島北部の高地であろう、としてしか知られていなかったP.lindeniiはルソン中部Aurora ProvinceのBaler周辺の海岸寄りの低地であること、P. philippinensisはルソン島とされていましたがレイテ島にも生息すること、P. pulchraはレイテとルソン島いずれにも生息していますが、前者が紫(あるいは青紫)色で、後者が赤みが強いこと、また自然交配種とされるP. x intermediaP. aprodite x P. equestris)はルソン島とされていましたが、ルソン島北部Aparri LinawのマングローブフォレストからPanay島のIloilo、レイテ島、ミンダナオ島まで広く自然界に分布しており、ルソン島Quezon Province産がリップが赤いなど(Linaw産はリップがピンク色で薄い縦じま模様が花被片に入る今回初めて見たもの)。またP. equestris v. roseaは花被片全体が同一の薄い色から濃いピンク色のやや丸みのある小型の花(この意味で千葉氏のv. rosea写真は疑問)ですが、Ilocos型と言われるものとの違いが明確ではなく、Ilocos型とv. roseaとは同一の変種と私自身はこれまで思っていました。しかし、v. roseaはIlocosからQuezon Provinceまで分布しているという説もあり、Quezon産v. roseaを入手することも今回の目的の一つでしたが、驚いたことにレイテ島産v. roseaがあること(現地採集者の説明)が分かり、これを入手できたため、開花を待って精査する予定です。

 これら以外にもE.A Christenson 'PHALAENOPSIS A MONOGRAPH'では詳細地不明とされた多くの種で、詳細な地域を教えてもらいました。これらはいずれもページを設けサイトに掲載する予定です。

 こうしてハンターに直接接触し、話が聞けたのは4年間付き合いのあるフィリピンで最も大きなラン園を経営するオナーの紹介と口添えがあったからできたもので、おそらく行き当たりばったりの旅行で園芸店の店主に聞いても無理であろうと思います。もちろん毒へび、サソリ、蛭などがいるであろうジャングルには、興味はあるのですが私自身が行くことはできません。ハンターと知り合いになったことから、今度はカメラを彼らに貸与し、ハンティングの際、生息地での着生状態の写真を撮ってもらうよう依頼する予定です。

 一方、中小規模のラン園訪問ですが、まったく苦労しました。まずラン園の園名は、地域名と園芸店というキーワードで検索をかければ、ブログなどが数多く見つかり、その中に愛好家の訪問記のようなものがあったり、毎回オーキッドショーで出店名をメモしており、これらから園名とその町程度なら分かるのですが、自身でWebsiteをもつラン園はフィリピン全体でも数店の大手のみで、数百ある園芸店ではサイトを持ちません。E-mailアドレスすらありません。むろん携帯電話番号も分からないところからスタートするわけですから、何々地区の何々ガーデンというのが唯一の情報です。フィリピンオーキッド協会(POS)にも問い合わせしましたが、教えて頂いたいくらかの電話番号は応答なしでした。治安など安全性の面から日本から現地業者に依頼した運転手付きの車で探すのですが、Santa RoseからTagaytay周辺だけで2ケタはあるであろう園芸店に1日掛かりで2-3件ほどしか見つけられません。

 最大の問題はほとんどの店で店名を示した看板が出ていないこと、さらに道路ですら地名・場所を示す標識がないこと、なぜフィリピンでは看板を掲げないのかと聞いたところ、店の看板を掲げると税務署がきて税金を払わなくてはいけないからだという冗談なのか本当なのか分からないような返答でした。このため、この近くだと思った段階で、ただひたすら通行人に園芸店名を言って場所を聞くことに終始します。通行人やジプニーの運転手など、いずれも親切で彼らに声をかければ、無視したり、分からないと断る人はほとんどいません。これが曲者で、はたして本当にその場所を知っているのかいないのか、手で方向を示している様子を見ると知っているかのように見えるのですが、現地語であるため運転手との会話は理解できません。繰り返すうちに何となく理解できたのは、あの辺ではないだろうかという説明のようで、その場所を知っているから答えているとは到底思えないということです。運転手もその一言一言で車は行ったり来たりを繰り返し結局は分からずじまいで終わってしまうというありまさです。そうならば現地のラン園を一つの手掛かりに、そのラン園で知り合いのラン園や同業者を芋づる式に教えてもらうという手もありそうですが、はたして自分たちの商品の仕入れ価格が分かる、あるいは競合する中小園芸店を、海外からの顧客に教えるかどうかは疑わしいとも考えられます。このような店探しのアプローチも文化(習慣)の一つと思えば、腹を立ててもしかたがない、むしろ道を尋ねる人に対し断ることをしないで対応してくれるだけ親切だと思えばよいと自身を納得させながらのラン園探しでした。


このような中でのラン園探し

 一方で、そのわずかながらのラン園が見つかって、販売されているランの現地価格を知った時は驚きで、何百本買っても良いという気持ちにさせるほどのものです。2ケタ程に安いというのが印象です。ただし先に述べたようにCITES申請も植物検疫も行った経験のないラン園ですから持ち帰ることはできません。頭を過るのは、これらを大量に購入して、いつも利用している大手ラン園にCITES申請を依頼し日本への発送を頼もうということですが、2割程度注文品の中に入れてもらうのであれば兎も角、いわば競合する園芸店から客が勝手に購入した大量のランを病害虫葉の除去、洗浄、消毒、ラベリング、梱包、EMS搬送と、大変な労力がかかる処理を快く引き受けてくれるとは思えません。言えることは、どこどこのラン園に購入したいランがあったので仕入れてもらいたいと頼むことです。価格は、我々はすでに知っているのですから、それが大手ラン園にプレッシャーとなり、かなり安くなることを期待する以外にありません。輸出しているラン園の価格は、輸出レベルの品質確保やノウハウ代としての結果と理解するということです。いずれにせよ、ここで得た情報は大手ラン園との価格交渉のために用いるには役に立ちそうです。また一方、ラン園(Orchid Farm)と園芸店(Garden)とは扱う品種が異なり、後者は観葉植物が主体であり、せっかく見つけた園芸店にランは全くないということもありました。

 3時間半で行けて、東京から九州までの新幹線代と変わらない航空運賃と、高級ホテルであっても日本のビジネスホテル程度の宿泊費であるため、今後日本からフィリピンに旅行に行かれるラン趣味家の人も増すと思いますが、車を現地で調達したり、店も現地で教え聞くことだけは間違いなく避けた方がよいようです。米国などへの旅ではしばしば空港近くのレンタカーを利用し、自分で運転をしながら目的地に向かうこともありますが、マニラ市だけは無理です。5回訪問していますが、動く車同士で数10cm間隔の運転技術と、時として車線を無視してでも強引に割り込む度胸がなくては目的地まで何時間かかるか分かりません。通行人は(信号がない場所が多いこともあり)、車の前を平気で横切ります。それほどマニラ市の朝と、夕方から夜のラッシュは、これがフィリピン経済の元凶と思えるほどひどいものです。

 話は変わりますが、Tagaytay市への入口で多くの果物の露天商が軒を連ねており、大勢の地元の人も買いに来ていました。パイナップルを指差し、これをと求めたところ40ペソ(80円)というので支払ったのですが、1個と思っていたところ3個も袋に入れてくれました。マンゴスチンやらジャックフルーツあるいは名前の分からない果物を無料試食しているだけで十分で買う必要もないほどですが、この安さです。昨年同じTagaytay市のホテルの近くの露天商でパイナップル1個とマンゴー5個を買いましたが、この時は350ペソが要求され払いました。まさに旅行者と見られ法外な値段をつけられてしまったようです。確かにこの店には地元の人は買いにきていませんでした。これはいくらかと聞いて買ってはならない、お金を、例えば50ペソ出してこれをと言うべきと教えられました。海外旅行者への、からかい文句のように思っていましたが店によっては確かに一つの教訓です。

Tagaytay入口の果物露天商

 何はともあれ郷にいれば郷に従えのごとく覚悟をきめれば全てが楽しい時間になります。ランの話に戻りますが、訪問するのであればしっかりと日本にいる段階で、車の手配から訪問先の電話番号まで把握しておくことが必要です。


6月

 胡蝶蘭原種にとって、先月から今月にかけてが最も多くの種の開花時期となります。特にP. equestrisは、ここ会津では6月末頃-7月が最盛期となり、多くの株を持っていると、花数の多さから1株では感じない匂いまでするようになります。この開花種の多い時期は、一方で交配の時期でもあり、筆者温室でも丈夫な株に限り主として自家交配を行っています。

 一般に胡蝶蘭はパフィオに比べて難発芽性はないと言われますが、これはハイブリッドに対しての特性であり、50種程の原種のほとんどを自家交配した経験から見ますと、一部に無胚の種や、発芽数が極めて少ない種が見られ、培地の成分なのか、フラスコでの発芽段階の温度管理に問題があるのか現在は不明です。これまで発芽に不成功であったり、発芽しても培地内で褐色変して枯れるものであっても、年が違うと問題がないことが起こり、培地や温度範囲を変えたわけでもないのになぜだろうと理解できないこともあります。共通して言えることは、胡蝶蘭は比較的薄い培地が良いということのようです。またベンゼルアデニンなどのホルモン剤はパフィオには必要ですが、胡蝶蘭もその使用の有無で大きく効果の出る種もあります。

 過去4年間の間で一度も発芽に成功していない種はP. appendiculata f. albaで、一般のP. appendiculataタイプは苗を得ることができましたがalba種だけは毎年無胚の種しか付けません。写真は今月の花にも掲載しましたP. appendiculata f. albaです。写真には成長段階のさく果が映っていますが交配してから15日程のものです。P. appendiculataの種は胚が20倍ルーペでは見ることができない程極めて小さいことが特徴です。一般種についてのフラスコ苗は58種の種別説明に掲載しています。また5月の今月の花のP. appendiculataは筆者無菌培養の初花です。フラスコ出しから2年目で開花となりました。


P. appendiculata f. albaのさく果

 一般にalbaタイプは発芽が難しいとされますが、特にこの種は東南アジアのそれぞれのブリーダーに聞いても困難なようです。種をつけるものの無胚が多く発芽数が極端に少ないものは、筆者の経験ではP. bellina f. coeruleaP. lindenii f. albaで、いわゆる変種と呼ばれる種は大方無胚の種が多いようです。これらのフラスコ内の発芽状態を下図に示します。このような状態ではせいぜい3ー4苗しか得ることができません。


P. bellina f. coerulea

P. lindenii f. alba

 一方、パフィオの無菌培養は現在、Paph. sanderianum, rothschildianum, stonei, Paph. micranthum v. eburneumなどを行っていますが、特殊な処理(次亜塩素酸溶液と超音波による種皮の裂傷や一定期間の暗室での安置)が必要であるものの、いずれも問題なく多くの苗が得られています。下記にそれらの発芽状態を示します。


