胡蝶蘭原種を中心に月毎の出来事を記載したページです。2009年8月から掲載しています。

11-12月

施肥について:

 これまで5年以上胡蝶蘭に限らず、すべての蘭に対しフジ園芸の液肥とバイタリックVを規定希釈で春から夏は潅水3-4回に1回、晩秋から2月初旬頃までは主に活性剤を月に1-2回程度与えてきました。最近では温室が込み入って通風の悪い場所が増え、古い葉に緑色の苔が付くようになり、水を十分に含ませた柔らかいスポンジでこれらの苔をふき取る作業がかなり大変となっています。

 液肥を多めに与えると、特に胡蝶蘭の栽培環境は高温高湿のため苔の付着が甚だしく、鉢数が多いと手に負えなくなります。苔が葉全体を覆い尽くせばやがて葉が弱まり(しな垂れ皺が発生)、株全体を衰弱させてしまいます。この結果、最近はグリーンキングやバッドマグノなど固形肥料を与える機会が増え、液肥は月に1回ほどとなってしまいました。

 冬季であっても室内最低温度を18Cに保っている場合は、一般の栽培マニアルにあるように冬は肥料を与えないとする栽培法と異なり、春から初秋の半分あるいは1/3の頻度で液肥か置き肥を与え続けています。このため冬季の体力消耗による春先からの作落ちのような症状はこれまでに無く、毎年1月末頃の早い時期から新しい芽が多くの種で出始めています。

 室内温度が15C以下では施肥は基本的にできません。胡蝶蘭は15C近辺で成長が止まるため施肥を行っても意味が無く、逆に肥料を与えることで根が傷むことになります。胡蝶蘭にとって15Cが、一部のチベットや中国の高山に生息する種を除いて、最低生存温度であり、これ以下ではダメージが大きく、春になっても衰弱から回復する力も無く萎れ落ちてしまいます。この点は、高温タイプを除き最低10Cまで耐えられるカトレアやデンドロとは異なります。

 栽培マニアルには冬季は肥料を与えない、潅水も控えシリンジ(霧吹き)程度とすると書かれています。問題は日本の一般室内環境にあっては、その加減具合が非常に難しいことです。昼夜の温度に大きな変化が無ければ良いのですが10C以上の温度差が生じれば、かなりのベテランであっても難しい管理となります。最低温度を10Cにしても日中温度が25Cに上昇したりしなかったりではむしろ株の衰弱は激しくなります。15C以上に保温出来ない場合は、すっぽりと断熱材で鉢を含めた全体を覆い部屋の片隅に置き時折シリンジを行うのが最善です。2-3ヶ月の暗さは成長が止まることにはなりますが、低温での温度差が原因で枯れることはありません。

 今年フィリピンやマレーシアの農園を訪れた際、必ず園主から言われたのは原種に与える肥料は有機肥料を使うべきというアドバイスでした。ゆっくりではあるが健康に育つと言うことでしょうか。多くの現地ラン園や趣味家の方々は網状パックに大小の違いはありましたが粒状の固形肥料を入れて使用していました。フィリピンの大農園では肥料が栽培コストで一番高く困るとも話していました。原種に化学肥料は強すぎるようです。そうであれば規定の50%程度あるいはそれ以下に希釈して与えることで良いのではないかと思います。いずれにしても薄い肥料をコンスタントにあたえることがベストのようです。すなわち規定希釈を3回の潅水に1回与えるよりは、規定の1/3の希釈を毎回与える方が好ましいとのことです。

 友人が、パフィオに対して農業用水耕栽培で現在開発中のバクテリア水を使用した腰水栽培を今年夏から実験しており、かなり好結果が出ているそうです。胡蝶蘭はパフィオのような地生ランではなく気根植物のため根を水に浸したままの栽培は無理と思いますが、もしパフィオでこれが成功すれば野菜のように量産が可能かとも考えてしまいます。

 20年ほど前、熱帯魚のディスカスブリーダーとして当時世界的に知られたローエンヤット氏を香港に訪ねたとき、濾過経路の至る所に大型の水中殺菌灯が置かれており、まさに無菌状態に近い量産養殖が行われていました。ランのような稀少種もやがて、病気を避けるためにこのような過保護な環境で育種され、それらが市場に出てくるのかとも想像します。ディスカスがそうであったように、こうして育てられた生き物は、無菌環境から放たれ趣味家の一般的な環境に移動した途端、その多くがやがて病気でなくなってしまいディスカスは難しいと言う説が流布しました。

 ランも一面で同じような経路を辿る恐れも感じますが、原種特に自然淘汰された野生株は交配種と比べて非常に強健であり、特に自家・他家とも交配するとその違いが明らかとなります。ラン栽培においてもこのような原種としての資質を大切にしていきたいと考えています。


 今年も残りわずかになりました。これまで5年間、海外ではフィリピンを主に訪問してきましたが、今年はマレーシアにも訪問ルートを開拓しました。主にクアラルンプールが中心ですが、来年からはボルネオやペナン島方面にも拡大する予定です。また新たにインドネシアも来年の課題です。来年春には転居と新たな温室を設けるため、胡蝶蘭だけでなく、カトレアを始めとするその他のランも3-4年かけて順次サイトを増やしていきたいと考えています。またたびたび本サイトで述べているように今年は来年から予定の現地農園とを結ぶオンライン販売の準備を進めており多忙となっています。

 ここ2-3年の海外のラン原種マーケットは世界経済の影響もあって縮小傾向にあり、フィリピン、マレーシアともに展示会の規模は年々小さくなっています。特にこれまで原種を主に扱う農園は自国内向けの交配種に移行しつつあり、原種専門農園は少なくなっています。

 一方、原種愛好家にとっては、これをチャンスと捉え入手困難な品種を安価に得るには良い時期でもあります。その例として今年入手したPhal. gigantea albavenosa albaがあります。これらは今だ開花映像が未発表(phal. gigantea f. flavaはあります)のものです。おそらく5-10年前であれば数百万円したかも知れません。数十分の一で購入できました。また9月の歳月記に載せた大株もそうです。市場が活況であれば、それぞれ1株づつに切り離して販売する方が優先されます。現地農園や展示会をサーベイしていますと、不景気な状況下でのラン原種の価格は必然的に農園毎に変化が大きく、「買い手を見て価格をつける」傾向があり、日本人が苦手とする価格交渉が一般的となっています。価格交渉のやり取りができる環境をプラスと見るか、高い価格で買ってしまうのでないかと心配するマイナスと取るかは、それぞれ人様々と思います。しかしこのような取引こそが本来、生き物を対象とするビジネスなのかもしれません。

 今年を振り返って気づいたことに、これまで普通であった品種が市場では改良あるいは異種間交配種に占められ、原種が逆に入手難になったものがあることです。Phal. violaceaがその代表で、なかでも変種であるmentawaiは全く見かけません。Phal. bellinaもまた改良種は所狭しと並べられていましたが、野生栽培株あるいはその自家交配種は現地ラン園においてさえ見つけることが困難で、これらは現地の趣味家から入手する以外ない状況でした。

 今年は、暮れから来年にかけて休暇日が長く、海外に出かける方も多いと思います。現地で植物を購入する場合、ランのようにCITES対称種は直接持ち帰りができません。CITES品の輸出許可は経験のあるラン園からの申請で最短で3日、通常2週間を必要とします。唯一の例外は国際蘭展で購入する場合です。この場合は当日でも書類を発行してもらうことができます。

 CITES対称種以外でも山採り株である場合は許可がないと輸出できない国があります。また植物検疫許可にはおよそ1日の余裕が必要です。

 しかしせっかくの機会であり、現地で見て購入したい場合は、旅行前に海外取引実績のある農園(例えば http://www.orchidmall.com/plants.htm にある農園)と連絡をとり、購入した植物をその農園に一時預け、CITES申請等とEMS(Express Mail Service)を委託して帰国後に搬送して貰うことが最も確かであり、また法的にも必要になります。


 

10月

 会津若松では最低温度が4Cとなり、まもなく霜情報が出る時期となりました。11月に入ると晴日はぐっと減り、如何に温室を明るくするかが毎年の課題です。今月はPhal. hieroglyphicaPhal. fasciataの開花最盛期となっており、一方でphal. bellinaも良く咲いています。

 昨日、Dendrobiumを1,500株ほど栽培している友人の温室を訪問しました。そこで日本ミツバチがDen. albertesiiで受粉をしている光景を見たので写真を撮りました。この日本ミツバチとインドネシア生息のデンドロビウムの組み合わせが驚きで、Den. albertesiiは比較的強い匂いがあり、確かに果物のような匂いと言えばそうかも知れません。Dendrobiumはspurと言われる後部に突出した袋があり、ここに蜜を貯めると言われていますので蜂はこれが目的と思われます。

 下に写真を掲載します。写真は左から右の順序で時間が経過しています。蜂の頭部寄りの背に黄色い花粉痕がついているのが分かります。 


Den. albertesiiのspurに頭を入れている

抜け出す。小さな黄色の花粉魂が背に付着

次の花を目指して飛び立つところ

次の花へ移動

再びspurに蜜を求めて

受粉失敗。代わりにさらに花粉魂を2組付着

周りのDendroを眺めたところ数点のさく果が見られた。日本ミツバチはこの花の常連のようである。
   

 胡蝶蘭の受粉風景でないのが残念ですが、今だ胡蝶蘭については何を目的に昆虫(おそらく蜂やアブ)がやってくるのかを研究した文献等が見当たりません。まず胡蝶蘭には食用としての粉のような花粉はなく、硬い花粉魂ですので花粉を求めて訪れるとは思えません。

 匂いはあるものとないものがあり、匂いが胡蝶蘭全体の共通した誘引物質なのかどうかも疑問です。Paphiopedilumは匂いと形状だそうです。色はこれだけ多種多様であると他の花と区別をする目的であっても、give and takeの要素ではなさそうです。蜜の可能性も低く、残るのは擬態とホルモンですが、擬態はPhal. appendiculataのようにリップが風で前後に揺れる品種はそれも有りかなと思われますが、こちらも全体で見れば形状はかなり異なり決定的とは言い難く、特殊な物質、すなわちリップのカルス辺りにその分泌物があり、これを前足で引っ掻いてオスが足の袋に取り込み、それに唾液に混ぜることでメスを誘引するフェロモンを生成すると言う仕組みです。しかし一部の南米のランでその驚くべき生体が発見されているものの胡蝶蘭でどうかと言えば、これも研究が見当たりません。今後の研究に期待したいと思います。


9月 

 前節で取り上げたマレーシア入手株の内、一部を下写真に示します。


Phal. bellina f. coerulea

青いPhal. bellinaは今日多数見られますが、丸みのある白色ベースの花被片のセルレアは希少です。


Phal. amboinensis

写真では分かりませんが一般的な本種サイズの約2倍の大きさの白色ベースの入賞花です。


Phal. hieroglyphica f. alba

フィリピンで探していても得られなかった本種がマレーシアで栽培されていました。これは実生です。


Phal. cornu-cervi dark solid red

海外サイトで時折見かけるソリッドレッドです。マレーシア農園に多数ありました。


Phal. violacea mutation

Mutationとは突然変異による奇形を意味します。カトレアやラリアでは時折見られます。


Green snake

セレンバンの栽培家の家の庭にいたグリーンスネーク。角ばった顎から猛毒のある方では?




