胡蝶蘭原種を中心に月毎の出来事を記載したページです。2009年8月から更新しています。

7月 

 7月は暑さと寒さが同居する月になりました。ガラスやポリカーボネイト温室では、晴天の日では寒冷紗による遮光がないと50C以上に室内気温が上昇してしまいます。寒冷紗をかけても外気温が32C以上においては、37-40Cの上昇が避けられず、この温度以下にするには手動あるいは温度センサーと自動開閉バルブを設けて散水をするかエアコンを設置することになります。一日中室内温度をモニターし、人手で散水することは無理ですし、また通常温室にはエアコンは有りませんから、寒冷紗で温室を覆い窓を全開するしかありません。こうすると温度は正午から午後3時頃にかけて40Cまで上昇し、ランは葉の緑色がやや褪せ、張りが無くなってきます。日本の夏は湿度が高いと言っても晴れていれば70%以上になることは無いため、このような高温が数日続くとやがて衰弱していきます。夏季は、胡蝶蘭全ての種において直射日光の当たる場所に置くのは例え1時間程度でも厳禁です。

 昨年の夏の長期にわたる異常高温で、今年の胡蝶蘭原種の各種で開花が例年よりも少なくなりました。特に筆者の温室では胡蝶蘭ではありませんがパフィオ・サンデリアナムにその傾向が見られました。胡蝶蘭でもっとも高温の影響を受けたのはさく果(種)で、35Cあるいはそれ以上の気温が長く続くと、交配して4ヶ月以内のものの多くは無胚となるか、黄色く変色するか、さく果がやせ細って種ができなくなります。

 一方、胡蝶蘭の中で高温に最も弱い種は、筆者の印象ではP. lindeniiで、興味のあることは、10株ほどのP. lindeniiをそれぞれ異なる温室(合計で20株)で栽培しており、室内の気温は同じような上昇率ですが、昼夜それぞれの湿度が一方で50%と70%、他方で70%と90%以上となっているなかで、後者の温室では成長に変化がないものの前者の温室では見るからに(葉の状態がしなり、落葉も現れる)弱まっています。この種は、夏の間は比較的暗い場所か、湿度の高い場所に置いた方が良いかもしれません。

 強い種はP. equestris、P. violacea、P. bellinaおよびP. cornu-cervi系で夏季は毎日灌水することで高温に影響されること無く例年通りの花を咲かせています。但し、さく果については他の種同様に敏感です。またこの時期はP. pulchraが開花する時期となり、この種は一茎に通常一輪ですが株当たりでは2-3茎発生することから、その派手な赤紫色のため良く目立っています。

 今年の7月末から8月始めごろは冷夏で、それぞれのランにとっては過ごし易い期間でした。8月はどうなるか例年の対策を考えているところです。

6月

 Phal. pulchra albaについて:

 昨年20万円でタイのTropical exotiqueからフラスコを購入したP. pulchra albaの苗が開花しました。4年ほど前にフィリピンのLady-let orchids(現在は廃業)で1株12万円と言われ、それまでこの業者からは他の種で何度かミスラベル品(後に詐欺と分る)を送られていたことから半額を送金したものの結局何も送られてこず、またフィリピンの他のラン園から聞いたところ海外の相当数の趣味家も筆者同様に、このラン園から詐欺にあったという、いわくつきの原種ですが、やっとalbaタイプを得たことになります。

 花を見ると、P. pulchraなのかP. micholitziiなのか判断が難しいのですが、P. pulchraは花茎が長いことと、リップ基部のカルス(posterior callus)が多数の腺状突起から成ることで、P. micholitziiと区別することが出来ます。またP. pulchraはカルスは3組(anterior, center, posterior)で中央のカルスは先端2分岐です。一方、P. micholitziiは2組(anterior, posterior)で構成されています。それぞれP. pulchra alba, P. pulchra normal typeおよびP. micholitziiの花とカルスを下記写真に示します。フラスコ苗が販売可能となったことで、他の希少種のalbaと同様に、予測としては1株5万円程度で入手ができ、やがてP. appendiculataと異なり栽培難易度が高い種ではないことから、数年で2-3万円程度になるのではないかと思われます。それでも1株の値段としては高いことには違いありません。

Fig.1 P. pulchaP. micholitziiの花とカルス

P. pulchra v. alba

P. pulchra v. alba callus

P. pulchra normal type

P. pulchra normal type callus

P. micholitzii

P. micholitzii callus

P. pulchraP. micholitziiとの違い
項目
P. pulchra
P. micholitzii
花茎 長い 短い

Callus
Posterior Callus

3組
多数の腺状突起

2組
2分岐突起
Lip midlobe (リップ中央弁) 髭が後方竜骨突起まで生える リップ中央から先端に疎に生える

 


5月

 最も多くの種で葉や根の成長が進む季節です。肥料と十分な灌水を行い、新しい葉を伸張させ大きな株にする重要な時期となります。

 今月はAphyllae亜属の胡蝶蘭を取り上げてみました。この亜属にはbraceana、 hainanensis、 honghenensis、 minus、 stobartiana、 taenialis、 wilsoniiが含まれます。主としてチベット、中国、タイに分布し、半数が高山に生息するため葉が比較的小さく、半落葉性で葉に比べて不釣り合いなほど根が多く長く発達します。花は小さく、そのために趣味家を除いて余り栽培されることはないようです。この種は、冬季には高輝度で10度-15度ほどの低気温に2ヶ月ほど晒さないと早春に花茎を発生させてくれません。この低温度栽培のため冬季だけは他の亜属の胡蝶蘭との同居が出来ず、別の環境で栽培しなければなりません。

 現在筆者はP. taenialisは所有していません。P. braceanaは「今月の花」に初めて掲載しました。「胡蝶蘭58種・・」にはまだ未掲載です。筆者のもつP. braceana, P. hainanensis, P. honghenensis, P.wilsoniiの内、P. honghenensisを除いて、すべて中国雲南省からの野生(山採り)種です。10株程所有する中で明確な種別が出来るものはP. wilsoniiであり、P. braceana, P. hainanensis, P. honghenensis間では種別判断が極めて困難なものがあります。下写真にこれらの花とリップをそれぞれ示します。