Paph. micranthum v. eburneum

Paph. stonei

Paph. rothschildianum

 胡蝶蘭は単茎性であるため一度頂芽や主茎が病気になると回復が困難であり、栽培の中ではその可能性は極めて高く、カトレアやパフィオと比べて寿命が短い(病気による死滅の可能性が高いという意味)と言えます。よって無菌培養による繁殖は極めて有効であり、希少種であればあるほどその価値があると思われます。無菌培養はそれに必要な環境を整えなければならない、そのレベルによって費用がまったく異なり、クリーンベンチ(無菌状態での操作箱)やオートクレーブ(殺菌圧力釜)を用意しようとすればそれなりの費用が必要ですが、工夫によって趣味家としての範囲であればかなり安価に整うようです。無菌培養の方法はWebサイトで現在多く見られますのでそれぞれ参考になると思います。特にこれから始めようとする方には http://park12.wakwak.com/~wwp/ のサイトが参考になります。本格的に始めたい人は富山著’ラン科植物のクローン増殖’トンボ出版が良い教材となります。


5月

 今月はP. amabilis, P. aphrodite, P. stuartiana, P. philippineisisなどAmabilisグループの遅咲き株が花をつけていますが、P. sumatraP. corningianaが最盛期で、P. equestrisが花茎を伸ばし始めています。Paph. rothschildianumも開花最盛期となっています。

 今月の胡蝶蘭開花種は「今月の花」のページを見て頂くとして、筆者の庭先で現在開花中の同じ蘭属であるアツモリ草などをとりあげてみます。アツモリ草は洋蘭ではありませんがパフィオと同様にCITESで保護された蘭で入手は中々難しく、なにより関東以南の日本では夏の温度が高すぎるため栽培が困難です。もし栽培するのであれば、洋蘭とは全く逆の冷房室が必要になります。会津地方は、夏の昼間の温度は東京並みですが、幸い夜は東京のような熱帯夜(25Cを超える)はシーズン中、数日しかなく、夏期の昼間を何とか凌げば栽培が可能となっています。これは夏の間、家の北側の涼しい日陰に置くことと、素焼きの山野草鉢に植え付けて鉢内の温度を下げることです。特に筆者が使用している大深高台焼〆という厚みのある素焼きの山野草鉢は夏期の高温下で、内部と外部とが気化熱によって10C近い温度差を生み、この効果によって夏期の日中でも鉢内の温度を25C程度に抑えられ暑さに弱いアツモリ草には最適な鉢となっています。このためこの鉢はPaph. micranthumにも使用しています。しかし現在この鉢は生産していないようです。

 コンポストはすべてクリプトモス(杉皮)に、もみ殻(酸化を避けるため)を混ぜたもので、底石も使用していません。例年11月初旬に植え替えを行いクリプトモスを交換します。これで礼文アツモリを含め順調に株を増やしています。5月からの毎日の潅水は、気化熱による温度低下を行うため必須です。花が終わった後は、葉焼けや鉢の温度が上がらない程度に明るい場所に置くことが翌年の花芽を得るために必要です。

 なぜアツモリ草が絶滅危惧種とされるほど弱い種なのか、栽培をしている限り、そう言われる原因がよく分からないほど栽培は容易な感じを受けます。温度管理にすべての原因があるのではないかと考えますが、それ以外では特別な配慮は必要ないように思います。花後は葉の病気が出やすいので洋蘭と同じようなサイクルでカビ系と細菌系の混合液の殺菌処理をし、毎日の潅水と、6月いっぱいまでの施肥(主に置き肥で、7月以降、葉が硬くなった後は不要)を行っていれば問題はありません。

 常に高温・高湿で病気の発生も多い洋蘭の原種栽培の方が遥かに難しい印象を受けます。山野草専門園芸店主と話をすると、洋蘭を栽培している人ならば何にも問題がないという言葉を聞きますが、洋蘭の栽培経験があれば、アツモリ草は高い温度ではなく、低い温度を保たなければならない点で真逆ではあるものの、蘭に共通した栽培感覚があるからではないでしょうか。すなわち洋蘭原種をうまく栽培している人ならばアツモリ草もうまく栽培できるということです。下記写真はクマガイソウの群生写真を除いて、すべて筆者の庭(に置かれた棚)で撮影したものです。


礼文アツモリ

絶滅が最も危惧されているようですが、アツモリ草の中では栽培が容易な種で、良く株が増えます。 最近は培養苗も販売されていますが、開花までには3年以上かかります。


大鹿アツモリ

花は隔年毎に咲いています。栽培難易度は普通です。


ピンシネリ(北海道)アツモリ

株は毎年倍々とよく増えます。


北海道コアツモリ

1cm程の小さい花で、葉の下に潜るように咲きます。山梨産もあるようです。


酔白アツモリ

中国アツモリで、大きなリップで見ごたえがあります。


地植えピンシネリアツモリ

水はけの良い土と表面に洋蘭で使用済のクリプトモスを敷き、地植えにしたものです。東側に面した庭です。


クマガイソウ

福島県にはクマガイソウ群生地があります。地下茎が硬く障害物に当たると枯れるため、地植えでなければ育たない種です。


クマガイソウの群生

筆者の隣の家の庭に咲くクマガイソウです。昼間1時間ほどしか日の当らない家と家との間の狭い場所ですが大きな花を毎年つけています。例年10月頃まで葉が枯れることがなく、夏過ぎまで葉を緑色に保つことができれば翌年の花芽がつきます。


釜無アツモリ

釜無アツモリは下の写真のようにあずき色の写真が良く取り上げられますがこのような色もでるようです。


岩手アツモリ

栽培の最も難しい種に感じます。


霧ケ峰アツモリ

霧ケ峰高ポッチ高原産とされています。


安房アツモリ

一見、釜無アツモリのような色合いですが、本物(ミスラベル)かどうか良く分かりません。


キバナノアツモリ

コアツモリと同じように小さな花で、アツモリ草の中では最も繁殖力が強く、現在は鉢植えから地植えに変えています。地植えでもよく成長します。


チベチクム

チベット産アツモリ草です。現在花芽付き株で2,000円程度で購入できます。


キバナノアツモリ

地植えのキバナノアツモリです。午前中に木漏れ日を浴びる場所に植え付けています。冬は1m弱も積雪しますが、雪が解け芽が出る頃は1cm厚程度、地面に敷いたクリプトモスで霜による被害を防いでいます。

 

4月

 今月に入って、P. lueddemannianaP. hieroglyphicaとの中間体のような花が咲きました。これはMindanaoからP. lueddemannianaとして25本昨年8月に入荷したものですが、昨年秋に開花した4本程の花は全て典型的なP. hieroglyphicaであり、25本すべてミスラベルと判断していたものです。ところが今月下写真の左のような花が咲き、現地ラン園栽培者でも間違いそうな様態であることが分かりました。それぞれに左から順に今回の種、P. hieroglyphica、P. lueddemannianaを示します。花被片を見る限り、左と中央はヒエログリフ(象形文字)模様が白色のベース色に赤(左)と淡赤紫色(中央)で分布しています。この点では左はP. hieroplyphicaということになります。一方同じ花被片でも形状や模様の色は、むしろ右のP. lueddemannianaに類似しており、P. hieroglyphicaの特徴である側ガク片の先端の先細る形がみられません。

 写真上から2段目において、中央弁の竜骨突起は左と中央が類似しており、竜骨突起と先端部が盛り上がって凹凸がありますが、右はカルス位置から立ち上がり中央弁先端までなだらかです。この点でも左種はP. hieroglyphicaに近いと言えます。3段目は中央弁を前方からみた写真ですが左種は中央と右との中間的な形状です。さらにカルスを下段に示しますが、カルス形状からは判断が難しく、左と中央は一致しますが、右はanteriorカルス(前方側)の先端部、およびposteriorカルス(後方側)の形状がやや異なるように見えますが、これは個体差の範囲とも思えます。

 ミンダナオのナーセリは左のような花を見て、他の25本をP. lueddemannianaと判断したものと思われます。このラン園はダバオ市にあり、昨年9月に訪問しましたが、農園を見学している際に、一見P. amabilisのような葉の山採り状態の株が100株ほどあったためこれは何かと尋ねたところ、花が咲かなければ分からないという栽培担当者の答えでした。これも野生種の可能性が高いように思いますが、今年はこの種を自家交配してP. hieroglyphicaP. lueddemannianaとの交配かどうか確認して見るつもりです。答えがでるのに3年はかかりますが。

 先月のP. delicata、P. lueddemanniana, P. hieroglyphicaとの比較でもそうであるように、P. lueddemannianaグループはそれぞれの中間体のような変種(フォーム)がしばしば見られます。


3月

 今年はこれまでに経験がないほど、寒暖の差の大きな天候が繰り返され、一体いつ植え替えやフラスコ出しをして良いのか判断ができないまま3月も終わりに近づいてきてしまいました。しびれを切らして今週から幾らかの自家交配苗と、東京ドームで購入したフラスコ苗の植え付けを開始しました。会津では未だ夜間零下で昼間も5C前後であり、少し早い感はありますが今年はフラスコの数が結構多いので時間切れです。

 今回、P. cochlearisは在庫にあったオーキッドベース大粒に植え付け、その他(P. pulchra, P sumatrana, P. amabilis v. molucca, P. lamelligera)はすべてヘゴチップ+半透明白色プラスチックでの植えつけです。来週にはP. thalebaniiなどもヘゴチップ植え付けとする予定です。 P. micholitziiだけは例外で、クリプトモス+プラスチックに植え付けます。なぜクリプトモスかということですが、現在所有するBSサイズ6株のP. micholitziiがなぜかヘゴチップではだめで、クリプトモスで順調に育っているためです。理由は分かりませんが、希少な種であることから失敗ができないため、もっとも成長の良いコンポストを最優先にしています。但し1年の交換は必須です。

 植込み材と原種との関係ですが、全てに共通しているのは、ミズゴケやクリプトモス、バークなど1年で酸化するものではP. cochlearis, P. maculataなど石灰岩質に根を下ろす種はやはりその環境故か、前記植込み材での1年後以降の成長が目に見えて悪くなる印象を受けます。植込み材自身の劣化による酸化あるいは根からのフェノール成分による根周辺の酸化によるものか、いずれにしても酸性に傾いた場合は上記の原種のみならず全ての種に関して成長が鈍っていきます。

 この点でコルクやヘゴ板は毎回の潅水で表面を洗い流しているため蓄積物が少なく、余り心配はないのですが、液肥などを与えつつの潅水を繰り返すことによって1年も過ぎれば、特にヘゴ板では酸化や塩化が始まるようで、コルクに比べ根張りが2年ほどで弱くなる印象を受けます。困ったことにこれらは根を切り剥がさないと植え替えができないことです。

 ネット等でP. maculataP.cochlearisに植込み材として石灰岩やアルカリ性物質を加えた方が良いという意見が海外でも見られます。これは植込み材の酸化を避けるための手段と思いますが、アルカリ性溶解物質をポットに加えることが果たして効果的なのかは疑問に思えてなりません。石灰岩といっても砂質系、泥灰質系、苦土質系など多様であり、潅水で溶解する炭酸カルシュウム量がどれほどで、表面やその表面を流れる水がどの程度周りのPH値に影響を与えるものなのか、定量的な分析データがあればともかく、PHを大きく左右する物質を植込み材に加えることは危険と紙一重と思われるからです。自生地の石灰岩質土壌の特性と自生環境の化学的状況が分かればよいのかもしれませんが。