 今月は1週目と3週目にそれぞれフィリピンとマレーシアに再訪問しました。フィリピンでは来年から始める予定の、ラン情報オンライン化のための準備が目的であり、フィリピンでも最も大きな農園にカメラとネットワークを設け、さらにその担当者を雇用するためです。幸いにして植物の専門的な知識をもつ人材を雇用することができました。これら情報の開示は試験的に11月頃から会員サイトで、また一般は来年4月から新たなページを設け始める予定です。ジャンルは胡蝶蘭だけでなく他のラン属、さらにシダ類も掲載する予定で、ここから掲載写真のランをオンラインで購入することもできるシステムを目指しています。また担当者がしばしば植物調査のためJungleに出かけるとのことで、Jungleの環境写真も掲載します。

 一方、マレーシアは前回CITES未申請であったラン購入のため、クアラルンプール周辺と、その南へ1.5時間程のセレンバンの主な農園を周りました。ここで得た新たな胡蝶蘭は以下となります。

1. Phal. gigantea f. alba
2. Phal. venosa f. alba
3. Phal. bellina f. coerulea (rounded sepals and petal)
4. Phal. cornu-cervi solid dark red
5. Phal. amboinensis 4N (normal type)
6. Phal. gigantea f. aurea
7. Phal. bellina mutation

 上記で特出すべき変種は1および2で、恐らく本種が世界で初めてか、数本しかないのではないかと思われます。また上記でPhal. bellina coeruleaは歳月記ページの表紙となっているようなブルーの濃いformです。表紙の株はSian Lim氏から購入したものです。今回の株は彼にこの株を販売したという農園主から、not for saleと長年なっていた本種を購入したものです。改良種Ponkanのように丸みのある白色のセパルとペタルに広くブルーが乗っており、セルレアタイプとしてはこれまで長年扱った中で最も良いと話していました。また、別の農園で入手したPhal. amobinensis 4Nは通常の倍ほどの大きさの花被片をもちクアラルンプールで賞もとっているそうです。

 これらは偶然に現地で見つけたものではなく、予め変種(希少formやmutationを含め)を探してもらうように数か月前から依頼していたものです。現地とは言え、このような変種を偶然に得ることは不可能です。さらなる変種を求めて年末に再び出かける予定ですがその折にはどのようなタイプが集まるか楽しみです。

フィリピン訪問

大株について

 来年春からの本格的なオンラインサイトの立ち上げと大量購入に向けて、IT環境設置の準備とサプライチェーン候補となるラン園を見つけること、同時にPOS (the Philippines Orchids Society)主催の夏季展示会が開かれており、この見学を兼ねて訪問しました。今年2月に開かれた3年毎のラン展示会もそうでしたが、世界経済の影響で展示会の規模が毎年小さくなっていくようでランの出品が減り観葉植物が主体になっていることをさびしく感じました。

 今回のラン園訪問では3つの課題を予めラン園に打診していました。一つはITシステム設置準備のための人材募集と管理の打ち合わせ、2つ目は趣味家に立ち返り、胡蝶蘭原種の可能な限り大株を探してもらうこと、3つ目はVanda Javieraeおよびダバオ祭でのVanda sanderianaの入賞花を入手することでした。sanderianaの入賞花にこだわる理由はマザープラント(Seedlingを得るための元親)とするためです。

 可能な限り大株を依頼していたのは、ラン園が入手する最初の元株は多数のクラスター状から成る大株であっても、販売するために一株ずつ分離してしまうのが一般的で、せっかく10年やそれ以上かけて大きく育った株を小さくしてしまうことは観賞的価値から見ればもったいないとの考えからです。2年越しの依頼でしたが、今回Phal. lueddemannianaの大株が入手できたとの連絡で毎回訪れるラン園の一つに伺いました。

 これが下の写真です。人と共に写すことで株の大きさが分かると思います。写真の株で1株(親株が1つで他は子株)であると最初聞いたときは驚きましたが、高芽から高芽へと続く繁殖で、まるでバイナリーツリーのような茎のネットワークで繋がっています。正確に数えてはいませんが120株程あります。入国審査用PakageリストやInvoiceには1株(クラスタ株)として記載しましたので、検査員からこれで1株ですかと質問されました。このような大株は小規模ラン園でPhal. schillerianaなどamabilis系のなかで時折見かけることがあります。200輪以上の花を東京ドーム蘭展開催期日に合わせ同時に咲かせ、出品すれば注目を浴びるかも知れません。

 多くの方はこのような大株は非常に高価なのではと思われるかも知れません。例えば1株当たり1,000円相当として1,000円 x 120本で12万円、それに大株であることの付加価値が付くものとしてそれ以上の価格という算定です。しかし実際には下写真の株は10,000ペソでした。つまり2万円弱です。よって1本あたりに換算すれば160円程度となります。Phal. lueddemannianaの日本での相場価格がおよそ2,000円前後と考えると国内の株単価計算で1/12となります。花は赤みが強くて綺麗であるとの園主の言葉を信じれば、1本当たりの価格はさらに高くなり1/20以下かも知れません。現地ラン園にとっては1株づつ切り離して販売した方が高い利益が得られると思います。

 これ以外にPhal. hieroglyphicaの大株もありましたが、状態が良くなかったので次の訪問までに良くなれば購入することにしました。Phal. lueddemannianaは1株で2-3本の花茎を発生し、それぞれに3-4輪ほどの花をつけるため、上記写真の株で一斉に花が咲けば見事と思います。

 Vanda

 フィリピンのVandaはVanda sanderianaがよく知られており、この花のための祭り(ワリンワリン祭)もミンダナオ島ダバオ市で毎年開かれるほどです。一方フィリピンの希少種としてはVanda luzonicaVanda javieraeですが、特に後者は入手難となっています。昨年と今年春続けて訪問する限りのどのラン園にもありませんでした。地元のラン園によれば生息地が急峻な崖のため採取が困難で、この結果栽培株も底をついた状態と思われました。また栽培方法が良く知られていないようで海外の購入者のなかで多くが枯れてしまったという話をよく聞くとも話していました。このVanda javieraeは1,000m程の高山性でありマニラやTagaytay周辺では高温すぎて枯れはしないが花が咲かないとのことです。

 一方、筆者の温室では良く育ち、毎年開花(今月の花1-3月)しています。日本での温度が夏季を除いて比較的低温であり、高山性の本種に合うと思われます。また水分を好む性質があり、乾燥を極端に嫌います。このため散水後の蒸散を遅らせるため寒冷紗の布を2重程度に根に巻いて覆っています。かと言って根をバークなどに植えつけてしまうと根腐れを起こします。前に取り上げたように本種の実生化に取り組んでおり、数年で確立したいと思っています。下の写真はVanda javieraeを集めてもらうように依頼した農園の150本以上ある本種です。集めてもらいたいとは言ったものの、数を言っていなかったため、これほど多くとは驚きでどうしたものかと悩みましたが、3月まで現地での栽培を依頼し、3月(筆者の温室が完成するため)に全本数を引き取ることにしました。

 一方、Vanda sanderianaはピンクとアルバタイプを3年程かけてすでに入手し、これらの実生化にも成功していますが、多様な変種があるはずで、ダバオ祭に合わせてダバオ市に出かけるマニラの園主に購入を依頼しました。今回はこのなかで2種類の下写真に示す色合いの本種を入手しました。写真の奥にボケて見えるのが一般的なピンク色のsanderianaです。これらはいずれも原種であり、Vandaで圧倒的に多い交配種ではありません。

 いずれも1-2年程で自家交配を行うためのマザープランとして購入するもので、計画通り行けば純正種として生息国に逆輸出出来るかも知れません。

マレーシア

 本ページの6月編で記載しましたが、原種の中で変種を得るには一つの農園では難しく、多数の農園を回らなければなりません。東南アジア全体として原産国で、その国の原種を販売するWebサイトをもつ農園は僅かであり、インターネットを通して多様な品種をその生息国から求めることはまず不可能と言ってよい状況です。この結果、多くの趣味家は、筆者も5年以上前までそうであったように、多数の品種を求めようとすれば、原種を輸入・培養して販売している台湾から購入しているのではないかと思います。

 現在筆者が台湾からの購入を止めたのは3年ほど育成し開花した花や、自家交配による実生の実態から、原種あるいは自家交配としながらもHybridであったことがしばしばあり、花柄や色程度の元親との違いであれば兎も角、異種が交じるという意図的なラベルミスは認めがたく、ラベル記載通りの交配管理を行っている農園もあるとは思いますが、全く信用できなくなったからです。これはタイも同じです。それ以来、原種は原種生息国からという方針をとっています。

 しかし危惧すべき問題は、Hybridであればやむを得ないのですが原種においても比較的大きなラン園においては台湾やタイからの逆輸入が今日行われており、生息国においてさえそのオリジナリティーはどこかと聞き正さなければならない状況にあります。このままでは生息国マーケットの価値が低下して行くことになりかねません。

 原種を取り巻くそうした状況の中で、その変種を見つけ出すにはどうすれば良いかはさらに難問です。筆者の場合、マレーシアにおいては海外の会員の紹介で1つのラン園(このラン園はサイトを持っていない)を訪ね、その園主から芋づる式に小規模農園や昔からの顧客である趣味家、さらにその趣味家の友人等々と輪を広げて行きました。

 現地の趣味家ですから、コレクターの習性として一般的な品種よりも変種を多くコレクションしており、まさに外部の人から見れば宝の山と言えます。しかしその多くはフラスコ培養などの機器や知識がないため増殖ができず、変種があっても1株限りというケースがほとんどでコレクションした株は販売対象にはなっていません。お金の力で買うことはできるかも知れませんが、この手法はいずれ人間関係を含めてやがて崩壊しますので異常に高ければ、たとえ欲しくとも買わないという方針を守る必要があるように考えます。

 こうした中で確率的によく成功するのは同じ趣味家である立場から栽培経験や興味のある品種などの話題や、これから何度もその国を訪れるつもりであること、相手がFacebookを使っているのであればFacebook仲間になるなどが有効であり、株の譲渡が無理ならば高芽やタネを取ってもらえるかの要求はできると思います。E-mailや携帯電話は必ず持っているのでこれらを聞くことは必須です。こうした話し合いをしていれば往々にしてこれならば譲っても良いという状況になります。このようにしてさらに次回訪問までに考えてもらうという段取りができれば、高芽や株分けによる分譲に成功すると思います。