Fig. 1 Aphyllae 野生種

P. braceana

P. braceana

P. hainanensis

P. hainanensis

P. honghenensis

P. honghenensis

P. wilsonii

P. wilsonii

 Fig. 1のサンプルからはリップに明確な違いが見られるのはP. honghenensisP. wilsoniiです。P. braceanaと他との違いは視覚的には花被片の外周が黄緑色、緑褐色あるいはオリーブ色で、内部に向かって赤みをもつことです。しかし花被片の色を種別判定の要素とすべきかどうかは疑問のあるところです。もし花びらの色違いが変種や異種判断に使用されると、胡蝶蘭はおそらく現在の5倍程の(変)種が生まれることになりかねません。

 P. braceanaとする上写真の株と他種との違いは、花被片の色以外にリップ基部から後部に飛び出た(Fig. 2の写真左の右端にある黄色の)突起です。P. willsonii, P. hainanesisP. honghenensisにもこの突起は見られますが、所有する株の中では、これ程長く飛び出てはいません。しかしこれがP. braceana固有の形状となるのかどうかはサンプル比較数が少なく現段階では明確ではありません。

Fig. 2 Lip

P. braceana

P. wilsonii

 一方、葉の形状ですが、筆者が所有するP. braceanaP. wilsoniiを比較すると前者は楕円形で丸みがあり、後者はやや細長い楕円形となります。Fig.3で上段の写真は入手後3年を経過したもの、下段は上段の株を親とした自家交配の実生です。葉の丸み具合を種別判断の要素とすることが正しいかどうかも確かではありません。P. giganteaの温室栽培では、40-50cm程の長楕円形の古い葉を持つもつ株が、新しく発生した葉は丸みを帯び、やがて5-6年経過すると全体が左下写真のような卵形の幅のある葉になる傾向があり、環境によっても葉形は変わる性格があります。これも多くのサンプルを用いて検証する必要があります。

Fig. 3 Leaves

P. braceana

P. wilsonii

P. braceana

P. wilsonii

 P. honghenensisはリップ形状が他種と異なりややスリムで、3つの白色の縦縞と獏の鼻のようにリップ先端が飛び出ていることが特徴で、P. wilsoniiはリップ先端が逆ハート型で特徴があります。またP. hainanensisはリップ外周が白いフレアのような縁があり、これはP. wilsoniiにもありますが、リップ先端形状が異なることから両者を区別することが出来ます。Fig. 4にはP. honghenensis, P. wilsoniiP. braceanaのカルスを示します。posterior(基部側)カルスは2分岐で厚みが合って先端がやや開いていますが、Fig. 4のP. braceana のposteriorカルスは八の字(カイザー髭のような)型に大きく反って開いています。最も判別の難しいP. fuscata、P. kunstleriとの比較で議論されるように、このposteriorカルスの微妙な形状が種別判定の一つとすれば、確かにFig. 4のP. braceanaのposteriorカルスは他のAphyllaeの種とは異なっているように見えます。

Fig. 4 callus

P. honghenensis

P. wilsonii

P. braceana

 写真はありませんがP. stobartianaは花茎が長く、花被片はオリーブから緑黄色とされており、公開された写真で見る限り上写真のそれぞれとはかなり異なる外観です。不思議なことに、過去10年ほど探していますがP.taenialisと共にP. stobartianaを市場では見たことがありません。雲南省のラン農園でも見つけることは出来ませんでした。1本だけP. stobartianaとのラベルの株を台湾から入手しましたが、開花には未だ至ってません。 

 中国雲南省の野生種の中に花被片やリップ構造は似ているものの香りが全く異なる株が含まれていました。この株の花とリップをFig.5に示します。強い柑橘系の香りがします。 Aphyllae亜属の匂いはP. floresensisの匂いを弱くしたようなものであることから比べると全く異なる良い香りです。

 香りの強弱は温度、時間、開花期間内等で異なるため、あり得ることとしても、香りの種類が異なることは、誘引するポリネーター(花粉媒介昆虫)が異なることを意味することにもなり、同種で香りが異なることは考えられない(もし誘引物質が異なっていれば同種間で受粉ができない)ことから異なる種(新種)とも考えられるのですが、一方で視覚的な形状はP. honghenensisP. hainanensisの中間体に似ています。また花被片の色は赤みが強くFig. 1のP. honghenensisとは大きく異なります。リップ後部の突起はP. braceanaほど長くはありません。写真Fig. 5は非常に不思議な株と言えます。

Fig. 5 unknown species とLip

 Aphyllae亜属は、変種に至ってはまだ分からないことが多く、今後の研究が待たれます。


4月

 今月は昨年交配したフラスコ苗や、2月の東京ドームショーで購入したフラスコ苗を取りだしポット植えを行う最盛期であり、植付けには毎年どのようなポットとコンポストで植え付けるか、それぞれの原種ごとに考え悩むものです。

 筆者は2001年にOrchidInnから購入した当時では高価であったPaph. sanderianumをフラスコから取り出して植え付けたのが、フラスコ苗植付けの最初でした。初めての試みであり全く知識がなく、取りだしたままの状態で培地を洗い流し、素焼き鉢にミズゴケ(いわゆるコミュニティーポットと言われる状態)で植え付けたのですが、案の定2-3週間ほどで次々と葉元が茶褐色化して枯れ果ててゆく結果となりました。それ以降、何度もフラスコ苗に挑戦し、コンポストを変えたり苗を1本づつに分けて植えつけたりしながら徐々に自分の環境と苗の状態との関係が理解できるようになり、余り枯らさなく育てることができるようになるまでにはそれから3年程かかりました。しかし今日であってもアルバタイプのパフィオの一部は20本ほど植え付けても残るのは2-3本程度という厄介な種もあり、未だ完全に理解している所までは至っていないと思っています。

 胡蝶蘭はパフィオほど難しい種は余りなく、これまで50種程の種で自家交配を行いましたが、数センチまでフラスコ内で育てば8割以上は成長するようになっています。例外的な種は、P. appendiculataP.amboinensis f. flavaです。それまでP. bellina f. coeruleaP. lueddemanniana redも数%しか採れませんでしたがこちらはほぼ解決したました。原因は培地もありますが、重要なことは胚の生長具合で、交配から採り撒きまでの期間の環境(温度管理)によって無胚となる確率が大きく変化することが分かってきました。

 現在は胡蝶蘭はAphyllaeParishianae亜属(ヘゴ棒付け)を除く全ての種でヘゴチップと半透明プラスチックにしています。今月の花のページで写真を添付しました。