 いわゆるこれらの種では如何に緩やかな中性を保つかが重要なように思えます。この緩やかな中性あるいはPH緩衝作用を得るために、これまで先のP. cochlearisP. maculataにはPHが7-7.5の大粒のオーキッドベースを植込み材とし、多潅水の栽培で順調に育成してきました。しかしオーキッドベースの生産が途絶えた今、これに代わる材料が何かないものかと思案中です。一つは会津では竹炭が買えるため、これを金槌でたたいて砕き、適当な大きさにしたものを他の植込み材に混ぜてデータを採って見ようかと思っています。一般の炭はPH値が高く、原木が何かも分からないので使用できません。一方、もみ殻はPH8、蕎麦殻はPH8.5ほど(試験管に5割ほどこれらを入れ、純水に浸して1日経過後をPHメーターで測定)です。もみ殻は良いのですが、これを植込み材に振りかけても潅水で、やがて流れ落ちてしまうことと、お茶パックにいれて、植込み材の上や中に置いたとしても水を流した程度で、その水が果たして、その他の酸化した植込み材を中和することができるのか科学的ではありません。材料そのものへ根が活着することであれば酸化は防げると思われますが、いずれも各種の組み合わせで近々実験をしたいと考えています。

 フラスコ出し苗はフラスコから取り出し、根についた培地成分をやや強めのシャワーで洗い流した後、タチガレンエースとバリダシンの規定希釈の混合液に5-10分ほど浸します。その後、一本づつ絡んだ根を分けて、それぞれのコンポストに植込みます。パフィオやカトレア苗と異なり、コミュニティーポット(一つのポットにまとめて植え付ける。苗が小さいため根を保護するためと乾燥を防ぐために)とすることは胡蝶蘭では行いません。フラスコ内に成長が遅れた小さな苗が数本でますが、これらだけまとめて植え付けます。いずれも潅水時に根がぐらぐらするようでは成長は見込めません。

 オーキッドベースは雑菌がいないとする前提で殺菌剤は使用せず、その代わりにミネラルやビタミンなど一般の液肥の補助用として市販されている規定希釈の活性剤に1日浸した後、使用していました。ヘゴチップ(ファイバー)は1日24時間灰汁抜き(バケツに水道水を入れて浸し、2回水を交換するのみ)した後、さらにスターナとダコニールの規定希釈混合液に数時間浸してから使用しています。

 ヘゴの灰汁抜きについては、ミズゴケ同様にそのものが持つ栄養成分まで洗い流す点で水洗いをしたり、絞ったりすることは好ましくないとする考えがあるようですが、筆者はこれらのコンポストがもつ僅かな栄養(約1年弱は栄養を放出すると言われる)に頼る栽培をしていませんし、栄養は規定のルールで別途バランス良く与えていることから、灰汁出しを優先しています。ミズゴケでは活性剤を含ませた水で圧縮乾燥から戻すか、規定希釈の殺菌剤(前記同様にダコニールとスターナなどカビ菌用と細菌用の混合)を入れた水で戻すかしています。殺菌剤を含む水で戻すのは、移植の際に整理する根切りによる傷口の殺菌を株一本づつするのは面倒なため、コンポストに殺菌剤を含ませて植込み、消毒を同時にしてしまう一石二鳥を狙ったものです。

 フラスコ苗で1年間は、このようなポット植えで育て、1年後に(現在はコストの関係から)ほとんどの種で、ヤシガラマット巻きに移植しています。これは葉が下垂することを前提にした移植です。P. cornu-cervi, P. micholitziiなど立ち性のものは1年後もポット植えとしています。

フラスコ出し植え付け2日目の苗(ヘゴチップは市販品を裁断して短くしている。左2番目から、P. cochlearis, P. sumatrana, P. lamelligera

 胡蝶蘭ではなく、Paph. rothschildianumPaph. sanderianumについて取り上げます。Paphioのなかでも多花タイプは高温・高湿度下で栽培する胡蝶蘭と同居するのに適しています。特にPaph. sanderianumは高湿度を好むようで、一方、Paph. rothschildianumはそれよりやや乾燥気味が良いようです。Paph. rothschildianumを常時80%以上の湿度で栽培し、コンポストも1年以上経過し始めると葉先枯病や細菌性の褐斑病の発生がしばしば見られますが、同一環境において不思議なことに筆者の所ではPaph. sanderianumには全く病気がでません。またPaph. sanderianumPaph. rothschildianumよりも高輝度が必要で、夏はややヘタリ気味の方が大きく、数多くの花を付けます。よってそれぞれ場所を分けて栽培しています。Paph. sanderianumPaph. rothschildianumは筆者温室ではフラスコ出しから開花まで、それぞれ7年と5年かかりましたが、業者からは5年と4年程度で開花する筈と言われました。Paph. micranthumはフラスコ出しから2年で開花の経験(今月の花10月のPaph. micranthum v. eburneum)があります。いずれにしてもこれだけの年月をかけて栽培したものが期待通りでなければ失望も大きいので、フラスコで購入し20本ほどまとめて栽培し、その中から気に入ったものを選ぶことにしています。2年物の苗も比較的安く手に入れられますがやはり数本では期待通りにいかない方が多いように思います。最近は自家交配での培地成分と発芽方法がほぼ分かったため、無菌培養にチャレンジしています。

 下図は現在開花中の少し変わったPaph. rothschildianumとペタルの長い株を掲載しました(Paph. sanderianumは今月の花の11月参照)。左の株はポーチ(リップ)に斑が入ったもので、最初に見た時はウイルス病かと疑いましたがそうではないようです。中央は写真では分かりにくいのですがポーチとドーサルセパルがかなり大きなもので見ごたえがあるものです。ペタルのスパンは28cmです。右の株はペタルのスパンが30cm程のもので下に物差しを置きました。右のペタルがやや細いため、中央のガッシリしたタイプと交配し、両方の特徴がでれば良いがと目論んでいるとことです。それぞれのペタルの端から端まで自然体で30cmを超える株は1割もなく、また2-3cm程度は栽培方法で変わるような気がしています。

 多花系の株を買う場合、多くの人は大きなペタルを期待すると思います。花が咲く前から花サイズが予測できれば良いのですが、経験から分かったことで一つの目安があります。それは多くで、葉の長さがペタルの長さに比例するということです。BSサイズを購入するときは、幾らかある中から多少病気の痕があっても、最も長い、できれば異常なほど長い葉長の株を購入されることを勧めます。筆者が所有するペタルが1mを超えるPaph. sanderianumも、30cmのPaph. rothschildianumも他とは明らかに葉長が違います。この葉長と花やペタルの大きさ・長さが関係するのは多花系Paphioの共通した特徴のように思われます。葉長が長いのは栽培が上手くいき、たまたま葉長が長くなったのであり、丈夫さの度合いこそがむしろペタルを大きくしているのではという考えもありますが、いくら元気に育てても子株は増えるものの葉が長くならない株もあり、このような株では大きなペタルにならないことが多く見受けられ、それぞれの個性もあるように思われます。


 これも会員の方からP. appendiculataの栽培が難しいとのご意見を伺いました。購入して1年間程は花もつけるのですが、徐々に葉数が減り、小さくなって枯れてしまうとのことです。筆者は最初にP. appendiculataを購入してから6年ほど栽培をしていますが、5年ほど前、アルバタイプに自家交配し、1株で2つのタネを付けたため作落ちでダメにしたことがありましたが、その後は枯れることはなく、2年前から自家交配でフラスコ苗を作っています。写真はフラスコに播種して半年(左)、1年(左から2番目)経過後の苗です。またフラスコ出し2カ月(右から2番目)と6カ月(右)程のオーキッドベース植込みの苗です。それぞれが同一の位置の苗で、よく成長しており、また1本も枯れていないことが分かります。オーキッドベースは(温室の湿度に関わりなく)ほぼ毎日潅水を、所かまわず(葉を避けるなどしないで)行いました。トレーの奥の苗はやや渇き気味の所もありましたが、この位置の苗は成長が良くなく、結果的には枯れると言うよりは小さなままで廃棄しました。

 1年後にオーキッドベースからヤシガラマット巻きに植え替えたものが下の写真です。大きさとしてはBSサイズになっています。開花したものもあります(播種から2年)。P. appendiculataはコルクやヘゴ板に取り付けられている海外の写真が多く、このためヘゴ棒も候補として考えましたが、水や肥料を好むことが6年の経験から感じられ、ミズゴケに根を巻いてヤシガラマットで覆ったものです。この状態はバスケットとほぼ同様の環境となり、水分保持力がある程度確保できるため、あまり潅水に注意する必要もなく、良いのではとの思惑からです。それぞれ5本を取り上げましたが、いずれも順調に新芽をだしています。根は隠れているので伸長は分かりませんが、この種は根は伸びるものの新葉がなかなか出ないことを考えると根も伸びていると思います。温度は可能な限り高い温度(但し32C以下)が良いようで、真夏でも根が伸長しています。

下の写真は今月開花のP. appendiculata f. albaです。購入をしてから5年を経過した株です。一度も植え替えることなくコルクに着けたまま5年も経過しているため、コルクは苔で覆われており、根の多くは苔の中となっています。


  会員の方から、頂芽に普通の新葉ではなく、細くとがった葉とも茎とも見られる芽が出てきたのだが、どうしたものかと言う問い合わせを頂きました。このように頂芽が細い芽となって現れることが稀に起こります。原因は不明ですが、実生の場合は培養に用いるホルモン剤による奇形の可能性が考えられます。しかし野生種にも発生するようで、原因はそれだけではないように思われます。

 下の写真は筆者の温室で撮影したものですが、左は実生株のP. equestris Riverbendです。頂芽の部分から葉ではなく花茎が出ています。このようになってしまった株はそれ以上の成長を期待することは困難で、花茎に高芽がやがて現れ(写真にも表れ始めています)、この高芽の方に成長が取って代わります。あるいは脇芽が出てこれが栄養芽(新しい株)になることもあります。このような状態となった株を示す写真が中央です。写真の株はP. pantherinaです。この株も新葉となるべきところ、茎が現れ、伸びる間もなく高芽が発生し、古い主茎の上に新しい茎(株)と根が形成された様態となってしまいました。それまでの茎は完全に枯れています。このような状態になれば、枯れた元の部分は切り捨て、新しく植え替える必要があります。また右はP. hieroglyphicaですが、細い芽がやがて成長し、花茎ではなく、新葉ではあるものの、細長く丸まったまま伸長したものです。写真では側芽がでており、おそらくこの新しい側芽が、それまでの株に取って代わるものと思われます。いずれも主茎に何らかの異常が生じ、その結果としての現象と思いますが、それまでの主茎はやがて成長を止めることになります。株全体としては枯れたり、成長を止めることはありませんのでそのまま栽培をすることが必要です。

 ところでこれも会員の方からの情報ですが、2月に取り上げた台湾業者が販売していたP. lueddemannianaの東京ドームでの価格ですが、最終日には半額(3万円が1.5万円?)が提示されたそうです。やはり最終日はマニアにとってバーゲンセールの日のようです。さらに値切るのは閉会の直前、国内ラン店が跡かたずけを始める頃に行って価格交渉すると1/3位になるかもしれません。5年ほど前一度試しに南米からの出展業者にL. ancepsのアルバで交渉を行ったところその価格にしてくれました。ドームの価格は高過ぎると思っている人は、来年の最終日の3時過ぎからが狙い所かもしれません。