 今回、ラン園とは言えないほどの小規模な庭に、多数のランやシダ類を栽培しているコレクター宅に伺いましたが、話が進むに従い、今日からあなたは私の友人だとなり、値段はあなたが決めてくれればよいとのことで閉口したことや、別の農園では日本市場の価格と維持費等や、それを販売するとして妥当な仕入れ価格を論理的に説明することで、20分程度の間に同じPhal. bellinaで3回も価格が上がったり下がったりとなるケースもありました。また初めて訪れた農園では今回購入する株数が少ないため、whole-sales(卸売価格での販売)はできないとの説明に,高額な航空運賃と滞在費を支払ってまでラン購入の目的のために海外から訪問している者が、将来の潜在的顧客になるかどうかを見極められないのならば買わないと背を向けた結果、価格をかなり安くしてもらったことなど、これらはいずれも園主との駆け引きですが、結構このような交渉自体それなりに楽しいものです。

 今回トップに挙げたような変種を入手しましたが、それ以外にも多くあります。中にはニューギニア産Phal. giganteaで花がaureaタイプとする株がありました。花は当人が確認し間違いはないのですが、果たしてPhal. giganteaがニューギニアに生息しているのかと言う首を傾げる説明があり、これも小規模ラン園ならではの良くある話です。またなぜフィリピン原産のしかもフィリピンではこれまで得られなかったPhal. hieroglyphicaのalbaがマレーシアにあるのか、おそらくタイなどで培養されたフラスコ苗とは思いますが、海外訪問での滑稽な出来事には事欠きません。これら購入したランは開花し次第、公表していく予定です。

ラン販売の国際的ビジネスモデルについて

 趣味家の視点に立って、今日あるラン農園や販売店のサイトを考えるとその内容や構成に不満な点が多くあります。例えば花あるいは株の写真がなく、品名と価格リストだけのもの、1年以上コンテンツが変わっていないページ、Sold outの多いリスト、何万本もある大農園であれば日々そのどれかが開花しているであろう貴重な花の映像がページに反映されていないこと、原種は生息地情報が重要であるにも拘らず明記されていないこと等、生花という生きた商品でありながら情報が静止画状態のサイトがほとんどです。

 特に原種愛好家としては、種の生態はその生息環境映像を含めて知りたい大切な情報であり、そうした情報を知ることで華やかなHybrid人工品種との差別化ができ、太古から受け継いた変わらない姿が魅力となります。

 一方、このような情報を趣味家に提供するには、Webページの絶え間ない更新と、Web言語を駆使した専門的なデザインの改良が必要であり、アウトソーシングとしてWeb専門家にページ管理を依頼するとなれば、コストの上昇となり、結果として商品に競合力のない価格を設定しなければならなくなります。

 ファッションの世界と異なり、ランのマーケットでは、その規模の大きさにも拘わらず前記したようにインターネット機能が十分生かされているとは言い難く、新たなビジネスモデルを考える必要があるとの思いを数年前から持ち始めました。花樹マーケットのITビジネスモデルを大学の研究課題とすることも園芸産業への国際的な影響・効果として魅力があり、現在大学院生とともに研究を進めているところです。このことが前記したフィリピンにおける機器搬入と人材雇用の背景にあります。これをマレーシアおよびインドネシアなど原産国に拡大する予定です。

 来年4月を目標に原種生息国農園とのインターネットサプライチェーンの準備に取り掛かっているため、それまでは2か月毎に海外に出かけるスケジュールとなっています。重労働は農園とのチェーン化交渉にあるのではなく、日本語と英語の2か国語のWebページ翻訳となりそうです。


8月

 順化について

 購入した株を新たな植え込み材と鉢に、あるいはヘゴ板やコルクに取付け自分の栽培環境に慣らせることを順化と言い、植え込んでから新しい芽や根が現れ、また病気の心配がなくなるまでの期間を順化期間と言います。

 プラスチックポット植えの株を購入する場合は植え替えのための取り外しに対して根や葉のダメージが少なく順化は容易で、順化期間も短く問題はほとんどありません。しかし山採り株や同等の環境で栽培された株は、支持体から根を相当切断しなければ取り外すことができず、残された根の量で順化難度は大きく変わります。購入する際、大株(葉が多く大きい)でありながら生きた根が数本しかないものと、中サイズでありながら多数の生きた根があるものとどちらを購入すべきかは明白で、半年後の株では間違いなく後者が大株になっています。株サイズの大小は健康度合を示すものと思い、より大きな株を通常は求めますが、根が十分にあっての大株であり、葉以上に根の健康状態のチェックが必要です。

 古い葉と古い根、新しい葉と新しい根とはそれぞれ生理的に対応しているか、根からの養分供給は新しい葉を優先するかのようです。ベアールートで購入した際の根の多くは、支持体から剥がす際の容易さから新しい1-2年間のものが主であり、この結果、順化期間中に根を失った古い葉が必ず1-2ヵ月程で黄変し落葉します。これは一般的なカビや細菌による病気ではなく、根が少なくなった株が葉への養分供給不足あるいは蒸散を抑える自己防衛の手段として落葉するものと考えられます。購入時、Phal. dowerynensisgiganteaなど50㎝程の葉をもつ大株であっても、8割ほどの根が切断された、短い根が3-4本程度しかない株の場合、恐らく5-6枚の葉数は、3ヶ月後には小さな葉が3枚ほど残すのみとなります。それであればまだしも、特にPhal. dowerynensisでは一般的に順化の成功率は6割以下(Phal. giganteaは7割以上)と言われます。すなわち順化期間中に新しい葉や根が現れても、切断された根や傷ついた葉などから病気が発生し順化に失敗することがしばしばです。この結果、現地価格がPhal. dowerynensisで$100であっても、現地以外の国で、根のある株での販売価格はその倍以上となってしまいます。おそらく現地ラン農園であっても順化成功率が5-6割とのことですから、利益も考えればもとの価格はその1/3以下と思われます。

 順化に特効薬のようなものはなく、通風、植え込み材、温度および湿度についてその原種に最適な条件下に3-4ヵ月置く以外ありません。唯一の可能性として植物ホルモンの一種であるベンジルアデニンを植え込み初期段階で散布する方法を試みていますが、それが効果的であるかどうかの科学的データがある訳ではありません。現在これでそれまでの5割以下の順化率が8割以上になりました。おそらくホルモン剤以上に順化ノウハウのような技術的向上が順化率を高めているとも考えられます。

 では順化に失敗した2割の原因は何かですが、例外なく、主茎が疫病あるいは褐斑細菌性の病気によるものです。いわゆる主茎の中心部が黒変し、葉が根元でポロッと取れてしまう症状で、その部位は黒く水浸状で腐ったようになっています。匂いはありませんので良く知られた軟腐病とは違うようです。

 以上から、順化を成功させる最も有効な方法は、健全な根が多いものを選び購入することです。葉が多少いたんでいたり、病痕があっても新しい根が出ており、生きた根が多いものを選ぶことが遥かに重要です。下の写真は右のPhal. fuscataを除いてPhal. doweryensisです。Phal. doweryensisは恐らく小さな葉を残して変色している大きな葉はすべて1ヵ月程度で枯れ落ちます。順化が成功しても、もとの写真のような大株になるには凡そ5年を必要とします。

 それでは最初から根の傷みの少ない鉢に植えられた実生を購入した方が得策ではないかと思います。まだ開花したことがないPhal. giganteadoweryensisなどの実生は、成長に長い時間がかかります。一方、一度写真のような大株となったものは大きな古い葉が落ちても新しい葉が伸長するのは実生と比べ倍ほど早く、いずれにしても元の葉の枚数にまで戻るには数年はかかるもののBSとなったときの大きさが、これまでの経験ではかなり違います。 

 下写真の左2枚は入荷し新しい支持体に取り付けた直後と、2ヶ月経った時点の写真を示したものです。最も新しい葉(先端が割れている葉)が2倍以上に伸長しています。しかし2枚の大きな古い葉に変色は全く見られません(右写真の葉の緑色がやや薄いのは周辺輝度によるものです)。これは上記のそれぞれの写真の株と異なり、健全な多くの根があったためです。

 また右2枚は6月の歳月記で取り上げた大きなPhal. giganteaですが1/3ほどの根が切り取られていました。この結果、株の左奥にある後方に湾曲した1枚は1ヶ月後に落葉して無く、次の古い葉が黄土色に変色しています。これも数日で落葉します。それでも2/3の根が残っていたことは稀であり、このため、この時点で他の葉に変色は見当たらず、落葉はなんとか古い葉の2枚程度に収まるものと思われます。最も新しい小さな葉は2ヵ月間で倍程度に伸長しています。2か月間でのこの長さと大きさは実生では考えられない成長速度です。

 2ヶ月後のそれぞれの株は、葉の伸長と共に新しい根が出ており主茎に病気が発生していないことを示しています。順化期間は病気感染がない限り3ヶ月程度となります。購入時どうしてもその株しか入手できない場合はやむを得ませんが、選択できる場合は根の健康状態から選ぶことが必要です。根と葉は密接な関係があり、それまで問題なく育ててきた株が最近元気がないとか、全体で4枚程度の葉しかないにもかかわらず下葉が変色し始めた、あるいは落ちたという場合は根が腐敗し始めている可能性が高く、枯れたあるいは腐敗した根を取り除き新しいコンポストへの交換が必要です。

植えつけ時
2ヶ月後
植えつけ時
2ヶ月後

 今月はフィリピンDavaoでKadayawan祭が開かれており、その期間の中でも12日から数日間はフィリピンの業者を含め各国の業者にとってもMindano栽培品種を仕入れる重要な時期となっています。現地業者から誘いがあったのですがCITES申請から認可期間までのスケジュールが厳しく、今回はKadayawan祭は見送り、購入希望のランの入手を依頼しました。フィリピンにはCITES認可を得る今月末に訪問します。

 Mindanao産固有種だけでなく、ここには胡蝶蘭、例えばPhal. lueddemannianaでは、Luzon島産に比べて花被片の色合いが濃い品種が多く人気があります。またPhal. equestris Mindanaoは色とりどりの台湾改良種と違って飾りのない、原種本来の気品があり本サイトの会員の方からの入手希望が最も多い種の一つです。しかし、Mindanao島は政情不安の問題があって野生種の採取は難しく、その影響から栽培種を含めて胡蝶蘭原種の入手は非常に困難です。そのため今回現地の方に可能な限りまとめて入手して頂くよう依頼をしたところです。


Phal. bellina albaPhal. violacea alba 追記

 6月のマレーシア訪問で入手したPhal. bellina albaのHybridとされる(ラン園オーナーの説明)株と、原種の自家交配とされる株(確認済)、さらにこれまで栽培していた株がここ2か月の間に相当数開花したため、色々とその違いを検証しました。その結果として、視覚的な視点からでは両者の判別は不可能との結論に至りました。主な理由はPhal. violaceaPhal. bellinaのalba交雑が最早一般化しているためです。このことから形状がPhal. bellinaと思われる株であってもPhal. violaceaとの交雑種がマーケットでは殆どではないかと思われます。