 フラスコから取りだした苗も1年程度経過し、次の年の4月を迎えると、それまでのプラスチック鉢から新しいコンポストに移し替えなければならず、ここでも種ごとにどれを使うか考えなければならない時期となります。今月は胡蝶蘭原種について葉の生体(下垂あるいは立ち性)から適切なポットについて取り上げてみました。原種は交配種と異なりほとんどが成長に伴って葉は下垂します。小苗から栽培した株は、多くの種で4-6葉程まではそれぞれ左右に分かれ水平から上向きに成長しますが、大きな下葉となるとポットのエッジに乗っかかるようになったり、ポットから垂れて床に接触することになります。この状態ではやがて接触部分が病気となってしまいます。そのため鉢を高くしたり、斜めに吊るしたりするのですが、このようになると見栄えが問題となり、ヘゴ板やコルクあるいはバスケットなど下垂タイプの種に適した植付け材が検討されることになります。一方でこれら植付け材は夜間の高湿度が確保できる環境では良いのですが、一般室内では乾燥が早く進み適しません。多孔質でかなり長い間湿度を保つことのできて板のような形状の取付材ができれば、胡蝶蘭に限らず、バルボフィラムやデンドロビウムなど多くの種で利用でき世界中で利用されると思うのですが、誰かに考案してもらいたいものです。

 表1では下垂タイプをA、立ち性タイプをB、立ち性であっても花が葉下に開花するためポット植えには適さない種をC、根に一定の光を当てる必要のある種をDとしてタイプ分類しています。下垂タイプは水平置きのポット植えには適さず、またタイプDはヘゴ板/棒あるいはコルクが必須となります。

表1 生長葉の様態
種名
タイプ
備考
種名
タイプ
備考
amabilis
A
*1
kunstleri
A
*2
amboinensis
A
  lamelligera
B
aphrodite
A
B(Taiwan産)
lindenii
A
appendiculata
C
  lobbii
D
bastianii
A
  lowii
D
bellina
A
  lueddemanniana
A
*2
borneensis
B
  maculata
B
*2
braceana
D
  mannii
B
celebensis
A
  mariae
A
chibae
B
  micholitzii
B
*2
cochlearis
A
  minus
D
corningiana
A
  modesta
C
cornu-cervi
B
  pallens
B
delicata
A
*2
pantherina
B
deliciosa
A
  parishii
D
doweryensis
A
  philippinensis
A
equestris
B
大型種はA
pulchra
B
fasciata
A
*2
reichenbachiana
A
*2
fimbriata
A
  sanderiana
A
floresensis
A
  schilleriana
A
fuscata
A
  speciosa
A
gibbosa
D
  strobartiana
D
gigantea
A
  stuartiana
A
hainanensis
D
  sumatrana
A
hieroglyphica
A
  tetraspis
A
honghenensis
D
  venosa
A
*2
inscriptiosinensis
C
  violacea
A
intermedia
B
  viridis
A
*2
javanica
C
  wilsonii
D
      zebrina
A

       *1: 野生種は通常下垂する。若苗ではポット植えが可能
       *2: 2-4枚程度の若株では立ち性であるが、大株や自然界では下垂


3月

 東北太平洋沖地震により被災された皆さまには謹んでお見舞い申し上げます。
筆者の住む会津若松市は堅い岩盤上にあることと、磐梯山を越えた位置にあるため地震や福島原発事故による放射能の影響はほとんどなく無事に過ごしております。私は地震の時に東京におり、14日まで東京にて帰宅難民状態でしたが、新潟を迂回し新潟からバスで会津まで戻ることができました。温室では20鉢ほど落下し破損しましたが、多数あるフラスコには何の損害もなく、その程度で済みホッとしました。一刻も早く原発問題が解決することを祈るばかりです。 

 3月末になるとフラスコ苗をフラスコから取り出す時期で大変忙しくなります。JGP国際蘭展で購入したフラスコの多くはすでに半年以上経過しており、フラスコの培地の有効期間が7-8ヶ月とすると3-4月が取り出しの時期の限度となります。それ以上経過すると成長が止まったり、根だけが伸張したり、古い葉が枯れ始めたりします。また盛夏や秋のフラスコ出しは好ましくありません。

 今月は、昨年3月から4月にかけて取りだした苗と1年後の苗の映像をそれぞれ上下に示します。左からP. pulchra alba、P. cochlearis、P. sumatranaです。ポットは9cmサイズの半透明プラスチックタイプであり、1年を経過すると下段の苗のように、もはや葉はポットサイズを飛び越えてしまいます。植込み材はそれぞれの苗でヘゴチップ、オーキッドベース、ヘゴチップを用いています。

 苗はすべて適度な通風と中程度の輝度と夜間湿度を80%以上を保持します。肥料は主に液肥を規定希釈のさらに1/2程度を3回に一回灌水時に与えています。半年程度過ぎた頃にグリーンキングを2個ほど置き肥として与えます。特にフラスコから出して3ヶ月間はもっとも神経を使う期間で、葉に少しでも病気(主として葉先枯れ病のような葉の先端が黄変)が現れた場合は筆でダコニール原液等を塗ります。水浸状の病気が出た場合は細菌性の症状でありストマイ系の薬剤を使用しますが、この症状があちらこちらに見られるようでは再生はもはや困難となります。いずれにしても日々目視し、小さな症状が出た段階で直ちにその個所に薬を塗ります。病害虫防除は1カ月に一回程度規定希釈の薬剤(カビと細菌性の混合)の散布を行います。フラスコ当たり20-25苗ほど植え付けられていますが、成長不良の小さな苗は別として、胡蝶蘭は2-3苗は植え付け後、落ちてしまいます。パフィオは2-3割が落ちることから比べれば少ないと言えます。現在は、フラスコから取りだす際にはタチガレンエースとバリダシンの規定希釈混合液に3-4分に浸し、また植込み材(ヘゴチップ)も同様の混合液に数時間浸けたもので植え付けています。

 オーキッドベースは昨年から販売されなくなったので、今年からはオーキッドペースに代わるものとして富士砂(中・大サイズ)に置き換える予定です。いろいろ検討しましたがPHが中性に近く(6.5 - 7.0)で保水性(多孔質)のある必要から特にパフィオの植込みはすべて富士砂とバークの組み合わせとすることを検討中です。