 今月は今盛りのP. lueddemanniana系について取り上げてみます。P. lueddemanniana系には、P. lueddemanianaを中心に変種としてのP. delicataP.deltonii)、また P. hieroglyphicaなどが含まれます。これら3種の映像を下の写真に示しました。P. lueddemannianaは胡蝶蘭の中でも美しい種ですが、胡蝶蘭に興味のある人であっても写真のP. lueddemanniana #1 - #3のそれぞれを同時に入手した場合、果たしてこれらが同一種なのかと疑う人もいるかも知れません。LuzonからMindanaoに至る島々での変化となります。

 P. lueddemannianaP. delicataの外見の違いはペタル(花弁)あるいは側ガク片の形状の違いにあります。P. lueddemannianaのペタルあるいは側ガク片はP. hieroglyphicaと同じように中央部がより円形で(この意味でP. lueddemanniana #3は例外的)、これに対してP. delicataはいずれも緩やかな変化の均整のとれた長楕円形となります。また写真では分からないのですが花はP. delicataがかなり小型となります。さらに写真の中でP. delicata #3とP. hieroglyphica #1との違いが分かりにくく、これが分かる人は相当のマニアではないかと思います。むしろP. delicata #3はP. delicataP. hieroglyphicaとの自然交配を感じさせる程類似しています。このように、なかなか判別困難な個体差も多く含まれます。この場合はリップの付け根にあるカルスの形状を見なければ分かりません。カルスはP. lueddemannianaP. delicataとに大きな違いがあり(58種の・・を参照)、一方、P. lueddemannianaP. hieroglyphicaのカルスはそれぞれ類似しています。

 またP. delicata #3とP. hieroglyphica #1とを見ていると、P. lueddemannianaP. hieroglyphicaP. delicataから分離進化した種ではないかという想像すらしてしまいます。なぜその逆ではないのかという点ですが、より原始的な種は小型が多いという事と、P. delicataが両者の特徴を持っているというだけで特に根拠がある訳ではありません。フィリピンから直接購入する(特にDavaoからの輸入)株の同一ロットの中にはP. lueddemannianaP. delicataが混在している場合が多く、またP. lueddemannianaP. hieroglyphicaにおいても同様でミスラベルが目立つことを考えると、これらは野生において混在して生息しているのではないかと思われ、その結果として自然交配が発生する可能性があり、それぞれの特徴をもつものが見られるのではないかとも思われます。P. delicataについてはP. lueddemannianaと同種と見られているためか、DNA分析データが見当たりません。


P. lueddemanniana #1

P. lueddemanniana #2

P. lueddemanniana #3

P. delicata #1

P. delicata #2

P. delicata #3

P. hieroglyphica #1

P. hieroglyphica #2

P. hieroglyphica #3

 次にP. lueddemannianaの価格について取り上げたいと思います。

 下の写真は全てP. lueddemannianaですが公示価格は全く異なります。左端はMindanao産でソリッド(全体が赤色で塗りつぶされている)タイプで15万円(2005年)、左から2番目が3万円(2010年)です。この価格は東京ドームショーでの価格ですので、世界市場としてはその1/3程度と考えるべきで、5万円と1万円程度と見るべきでしょう。一方、3番目はLuzon産で500フィリピンペソ、右端はMindanao産で200ペソ(2009年)です。すなわち1,000円と400円です。ここで後者2種は現地価格ですので、実際の歩留まりと順化コストを考えれば、これを販売する業者にとっての原価(売値ではありません)としては2,000円と800円程度と考えるべきでしょう。ここで不思議と思われる方が大半ではないかと思いますが、左2つと右端のタイプに、どうしてそれほどの価格差がでるのかという点です。公示価格からすれば同一種でありながら、左端と右端では15万円対400円です。

 右端の低価格については一つの理由があり、Mindanao産として20本購入したのですが、いずれも状態が悪く、もし傷や病痕のある葉をカットして出荷するとなれば、おそらく葉がなくなってしまう程の状態であったため、本来ならば500ペソのところ、200ペソに値引きしてもらった経緯があります。おそらく、かなり高度の順化技術がないと半数以上は落ちるであろうと言う点と、またマニアにとっては気になりませんが、新しい葉に入れ替わるまでに2年程度の栽培が必要と思われました。さらにMindanao産は全体に赤味が強いものの、20本の内、ソリッドタイプは2割程度と言えます。右端のような花柄であれば世界市場の価格価値としては日本円で7,000円から1万円程度になるものと思われます。

 しかしいずれにしても同一種でありながら、わずかな花柄や形状の違い、また購入の仕方一つで、このように価格が変わるのは原種独特のものであり、なぜアメリカや台湾の業者が、例えば左端のようなタイプに対してこれほどの値を付けるかは、ブリーディング(交配)に価値があるのであって、自ら実生化を目指す人にとっては、希少種はそれでもまだ安い価格なのかもしれません。


2月

 東京ドームでの世界らん展が本日(13日)から9日間開催されます。早速東京ドームに出かけました。初日は例年通りの相変わらずの混雑で、特に午後2時過ぎからは身動きが取れない程の人出となっていました。2000年以来、毎年見学をしています。今回は予めメールで注文してあったフラスコや苗を受取るためと、フィリピンのあるナーセリに来年の出展を勧めるために、ラン展の様子を写真に収める目的で出かけました。写真撮影に忙しくて今回は注文品の受取り以外、販売コーナーを見て回る時間も十分なく、台湾からのナーセリに立ち寄っただけに終わりました。この台湾ナーセリの前で、これまで見た中で赤色の極めて濃いP. lueddemannianaが置かれており、原種か交配種か尋ねたところ原種であるとのことで、価格を聞いたところ3万円とのことでした。2万円なら買っても良いがと言ったところ、それでは2万5千円ではどうかというので、それでも高すぎるので買わないといいながら目を移していたら、片言の日本語で女性のスタッフが2万4千円なら売ると思うよと耳元で囁き、結局、それならば良いだろうと買うことにしました。このようなやり取りは台湾や中国では当たり前の交渉ですが、果たしてこの値段が適切かどうかは良く分かりません。フィリピン現地でのP. lueddemannianaの普通種の価格はおよそ1,000円です。もし変種があるとすれば3,000‐5,000円程度です。これにフィリピンと台湾の一般的なGDP差(8倍強)を考慮してそうしたのですが。しかし名札どおりで買うことは余程お金持ちということでしょう。また5年程前に東京ドームで15万円と言うランを目玉品として売っていた海外からのラン店がありましたが、初日に10万円でどうかと交渉し10万円にしてもらったこともあります。要は変種とか希少種は相場価格がなく、業者がこの程度ならば過去の経験から買うだろうという目論見で値を付けているにすぎないということですので、交渉で大きく変動します。しかしいずれにしても趣味でもない人から見れば、たかが花一つに、これほど高額な支払いをするとは狂気の沙汰と思われても仕方がありません。 

 ラン展最終日の海外ナーセリの売れ残り品は、再び持ち帰ることは避けたいとのことから安くなるのではと思いますが、その通り例年、かなり安く買えます。国内ラン店は値下げしません。それならば最終日に出かけようと考えてしまうのですが、問題は手に入れたいランが残っているかどうかです。前記のP. lueddemannianaがまだ2株残っていたので、最終日も残っているようであれば1万円以下で交渉してみてはどうでしょうか?

 胡蝶蘭の変種や希少種のコレクターとしてPhal.netにも写真を掲載しているTropical exotiqueが今年もひっそりと出展していました。プライベートな持ち込みのため、どの案内書にも出ていません。昨年はOrchid Innのブースを間借りしていましたが、今年はハナジマオーキッドのブースにあるテーブルの片隅です。全てフラスコですが希少種を求める趣味家は是非のぞいて見てはどうでしょうか?国内外で入手困難な種がリストアップされています。



P. schilleriana
 

 2月に入ると、温室ではP. wilsoniiのグループであるAphyllae亜属、P. parishiiのグループのParishianae亜属および開花最盛期のP. aphroditeグループのPhalaenopsis節を除いて、活発に新芽を伸ばし始めます。このため一般的な栽培書に書かれた3-4月からの施肥では間に合わず、1月からすでに、と言うことは年中と言うことになりますが、施肥が必要となり、先週一部の胡蝶蘭に早くも置肥までしたところです。温度の目安としては昼間25C程度、夜間は18C以上ということになります。胡蝶蘭は20C以上で施肥による栄養を吸収する(交配種の場合、よって高地の原種はそれよりもやや低いと思われる)と言われていますので、20C以下で昼間も推移する環境でなければ、施肥は必要になると思われます。

 東京ドームでの蘭展が間もなく開かれます。フラスコで買われる趣味家は3月末頃に、遅くても4月(室内であれば最低温度が18C以上)にはフラスコ出しになるのではと思います。フラスコは7カ月程度培地の栄養効果があるとされていますので、すでに根が回ったフラスコでは4-5ヶ月以上経過している筈ですから、長くそのままの状態にしていても意味がありません。夏に近くなってからのフラスコ出しになると高温のため栽培も難しくなります。またフラスコは、それまで室内に安置する訳ですが、10C以上の温度差があるとカビが発生する可能性が高くなります。わずかでもカビが出てしまったら、時期に関わらず直ちに苗を出して、植え付けを行うことになります。フラスコ出しの処理については「植込み材」のページで取り上げていますが、オーキッドベースが無くなった現在、他のコンポストでの植込み方法が必要となり、3月末の適期に、このページで取り上げる予定です。

 今月末に予定していたこのサイトの英文化が当初計画以上に労力がかかり、内容更新が相変わらずやや遅れがちですが、フィリピン蘭協会の編集者が英文校正を兼ねて内容も見てもらえるそうで、いろいろ議論が出来そうです。1ヶ月程度遅れての掲載開始になる予定です。

 現在、新芽を伸ばしている胡蝶蘭の写真をいくつか並べてみました。葉の白い模様は12月末に散布したダコニールの殺菌剤の跡です。新芽にはこの跡はなく、急速に新芽が伸長していることが分かると思います。新芽や新根が伸長している時期に栄養を与えないと、いずれかの時点で株はひ弱な状態かその後の花数が僅かとなってしまいます。同時に明るさも必要で輝度も交配種以上に高い方が好ましいようです。この点、東北地方の山間部は(日本海側もそうだと思いますが)、12月から3月初旬までは太陽の出る日はほとんどなく、我が家では午前中は蛍光灯をつけなければ暗い感じな程で(温室ではありません、住居の方です)、当然温室のランも日光不足となっています。毎週東京へ出るたびに、この明るさがほしいと思うのですが、逆に夏は東京よりも涼しい分、栽培が楽にできるのでどっちとも言えないのかもしれません。