 それでは純正な両者を得るにはJungle Plant以外不可能かと言えばそうでもありません。唯一の違いは視覚的な特徴ではなく匂いにあります。Phal. bellina、violaceaはいずれも胡蝶蘭のなかで最も強iい比較的良い香りをもっており、この香りのために胡蝶蘭の愛好家になった人もいるのではと思います。E.A. Christensonは両者の違いは前月記載した形状の違いと共に、その匂いを定義し、Phal. violaceaではスパイシー(elemicyne 55% 、alcohol cinnamylic 27%)な香りなのに対しPhal. bellinaはレモン(geraniol 64%、 linaloo 36%)の香りをもつとしています。

 趣味家としては成分を分析器で調べるわけにはいかないので自分の鼻に頼るしかありません。Hybiridでは必ずと言っていいほどP. violaceaのスパイシーな香りが含まれます。どうもこの成分はPhal. bellinaの成分に比べより強いように感じます。一方、純正Phal. bellinaviolaceaの強いスパイシーな香りはなく、やや弱い中にレモンの香りが残ります。この違いはかなり明瞭で、2つを相互に比べると容易に分かります。逆に両方の香りがするとか、良くわからない場合はHybridと見なしてほぼ間違いないと思われます。Phal. bellina でponkanと呼ばれる選別種は比較的強い香りがしますが、albaはどれもこれほど強くはありません。極めてアナログ的な判別法ですが出所が明らかな苗以外は一般の趣味家にとってはこのような判断しかないようです。

 Phal. violaceabellinaに限らず、胡蝶蘭の中には同種の中にも匂いが異なるものが多数(aphllae亜属、lueddemanniana系、cornu-cervi系など)あります。匂いが異なるということは当然花粉媒介者(昆虫)が違う可能性が高く、地域や開花時期が異なっている、あるいは変種や別種の可能性を意味します。匂い成分をベースに学術的分類を行う研究者が出てこないかと期待しています。植物学の分野で研究課題に困っている院生の人がいましたら、この匂い分析による分類研究で修論や博士論文を狙ってはどうでしょうか?10年程かけて集めた原種を研究試料として提供できるかも知れません。

7月

Phal. bellina albaPhal. violacea albaについて

 今年は梅雨入りから雨が少なく、このまま明けてしまうのではと思っていたところ、7月に入り打って変わって豪雨に見舞われ、ここ会津では連日磐越西線の会津・郡山間の運休が続いています。 これほどひどい雨では、温室の外で植え替えなどの作業もできず、来年から掲載予定の多花系パフィオやBulbophyllumなどを勉強中です。

 類似種や同定の問題は本サイトでしばしば取り上げていますが、先月のマレーシア訪問でPhal. bellina albaの原種としての信憑性について頭を悩ます問題が生じました。Phal. bellinaPhal. violaceaは近年、E.A. Christensonによる分類研究で別種とされました。それまでは、Phal. bellinaPhal. violaceaの一形態とされ、千葉雅亮氏著書で述べられているように形態的にマラヤ(マレーシアベラ、セランゴール州)型、スマトラ(スマトラ島ブラスタギー)型、ボルネオ(ボルネオ島)型とする考え方がありました。現在分類のPhal. violaceaがマラヤ型、Phal. bellinaがボルネオ型、その中間型がスマトラ型に対応します。E.A.Christensonはスマトラ島西のMentawi島のPhal. violacea (Phal. violacea mentawai)については、Phal. violaceaとは別種とせず、さらなる研究が必要としています。これらPhal. violacea, Phal. violacea mentawai, Phal. bellinaをそれぞれを下写真に示します。

 

 上記映像において右端のPhal. bellinaは改良種(ponkan)の可能性があり、P. bellinaの野生(Jungle Plant)株としては下記写真が参考になります。

 胡蝶蘭の場合通常では、種の違いをリップのカルス形状で判断します。しかし、これら3地域の種は下写真(左からviolacea, mentawai, bellina)に示すようにその違いを見出すことは困難です。

  E.A.ChristensonはPhal. violaceaPhal. bellinaとの違いを下表に示す特徴で分けています。

 
Phal. violacea
Phal. bellina
花 Petal 楕円 幅0.7㎝ 卵形 幅1.3㎝
花 Lateral sepals 内反しない。DorsalとLateral sepalの頂点を結ぶ形は正三角形 やや鎌(内反膝)型。DorsalとLateral sepalの頂点を結ぶ形は二等辺三角形
葉幅は様々 葉幅は常に広い
香り スパイシー (elemicin&cinnamyl alcohol) レモニー (geraniol&linafool)

 上記表の形態の違いはトップの写真および2つ目の野生種写真の花被片の特徴とよく一致しています。しかし表中のPetal(中央の左右の花弁)の幅形状については一般的にはそうですがJungle plantの中央写真から分かるように決定的要因とはなりません。花被片の上の一枚(dorsal sepal)と下の二枚(lateral sepal)のそれぞれの先端を結ぶ3角形が二等辺三角形か、正三角形かはLateral sepalが内側に反っているためPhal. bellinaは正三角形とはなりません。

 Mentawaiはカルスこそ同形ですが、花茎は全く他の2種とは異なりジグザグではなく円形で長く、葉は長楕円で細長いことが特徴で形態は大きく異なりBS株になれば容易にその違いが判断できます(本サイトの58種の形態の中のmentawaiを参照)。

 さて本題のP. bellina albaに関してですが、現在市場に出回っているP. bellina-likeな種は下写真に示す花形状です。これら花被片の形状を見ると上段の写真の花弁はそれぞれが幅広である点でPhal. bellinaの様態を示していますが、Lateral sepalは内側にいずれも反っていません。一方、下段写真の一部には花被片のLateral sepalがやや内側反りの傾向が見られるものの全体の様態はPhal. violaceaにより近いと言えます。

 すなわち表に示す決定的なPhal. bellinaとしての多くの条件を、写真の花はをいずれも示していません。では反対に上段に示す花被片形態を持つPhal. violaceaの野生種が存在するかと言われれば、Lateral sepalがこれほど幅広(上段)、また下段中央および右の中間体のようなフォームは見られません。 

 この結果、上記写真のalbaはすべてHybrid(下段左端のみはPhal. violaceaの特徴をもつ)と断定せざるをえません。これらはいずれも台湾からの輸入品です。マレーシアの原種専門ラン園の話によれば台湾からのalbaは、すべてHybridであるとのことです。恐らくこれらから実生を得ると、いくつかのタイプが出現するためと思われます。例えば上写真で言えば、Phal. bellina albaPhal. violacea albaとの交配の可能性です。

 Phal. amboinensis, Phal. violacea, Phal. equestrisなど原種の中では比較的マーケットサイズの大きな種類では、改良とHybridが盛んに行われ、自然種からはかなり離れた様態を作り出しています。これは台湾程ではないもののタイからの苗も同様です。筆者はフラスコ苗において x self (自家交配)と称している原種苗がHybridであった経験をしています。クレームを出したところ台湾の一業者はああそうでしたかで終わり、タイでは交換しますと言われました。そうした誤りを問題とする前に、x selfとしながらも異種間交配する姿勢の方に問題があり、以降これらの業者とは取引をしていません。自家交配よりもHybridの方が一般論としてはるかに株の成長が良く発芽率も高く、ビジネスとしては好ましいのでしょう。基本的に原種の継承を尊守する姿勢は筆者が知る限りこれらの国では見られません。

 深刻な問題は原種生息国であるマレーシアやフィリピンにも台湾培養種が逆輸入され、これらが現地栽培株として世界に広がっていることです。原種専門ナーセリーでも原種をコンスタントにマーケットに出すことは困難なようで、結局、培養先進国である台湾やタイからフラスコを輸入し、これを栽培して原種として販売しているのが実情です。この逆輸入のもっとも典型種がPhal. equestris, Phal. bellinaviolaceaです。

 このようなHybridや改良種のなかでも、高額となる変種、例えばPhal. bellina coeruleaPhal. bellina albaなどはトップターゲットとなります。原種専門ラン園においても、こうした苗が所狭しとポットに並んでいる光景を目にします。比較的良心的なラン園では(良心的とは客がHybridを嫌う原種趣味家であることを理解した上で)、フラスコ苗の場合、原種の自家交配かHybridの可能性のある株かを説明します。しかしラン園主でも分からない株があるのではないかと疑われます。この例が下写真のPhal. bellina albaに印象的に示されているように思われるからです。 

 上写真は今月の花にも掲載した花ですが、E.A. Christensonの形態分類によれば左端がPhal. bellinaで、中央および右端はPhal. violaceaとなります。Lateral sepalが内側に反っているのは左端だけであり、他の2株はストレートに伸びています。このため中央と右は正三角形となっています。これを基本原則とした場合は、すべてをPhal. bellinaとする園主の言葉に問題が起こります。香は左端はレモンのような匂いを含みますが、中央と右端にも微かにはそれがあるようには感じます。いずれもPhal. violaceaのスパイシーな強い香りはありません。

 マレーシアの原種専門ナーセリは上写真の種は、いずれも野生種Phal. bellinaの自家交配であるとの説明でした。株を入手した段階では花は咲いていません。一方、上写真のそれぞれがフラスコ生産の同一ロットであろうかという疑問が湧きます。これまで筆者はPhal. bellinaの自家交配培養をしていますが、形状がこのように異なる花が、Jungle plantの自家交配で同一ロット内から現れた経験がありません。推測としては2つ考えられ、一つは同一フラスコ内に種を蒔く際、量産作業のためHybridを含む複数のさく果の種を混ぜていること、他は先祖がえりで、何代か前の親株がPhal. bellinaPhal. violaceaとの交配であったことです。拭いきれない疑いはやはりPhal. bellina albaPhal. violacea albaとの交配の可能性です。

 ここまでならばそのような結論でも良いのですが、頭を悩ます問題と最初に述べたのは、マレーシアのオーキッドハンターのPhal. bellinaと称している写真を見たことにあります。その写真の花は上写真の中央および右写真の花のようにLateral sepalが内側に反っていないことと、葉がやや長楕円であったことです。そうすると中央と右の写真もPhal. bellinaとしてあり得ることなのかとする矛盾です。

 再び生息地の問題が浮上します。生息地についてPhal. bellinaはボルネオ島とマレー半島、一方Phal. violaceaはマレー半島とスマトラとされています。地域詳細は不明ですが、マレー半島では広義に見れば両者が混在することになります。マレーシアのハンターが、マレーシア生息種は全てPhal. bellinaとし、Phal. violaceaは全てインドネシア産と見なしていれば採取したハンターがマレー半島のPhal. violaceaPhal. bellinaと解釈したとも考えられます。

 あるいはE.A. ChristensonのPhal. bellinaの定義はボルネオ型のみで特徴比較したもので、マレー半島でPhal. bellinaが生息するとすれば、その形態はボルネオ型と同じなのか、Phal. violaceaとの中間体なのかはマレー半島に生息するとされるPhal. bellinaについての実態情報や研究がないため現在明確ではありません。