 一方、一部を除き、大半の胡蝶蘭フラスコ苗の初期植込み材にはヘゴチップが最も好成績で、市販のヘゴチップはチップサイズが長いため、これを適度に短くカットして使用しています。ヘゴチップが良いのは灌水に神経を使う必要が無く、水を幾ら与えてもチップが濡れる程度でほとんどの水が抜けて出てしまい水加減を考えなくてもよいことです。上の写真のようにトレーに並べた苗の上から緩やかなシャワーで所かまわず与えます。頂芽に水が溜まることは一切気にかけません。これで苗が病気になるとすれば水を所かまわず与えることが問題なのではなく環境(温度、湿度、通風のバランス)が好ましくない状態にある筈です。ポットが乾燥しがちな場合はヘゴチップの上(ウオータースペース)に僅かなミズゴケを置き蒸散を抑えます。今年も300株ほどフラスコから取りださねばならず春は毎年忙しくなります。


2月

 今月は東京ドーム国際蘭展が開かれ、例年に比べLandscape展示や入場者数が若干少ないかなと感じましたが、海外の蘭販売業者は例年通りの参加数でした。1ブースの10日間の賃貸料が国内業者で、販売のみを行う場合、約65万円とのことです。採算を得るには、一本の株の利益を500円程度としても1000本以上売り上げなくてはならず、1ブースに収納できる本数を考えても、全株相当が売り切れて再販売のローテーションが10日間で少なくとも1回はないと利益はでないことになります。これでは例えばPaphioのような高額品種であれば兎も角、胡蝶蘭、デンドロ、バルボフィラムなど一般の原種を一般的な価格で販売する場合は極めて困難です。海外業者に対して、あるいは展示品を出展する場合は賃貸料は半額となるそうです。展示会は利益を得るところではなく、販促の場と考えればそれで良いのかもしれませんが。

 筆者の温室もこのままでいくと3段棚で栽培しなければならないほど数が増えてしまっているので、2-3年後には賃貸半額のコースで海外出店業者と半額づつ持ちあって出店でもしようかとも目論んでいるところです。


JGP2011 展示会場全景 


 昨年からP. equestrisについて調べていたのですが、原種、人工改良種と交配種がこれほど混じった種は胡蝶蘭のなかでは見当たりません。フィリピンのオーキッドハンターの農園に行ってAparri、 Quezon、Leyte産などの1000本近いP. equestrisを見ていますが、これらは写真1に示すような様態であり、台湾で販売される色とりどりのP. equestrisは一切見られません。フィリピンの大手農園でP. equestris leucaspisとして販売されているリップや花弁が色とりどりの種は、筆者の知る限り、台湾からの逆輸入であり、野生種ではありません。

 それでは台湾にそれら色とりどりのP. equestrisが野生種として生息しているかと言う点ですが、最新の台湾でのP. equestrisの研究論文(Ming-Jer Jung, etal. "Note on Phalaenopsis of Hsialolanyu, Taiwan", Taiwania, 55(4): 407-411, 2010)によると、台湾ではHsialolanyu島でしかP. equestrisはこれまで発見されていないとされ、論文に掲載された写真のP. equestrisは下写真のQuezon産のリップをやや赤くした多くの野生種と同様の様態で、目立った特徴は見られません。このことからも市場にある多くのP. equestrisは、台湾において栽培や採取で得たリップや花弁の色が異なるものを選別し、これを人工交配して創出した品種と思います。

Fig. 1 P. equestris 野生種

P. equestris Aparri #1

P. equestris Aparri #2

P. equestris Rosea

P. equestris Quezon

P. equestris Leyte

P. equestris Samar

P. equestris Mindanao #1

P. equestris Mindanao #2

P. equestris Mindanao #3

 東京ドーム国際蘭展では多くの台湾からの業者が出店していましたが、そのなかの半数ほどですが、僅かに胡蝶蘭の原種も販売していました。これら業者のほとんどは交配種も同時に販売しており、一見原種なのか交配種なのか分からない株も多数ありました。交配種と混ぜて販売している業者からは5年ほど前から購入しないことにしています。原種と言われて購入したものの開花してから交配種と分かった経験が2回(2005,2006年)ほどあるからです。視覚的に原種に違いないと思われる種でも、野生種では容易にできる自家交配が、非常に困難な種も台湾からの株にしばしばあり、これも怪しげに思っています。台湾業者販売そのものを問題にしているのではなく、原種にこだわるのであれば避けるべきではということです。このため筆者は現在、ミスラベルは頻繁に起こるものの生息地の現地業者か、東南アジアの良く知るブリーダーからの購入に限っています。


1月 (今月からは英文も掲載します)

 昨年来、本サイトの英文化を進めていましたがやっと環境や様態などの解説文が英文となりました。まだ58種の種別のページが手づかずで、これから6か月ほどかかると思います。外国と国内向けは若干内容が異ならざるを得ないことがあり、一部を変更したり追加しています。すべてのページの英文化が終われば海外との情報交換ができることを期待しています。英文のサイトはトップページの旗印ですがこちらとなります。歳月記(Monthly Report)などは日本語版と異なりますので参考にしてください。また日本語版は2年前に記述したものでそろそろ、その後の情報を基に改定を行いと思っています。今後改定したページはNewの添字を表示することにします。


 これからはP. amabilisP. lueddemannianaグループの開花時期を迎えます。昨年の猛暑のせいか、全体にやや花数が少なく、小ぶりである印象を受けます。
  今回は昨年6月にフィリピン訪問の際、入手したAppari産のP. intermediaが今月開花したため、これでフィリピン北部からミンダナオ島までの本種が出揃ったことになり、これらの写真を掲載してみました。P. intermediaP. aphroditeP. equestrisとの自然交配種とされています。交配種は一般に自家交配が極めて困難ですが、本種は比較的容易で、またフィリピン全土に生息していることを考えると一つの独立した種相当になっていると言っても良いのでないかと思われます。