P. cornu-cervi

P. corningiana

P. lindenii

P. lindenii

P. bellina

P. equestris Aparri

P. sumatrana

P. gigantea (フラスコ苗)

P. floresensis

P. wilsonii (花芽)
   

2010年1月

 新年になって初めての歳月記となります。会津地方は昨年の冬が暖冬でほとんど雪がなかったため、今年の冬も全国的に暖冬と言うものの、昨年よりはやや雪が多く例年並みの印象があります。現在温室ではP. amabilis, P. aphrodie, P. schilleriana, P. sturartinaのそれぞれが開花を迎え、白とピンクの花を咲き誇っています。これら以外ではP. lueddemannianaくらいでそれ以外の多くの種(P. violace, P. bellina, P. sumatrana, P, lindenii, P. celebensis.など)が新芽を、またApyllae亜属が花茎を伸ばし始めています。

 この時期は蘭展が各地で開かれ来月には東京ドームでのJGP2010が13日から開催されます。栽培初心者やベテランまで意中の蘭を購入する好機会となります。筆者は今回P. venosa v. aureaP. pulchra v. albaを前もって注文し、JGPで受取ることになっています。

 ところで、昨年10月で、オーキッドベースが生産中止になり、在庫が無くなるまでの販売と発表され、現在ではすでに完売状態で入手はできなくなりました。Paphio栽培者にとっては大打撃であり、クリプトモスでもなんとかなるかもしれませんが、フラスコ出し苗には無理であり、さてどうしたらよいものか頭が痛いところです。先日、それならばどこかで似たようなものが生産できないものかと県のハイテクプラザに相談にいき、会津はもみ殻や蕎麦殻は捨てるほどあることと、陶磁器の生産地も控えているため相談をしてみました。これに麦飯石粉末を混ぜてセラミックスにしてはどうかと提案しているところです。製造会社を見つかればよいのですが、いずれにしても今年1年間は代替え品を決定しなければならず思案中です。

 昨年10月にフィリピンから、Palawan産というP. amabilisを25株ほど購入しましたが、現在、一斉に開花しています。ところが初花を見たところP. amabilisではなくP. aphroditeのカルス形状であったため、これは良くあるミスラベルか、あるいは確信犯かと一瞬脳裏をかすめましたが、出所がフィリピンマニラでも著名な方からの購入であり、また偶然の機会に筆者が購入をしたもので、それはないと思います。あり得ることとしては、さらにその仕入れ元が誤った種名を付けたのでないかとも考えられます。現在フィリピンに直接調査を依頼している所です。一方、次々と開花する花を精査して行くうちに、おかしな形態に気がつき始めました。一つはP. aphroditeの花茎で、これまで筆者の知る限り茶褐色はなく、すべて青軸であるものの、このグループには3割ほど茶褐色の赤軸が見られ、これはボルネオ産P. amabilisによくある特徴であること。またカルスの多くはP. aphroditeの左右それぞれに内側と外側の2枚の突起(凹凸)があるのですが、一部はP. amabilisの特徴である一枚か、あるいは1枚とも2枚とも判断に困る株が見つかり、これがPalawan特有のP. amabilisなのかと考えているところです。

 昨年末に「胡蝶蘭類似種とグループ」という内容のページを新規に追加し、その中でPalawan諸島でP.aphroditeからP. amabilisに進化し、これが今日の多くの地域で見られるP. amabilisの起源となったことを解説しましたが、Palawan諸島は種の進化の上で重要な地域です。上記のようにP. aphroditeともP. amabilisとも取れる種の中間体のような形態こそ、まさにそれを物語っているのかもしれません。このカルス形状の形態も「胡蝶蘭類似種とグループ」に今週中に追記する予定です。


P. aphrodite

P. lueddemanniana

12月

 会津地方は1昨日(18日)から大雪で、いよいよ本格的な真冬を迎えました。筆者の温室は、一つはアルナグリーンですが2重の保温カーテンとし、隙間がないようにクリップで抑えています。他の一つの温室は2層のポリカーボネイトを2枚重ねとした特別仕立ての建物となっています。これでも光熱費は毎冬、頭痛の種となります。現在は9月にミンダナオから入荷したP. lueddemanninaが多く咲いており、またamabilis, schilleriana, stuartiana, aphroditeが一斉に40-50cmほどの花茎をのばしています。P. aphroditeはすでに開花を始めた株もあります。また多くの種は冬季は休眠期ですがP. sumatranaP. giganteaはこの時期に新しい葉を伸ばしています。

 「今月の花」と本ページの更新がややスローペースとなっていますが、海外からの本サイトの英語版の要望が多数あり、翻訳中のため、その方に時間が奪われているためです。翻訳量が膨大なため順次掲載ということになりますが英文のプルーフリーディングを海外に依頼してからということになるため、来年2月頃からの掲載を予定しています。現在会員ページにはフィリピンの主な6組の蘭園の栽培風景写真を載せていますが、来年はインドネシアの蘭園も掲載する予定です。これらの国々を含め海外からも会員募集しますので、会員同士で株の交換(CITESは必要ですが)ができれば、にぎやかになるのではないかと思い、そうした輸出入の方法や、少し違った会員専用掲示板を用意しようと計画しています。

 またP. fasciataP. reichenbachianaP. amabilisグループ、P. cornu-cerviグループ、P. lueddemannianaグループ、P. violaceaグループ、P. equestrisなど地域差、類似性、起源などを文献を参照しながら、花、カルス形状等の具体的な写真を添付し、栽培者から見た種についての問題点や疑問など専用ページを新規に追加する予定です。年末から年始の休日にまとめる計画のため、掲載は1月中旬となる予定です。

11月

 今月は胡蝶蘭はそれほど新しい種の開花はありません。そこで友人の温室を紹介します。ここでは250種以上、約2,000株の原種デンドロビウムだけを栽培しています。ほとんどが野生種です。おそらく国内では最大規模と思います。デンドロビウムを趣味にする人で、探している原種があれば、本サイトの問い合わせでお尋ねください。販売するようであればメールにてご連絡します。

2,000株を超えるデンドロビウムが栽培された温室

上記温室内で11月22日現在開花中のデンドロビウムを撮影してみました。


10月

Lueddemanniana系に見られる葉の症状と、ネットで見る趣味家の蘭の病気について

 E. A. Christensonは彼の著書”Phalaenopsis A Monograph”(29ページ)のなかで,Polychilos亜属の原種の葉には、白緑色と緑色とが混じるモザイクパターンが多かれ少なかれ見られ、この原因としてカルシウムあるいはミネラルの不足ではないかと指摘しており、中でもP.lueddemannianaの仲間に良く見られると述べています。

 筆者の経験からも、フィリピンから輸入するP.lueddemannianaおよびその仲間(P. fasciata, P. delicata, P. pallesなど)にしばしばこの症状を見ることができます。他の種では全く見られません。一般的に葉がモザイク模様になる病気の典型は、ウイルスによるものが知られていますが、P.lueddemannianaの場合は、良く知られた一連のウイルス病とは異なり、葉細胞が壊疽して凹んだり、スジ状の凹凸、また壊疽部分が黒く腐敗変色することがありません。CyMVなどのウイルス・テストにも陽性反応を示しません。また栽培後に出た新葉にはこのようなモザイク模様は全くなく、また入荷時にあったモザイク模様は、若い一部の葉はある程度消えるものの、この模様をかなり長い間あるいは落葉するまで保ち続けるのがほとんどです。程度の差こそあれ弱っている株あるいは葉であることは確かです。

 特にP lueddemannianaP. fasciataにこの症状が多く発生し、P. lueddemannianaではモザイク模様というよりは、葉全体がさめた緑色あるいはやや黄身(落葉してゆく葉の最初の状態のような)を帯びた色合いになることがあり、これは株が弱ったとき、例えば交配して作落ちした場合などに見られます。古い葉となり落葉する葉と異なるのは、落葉は黄色を帯び始めると進行が早く1ヶ月程度で落葉するのに対して、いつまでたってもそのような色合いが保たれ、やや緑色に戻るような状態との間を行ったり来たりの繰り返しで落葉することはありません。下記写真はP. fasciataに出ているモザイク模様です。この種の問題の典型です。左写真では一番下の葉に、中央は古い葉のほとんどに、また右写真には古い葉1枚に出ています。入荷後に新しく発生あるいは成長した葉にはこの濃淡模様は見られません(写真のそれぞれの葉の白点はダコニールの殺菌剤のあとです)。この入荷株では、ロットすべてに発生しており、出荷段階の支持木からの取り剥がし、病虫害防除処理、輸入搬送などにより極度に弱ったために発生したのではないかと推測できます。出荷前には一様な緑色であったものです。2-3週間程かけて変色していることから、それら環境の変化で生理的に変容したものと思われます。

入荷2カ月後のP. fasciata(左及び中央)と10か月後のP.fasciata(右)

 交配種で近年、問題となっているリング状のモザイクと、上記のパターンとは異なりますが、それも壊疽死が見られないのでウイルスではなく、上記と同様のミネラル不足ではないかと推測するのはやめた方が良いと思います。実生栽培で小苗から温室で育てられた交配種が野生種と同じミネラル不足になるとは考えられないからです。これはウイルスに間違いないと思われます。

 話題は変わりますが、最近ネットの病気相談で、株元の茎や葉がひどく鮭紅色や赤褐色を帯び、葉がしな垂れた病気の写真を、趣味家が添付して相談されているケースが見られます。この症状は、間違いなく近年に多いフザリウム病という伝染力の強い病気です。しかし相談では趣味家の栽培管理上の問題で発生した一般的な病気の一つのような表現で回答がなされており、まさか!と思ってしまいます。この病気はウイルス同様に、一般の家庭の室内で10鉢程の栽培をしているクリーンな環境で、自然に発生するような病気ではなく、入手した時点で感染していたものと考えられます。栽培業者からの購入であれば、まず間違いなくその業者の保有する他の株の多くにも保菌していると考えるのが妥当です。おそらく業者側としてはこのような背景から、それがフザリウム病であるとは言いにくいのでないにかと思われます。病気の責任という問題になる可能性が高いためです。

 この病気は本サイトの参考資料として記載したページの胡蝶蘭栽培に関する書にも、蘭栽培ビジネスにおいて近年多発し業者を悩ましている病気であることが指摘されています。悪質で根絶が難しい病気とのことです。業者としては、もしこのような病気が出た相談者や顧客がいた場合、病気株は廃棄以外ないとしても、その他の株に感染している可能性が高いことから、相談者が所有する株全体に対する予防処置として、この病気に有効な薬品の紹介と、その使用方法を詳細・具体的に説明すべきです。

 家具のような商品であれば、顧客は納品時点で傷がないかどうかなど確認したうえで受取ることができ、その時点から管理責任は業者から顧客に代わりますが、生きた商品では潜在的に潜む病原菌まで確認することは不可能であり、また業者も病気を隠して販売しているわけではない以上、業者の責任にも限界があります。顧客としては植物とはそれだけのリスクのある商品であると認識した上で受け入れる以外なく、トラブルが続くようであれば自己防衛としてその業者からの購入はそれ以上はやめる以外ないと思われます。一方、不幸にして発生した病気に対する業者の誠意は、その適切なアドバイスを如何に敏速に行うか以外になく、逆に業者が自己防衛に走ればビジネスは遅かれ早かれ続かないことになるのではと考えます。