 いずれにしても、現在市場にあるPhal. bellinaは、台湾で品種改良されたマレー半島あるいはスマトラのPhal. violacea alba(あるいはcoerulea)とボルネオ島のPhal. bellina albaとの交配種の可能性が高く、純正種とは考えにくいことです。純正種を求めるのであれば、野生種としてのPhal. bellina albaを入手し、これの自家交配あるいは花茎培養を自らが行うか、あるいは自家交配を証明することができる苗を入手する以外は難しいと思われます。次回のマレーシア訪問ではPhal. bellina albaの野生種を栽培している趣味家を訪問しようと思っています。

 (上記全ての写真は筆者温室にて撮影したものです)


6月

マレーシア訪問その5

 フィリピンもそうですが、マレーシアにおいても海外から郊外にあるラン園を初めて訪問する場合、訪問先の園主にホテルあるいは特定の場所(デパートやレストランとし、公園等人通りの疎らな場所は危険)を指定して迎えに来てもらうことが必ず必要です。また紹介してもらった他農園へ引き継いで訪問する場合も、紹介者に案内してもらうか、前記と同様にその園主に迎えに来てもらう必要があります。マレーシアはフィリピンよりは安全なのでタクシーで行くことも考えられますが、市内の名の知れたラン園ならばともかく、ネットにない(Mapがない)農園には、たとえタクシーであってもその目的地に着くことはかなり困難です。半数以上の農園は国道等の幹線沿いにはなく、多数の分岐がある曲がりくねった細い道沿いにあるため、迷って行ったり来たりでタクシーが到着するにはかなりの運賃を覚悟しなければならないと思います。それでも目的地に到着すれば良いのですが、徒労に終わることもあります。

 住所が分かれば国内にいる段階あるいはホテル等でGoogle Mapで検索して地図を印刷し、あるいはIPadを用意し運転中ドライバーに直接見せることで良いではないかとも思います。しかし周知の人も多いとは思いますが、フィリピンやマレーシアの郊外となると多くの場合、住所の詳細部分がヒットしません。

 行き先の住所は無論ですが、携帯番号をメモし、さらに行く前には、その番号で通話可能かを自分の携帯から一度かけて確認(あるいは紹介元から自分の携帯を使用して連絡してもらう)し、タクシー利用の場合は自分で直接言葉で指示するのではなく、携帯を自分で掛けた後、それをドライバーに渡して訪問先の相手と話し合ってもらって道順を指示してもらうことが安心です。この一連のコミュニケーションや手段ができないのであれば海外ラン園への個人的な訪問は避けるべきと思います。

 しばしば本サイトで取り上げていますが、日本から東南アジアへは東京から博多に行くと同じ程度の旅費(フィリピンやマレーシアまでJALやマレーシア航空で往復4万円台、LCCではさらに安価)です。2-3泊分のホテルと食事代を考えればかなり安価となります。休日等を利用して行かれる方も今後増えると思います。

 今回の旅行は例のズルズルと引きずって歩く旅行カバンではなく、両手が自由になるバックパック(リュックサック)で行きました。かねがね例のカバンは歩いているとき2人分の縦幅をとり東京駅など混雑する場所では周りの歩行者に危なく迷惑この上ないので止めようと思っていました。一つ気づいたのですが、バックパックの利点は意外なところにあり、通常、海外のホテルでは入り口からポーターが大小に関わらずカバンを部屋まで運んでくれます。この場合、部屋でチップを渡さなければなりません。ところがバックパックの場合、それを片手に持っていてもポータが来ません。バックパックはチップを払わないぞという国際的な意思表示のようで、チップ代が助かりました。今回はクアラルンプールの超高級なシャングリラホテルでしたが、チェックインで荷物はありませんかとの質問に、年に数回海外旅行をしていると、終局的にこのスタイルが一番良いことに気が付いたと話したところ、ホテルのスタッフもニコニコしながら私も好きでバックパックスタイルで旅行をよくしますと応えていました。帰りが大きな荷物となる(ランを買って帰るための段ボール)ため両手が自由になるのは非常に便利です。

 初めて海外のラン園を訪問予定の方は上記のプロセスや情報を参考にしてください。

マレーシア訪問その4

 生息地あるいは同じような自然環境の下で成長した胡蝶蘭の葉サイズは、苗から育てた人工栽培によるものと驚くほど異なるようです。下記はE. Christenson ”Phalaenopsis A Monograph"の著書に書かれたサイズと、今回の訪問で見た胡蝶蘭のサイズの違いを表にしたものです。種によっては倍近い葉長になることを示しています。

品種
自然成長 (cm)

Phalaenopsis
A Monograph 書 (cm)

Phal. doweryensis 49 x 15.5 23 x 10 or smaller
Phal. viridis (Sumatra) 36.5 x 10 30 x 8
Phal. kunstleri (Sabah) 42 x 13 24 x 8
Phal. fimbriata 35 x 10 23 x 7

マレーシア訪問その3

 如何に大きなラン園であっても、一つのラン園が保有するランの種類には限界があります。まして変種などの希少種については尚更です。一方、ラン園によって価格もまちまちです。国際蘭展やインターネットを通して海外価格事情を知る大手ラン園はその影響を受けてか価格が高くなり、反面Websiteを持っていない小規模ラン園では、同じ国内であっても、その国に生息するランに関して言えば、その価格は現地大手ラン園の1/3以下となります。よって我々がインターネットを通して見る海外ラン園の価格は小規模ラン園の3倍程度と考えて、まず間違いはありません。

 大手ラン園はCITESやPhytosanitaryなどの海外輸出申請の経験やノウハウをもっており、一方、小規模ラン園にはそうした書類手続き申請の経験がありません。この違いがたとえ小規模ラン園が低価格で販売していたり、希少種をもっていたとしても、海外訪問者が安易にそれらを入手することができない背景となります。

 これを解決する一つの手段として大手ラン園でそれなりの数のランを購入すると同時に、小規模ラン園からの購入品には別途手数料を払うことで、一緒にCITES申請を含めて出荷してもらうことです。あるいは大手ラン園を窓口として小規模ラン園の株を買うことです。ここで”窓口”とは、我々が小規模ラン園で直接の価格交渉はせず、大手ラン園を通して価格を確認し、また支払先を全て大手ラン園に統一することを意味します。しかし手数料の割合が大きければ特に高額な稀少種の場合は割高になることは避けられません。

 一方で、購入者が小規模ラン園での実勢価格を、何らかの機会に知ってしまえば、その手数料が適正かいずれ疑心暗鬼となり、1回限りのスポット購入であれば兎も角、それを機会に長い付き合いを始めようとする場合は、大手ラン園との関係は精神的に好ましいものでなくなっていきます。筆者はフィリピンでは大手ラン園に対して、ある程度のランを購入する代わりに、小規模ラン園からの購入は、現地実勢価格ベースで直接交渉・取引させてもらっています。書類、梱包、出荷コストを考慮するのであれば、それはランの価格とは完全に切り離して手数料として明示してもらうことです。それが大手ラン園で受け入れられないのであればその大手ラン園との取引は行えない旨を伝えます。

 今回の訪問でも、大手ラン園の園主の紹介で小規模ラン園を訪問しましたが、園主にはそうした考えをまず最初に説明しました。大手ラン園でランを購入し、それに追加して輸出処理を依頼する限り、実態として、園主が手数料を要求するケースは今回も、またこれまでのフィリピンでもありませんでした。むしろサービスとして対応するようです。

 手数料を要求するかどうかは、今後とも訪問者が顧客になってくれる可能性があるか否かの判断だと思います。今回の園主が言うにはそうでないラン園もあるようで、例えば紹介元がその紹介先に対してあらかじめ実勢価格の2倍で販売するように要求してくるとの話でした。すなわち紹介先では顧客に対し凡そ2倍の価格で応え、紹介元は実勢価格と同額の紹介料を紹介先から得るとのことです。我々がインターネット上での価格相場を知っていれば、果たして小規模ラン園の価格が紹介料込みか否かは容易に分かります。それほど現地実勢価格は安い訳です。もしインターネットサイトを持たない小規模ラン園でネット相場価格よりも半額程の価格であったならば、すでにそれは紹介料込みと考えるべきと思います。

 一方で筆者個人の考えですが、大手ラン園の価格に対しては、小規模ラン園の価格に比べて高いからと言って、現地実勢価格と同じにするよう要求するのは禁句です。理由は日本国内までの輸出入には業者としてのリスクが伴っているからです。互いにhappy-happyの関係となるようにはどのような手段が最善かはそれぞれが考えなければなりません。

 ラン園をそれぞれの園主の紹介ルートで周りながらそれら訪問先で気に入ったランを購入する場合は、いずれこのような問題が生じます。その顧客が今後とも付き合いができそうかどうかを園主が判断するには、一つは語学の問題が大きくあるように思ます。ホテルや空港まで車で迎えに来てもらい、農園までの初対面の1-2時間の間、訪問者がランについての興味や話題を語り合えるか、今後どのような付き合いをしたいか、一方、ラン園のこれまでの経験を話してもらうなどコミュニケーションを図ることができれば、殆どのケースで顧客が考える最も有利な条件を受け入れてもらえるように思われます。

 今回のマレーシア訪問では多くの稀少種を得ることができましたが、その大半は園主から紹介してもらった先で入手したものです。これらは農園というよりは個人宅(趣味家)のような場所でした。この経験で得たことは変種等の希少種の入手は、こうした個人的な関係に近い取引の環境に入り込むことができるか否かに大きく左右されるということです。趣味家あるいはコレクターが希少種を求めたいのであれば、上記のような環境を認識することが必要とのことでこの話題を取り上げてみました。

マレーシア訪問その2

 原種固有の問題と思いますが、変種や僅かなフォームの特異性で、極めて高額(一般種と比べて凡そ300倍、現地の年俸相当)となるランの世界では、園内において希少株の盗難がしばしばあるようです。フィリピンではこれ防ぐため、放し飼いあるいは犬小屋を含めて、多数の犬が飼われており、吠えられることなく忍び込むことは24時間とてもできません。犬を園内に飼うことはフィリピンでは防犯の定番のようです。

 一方マレーシアでは、クアラルンプール周辺に限って言えば、フィリピンと比べて番犬は少なく、犬が飼われていたところでも番犬としてではなくペットとしてでした。その代り(フィリピンでもその傾向はありますが)、膨大な数が並ぶ株に種名を付けたラベルが全くなく、この結果かなりの知識があれば、葉の形から凡その種類は分かるものの、どれが高額な変種なのかは花が開花していない限り分かりません。よって花が咲いた時点で写真に撮り、直ちに花を摘んでしまえば園主あるいは担当者以外は全く分からなくなります。すべてのランを無手勝手に盗むにはあまりに多いため、この”ラベル無し”が無防備な農園にとっての防犯に有効のようです。

 しかし購入目的の訪問者にとっては、ラベルが無いのは実に不都合で、いちいちこれはないか、あれはないかと担当者に聞かなければならず、ゆっくり時間をかけて見て回る余裕がありません。往々にしてラベルを見て予定していなかった株を発見することも多いラン園訪問では困った問題です。盗難の問題がなければ、品名と生息地およびできれば価格を記載したラベルをそれぞれにつけてもらえれば、何10%の売り上げ増になるのにといつも思いつつ、海外ラン園を訪問しています。特に語学の苦手な訪問者の場合は尚更苦労すると思います。