 下写真でAppari産はマングローブ林の中で発見されたものと言われます。フィリピンのマニラ近郊最大の農園主も初めて見るものと言っていました。花被片に縦筋が入っているのがこの地域の特徴なのか、採取したものがたまたまそうであったのかは不明です。2段目左はLuzon島中部産で、我々が一般に入手できる赤いリップの本種の大半はQuezonあるいは3段目のLeyte産と思われます。
  2段目右はPanay島産で、この島はフィリピン全体の地図上の中央に位置します。リップがオレンジ色です。オレンジ色は赤いリップに比べて人気がいまひとつと聞きますが、他の地域の本種がP. aphroditeP. equestrisの中間的花被片形状であるのに対して、この種はP. aphroditeの花被片形状をより強く継承しているような姿を示しており、これなりに特徴があります。筆者は色よりも形状に興味を持ちます。
  3段目はLeyte島産でこの島での本種のリップはほとんどが赤色とのことです。最下段はMindanao島産です。特に右の花は2段目のPanay産とは正反対でP. equestrisに似ており、同一種とは思えないほどです。これを自家交配したらP. equestrisが現れそうな不思議な形をしています。いずれも今年はこれらをすべてそれぞれ自家交配し、苗を得て数年後に花を確認してみたいと思っています。


Appari Linaw産

Appari Linaw産

Luzon Quezon産

Panay産

Leyte産

Leyte産

Mindanao産

Mindanao産

12月

 最近は胡蝶蘭を始め比較的高価なラン、例えばPaphiopedilum属やバンダなどの無菌培養を試みています。過去4-5年で胡蝶蘭に関しては、交配しても常に無胚の種は別として、95%以上で成功し、ほぼタネからのSeedling培養技術は確立したと思います。一方、昨年からは非常に困難と言われる多花性のPaphiopedilumの培養技術の確立に向かって取り組んでいます。これらの経験を通して分かってきたことは下記の要点です。

  1. 培地成分
  2. とり撒き時期
  3. タネの外皮の処理(難発芽性種)
  4. 暗室期間(地生ラン)

 培地成分は本で見られるハイポネックス粉末からVWやAndo培地などを、またバナナ、ジャガイモ、ココナッツウオーターを付加材として、さらにBAやNAAなどホルモン剤等様々試みてきました。いずれも筆者は結局これらとは異なる培地や組み合わせで行っていますが、誰がどのような培地成分を使用しているかは企業秘密のようで具体的に知ることはできません。筆者もこの業界の影響を考え培地については公開をする予定はありません。

 Paphiopedilumのとり撒き時期は交配後8-10カ月後が適切とされています。胡蝶蘭は4カ月です。おおよそこの時期にさく果が割れてくるため、必然的にこの時期となってしまいます。中には10か月以上変色しないものもありますが、10カ月以上付けていても意味がないようです。しかし2-3ヶ月の違いは発芽率に影響します。遅くなればなるほど発芽率は上がりますが、どれだけタネから発芽するかは株の大きさや健全さの方が影響が大きいように思います。

 Paphiopedilumの場合、最も重要なのは3項のタネの外皮の処理ではないかと考えています。筆者は試験管にタネと0.5%次亜塩素酸ナトリウム溶液を入れ、およそ延べ5分程度超音波洗浄器にかけます。その間試験管を何度も洗浄器から出して振り、浮かんでいるタネが溶液に馴染むようにします。およそ2-3分もすると溶液にタネの外皮の一部が溶けて茶色に変色してきますが、同時に浮かぶタネと沈むタネに分かれます。7-8分後に、この沈んだタネを残し、浮かんだタネと溶液を捨てます。胚のあるタネが多い場合、かなりのタネが沈みます。この場合は超音波にかける時間を短くし、例えば3分ほどで6-7割沈むタネがある場合は、超音波器はそれまでとし、殺菌のみの目的で5分以上、10分以内で下記の殺菌水による洗浄に移ります。

 通常はタネを溶液に入れてから溶液を廃棄するまでを10分程度とします。この時間は次亜塩素酸ナトリウムの濃度によります。1%濃度であれば10分は長すぎるかもしれません。溶液を捨てた後、直ちに殺菌した水を入れて良く振ってタネを洗浄します。この作業を水を4-5回交換しながら塩素分を除去します。

 Paphiopedilumの場合、超音波洗浄器がなくてはまず成功しないと思います。胡蝶蘭はタネの外皮を傷つける必要はありませんが、筆者は胡蝶蘭でも1分ほど加えます。当初胡蝶蘭の場合、さく果の割れる前ではタネは無菌状態であり、さく果表皮だけを殺菌すればよいので2-3%の次亜塩素酸溶液に5分程度漬けてからさく果を割ってタネを取り出しそのままフラスコに蒔いていましたが、最近はこの方法でも数%のコンタミネーションが生じることがあり、取り出したタネを薄い0.5%次亜塩素酸ナトリウム溶液で5分間洗浄します。研究によると胡蝶蘭は1%濃度5分殺菌では濃すぎるとされています。

 洗浄処理を終わったタネはフラスコ培地に一様に広がるように蒔き、Paphiopedilumでは凡そ2ヶ月間25C程度の室温に置いた暗い箱の中に入れて保存します。胡蝶蘭は暗室には置きません。2ヶ月後にフラスコを15倍ルーペで見るとタネの外皮を破った、数倍に膨らんだ白い胚を見ることができます。その後は25C程度の部屋で1日10時間程度の照明を行います。これまでにPaph. sanderianum, Paph. rothschildianum, Paph. stonei, Paph. lowii, Paph. michranthum, Vanda sanderianaなどの1回のとり撒きで数百苗のSeedlingが問題なく得られています。


Paph. micranthum v. eburneum

純白のポーチを持つミクランサムであり、2年前から交配を行っている。


Paph. micranthum v. eburneum

ポーチの大きさはアースノーマットの大きさ比べると分かるように非常に大きなサイズである。


Paph. micranthum v. eburneum

植込みはオーキッドベースと麦飯石であるが、オーキッドベースが生産中止のため、現在検討中である。


Paph. micranthum v. eburneum

3mm程の苗の植付けから4か月程度経過。


Paph. micranthum v. eburneum#1

10か月程経過した状態。もう培地に栄養分は少ない。


Paph. micranthum v. eburneum#2

左と同じロット。


Paph. rothschildianum#1

3mm程の苗の植え付けから凡そ1年経過。


Paph. rothschildianum#2

左と同じロット。来春早々にフラスコ出し。


Paph. stonei

3mm程の苗の植え付けから凡そ6カ月経過。

 


 冬に入るためベンチに置かれた鉢や株の葉を整理・整頓していると、奥まった所や隠れていた場所で病気がかなり進行している葉が見つかることがあります。特に限られたスペースの中で多数の株が混雑している環境では、このような見落としはしばしばです。病気を発見すれば病害虫防除のページに記載した方法で直ちに対応しなければなりません。その一例を今月を取り上げてみました。