照度についての考察

 筆者の温室は南北に長い形で建っています。ここに南北に平行して衝立(ついたて)状の金網を並べ、この両面に胡蝶蘭を吊るし栽培をしています。これが4列あります。このため、胡蝶蘭の葉が東側を向くものと、西側を向くものとが、衝立の間の通路用として1m程の間隔をおいて対面し合う形となります。この結果、東側を向く胡蝶蘭は午前から正午にかけて、また西側向きは正午から午後にかけてより明るくなります。遮光率は季節により晴天では30(冬)-70%(盛夏)程度で、曇りの日は30%程度としています。

 このような環境で胡蝶蘭を観察していると、東側向きの、午前中に輝度が高くなる側の胡蝶蘭の葉は1日の変化が大きいことが分かります。この変化とは、十分な湿度を夜間与えている場合の夜明けの葉は、色、艶ともに生き生きとしており、これが昼間に向かって強い照明に変わって行くに従い、色は微妙に黄色み(葉緑素配列の変化による色変化と言われています)を帯び、しなってきます。西側向きでは、東側向き程の変化は余り見られません。この違いにはもう一つの事情があり、正午頃になると室内の気温が上昇するため、特に晩春から秋までの期間は正午頃から寒冷紗を降ろすことが多くなり、照度の違いがでるためと考えられます。すなわち東側向きと西側向きの胡蝶蘭はそれぞれ年間を通して照度や照明時間が異なることになります。この環境の違いを利用して東向きには高い輝度を好む種(P. fasciata, Plueddemanniana系や薄葉系)を、西向きには好まないもの(P. fuscata, P. tetraspisなど)を配置しています。しかしスペース上の制約もあり同一種でその両側に向かい合って吊り下げた種も多く、P. schillerianaは20株程(それぞれ10株)が対面しています。

 年間を通してこの環境での同一種の生育を見た結果、明らかに東側向きの方が西側向きに比べ、この晩秋を迎えて葉に勢いのようなものが見られ、また花茎の発生も3-4週間早く発生しています。照度がより高いことがその原因なのか、午前と午後の太陽光の波長が関係するのか諸説が考えられますが、交配種と異なり、原種は一部を除きカトレア並みの照明が良い結果をもたらします。これはPaph. Sanderianumでも同様です。夏期はやや色変わりし、しおれ気味ほどの照明に晒される方が花は晩秋に大きく多輪花となります。

 初心者に対しては、このやや色変わりという程度の判断はなかなか難しく、間違えば葉焼けを起こしてしまう危険があるため勧められませんが、葉面を触ってかなり暖かいと感じるまでにはならない程度の十分な照度と通風を与えれば、また同時に夜間湿度を高く保つことができれば、高輝度栽培はかなり効果的です。これは原種に比べて葉焼けを起こしやすい交配種には適用できません。

開花についての考察

 10月も中旬に入ると、P. schillerianaのほとんどが花茎を発生し始めます。会津地方では夜間の気温は東京よりも5C程低いことから開花時期としては1ヶ月ほど東京よりも早まります。 園芸店に並んだ胡蝶蘭交配種を入手し、1年後の開花を目論んでいる栽培者にとっても、日本の気候下にあっては、これからが花茎の発生時期となり12月から2月にかけて開花を見ることができます。多くの書籍では、胡蝶蘭の開花は夜間18C、昼間25C程度の環境に1-2カ月程置くことによって花茎が誘導されると書かれています。園芸品種は多くがP. aphroditeP. amabilisを元親とした交配種であり、Phalaenopsis亜属のPhalaenopsis節(これらの種が含まれるグループ)では共通して長期間の低温化が花茎誘導の要因となるようです。

 一方、野生種すべてが10-11月に花茎を発生し12-3月頃に開花するかと言えば、意外に思われるかもしれませんが、大半がそうではありません。例えば胡蝶蘭では代表格のP. violaceaP.bellinaは盛夏から晩夏にかけてが最花期であり、P. equestrisは園芸品種の開花時期には咲かず、むしろそれ以外の長い期間で花をつけています。

 胡蝶蘭の主な生息地であるアジアの熱帯雨林帯では、5年ほどの周期でフタバガキ科を中心とした一斉開花が知られています。林冠や高層木の80%ほどの木々が一斉に開花する調査研究は、国内では主に京都大学の研究者らによって行われていますが、何を目的として、また何をトリガーとしてこのような不思議な現象が発生するのかは諸説があります。これらについては本サイトの「生息域と環境」に記載しましたが、トリガーについて取り上げると、一つは乾燥が引き金になるというものです。胡蝶蘭はこのおよそ5年周期の一斉開花に同期して開花する(5年ごとに開花する)種ではありませんが、一斉開花時期にP. bellinaが林冠層で咲いていたビデオがありました。乾燥そのものが生理的原因ではなく、乾燥によって夜間に生じる放射冷却、すなわち夜間の低温化が開花を誘導するというものです。年間2,000mm以上の降雨量をもつ熱帯雨林が乾燥するとは、一見信じられないことですが、熱帯地方の高い気温によって雨の比較的少ない時期には、降雨量よりも森からの蒸発量の方が勝り、特に林冠層では乾燥が進むためです。

 さて、前にもどり、熱帯植物においては、低温化が全体に共通した開花条件であるとすると、国内ではそれとは全く逆に、暖かくなると開花する大半の胡蝶蘭原種の開花はどう説明がつくのかという疑問が生じます。以下は筆者の仮説(科学的データがないため)ですが、年間を通して開花している種と、特定の季節にのみ開花(開花期間が短い)する種とに分けて考える必要があると思われます。

 前者の場合に重要なのは開花期間や時期ではなく、花茎の発生する時期が重要であり、長く咲き続ける種は同一の花茎上で何カ月もかけて順次ゆっくりと花を付けますが、花茎そのものが季節を問わず、年中発生しているという現象は見られないからです。フタバガキ科の一斉開花も最初の開花から半年以上続くそうです。数本の花茎が発生すると花茎の新たな発生は止まり、発生した花茎に数カ月かけて茎元から先端に向かって数輪を順次咲き続けます。時として花茎の先端部分が成長しながら新たな花芽がつくものも見られます。

 長期間の開花は、特定の花粉媒介者(ハチやアブ)の発生に合わせた(受粉成功率を高めるための)進化の結果と考えられています。もし花粉媒介者が1年の短い期間しか発生しないのであれば、植物もそれに合わせて、短期間で一気に咲き誇らなければ受粉はできません。花粉媒介者の発生が疎らであったり、発生時期が大きく変動するような場合は、長期間に渡って僅かながらも咲き続けることが子孫を残す手段となります。一方、開花期間の比較的短い原種(例えばP. amboinensis)は1年の内、季節の変わり目での複数回の開花が見られます。

 P. bellinaを観察していて分かったことは、マンションの室内で栽培していた時と、室外の温室で栽培した時との大きな違いです。マンションのような高気密室では1日の温度差は余りなく、それに対して、野外の温室ではある時期、最低設定温度値と昼間の太陽光による上昇温度の間で大きな差が生じます。その差は10Cをしばしば超えます。室内でのP. bellinaの開花が思わしくなく、温室に移してから活発な開花となった違いは、年間レベルの平均温度の変化によるものではなく、この1日の温度変化が大きくなる時期に影響しているのではないかと思えます。すなわち一日当たりの温度差(10-15C)の発生頻度が高まる時期であり、これが重要ではないかいうことです。

 10C以上の温度差ということは、胡蝶蘭を健全に育てるためには18Cの最低温度を保たなければならないことを前提にすれば、昼間30C程度の高温が必要ということになります。この温度差が得られるのは、室外の温室では春と秋になります。長期間咲き続けるP. equestrisP. lindenii、またP. cornu-cerviも花茎の発生時点で捉えると、やはり1日の温度差が大きくなった時期に観測されます。特に冬季は暖房が加わるものの、比較的低温で推移して一日の温度変化が少なく、また夏期は夜間の温度が25C前後であるため、これまた1日の温度差は小さく花茎の発生は全体に見られません。

 1年の内で1日の温度差が野外の温室において低温(20Cを下回る)から高温(30C以上)に移る、あるいは高温から低温に移る時期は春と秋の2回あります。ほとんどの蘭は、このうち最初に花茎が発生した時期を起点として1年周期の開花が一般的(体力によるものか)で、1年に2回の花茎発生の種は滅多に見られません。春と秋の花茎発生のタイミングの違いは本来その種が生息していた自然環境に関係するのではと思いますが、何であるのかはまだよく分かりません。モンスーン気候に生息する野生種は、サイクリックな生理的特質が備わっているのかも知れません。

 一方、高地の胡蝶蘭Aphyllae亜属(P. wilsoniiなど)は2月頃から花茎を発生し早春に開花します。この種は冬季2ヶ月間ほどを10C程度の環境に置き、昼間、太陽光を根に十分当てることで花茎を発生します。よってかなり早い時期に1日当たりの温度差が大きくなります。この種を、最低温度18Cとしている同時期の他の胡蝶蘭と同じ環境に置くと、花茎の発生が抑えられてしまいます。

 1996年3月から約7ヶ月間のボルネオ島での一斉開花は20C以下の気温が3月に1週間続いたことが原因ではないかと言われていますが、年間平均気温差の余りない熱帯地方の多くの植物は、このような1日における大きな気温差というショックを一定期間受けることで花芽を発生させるようであり、これは多くの胡蝶蘭野生種にも通じる特性ではないかと思われます。


 北海道の本サイトの会員の方から、Phal. equestris所蔵株の写真が届きましたので掲載します。これだけの多様で良質なPhal. equestrisをもっておられる方はあまりいないのではないかと思います。一つの原種に対してその変種を収集することも奥の深さを感じさせます。 equestris ver.pink'Tripl Lips' はperolicと呼ばれる花弁形状が変化したもので、USA、台湾などから入手できますがフィリピンの蘭園でもしばしば見受けられます。しかしequestris ver.pink'Tripl Lips' ②の写真のように同一株にノーマルな形状とPerolic形状が同時に開花している状態は珍しいのではないかと思われます。


equestris'Bulb' × self

equestris v.pink

equestris v.alba

equestris v. aurea

equestris v..pink'Tripl Lips' ①

equestris v..pink'Tripl Lips' ②

 


equestris (orange)

equestris (light-blue)

equestris (dark-blue)

 Phal. x intermediaPhal. equestrisPhal. aphroditeとの自然交配種ですが、少し変わったPhal. x intermediaが今月咲きました。下写真1は左が通常見れらるPhal. x intermediaであり、中央が今月咲いたものです。右は典型的なPhal. equestrisです。いずれもミンダナオ島産ですが、左と中央のPhal. x intermediaはダバオから半年ほど前にPhal. equestrisとして入荷した40株ほどの中に偶然含まれていたものです。Phal. equestris はフィリピンの蘭園ではalbaやaureaタイプを除いて、Phal. aphroditeと同じように自然にごく普通に自生しているらしく実生から育種することはなく、これらは野生種と思われます。

 興味のあることに写真中央の花被片形状は、左写真のよく見られるPhal. x intermediaと異なり、むしろ写真右のPhal. equestrisに似ており、この形状だけを見るとPhal. equestrisの一つのフォームあるいは変種ではないかとも感じてしまいます。 