マレーシア訪問その1

 今月21日から23日までマレーシアクアラルンプールの蘭園およびその周辺にある複数の栽培者の家を2日にわたって訪問しました。いよいよ今年はフィリピンからマレーシアへと足を伸ばすことになります。今回の目的は最近話題となっている新種あるいこれまでに認知されていない変種などを探し出すことと、自家交配の親株を購入することでした。この結果、今回は下記の稀少種の情報や一部の入手ができました。

 1. Phal. pantherina f. flava (これまで未発表、Borneo島)
 2. Phal. pantherina f. black (これまで未発表、Borneo島)
 3. Phal. rundumensis (最近発表された種、実態の写真がほとんど無い、Borneo島 sabah)
 4. Phal. robinsonii (1913年以来の植物標本以外 生体写真無し、Ambon島)
 5. Phal. venosa v. alba (未発表変種)

1. Phal. pantherina f. flavaPhal. pantherina f. blackについて

 3株のクラスター状態となったPhal. pantherinaのflava株を所有するラン園が、マレーシアにあるとのことで今回訪問しました。これまでPhal. pantherinaのflavaタイプの公開はないと思います。その園主が言うには1株は園内で盗難に遭い、現在2株しかないとのことでした。そのうちの1株を入手したものです。花被片はPhal. cornu-cerviのflavaタイプと同じ色調で、園主からの写真を下記に示します。

 一方、ブラックタイプは、通常は花被片の斑点は赤褐色ですが、これが黒色に近いことが特徴です。下記写真右が筆者撮影による株で現在開花中です。斑点が黒褐色となる他種にPhal. manniiマホガニーが知られています。Phal. pantherinaとは近縁種でもあり、このような色合いが稀に出るものと思います。

Phal. pantherina f. flava
Phal. pantherina f. black

2. Phal. rundumensisについて

 2014年度まで本種とされる写真を掲載していましたが、新種としての本種の存在が疑わしくなり、内容を削除しました。

3.Phal. robinsoniiについて

 Phal. robinsoniiはいわゆる”幻の胡蝶蘭”です。オランダに1913年に作成された植物標本があるのみで、それ以上の公的な記録がありません。生息地はAmbon島からMalucca諸島とされています。

 今回のマレーシア訪問で巨大なPhal. giganteaを所有しているコレクターがいるとのことで所有者の自宅に伺いました。これまでに見た葉サイズ最大級のPhal. giganteaが3株あり、1本を入手しました。その後、帰り際にPhal. robinsoniiがあるが見てみないかという、耳を疑うような言葉を聞き、半信半疑でランが吊るされた場所に案内され、行ったところPhal. floresensisの中に混じって吊り下げられたPhal. robinsoniiとされる株が4株あり、その内、3株ならば譲っても良いと言うので入手しました。驚くことに価格はPhal. floresensisと同じで、返って本当に本種なのか、また本種はマレーシアではなく、インドネシア原産(Phal. floresensisも同じ)とされており、疑心暗鬼のままPhal.spとして持ち帰りました。Phal. robinsoniiでなければハイブリッドと思いますが、瓢箪から駒の喩もあるので、これも原種コレクタの楽しみと考えて花が咲くのを気長に待とうと思います。

4.Phal. gigantea

 Phal. giganteaは現在、胡蝶蘭の中でもっとも大株になる種です。自然界では葉は1mを超え、かっては家畜の餌にしたことがあると言われています。しかし現在はその多くが自然開発や乱獲等により激減しているそうです。ジャングルプラントについてマレーシアのラン園ではSabahからの入手は今日、時折可能であるが、インドネシアからの入手はここ5年で困難となり、2年ほどは全く入荷がないとのことでした。

 人工栽培では葉が1m近くに成長することは難しく、多くは30㎝-40㎝止まりです。写真は今回購入したPhal. giganteaで、ジャングルプラントから4年以上栽培したものとのことです。当初1m近い葉長を付けていたようです。山採りであれ、栽培株であれ支持体から根を剥がして移植するため、ダメージが大きく、植え換えを行うと作落ちにより古い葉から枯れていき、結局は小さな株に戻ってしまいます。これを再び育てるわけですが、50㎝を超える程の株にするには、植え付けから5年以上かけなければならないそうです。写真は葉長51㎝x幅18㎝です。まだ中クラスサイズと言えます。しかしこれほど大きなサイズの株を実際見るのは初めてです。山からそのまま持ってきた株ではなく、長い年月栽培した株であるため葉には傷一つありません。写真右はPhal. amabilisの花を添えて大きさを示したものです。自然環境では葉の幅は長さに対して1/4-1/5程度ですが、人工栽培では葉長に対して葉幅は1/3程度と大きくなり、より丸みが増します。

 またビジネスとしてデンファレを栽培・販売している方の自宅を訪問しました。自宅ではPhal. bellinaと共にPhal. giganteaが30株ほど、寒冷紗がない直射日光の下、庭の木に直接活着させて栽培していました。こちらのPhal. giganteaはサイズは様々ですが、やはりジャングルプラントを植えつけてから一度小さくなりそれから大きくしたため5年以上かけて40-50㎝程の葉長にしたようです。自然状態のままで肥料を特に与えないそうで、このせいか、上写真とは異なりややスリムな葉形状でした。いずれにせよ、かなりの年月が経過しているものの、野生株であることには変わりません。オーナーはPhal. giganteaが最も好きなため、農園ではなく自宅に植えているとのことでした。これらのPhal. giganteaの販売は可能か伺ったところ何株必要かと問われ、大きい株全てと答えたところ分かりましたとのことでした。15株ほどありました。今回は事前に情報がなく現地で見ての判断となったため希望購入数分のCITES申請を行ってはおらず、2-3か月後の再訪問で入手したい旨を伝え、必要であればdepositする旨を説明しましたが不要とのことでした。この中で興味があったのはPhal. bellinaで、かなり高輝度を浴びており、離れた位置からもハッキリ分かるほど葉が黄変していました。6月のマレーシアは最も暑い時期ですが、殆どのPhal. bellinaが開花していました。ジャングルプラントはこの輝度下でも十分育つのでしょう。

5.Phal. doweryensisについて

  Phal. giganteaPhal. doweryensisも苗から開花までには多花性パフィオと同等かそれ以上の8年ほどの年月がかかります。本サイトでもPhal. doweryensisは数本の株をもっているものの開花写真はまだ掲載していません。このため可能な限り大株を探していたのですが、今回、所有者情報とCITES申請に間に合ったためPhal. doweryensisの大株を6株入手しました。

 Phal. doweryensisはランの中で移植のもっとも難しい種であり、時期としては国内では初夏以外の順化は極めて困難です。順化のための温度、湿度、通風管理のため温室は必須条件です。通常移植は株を支持体からむしり取るため根がほとんど切断されてありません。例えば下写真の株でも10㎝-15㎝の根が平均2-3本程度です。一般にコルク、ヘゴ板、ヤシガラマット巻(本サイトの順化を参照)以外への移植は避けるべきです。写真は巨大なPhal. doweryensisで葉長45㎝あります。右写真では前記の写真同様にPhal. amabilisの花をサイズ認識のために添えています。周りの株もPhal. doweryensisで、平均40㎝程の大株です。

6.自然交配株

 ラン園の一つを訪問した際、これまで見たことのない右下写真に示す花柄の株が開花しており、園主に確認したところジャングルプラントで名前は不明とのことでした。このラン園はランを鉢に入れたベンチが全くなく、全てのランが直接木に取り付けられており、これまで見たことのないラン園風景(左写真の環境が入り口から出口まで全て)でした。花様態からはPhal. cornu-cervi系とFuscata系との自然交配と思われます。園主にそのように話したところ園主もそう思うと話していました。1本だけであることと上記のような栽培法から人工的交配によるハイブリッドとは考えにくく、偶然に生じた自然交配と思われます。

  この園主は自然と同じ環境で栽培することがポリシーのようで、これこそJungle Plantであると主張されていました。またPhal. fuscataPhal. kunstleriとの違いや、Phal. cornu-cervi, Phal. borneensis, Phal. lamelligera, Phal. pantherinaとの違いについて長い議論をしました。特にPhal. fuscataPhal. kunstleriとは同じ場所に生息しているとのことで、このことで、現在頭を悩ましている同定が困難な中間的なリップやカルス形状を持った株が多く見受けられる原因なのかとの印象を受けました。

 


 植え替えのシーズンも終わろうとしていますが、植え替えを行う際、それまで使用した鉢やヘゴ板あるいはコルクはどうされているのでしょうか?植え込み材であるミズゴケ、ヘゴチップあるいはバーク等については再利用はまず不可能ですが、鉢やコルクは再利用している方がおられると思います。鉢の中でランに最も多く利用されている素焼き鉢はその特徴である通気性が、古くなると目詰まりを起こすと考えられるため廃棄する以外ないと思います。一方、プラスチップ鉢、コルク、ヘゴ板、バスケットは再利用できます。

 再利用の方法として、筆者は15Lバケツの水に100mL程のピューラックスを加え、その中に一晩浸し、その後水洗いして乾燥した後に使用しています。青ゴケのしつっこい汚れがある場合は2-3倍に希釈したピューラックスをスプレーに入れて直接その場所に吹き付け10分程放置してから前記希釈の溶液に浸します。

 素焼き鉢はピューラックスでは目詰まりまでは取れませんし、さすが焼き直しまでは一般家庭では困難ですので廃棄しています。コルク、ヘゴ板は上記の殺菌、水洗い、乾燥後にさらに1晩真水に浸け、2度目の乾燥を行った後に利用しています。ピューラックスの使用は通常殺菌だけでなくウイルスにも有効であるとのことからです。鉢にへばり付いた青ゴケは1晩ピューラックス希釈溶液に浸けると白く変色し、水で流せば簡単に落ちます。 プラスチック鉢の場合は、1晩で綺麗に青ゴケがなくなっています。コルク、バスケット、ヘゴ板は高価であるため、数多く使用していればこのような再利用でマレーシアまでの往復航空運賃程度は出てしまいます。

再利用のバスケットとコルク

 3月から今月頃までにかけてが種類数として、最も開花の盛んな時期となります。このため、特に新たに購入した種の中で変種や、フォームが一般種と異なるものが見つかった場合、フラスコ苗をつくるため自家交配を行っています。今月は交配直後(数日~1週間)から2か月間程のさく果(種のさや)の成長変化を取り上げてみました。

 胡蝶蘭は一部(Phal. schillerianaなど)を除き、大半が交配から120日でタネを採取しフラスコに蒔くことができます。通常は8 ‐10か月程実をつけていますが、4か月程で胚ができるためこれ以上つけていても株が疲れて作落ちの危険性が高まることになり、4か月ほどでさく果を外してしまいます。パフィオは240日以上必要で、Vandaは胡蝶蘭と同じ4か月程で胚のあるタネが得られます。この4か月間で、環境の急激な変化がなければ胚が生成され、変化があれば(高温や植え替えなど)、無胚となる確率が高まり、無胚の場合はタネを蒔いても発芽は得られません。