 使用する薬品は病気がカビ系か細菌系かをまず判断して選択すべきなのですが、栽培経験を積んでもこの判断がなかなか難しく、筆者も明らかな症状(例えば炭そ病)であれば兎も角、両方に効く薬を使うのがほとんどです。よってマイシン系(ストマイあるいはマイコシールド)とダコニールの2薬混合や、細菌とカビの両方に効くナレートなどを使用します。手順はこれらを下図に示すように小さなカップに入れて筆で混ぜ合わせペースト状にします。図では粉末のマイコシールド(左端写真)に水和剤ダコニールを加え(中央)、ペースト状に、文房具店で売られている普通の絵具用の筆で練ったものです。ナレートのように粉末の場合は水かダコニールで溶きます(園芸薬品で最も一般的なベンレートは細菌性の病気には効果がありません)。

 次に病気の部分を切り取り(患部から5mm程離れた位置で)、上記ペースト状にした薬を筆で切断面に塗ります。左からそれぞれP. viridisPaph. rothschildianum P.violaceaの患部(中段)と、切断後の薬を塗った後の画像(下段)です。左端は水浸状症状が見られることから細菌性、中央は葉先枯れ病あるいは炭そ病、右は炭そ病(一度ダコニールを患部に塗ったものの効果がなかったもので、白い痕がダコニール)ではないかと思います。いずれも下図に示すような患部の切断と薬の塗布で進行は止まります。患部を切り取らないで薬だけを塗る方法では再発する可能性が非常に高いと思います。幹部は切り捨てることが最善です。

 また原液をペースト状にして塗ることはPaphでも趣味家の間でしばしば行われています。原液が良いのかどうかは分かりませんが、切り取った部位に塗る範囲であれば、筆者の経験には株が弱まったり、枯れるといった症状はありません。通常の防除では規定希釈の散布が必須です。すでに発症した場合の患部だけの塗布であれば問題がないということです。これで耐性菌が出来るといった(薬が効かなくなることや、温室での発症率が高くなるなど)状況もこれまで見ておりません。 


マイコシールド粉末をカップに入れる

ダコニール水和薬を加える

絵具筆で混ぜ合わせる

P. viridis水浸状(細菌性褐斑病)患部

Paph. rothschildianumの葉先枯れ病

P. violacea炭そ病

11月

 冬季でのもう一つの問題は、室内でのスチールラックや、温室で多段構造のベンチでの栽培をしていると、下の段に置いた株がより照明不足となることです。夏の間は太陽光が強く室内全体が比較的明るいため、あまり問題になりませんが、太陽が低くなり光度も弱まる冬季は、下段は一層暗くなり、ほとんどのランにとって輝度不足となります。一般的には下段には蛍光灯をそれぞれ取り付けて冬季の間だけでも夕方から夜間の一定時間点灯し、輝度不足を補うことが考えられます。しかしこれもまた段数が増えたりベンチ数が増えると電力が相当かかることになります。

 今月筆者は、中国産(国産に比べて安価なため)の蛍光灯形状タイプの白色LEDランプ(下写真)を複数取り付けることにしました。外見は蛍光灯と同じ形状で、大きさや明るさは1本40Wタイプと同じものです。LEDは直流のためACから直流に変換する2cmx15cmほどのトランスが付いています。LEDの消費電力は通常、蛍光灯に比べて1/2から1/3程度とされています。これをタイマーで夕方(4時頃)から5時間ほど点けています。

 下段に置くランはスペースの関係から葉高の低いものを置くことになってしまいますが、筆者の所では主にBulbophylumを置いています。周年薄暗い所に置かれ続けたこれらの株ですが、LEDを取付てから3週間経った今、新しい芽や勢いのようなものが感じられます。2-3ヶ月すればその効果もはっきりすると思います。


 とうとう会津では1日の最低温度が0Cとなってしまいました。毎年11月末から来年3月までの4ヶ月間は初心者にとって栽培の正念場のような期間です。無論、これはこの期間での気温と湿度の問題によるものですが、ランの栽培が難しいという一般的な考えは、地生植物と同じ感覚で灌水をしすぎて根を腐敗させ枯らしてしまうこともあります.。主には冬が越せないことにあると思います。

 胡蝶蘭の場合、20C以下(P. amabilisなど比較的寒さに強い種で18C以下)では栄養の摂取が止まり、水分の吸収も弱くなります。よって温室にて昼は25C前後、夜は18C前後となる場合は通年の施肥が有効ですが、深夜から朝にかけて暖房を止める一般の室内でこの環境を得るのは困難です。人が深夜近くまで暖房している居間で栽培している場合であっても、25C程度の室温が長く保たれる反面、就寝時には暖房を止めるため、夜明け前には10C以下となります。関東以北では室内であってもも5Cほどとなります。

 胡蝶蘭は15C以下での栽培は、例えそれが数時間であっても毎日の繰り返しでは一部の種(雲南省などを生息域とする)を除いて栽培はまず出来ません。その他の熱帯性ランにおいても10C以下は困難です。さらに1日の温度差も重要で、低温域で昼夜の温度差が10C以上あることも大きな問題です。特に問題なのは、夜が寒いので、昼間はしっかり温めようと、ガラス越しに直接、太陽光下に置いて葉面温度を25C以上にすることです。このような環境では15C以上の昼夜の温度差が生じ、間違いなく春までには枯れてしまうことになります。一方、冬季は灌水は少なくても良いといっても灌水した2-3日は根が水浸し状態であり、この状態で10C前後は根を腐敗させます。

 これを避けるには、栽培のページに記載したように就寝時にはエアコンを切らないで15Cに設定しておくことで、電気代を極力下げると共に最低温度を保つことです。この環境が設定できれば残る問題は湿度であり、可能であれば加湿器で60%を確保できれば冬を越すことができます。インフルエンザの予防にもなります。湿度80%以上が理想ですが、一般室内で70%以上にすると室内の冷えた壁に水滴がつきカビだらけとなってしまいます。

 問題となるのは電気代で、2-3本のランのために4-5ヶ月間もエアコンを点けっぱなしはできないということではないかと思います。部屋が南側にあれば昼間はほとんど15C以上となるでしょうから、就寝時から翌日の起床後までの間は、それほど電力はかからないと思います。私は計算したことはありませんが、読者でこのような設定の経験がありましたらコスト情報を頂きたいと思います。