写真1 Phal. x intermedia(左および中央)とPhal. equestris(右)。いずれもMindanao産

 しかし、下写真2の左に示すPhal. x intermedia(左)とPhal. equestris(右)を並べて比較すると分かるように、花被片の大きさは全く異なり、もし左がPhal. equestrisであるとすると4倍体?ということになります。一方、写真右のカルス比較映像からは、手前のPhal. equestrisのカルス(斑点のある黄色の部分)が、左右1対の一枚羽のような構造となっているのに対して、奥のPhal. x intermediaのカルスは基部側が2枚重ねの羽のような凹凸があります。これはPhal. equestrisには見られないもので、Phal. aphroditeのカルスのみがもつ特徴です。もうひとつ、リップ中央弁先端が、Phal. x intermediaでは2つのひげ状の突起を持ちますが、Phal. equestrisにはありません。下写真左の大きな花のリップ先端にも分岐した突起がみられ、これらの点から上写真1の中央の花はPhal. x intermediaと同定することができます。よりPhal. equestris側の特徴が遺伝したPhal. x intermediaではないかと考えられます。


写真2 左: 左Phal. x intermedia、右Phal. equestris、右:奥Phal. x intermediaカルス、手前Phal. equestrisカルス 

 人工的な交配で作出するのであれば容易と思われますが、このように原種(野生種)のなかに変わった形状が現れるのは、おそらく2本とないことを考えると趣味家にとって魅力的なところです。しかし、現地ではおそらくPhal. x intermediaともPhal. equestrisともつかないこのような株は、花が咲けば売れないものとして捨てられる運命ではないかと思います。


9月

 今年2月に購入したPhal. bellina v. albaが開花しました。Phal. violaceaのalbaタイプはすでに広く普及しており安価に入手できますが、Phal. bellinaのalbaタイプは入手がそれほど容易ではありませんし、また高価です。1昨年東京ドーム蘭展でOrchid-Innに注文しておいたものの取りに行くことができず買いそびれていました。下の写真の株は海外で直接購入したものです。Phal. bellina v. albaの問題は果たして本物のbellina v. albaなのか、あるいはviolacea v. albabellinaと偽っているのではないかという点で、その種別判断が難しいことです。海外のネットを見てもほとんどbellina v. albaは実体写真がありません。

 一般的にはbellinaの花被片はviolaceaに比べて幅広で、また花被片のそれぞれのベース色は、先端が薄緑色で中心に向かって白くグラデーションがかかることが挙げられます。また香りはviolaceaにはスパイシーな香りがありますが、bellinaはレモン風の香りを含んでいます。これはそれぞれbellinaviolaceaを同時に横に置いて香りを比較するとよく分かります。開花した下の写真はこれらbellinaの条件を全て満たしていたので、おそらく均整のとれた形から見ると選別・改良されているかもしれませんが、bellina v. albaと見なして良いと思われます。それ以上の種別判定条件となれば、自家交配で実生を検証する方法あるいはDNA分析が必要となるでしょう。海外で、花を見ずに直接の購入であったため東京ドームでの価格の1/5以下でしたが1株のみとしました。この様態の株であれば数株買っておくべきだったと少し後悔しているところです。


 この時期、Phal. bellinaの開花最盛期となっています。海外のサイトにも写真公開されたSian Lim氏所蔵のPhal. bellina f. coeruleaをOrchid-InのSam Tuiさんを通して4年ほど前、数十万円で購入し、その後セルフ交配を毎年続けてきましたが、さく果の大きさから見て今年やっと胚のあるタネができそうです。本サイトの原種58種のページに記載していますが、Phal. bellinaは花被片を白色をベースとして側ガク片の片側半分と、脊ガク片、花弁の基部が赤紫色となる胡蝶蘭の中でも最も美しい種の一つです。香りも強く近づくだけで良い香りがします。購入した株はcoeruleaタイプで、coeruleaとは赤紫色の部分が青味のあるものを言います。特にこの株はこれまでに見たもののなかでは最も青味が強く、Evelynという愛称が付けられていたようです。下に今月撮影した写真を添付します。写真にはかなり大きく成長したさく果が見えます。無菌培養を3年ほど前から手がけており、11月頃に採り蒔きを行う予定です。この株の実生に成功すれば本会員の希望者に苗を配布する予定です。

 8月以前のサイトに掲載していました、Laelia Ancepsの写真を再び(こちら)に載せて見ました。写真の花は株を購入して4年ほどになり、10月ごろから1月まで1m程のステムを伸ばし、毎年ステム当たり2-4輪開花しています。丈夫なランです。ステムが長いため高さ方向のスペースをとることがこのランの問題点です。


 会津若松市ではいよいよ夜間15C前後となり暖房の季節に入ってきました。温室では2枚フィルム構造の保温シート(サニーコート)を2枚重ねて窓全体を覆い、天井も同様に2重にして保温熱がなるべく逃げないように張っています。会津はここ数年大雪は少ないものの、12月末から3月初旬までは相当の積雪があるため、温室の屋根に設けた寒冷紗は巻き上げたまま固定します。よって冬の間は温室の屋根・壁材のポリカーボネイトとサニーコート2枚分のおよそ60%の太陽光透過率となります。中空のカーボネイトと2枚重ねのサニーコートで、外気からは5重の空間を挟んでの断熱構造となっています。しかしこれでも寒冷地での暖房費は頭痛の種です。数年前は東京武蔵野市のマンションに住んでいましたが、ベランダからホームラックを室内に取り込むのも18Cを切る今頃でした。

 そろそろPhal. schillerianaの花茎の芽が出始めます。東京では1カ月ほど後になります。少し遅れてPhal. amabilis, Phal. stuartiana, Phal, philippinenseと続き、年末から3月頃までこれらの開花が見られます。窓を閉める時間が長くなって1日の高湿度な状態も長くなり、胡蝶蘭にとっては快適な時期であるらしく葉や根がよく伸長しています。

 胡蝶蘭の栽培の一つとして、少量多品種も良いのですが、Phal. schillerianaのように1株当たり10輪ほどピンクで大型の花を開花させる種をまとめて10株ほど育てる方法もあります。これらが開花時期を迎えると、全体として100輪程が1-2ヶ月間一斉に咲き、部屋全体が見事な華やかさとなります。とくに支柱を使用しないで株の意のままに花茎を伸ばし大量の花が開花した景色は見事です。アメリカフロリダではこのschillerianaの開花時期に合わせてオーキッドショウがあるほどと聞きます。

 このサイトの今月の花の9月をまだ更新していません。9月は8月の開花がそのまま続くものが多く、現在、胡蝶蘭ではPhal. violacea, bellina, equestris, cornu-cervi, deliciosa, lindenii, sanderiana, pallens, mariaeなどが咲いています。連休明けには更新できると思います。 


  9月中旬から末はパフィオの一部で植え替えができる時期でもあります。特に今月は、8日からの夜の冷え込みもあり、筆者も植え付けから2年および3年を迎えたパフィオの植え替えを始めました。パフィオはコンポストがいつも話題の中心になりますが、多くの方々はクリプトモスやミックスコンポストを使用しているものと思います。筆者もミックスコンポストを使用しているものの、おそらく皆さんと異なるのは、そのなかに麦飯石をまぜていることです。

 麦飯石の効用は水道の濾材として知られていますが10年ほど前、熱帯魚を飼育していた時期に、循環器の中に生物的濾過の濾材として使用し、それなりの効果を得ていた関係から思いついたものです。

 麦飯石が、どれだけ洋蘭に効果を与えるかは定量的なデータがなく不明ですが、胡蝶蘭のフラスコ出し苗に使用していることは本サイトで述べたとおりです。今回、コンポストの交換に合わせ、麦飯石を使用したミックスコンポストの栽培状況を説明すべくページを作ってみました。(こちら)にリンクして頂ければご覧いただけます。参考になれば幸いです。


 今年の東北地方は8月末から9月4日までほとんど曇り空が続いて残暑もなく、夜間は20Cを下回る気温となりました。胡蝶蘭原種の大半にとって昼間30C、夜間20C前後が最も成長が活発となり、これに十分な湿度が加わると目に見えて葉や根が伸長します。

 9月初旬の、この時期の施肥は夏に続いてまだ早いとされていますが、8月記に書いたように筆者は通常の施肥(3-4回に1回程度の規定希釈の液肥)を行っています。病害虫防除用の薬剤も2-3週間に1回散布します。意外と忘れられやすいのはナメクジ対策で夜間寒くなる時期の前に再度(東京以南では10月)、栽培場所周辺に薬をまいておくことが侵入を防ぐ効果的な対処法と思います。

 今、開花最盛期を迎えているのはP. mariae, P, hieroglyphica, P. bellina, P. violacea, P. fasciataなどで、一方、前月から引き継いている種としてP. equestris, P. lindenii, P. cornu-cervi系があります。胡蝶蘭以外ではDendrochilum magnumが一斉に咲き、またPaph. sanderianumが花芽を伸ばし始めます。筆者温室ではDendrochilum magnumの大株を一部遮光用として高所に取り付けており、10株ほどに200本以上の薄黄色の花が垂れ下って部屋全体に香りを放っています。Vandaの一部やAerides odorataも花茎を伸ばし始めたものがあります。

 今月から11月にかけての栽培は、12-2月頃に一斉に開花する特にP. schilleriana, P. amabilis, P. stuartianaなど大型の花被片をもつ、胡蝶蘭の中でも最も華麗な原種の花数に大きく影響します。少数多品種もまた一つの栽培法ですが、例えばP. schillerianaを10本程室内に置けば部屋中が花で華やぎます。豪華な花姿を見るためには照明と施肥など大切な調整時期を迎えます。

 8月記で述べたように今季はフィリピンで7つの蘭園を回りましたが、新たに気がついたのはバンダを始めとする気根植物の植込み材として、木炭単体が至る所で使用されていたことです。ヘゴチップも多く使用されていますが、バンダのバスケット(これには100%木炭)やデンドロ等の園芸用ビニール鉢に木炭が多く見られました。見た目では日本の木炭と同じで、2-3cm角のものです。オーキッドベースが余りにも高額であり毎年植え替え時に経費の点で頭が痛い今日、これを見て今年秋からフラスコ出し苗や中サイズの胡蝶蘭を日本の炭単体で栽培を試みようと思っています。小苗から中サイズの苗における植え換えでは、特にコンポストを変更するとしばしば作落ちが起こることがありますが、炭であれば2年以上交換する必要がなさそうで、十分大きくなってからの移植となるためこのような問題が解消されるのではと思います。読者の中ですでに実践中の方がおられましたら、どのような生育状況かメールが頂けると有難いのですが。

 今月から会員の登録と会員ページへのアクセスができるようになりました。現在は掲示板の開設と8月に訪れた海外蘭園の写真およびその解説を載せ始めた段階ですが、会員からの情報を含め、順次ページ内容を充実していきたいと考えています。


8月

8月の施肥

 8月は高温が続き、蘭栽培にとっては1年を通して最も気を使う憂鬱な月です。この暑さの中、原種胡蝶蘭ではP. violacea、P. bellina、P. cornu-cervi、P.equestris、P.fasciataなどが開花最盛期を迎えます。