 さく果が割れてタネが飛び出す前に採取し、さく果の表面だけを1%程の濃度の次亜塩素酸ナトリウム(市販ではピューラックス5-6%溶液を薄めて使用)で消毒すれば、破裂前のさく果内は無菌状態と考えられており、そのまま取り出したタネをフラスコ培地に蒔くことができます。胡蝶蘭はパフィオと異なり、次亜塩素酸に弱く、タネに直接殺菌する方法は発芽率を低下させるとされています。しかしこれまでの経験からタネを殺菌処理しない場合、1割程の割合でカビやバクテリアが混入することがあり、筆者は0.5%濃度の次亜塩素酸に7-10分ほど浸けてから3度の水で次亜塩素酸を洗い流し種蒔しています。

 下図は4月に開花した胡蝶蘭の自家交配によるさく果の2か月の変化を示したものです。その後の開花種の交配も行っていますので、1-2か月後には「今月の花」で取り上げたいくつかの種のさく果も取り上げる予定です。左端写真は交配前の花です。

4月
4-5月
5-6月
6月-
Phal. bastianii
Phal. chibae
未撮影
Phal. fuscata
Phal. intermedia Pink
Phal. lueddemanniana
Phal. sumatrana

5月

 クリプトモスは杉の皮を薄く剥いたもので、このコンポスト(植え込み材)はランにとって万能ですが意外と利用させていないようです。これまで胡蝶蘭、デンドロの一部と、パフィオの多くで使用してきました。ここ2-3年間で胡蝶蘭のほとんどがヘゴチップ+プラスチック植え、あるいはヘゴチップ+ミズゴケ+素焼き鉢に代わりつつあるものの、パフィオはオーキッドベースの販売がなくなり(水槽製造企業のニッソーが熱帯魚水槽フィルタの濾材として販売していますがコンポストとしては高価すぎて使用できません)、現在はクリプトモスに代わっています。

 このコンポストの利点はミズゴケと異なり、潅水が量が多すぎ(1回分)ても、ミズゴケほどの保水性はなく、鉢の中の水分は適度の量に保持され他は流れ出ることで、かなりいい加減な水やりでも根腐れがほとんど生じないことです。このコンポストはプラスチック鉢と組み合わせるためパフィオでは潅水は夏で2日に一回、表面が乾いてから1日遅れ、乾燥気味な環境では毎日行います。胡蝶蘭ではさらに1日程度間を空けます。

 このコンポストの問題点は皮のサイズが比較的大きく、4号以上の鉢でないと植え込みずらいことです。また2年程度での植え替えは必須です。

 この植え込み材は、筆者の場合フラスコ苗の取り出し植え付けと同じ、最近ではまずバリダシンとタチガレンエースの規定希釈に半日から一晩浸け、その後に使用します。この薬品はクリプトモスに発生しやすいという白絹病予防と、植え替えで根を切るため、個々の切り口を消毒することが面倒なので、根ではなく、むしろコンポスト側を消毒してしまうと言う逆の発想からです。

 下の写真はクリプトモスに植えつけたパフィオの2.5年後の根張りの状態です。パフィオにはオーキッドベースが最も好成績でしたが、クリプトモスも良く合います。


 今月始めに「コンポスト」について新しいページに差し替えを行いました。内容はまだ不十分であり、随時追加していく予定です。現在は58種それぞれの種のページの見直しに入っています。文書の書き換えや写真の入れ替え等を行っています。2か月程で終了する予定です。その過程で誤字や、はたして断定してよいものかと考えさせられる記述が多々見つかり、これらを含め校正をしています。

 特にPhal. braceana, Phal. hainanensis, Phal. honghenensisなどのAphyllae亜属の種についてはまず十分な資料や、公開されている花の確定的な写真等は無く、中国の文献やE.A. Chiristensonの記述からもそれぞれの部位についての決定的な形状画(あるいは写真)が無いため判然としません。海外のWebsiteでは発見者の花のスケッチが入れ違っているものまであります。最も頭を悩ますところです。


 緑色の葉に白い斑が入る、所謂斑入り葉は希少なものとして市場で取り扱われており原種の斑入りを入手することは極めて困難です。胡蝶蘭では交配種で台湾のPhal. amabilis variegatedが良く知られています。現在筆者はPhal. inscriptiosinensisを自家交配のフラスコ苗から1本見つけ現在これを育てています。

 先日、Paph. michranthum eburneumのフラスコの中を覗いていたところ下写真に示す斑入り苗が見つかりました。これを何とか育てようと目論んでいるところです。これまでPaph. michranthumの斑入り葉は見たことがないので希少株となるかもしれません。つい先日はPaph. rothchildianumのフラスコ苗を植え付け中に3ミリほどの斑入りの幼苗が見つかりましたが、フラスコ開封後に気が付いたときは手遅れで、このサイズではフラスコの外で育てることはまず困難です。開封前に気が付けば、無菌状態での植え替えを行ったところです。

 このように、変種を得るには自分で交配しフラスコ苗をつくることが時間はかかるものの、ラン栽培の次のステージの楽しみです。胡蝶蘭はほとんどがおよそ5-8年ほどの寿命であり(高芽による継承を除く)、またパフィオは脇芽の継承で寿命は100年以上の記録があると言われます。しかし病気感染によるリスクは常にあり、余裕があれば希少種を絶つことが無いよう無菌培養による繁殖へのチャレンジを勧めます。


 Hoyaはランではありませんが、綺麗な花をつける蔓系の植物です。丈夫であることからランとともに栽培されることが増えているようです。クリスマスやバレンタインが近くなるとホームセンターの園芸コーナーに、色のついたガラス玉(砂)をコンポストとした小さなガラス容器に厚みのあるハート形の葉を置いた飾り物が販売されていることがあります。そのハート形の葉をもつ植物はHoya kerriiと言います。ほとんどの人は葉はそうして見るものの、その植物の花までは見たことはないかもしれませんので、ここで筆者の温室で開花したHoya kerriiの花を写真で紹介します。花としてはHoyaのなかでは最も地味な存在です。


 この時期は一般的に施肥を行うピーク期です。現在多種多様の肥料や活性剤が販売されています。筆者は置き肥についてはグリーンキングを使用しています。どのメーカであっても大きな違いはないと思います。グリーンキングは匂いが少ないとされていますが、4-5日は鶏糞の匂いがあり、一般の室内栽培では使用できないと思います。フラスコ苗で鉢数が多いと、とても鉢サイズに合わせた量に調整して施肥することは面倒でできませんので極めて適当に行っています。これで肥料が多すぎて株が弱ったりしたことはこれまでありません。有機肥料のためと思います。液肥では濃度が高いと問題があり、このようにはいきません。

 下の写真は今月初旬に植えつけたPhal. equestris v. albaへのグリーンキングの施肥状況です。温室のほとんどの鉢に行うため4日経過した今までも、鶏糞の匂いが充満し少々閉口しています。1週間もすれば匂いはほとんど消えていきます。


 Paphの植え替え時期が来て、これまでオーキッドベースとネオソフロンおよび麦飯石のミックスコンポストで栽培をしていた2年物をクリプトモスで植え替えることになりました。コンポストの代用品として現在富士砂でテスト中ですが、まだ結論は出ていません。これ以外に、熱帯魚のフィルターに使用するガラス材のポーラスロック、ネオソフロン、燻炭を混ぜたミックスコンポストなどを試行しています。

 兎に角、数が多いためクリプトモスのように植え込みに手間のかかるものは極力避けたいところで、早くオーキッドベースに代わるコンポストを見出すことが直近の課題となっています。下の写真は雲南省から輸入したPaph. hangianumのフラスコ苗からの2年経過苗で150株程あり、これを今月から来月にかけて5号深鉢(右写真)にクリプトモスで植え替える予定です。


 胡蝶蘭原種にはほとんどの種で変種や、種名は異なるものの視覚的に分類が難しい類似種が存在します。類似種はCallus形状および匂い成分の有無によって、一方、変種はalba(白)、coerulea(青)、aurea(黄)タイプ等の花被片全面的な色の相違で分類され、またリップ形状および花被片の一部の色あるいは花柄の違いはformとして扱われます。類似種や変種は自家交配による実生もまた親の特性を継承するものですが、formはたまたま特異な色や形をもつ1株ものとしてその実生が親の特性を継承する保証はありません。

 このため、フラスコ苗でPhal. cornu-cervi dark redPhal. corningiana solid redあるいはPhal. violacea blueなどとformがラべリングされた実生や、form同士の交配苗がしばしば販売されていますが、その交配実生花が親と同じ色や花柄になる確率は極めて低く、大半は期待外れとなります。

 Phal. pallensは上記とは異なり、リップ形状で下記の写真に示すようにformではなく、v. trulliferaと変種として扱われています。違いはリップ先端部が長楕円形(左写真のリップ)か楔型(右端写真)かで判断されます。筆者はv. trulliferaを5株ほど持っていますが、まだこれらの自家交配による実生を得ていないので、この楔型の形状が実生で100%再現出来るかどうかの確認をしていません。

Phal. pallens
Phal. pallens v. trullifera

 同じようにPhal. fasciataPhal. reichenbachianaも下記写真に示すようにリップ形状が楕円と楔型の違いがあります。花被片に関しては長楕円(fasciata)と卵形(reichenbachiana)とされています。しかしこの花被片の形状差が種の分類の決定的要因とは多数の株の栽培経験からはとても同意できません。Phal. fasciataPhal. reichenbachianaPhal. pallensとは異なり、外見はほとんど区別が困難な株もありますが、formや変種としてではなく異種とされています。これはリップ形状に加えてCallusの突起部が2組(fasciata)か、3組(reichenbachiana)構成の違いがあるからです。Mindanao産Phal. fasciataを調べているとその中間体(3組の突起の内、中央のCallusを前後のCallusとは独立した突起と見なすか、リップ基部側の腺状突起の一部とするかの判断の難しさ)のようなCallus形状が多くの株で見られ明確ではありません。

Phal. fasciata
Phal. reichenbachiana

 リップ形状が長楕円か楔型かをformや変種の分類要因とするのであれば、下記のPhal. lueddemannianaに見られるようにリップ形状は楔型から卵形まで、また花被片は卵形から長方形まで、さらに色や花柄も相当違いますが同じ種であっても、変種やformとして分類、あるいは販売上での固有の表記はされてはいません。

Phal. lueddemanniana

 同様にPhal. hieroglyphicaでは下写真のように、リップ形状も花被片の棒状斑点の色まで多様で、ヒエログリフ文字模様は上記のPhal. lueddemannianaの花被片の模様との間で区別が困難なパターンが多数みられます。これは匂いも同様で、Phal. lueddemannianaは良い匂いがしますが、Phal. hieroglyphicaは匂いが基本的にはありません。しかし稀にヒエログリフ文字模様であるものでPhal. lueddemannianaと同じような匂いがあるものがあります。この匂いのあるものをPhal. lueddemannianaだとすると、それではヒエログリフ文字はPhal. hieroglyphicaの決定的分類要因ではないということになってしまいます。