 今月に入り気温が昼間15C、夜7Cとなる会津では、P. amabilis, P. schilleriana, P. aphrodite, P. stuartianaが花茎を伸ばし始めました。東京では今月末からと思います。筆者の温室も冬支度に入り、サニーコートで隙間なく室内空間を包みました。温室では最低温度を17Cに設定しています。

 

 LCC(Low Cost Carrier)と羽田国際空港が話題になっていますが、マレーシア、フィリピンなどへ2-3万円の航空運賃で往復できる日も間もないようです。この東京-大阪間の交通費と変わらない状況の中にあっては、贈答用胡蝶蘭は別として、趣味家を対象とするランの国内のビジネスは、今後極めて難しくなっていくのではないでしょうか。

 年収が15万円にも届かない作業員を動員し、光熱費がほとんどかからない東南アジアの国では自国のランだけでなく、下の写真に示すように数えきれない程の遥か彼方まで大規模にカトレア(左および中央)を栽培し、また1ヘクタールの大半がバンダ系(右)という農園も相当数あり、それぞれが1本千円以下という価格で販売されています。

 

 品質の点で、まだ日本国内の生産技術とは差があったり、変種や改良種を中心とする台湾などと比較すると、まだまだ十分に差別化が保たれると思われがちですが、これは時間の問題で、培養技術が先進国の特定の人たちだけの技術であった時代は終わり、今や東南アジアのラン園でも、この技術がこれからの唯一の園芸産業の活路と考え、盛んに取り組み始めています。おそらくフィリピンにおいても中規模から大規模農園では自身でクローン増殖生産を行う動きがあり今後3-4年間でほぼ確立するものと考えられます。

 このように人工培養した植物であればCITES申請は不要(あるいは認可が容易)であり、低価格化が進むにつれラン販売の中心は園芸店からホームセンターに代わるでしょうし、また1本1000円程度のランが単品であっても海外から個人向けに輸出(現在はEMS国際宅急便費用が3,000円程度)が可能になる手段すらやがて見つかるものと思われます。いずれにせよ国内のラン園や園芸店にとっては新しいビジネスモデルを考える必要がありそうです。

 一方で多くの趣味家にとっては、直接海外にランを買い付けに行く日もそれほど遠い先ではないような気がします。上の写真で見られるように、膨大な数の、例えばカトレアが一斉に開花する時期に訪問すれば、その中で数株は必ず入賞レベルの特徴を持つものがある筈で、それが千円以下で購入できる、そのような楽しみも期待されます。

 

10月

P. fasciataP. reichenbachianaについて

 P. fasicataP. reichenbachianaの相違については本サイトの「類似種とグループ」のページに取り上げています。この2種はP. fasciataP. kunstleriと同様に区別が難しい胡蝶蘭です。 P. fasicataP. reichenbachianaの違いについてP. reichenbachianaは、

  1. 花被片形状が幅広(P. fasciataは細長)
  2. リップ形状が鉾形か幅広また外周先端部に凹凸がない(P. fasciataは長楕円)
  3. 2分岐歯状突起のCentralカルスがあって、カルスは3組(部位)からなる(P. fasciataは2組)

とされており、またP. reichenbachianaはMindanao島のみに生息すると言われます。下図のそれぞれの花は上記の種別要素が明確でないフォームを示します。上段の花のリップ形状(左)はP. reichenbachianaの特徴を持ち幅広で楔形ですが、カルス形状はanterior(前方)カルスが2分岐突起である一方、posterior(後方)カルスは多数の短いあるいは腺状の突起の固まりになっており、2組(anteriorとposterior)構成と見なすことができます。またペタルやセパルは細くP. fasciataの特徴をもっています。産地はLuzon島です。よってLuzon島にはP. reichenbachianaが生息しないとすると、上段の花はP. fasciataと見なされます。

 次に中段の写真ですが、左には2つの花被片を比較した写真を示します。写真の左が上段の花を正面から撮ったものでペタル、セパルの幅は細長く、一方、右の花のペタル、セパルは共に幅広くP. reichenbachianaの特徴をもっています。この幅広の花のカルスを右写真に示しますが、これを見ると、anteriorカルスは2分岐突起ですが、やはりこれもP. fasciataのようにposteriorカルスは多数の一塊りの腺状突起となっています。但しその塊の一番下の部分に未発達な2分岐突起が見えます。これが塊りとは独立したcentralカルスとして考えるべきかどうかは難しいところです。この株はMindanao産です。

 さらに下段の花はペタル、セパルは上記の2種類の花の中間幅程度となっていますが、そのカルス形状(右)を見るとanteriorとposteriorカルスの間に明確に飛び出た2分岐突起のcentralカルスが見られ3組構成のようです。これもMindanao産です。

 以上のことから、前記したP. reichenbachianaの形状からの定義は如何に曖昧かが推測できます。すなわちLuzon島産の上段の花はP. fasciataという結果になる反面、P. reichenbachianaの特徴である楔形のリップ形状をもっています。また中段の花で、ペタル、セパルが幅広のP. reichenbachianaとする株のカルスはP. reichenbachianaの特徴でもある3組のカルス(anterior, central, posterior)からなるとは言い難い形状です。一方、下段の花はペタル、セパルからはいずれの種とするか判断が困難ですが、カルスは3組構成の形状からなっています。

 DNA分析などを行えばその違い(種)が判明するものと思いますが、これら形状を見ていると、DNA分析で違いが出たとしてもP. amabilisの地域差によるDNAの違いのように、筆者ははたしてP. fasciataP. reichenbachianaは別種なのかという疑問が湧いてきており、P. amabilisと同様に地域差あるいはSubspeciesのレベルではないかとも考えてしまいます。フィリピンの主要なラン園ではMindanao島を含め、P. fasciataP. reichenbachianaを区別して販売しているところはありません。

P. x intermediaについて

 P. x intermediaは2009年度10月の歳月記にも取り上げました。AparriからMindanao島に至るフィリピンに広く分布しており、自然交配種としては独立種と変わらない安定した自家交配力もあります。下記に各生息地のP. x intermediaを示します。写真以外にAparri産を入手しているのですが、他とは異なる花柄と言われています。高芽として入手したため、現在株がNBSで来年には開花が見られると思います、開花次第このページで取り上げます。