 多くの栽培書やネット上での解説では、8月は施肥を控えるとされています。熱帯夜が長く続く環境では株に生気がなく、施肥をしないことも大切なことであろうと思う一方で、多くの胡蝶蘭野生種の生息地の環境は、低地熱帯雨林帯で昼夜とも25C以上の高温状態が続き、また現地ナーセリにおいても比較的郊外の高地に農園が設けられているもののこの時期、25C以下となることは滅多にありません。また農園で定期的な施肥のもと、元気に育っている蘭を見ていると、国内の夏期の施肥が高温ゆえに好ましくないとしていることが果たして本当に正しいのかという疑問がわいてきます。

 夏期の施肥と同様に、肥料を与えてはいけないとされる期間としては開花中があります。多種多様な蘭を栽培している蘭園では開花期はまちまちで、それぞれの開花株を分別して肥料を割り当てるという栽培手法は見当たりません。

 振り返って、自身の温室の蘭を見ていると、80%以上の原種胡蝶蘭は6-9月期がもっとも新芽の成長が著しく、また古い葉が1枚程度落ちる葉の入れ替わり時期となっています。言い換えればこの時期にこそ、十分な施肥を行う必要があるのではないかという疑問を持ちます。

 開花株では特に多輪花や大型の花あるいは花もちのよい株において、筆者はその期間中施肥を一切行わなかったことから作落ちした経験が過去何度もあります。第一にP. equestrisやP. cornu-cervi系あるいはP. bellinaなど数か月に渡って咲き続ける種で、その間に施肥を全く行わず、また冬季は低温であるからと肥料を与えないとすれば、これらの種にとっての施肥は春先と晩秋の2カ月程度のみとなります。これでは間違いなく開花は隔年か、翌年は僅かな輪花数となることは必定と思えます。

 研究によると、胡蝶蘭(交配種)が栄養を摂取する温度は20C以上とされています。すなわち20C以下での施肥は意味のないことになります。おそらく低温環境に生息する亜属や、かなり高地の種を除けば、原種も同様な特性を持つものと考えられます。このことから冬季で昼夜ともに20C以下の環境に置かれた株に対しての施肥はすべきではないという結論にいたります。一方高温時での栄養摂取の限界についてのデータが見当たりません。おそらく34度以上ではないかと思われます。

 ここで、温室は無論のこと室内栽培においても昼夜ともに20C以下という環境は余りなく、冬季であっても昼間は25C、夜間は栽培最低気温を守るものとして15-18Cという環境が一般的と思われます。このように1日の中で栄養摂取の境界温度を跨ぐ場合の施肥は、それではどうするのかという問題がでます。

 結論からすれば、筆者は冬季・夏期に関わらず施肥を止めることはなく、根や葉が動いている限り施肥を続けます。さらに言えば、少数多品種の胡蝶蘭原種栽培では葉、根あるいは花茎が動いているものと、そうでないものを区別しての施肥は面倒であり、余程性格の異なるAphyllae亜属を除けば、同じ頻度と濃度で施肥を行うのが現実的であり、せいぜい葉や根の伸長度合いが緩やかな冬季は夏期の半分ほどの希釈の液肥を与え、夏は盛夏を含め、通常の希釈で施肥を行っています。冬季は活性剤のみとし、適期には液肥と活性剤の混合を施すという意見も見られますが、そうであるべき明確な根拠が見当たりません。あくまでそれぞれの株の状態(変化していれば通常施肥、変化が見られなければ薄い液肥)に応じて与えるべきと思われます。

 写真1(左)はP.giganteaの5月と8月の撮影、また右はGrammatophyllum multiflorum variegated の8月わずか1ヶ月間の成長を示したものです。これらを見ても分かるように8月の高温期であっても成長(葉や根の伸長)の著しい種が多く見られます。これらは日中は32-33C湿度60%、夜間は22-24C湿度80%以上の環境において栽培している株です。

1.P.gigantea(左)とGrammatophyllum multiflorum variegated (右)の成長比


海外視察

ミンダナオ島Davao市:

 今月22日から26日までフィリピンの7つの蘭農園を、会津若松市の趣味家3人(それぞれ対象が異なり、胡蝶蘭、バンダ、デンドロビウムに分かれます)とその同伴者の計7名で視察してきました。今年に入って2回目のフィリピン渡航となります。ミンダナオ島のDavao市では23日が最終日のカダヤワン・サ・ダバオ祭が開催されていました。この祭りは別名ワリンワリン祭と言われ、ワリンワリンとは現地語でバンダ・サンデリアナを意味し、メイン通りの随所にバンダ・サンデリアナのポスターが貼られ、花まつりのシンボルにもなっています。Davao市の花でもあります。この時期にDavao市を訪れたのは、ダバオ祭の見学のためではなく、祭りの時期に開花最盛期となるバンダ・サンデリアナと胡蝶蘭原種のマーケットを視察するためです。蘭園内の詳細は会員ページに、また旅行記は海外視察記で旅の様子を掲載します。

 ミンダナオ島は国際テロ組織の拠点がある危険地域(特に島西部)として外務省渡航注意勧告が出されており、フィリピン警察2名を護衛に付けての視察となりました。しかしDavao市に限って言えば極めて安全な地域で、市民には活力が見られ、祭り期間であったこともあり、家族連れや10代の若者たちが多数夜遅くまで町に繰り出していました。一方で、郊外にあるそれぞれの蘭園では何重にもヘンスが張られ侵入者を防ぐ対策が厳重に取られているのが印象的でした。

 メトロマニラを中心にフィリピン国内のマーケットは主に切り花です。蘭に関しては交配種に人気があり、原種はほとんどが海外向けとナーセリのオーナは語っていました。華やかさを求める傾向はどの国でも同じようです。Davaoも例外ではなく、原種を扱っている蘭園は少なく、バンダを含め交配種や切り花がメインとなっています。

 今回Davaoで訪問した蘭園はPuentespina、Chua's Orchids Garden、Sul Orchids他、合わせて4農園で、いずれもDavao地域の大農園であり,広大な土地を利用して栽培をしています。中でも最大規模のPuentespinaは3つの農園をもち、その一つに蘭と観葉植物栽培の18ヘクタールのエリアがあり、また道路を隔てた向かいにMalagos自然植物園やレストランのあるGarden Resortが位置しています。

 Chua's Orchids Gardenはマニアックな多様な原種を栽培している印象を受けました。ここは予め我々が原種愛好家と伝えての訪問であったため複数もつ農園の一つを選んだものと思います。Puentespinaでは、同行した友人は20本程の大きなBSサイズ(葉数20枚程)のV.サンデリアナを1本1,800円程度で購入していました。これは国内価格の1/20以下ではと思います。つまり日本国内1本分の価格で20本が購入できるということになります。

 蘭農園見学後はDavao市内に戻り、ワリンワリン祭の期間中開かれている花展示・販売会場に移り、展示されているミンダナオ島の多種多様な植物を見て回りました。しかしこの時期、Davao市は聞きしに勝る猛暑で炎天下のもと1時間も見学していられません。なぜこれほどの猛暑のなかダバオ市民は暑いと言った表情一つなく、平然と歩いているのだろうか不思議なくらいです。日傘をさす女性はいますが、ハンカチやタオルで汗を拭く人を一人も見かけません。顔を顰めて’暑いもう駄目だ’といっているのは我々日本人だけという状況でした。

 Davao視察の最大の収穫は、友人がこのワリンワリン祭で一等賞を取ったバンダ・サンデリアナ・アルバ原種を入手できたことです。バンダ・サンデリアナ本場でのバンダ祭のトップ賞ですから、この年の世界で最も優れたバンダ・サンデリアナとも言えます。これで海外まで出掛けた甲斐は十分あったと思います。その値段が幾らであったかは読者の想像に任せます。筆者もかなり高品質のダークピンク・バンダ・サンデリアナ原種を2株購入しました。これらの花姿は海外視察記に掲載します。

  Davaoの視察についてはPuentespinaのオナーの一人がマニラ市からわざわざDavaoまで来てくれて、4つの農園を1日がかりで案内してくれました。マニラ・ケソン市に花店を営むPurificacion Orchidsからもそれぞれの農園のオーナーに我々の訪問が前もって連絡されており、それぞれの蘭園では直接それぞれのオナーが出迎えてくれました。フィリピンの信頼性のある蘭農園は互いに連携があり、これら蘭園の一つとコンタクトが取れれば他の蘭園も快く紹介してくれます。価格は我々とそれぞれの蘭園との直接交渉(英語)ですので、同じ品種であっても値段はまちまちであり、また値引きも努力次第です。特に山採りから育てた株の価格はあってないようなものであり、最初に提示された価格から半額くらいに下がることが多々あります。

 蘭園めぐりは百聞は一見にしかずで、特にChua's Orchids Gardenなどは、原種が所狭しと置かれ、どれだけの珍種が眠っているのか想像できません。ナーセリはアルバ程の変種でない限り感心がないようで、個体差の範囲で考えれば隠れた変種は非常に多いように感じられます。

 筆者はミンダナオ島固有種のP.micholitziiがないかと注意したのですが、残念ながらこれは販売されていませんでした。Davaoの農園はバンダ趣味家にとっては極楽かもしれません。渡航前に仲間からこの暑い日本から、もの好きにもっと暑い国に行くのか!と言われたましたが、そのもの好きだからこればかりは致し方ありません。が、夏だけは避けた方が良さそうです。

Manila Tagaytay:

 マニラから車で2時間程南に位置するTagaytay市は高地にあり、絶景のTaal湖を東に向え蘭農園が散在しています。これらの中でPurificacion Orchidsはその一つで、農園の規模も大きく、特出していることは栽培している蘭の種類が多いことです。筆者はフィリピンの蘭は他の蘭園で購入した株を含め、全てここに集配したのち国内への発送を依頼しています。

 今回の視察での貴重な体験はナーセリの紹介で、山採り業者(オーキッドハンター)を訪問し膨大なストックを見せてもらったことです。ここは一般の方は訪問できないと思います。P. equestrisが無数にあり、またP.schillerianaの大株もありました。その他多数の蘭が数えきれない程、丘陵の斜面を利用した自然体に近い農園で栽培されて(というよりは置かれて)おり、それらの多くが荒々しい虫食いや病痕のある葉をつけ、自然で生息することのすさまじさを物語っているようでした。採取された蘭の生息地に筆者は興味があり、次々と質問しましたが、驚いたことはすべて採取した場所を詳細に答えてくれたことです。フィリピンでは山採り株を直接輸出することはできません。多くの蘭原種輸出業者はオーキッドハンターから購入した後、所定の期間栽培し栽培品として出荷します。1日ではとても見切れない量であり、再度蘭の開花最盛期(3月頃)に訪問する予定です。1-2日では終わらないと思います。

 今回の海外で撮影した写真は海外視察記に掲載(9月中旬予定)し、蘭園内の様子は会員ページにまとめています。また胡蝶蘭原種については、パラワン産P. amabilis、ミンダナオ産P.fasciata (P.Reichenbachianaに近いと思われる)、ミンダナオ産 P.lueddemanniana(赤味の強い)など山採りから育てたBS株の一部を、順化後を待って本会員の希望者に、ほぼ現地価格で頒布する予定です。特にパラワン産は州で採取規制が実施されたため、今後の入手は困難と思います。

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