Leyte

Leyte

Panay

Luzon

Mindanao

Mindanao

 

9月

成長期

 これまでの猛暑が終わり、ホッとしているところですが、会津では木・金(16,17日)曜日には日中でも20Cを下回る10月中・下旬の気温となり、一体今年の冬はどうなるのか心配です。9月から10月は初春と同様に胡蝶蘭の最も成長の著しい時期であり、これは洋蘭全体に共通しているように思われます。つまりこの時期に根や葉の伸張が活発になることが必要で、この機会を逃すと翌年は元気な状態が期待できません。

 胡蝶蘭が最も活発に成長する条件は、アマビリスを親とする改良種に関しての研究があり、日中30C、夜間20Cが良く、その温度で昼間に光合成(30C)が、また夜間はCAM植物としてのCO2の吸収(20C)がピークとなるとされています。夜間の高湿度も必要です。この状態がエアコン無しに確保できるのは初春と今の時期だけであり、このため筆者は植物で密集していることから温室内に「寝太郎」という商品名のCO2発生剤を吊るしCO2の供給も行っています。これは一般にイチゴハウスに使用されているものです。また灌水は3-4時頃行い、6時には温室を閉めるため、葉に付いた水滴はほとんどが翌朝窓を開けるまで残っています。90%以上の湿度となっています。

 一般的にこのような湿度を低温で続けると褐斑細菌病の危険性が高くなり、3週間に一度程度の細菌性防除剤の散布が必要になります。しかし目視ではっきりと分かるほどに根や葉の成長は著しく、どちらを取るか判断の難しいところです。10月中旬以降は会津では日中の気温が25C以下に下がるため、午前中から正午の灌水に切り替え、夜間の湿度を80%程度に抑えます。

 温室栽培でなく室内栽培の場合で湿度を高めることはワーディアンケースあるいは室内用小型ビニールハウスなくして難しく、素焼き鉢とミズゴケの栽培においては、如何にミズゴケに適度な湿り気を与えるかが課題となります。室内の温度、湿度、通風などの状況で全く乾燥の度合いは異なるため、決まった推奨法がありません。ミズゴケを押した時、しっとり感がある状態をどれほど長く保てるかとしか表現ができません。濡れすぎず、乾きすぎずということですが、こんな素材(多孔質で保水力が高く、蒸散速度が遅い)があれば良いのですが。素焼き鉢に80%のヘゴチップと20%のミズゴケのミックスで、素焼き鉢表面が乾燥色になったところで(室内ならば2-3日に一度?)水が流れる程度に灌水するという方法は万能で安全かもしれません。

 今月はP. bellina, P. violacea, P. equestrisが最盛期を迎えています。パフィオではPaph. sanderianumが開花し始めていますが、春先の開花に比べてこの時期のペタルの伸張は短い(40cm前後)ものばかりです。特に今年は猛暑のせいか顕著です。

8月

フラスコ苗

 3月から時間のある日を選んでフラスコ苗の植え付けを行っていますが、今回はそれらの苗の映像をとりあげてみました。これらは会員の方に分譲予定のものですが、譲渡できるのは来年春から夏にかけてとなる予定です。大半は現在ヘゴチップとそれに僅かな(2割以下)のミズゴケを混ぜたコンポストでプラスチック鉢に植えつけています。1年後にはそれぞれの種に適したコンポストに植え替えとなります。いずれもこの組み合わせで、フラスコ出し苗は順調に成長しています。フラスコから取り出す際、培地を洗い流したのち、現在タチガレンエースとバリダシンの規定希釈の混合液に苗を数分(4-5分)浸けてから植え付けます。できればコンポストも同じ液に浸したものを使用するのが良いと思います。

 これまで会員に分譲したフラスコ苗は、P. appendiculata, P. inscriptiosinensis, P. maculata, P. lueddemanniana red, P. floresensis, P. stuartiana f. noblis, P. lindenii, P. javanica, P. tetraspis, P. deliciosa, P. violacea mantawai, P. violacea coeruleaなどです。下の苗写真は現在栽培中のフラスコ出し苗です。写真のなかでP. giganteaが成長が緩やかでなかなか大きくなりません。 Paph. hangianumは雲南省産パフィオですが、200本ほどあり、その一部です。フラスコから取り出してそのままヘゴ棒に付けたものは写真に示すそれぞれの種ですが、これらはヘゴ板や棒が良く、他のコンポストは成長が芳しくありません。写真にはありませんが現在大量(200本以上)にPaph. rothschildianumPaph. micranthum v. eburneumを培養中です。

 写真の最下段から2つ目のParaphal. serpentilinguaは絶滅の可能性が高く現在高価になっていることを聞き、自家交配して苗を得たものです。成長すると葉は棒状となり4-5本が1m近く長く伸びていきます。何百苗と採れるのですが栽培場所がないため10本だけフラスコから取り出しヘゴ板につけ、残りは捨てました。

Paraphal. serpentilingua (写真苗の親株)

 Grammatophyllum multiflorum variegatedは斑入りの珍しいGrammatophyllumでDavaoの蘭園から入手したものです。写真に見られるように花が付くようなので上手くいくかどうか分かりませんが交配を試みる予定です。

 最下段のP. speciosa (seed)は58種のページの本種を飾る株のさく果です。今年は自家交配が成功するかどうか再度試したものです。今年も無胚であれば、最後の手段で花茎培養を行おうと考えています。

 P. lindeniiは6月末のフィリピン訪問で購入したもので順化中です。この種は順化に弱く、これまで何度も失敗してきました。今回は10本中1本を除き乗り越えられそうです。順化に弱い原因は蘭園での栽培にも一因があるようで、その段階で病原菌(細菌性や疫病)を持ちこむのではないかと疑っています。購入ルートを変えるとしばしば上手くいくケースがあります。


フラスコ取り出し苗

P. sumatrana red

P. cornu-cervi red

P. cochlearis

P. amabilis molucca


P. gigantea f. aurea


P. lowii

P. parishii

P. micholitzii

P. pulchra f. alba

Paph. hangianum

P. modesta

P. lamelligera

P. sumatrana palawan

P. wilsonii

P. kunstleri

P. venosa

P. amboinensis flava

P. deliciosa Thailand

Paraphal. serpentilingua

Grammatophyllum multiflorum variegated

P. speciosa (seed)

P. lindenii

 

HOME