Phal. hieroglyphica

 さらにPhal. lueddemannianaPhal delicataとの間でのそれぞれの中間体のような形状があり、地域差と思われるような特徴もしばしば見られます。このようにPhal. amabilis系もそうですが、Phal. lueddemanniana系も共通してそれぞれの中間体のような形状がしばしば見られます。これらについての研究はあまり進んでいないようです。とくにPhal. cornu-cervi系はPhal. amabilisPhal. lueddemanniana系以上に広範囲な生息域を持つことで、多様な形態(カルス、色、匂い、Cluster性など)があり不明な点が最も多い種と言えます。

 一見、胡蝶蘭原種の分類についてはE.A. Christenson等の研究や著作物でほぼ完了したように思いがちですが、まだまだ未知の部分が多い属のように思います。


 5月の連休は、多くの洋蘭趣味家にとって植え替えの好機であるため、この時期、コンポストや鉢の在庫が少なくなるとの販売店の話です。今週は雨が長く続き植え替えも今一つ捗りませんが、フラスコ出し苗の植え付けと、2年目を迎えNBS(中サイズ)となった胡蝶蘭の、鉢サイズの変更を含めた植え替えがあって一苦労です。例年と変わった点は、オーキッドベースが販売中止となったためパフィオのBSサイズに対してこれに代わる植え込み材としてクリプトモス(杉の皮)を用いて50鉢ほどを植え替えを行っていることです。

 クリプトモスによる栽培はPaph. rothchildianum, sanderianumなど実績があり良く成長しますが、セラミックス(オーキッドベース)に対して潅水頻度をあげなければならないことと、セラミックスは2-3年間変更が不要であったのに対して2年でコンポストを交換しなければならない問題があります。早く無機質のコンポストを見つけることが今年の課題です。写真は100Lのクリプトモス4袋の到着時のものです。

 2月にフィリピンを訪問したことは本ページで取り上げましたが、Phal. amabilisとして販売されていた株で、現地でカルスを見てPhal. sanderianaであるとの判断から購入した株があります。搬送時に花は順化の負担をなくすため全て切り落としたのですが、新たな花茎から花芽をつけ今月開花したため再度確認しました。これが下記の写真(上段右)です。

 Phal. sanderianaは「今月の花」の4月ページで写真を掲載しましたが、通常花被片は薄いピンクや紫色で、花サイズはPhal. schillerianaよりはやや大きく、Phal. amabilisよりは小さいため余り人気のない花とされています。しかし今月の花で示した花(下写真上段左)は青味が強く、青い色の胡蝶蘭はPhal. equestrisの台湾改良種を除いて原種としては知られていないこともあり非常に綺麗で、この花柄を実生で継承できれば人気が出るかも知れません。これに対して上段右の写真の花被片は純白であり、albaタイプとなります。

 このalbaタイプのカルスはsanderianaであり、葉の表面もPhal. amabilisよりは濃緑色で、むしろsanderianaに近いのですが、裏は通常sanderianaがもつ紫色ではなくamabilisに近いと言えます。

 一方、これまでフィリピンでPhal. aphroditeとして入手した株を精査すると、胡蝶蘭原種58種の中のaphroditeの3-2-2項の「判別が困難な地域種」で記載したカルス形状をもつ株がこれまで3株ほど見つかっています。これらの生息地域が明確になればPhal. aphrodite, Phal. amabilis, Phal. sanderianaそれぞれの進化の関係が分かるかもしれません。フィリピンにはPhal. amabilisはPalawanと、ボルネオ島に近いTawi-Tawi島にしか確認されていないとのことであり、またPhal. sanderianaの生息地はMindanao島周辺に限られており、下写真の株は、Phal. amabilisからPhal. sanderianaへの進化の中間体なのか、他に3株ほど見つかっているものはフィリピン全土に生息するPhal. aphroditeからのPhal. sanderianaへの中間体なのか、あるいはそれらはすべて単純にPhal. sanderianaのalbaタイプなのか、albaタイプとすると入手確率としては高すぎるため、興味のあるところです。


Phal. sanderiana 一般タイプ

Phal. sanderiana alba

上段右のPhal. sanderiana alba のCallus

上段右のPhal. sanderianaの葉

 


4月

 今月はP. cornu-cervi、P. lueddemanniana、P. heiroglyphica、P. fuscataが開花しており、また花持ちの良いP. philippinensisが咲き残っています。一方、P. modestaP. delicata等が蕾をつけています。昨年に比べて開花時期がやや全体に遅れている感じがします。

 今年は4年ほど前から本格的に始めたフラスコ栽培の苗がBSサイズとなり開花を迎える年で、「今月の花」の写真に掲載しましたが、すでにいくつかの種で開花が始まっています。個人で行うのは自家交配がほとんどで、同種であっても地域が異なる株同士での交配は1割もありません。そろそろ会員の方に分譲ができるのでは考えているところです。

 4月とはいっても初旬の会津では夜は1℃になるような地域ですので、まだ灯油の消費があり、それでも冬に比べて著しく減ってホッとしています。温室の中では湿度を可能な限り高めており、その場合、通風が必須ですが、込み入ってくると風が届かない場所が生じ、その結果、高湿度のため、一部の株に緑色のコケが葉、茎、根に発生することがあります。このコケは古い葉に付きやすく、これらが新芽を除いて葉全体に覆い始めると、株はやがて弱り、痩せていきます。急に枯れることはありませんが、Vandaのような硬い厚い葉でも、厚みや張りがなくなり、やがて葉の数を落としていきます。

 出来る限り柔らかいスポンジで葉を拭いて、コケを擦り取り、水で洗い流します。そのような処理で大半は問題ないのですが擦った結果目に見えない傷がつくことがあり、葉に病気が発生することがあります。よって水洗いした後は薬品散布をしたほうがよいようです。

 筆者の温室では鉢数が多いため、この処理をしなければならない株数が多く、また4月頃がコケ取り洗浄の適期となるため大変な労働となります。特にここ2年ほどは温室が込み入ってきたためこの傾向が強く、コケがはびこるのは栽培環境の悪化を示すものでもあり、頭の痛い問題です。

 一般には4月から6月までの3か月間は胡蝶蘭の成長が最も活発になり、栽培の成果が試される時期でもあります。3年目を迎えるコンポストの鉢の植え替えもこの時期が適期です。

 1月の本ページでも述べたように今月から半年ほどかけて栽培法などについてページを更新する予定です。まず植え込み材から始めており、今月末にこのページの差し替えを行います。

2-3月

 東京ドームでの国際蘭展が終わり、夜間はまだまだ寒いですが、日中の晴れた日には寒冷紗を降ろさないと温室では30Cを超えるようになりました。会津では庭のロウバイが良い香りを放っています。

 2月23日から27日までフィリピンを訪問しました。今回は会員の方も同行しての買い物でした。フィリピンはメトロマニラ市で日中32Cあり、湿度はおそらく70%以上と思われます。夜間はやや過ごし易く26-7C程度でした。Quezon市において3年毎に開催されるFlora Filipina 2012の見学と幾つかのラン園を訪問しての買い物が目的です。世界的な経済不況が大きく影響したものと思われますが、3年前のFilipina 2009と比較して展示会の規模や売店の数は2/3から半分程度に縮小しており花の世界でも不況は例外ではない印象を受けました。

 会場はQuezon市のメモリアルサークルの公園内に設けられ下写真に示すように野外で飾り付けが行われていました。また販売ブースでは40程の業者が出店していました。

Flora Filipina 2012 at Quezon Memorial Circle

 ラン農園ではPurificacionが圧倒的な規模を誇り、3-4ヘクタールは全てランと観葉植物で埋め尽くされています。今回胡蝶蘭原種で入手したのは、stuartiana, schilleriana, pallens, amabilis palawan, lueddemannianaなどです。stuartianaは下写真左にあるように側がく片やリップは通常黄色ですが、ベースが純白(右)の変種と思われる株を発見しました。またamabilis名でラベルか付いていたsanderiana albaが掘り出し物というところでしょうか。最近はとにかく大株を買うと言うのがポリシーで、stuartianaschillerianaはすべて30cmを超える葉のものだけを選びました。

Phal. stuartiana

 一方、昨年までマザープラント(種を取るために栽培した親株)として販売しないと農園主が言っていた1.2m高を超えるVanda luzonicaの大株を入手できました。下写真がそれです。これまでこの大きさを超えるluzonicaは見たことがありません。5株程のクラスタとなっています。写真手前はVanda lamellataです。luzonicaもそうですが、フィリピンで最も絶滅に近いVandajavieraeがありますが、今回どのラン園にも無く、いつもストックされていたラン園にもありませんでした。Luzon島のMt. Pangasinanのごく狭いエリアにしか生息していない本種は、胡蝶蘭javanicaのように絶滅状態のようで、今後の入手はほとんど不可能と思われます。1200mの高地の生息であるためマニラでは高温すぎて育てにくいとのことですが、日本では気温が低いため問題なく育ちます。今年の最重要課題として、自家交配を行いフラスコ苗をフィリピンに戻そうと考えています。

Vanda luzonica
3月現在筆者温室にて
開花中のV. javierae

一方、ランではありませんので知識不足ですがHoyaのなかでも非常にめずらしいのでということでラン園で取っておいて頂いたものがHoya spartioidsです。写真の素焼き鉢の2つがそうです。小枝のような主茎に細長い7-8本の花茎が伸び、その先端に濃赤色の蕾を付けます。葉がない(茎の根元に小さな葉を時折付けるとのこと)植物です。購入時すでに蕾をつけていましたが、日本に帰って植え付けた翌日に開花し、花弁はオレンジ色でした。3日で花が散ってしまいました。深夜にしか開花しないとのことです。フィリピンにも生息するとされていますが写真はインドネシア産とのことです。Hoyaの種類と数の豊富さでもPurificacionはトップレベルと思われます。素焼き鉢の奥に見えるコルク付けはPhal. appendiculataです。

 今年は9月にMindanao島を再訪問しますが、インドネシアとマレーシアにそろそろ足を延ばす時期が来たと感じています。

1月

 このページを立ち上げてから3年目を迎えます。そろそろ内容が古くなった個所や、その後の栽培経験で得た新しい情報等も増えており、全面的に書き変えを行いたいと思っています。4月頃から本格的に内容更新を行う予定です。その際には今まで無かった初心者のための栽培ページも制作します。

 また現在会津若松の極寒のなかで暮らしていますが、今年9月頃を目途に浜松市大平台に移住する予定です。15m長ほどの大型温室を3-4棟、敷地内に建設します。こちらに移りましたら趣味家の人を対象に温室を一般開放したいと思っております。この際には胡蝶蘭だけでなくバンダ、パフィオまたカトレアも本格的に栽培する予定で、これら胡蝶蘭以外の野生蘭のページも2-3年はかかると思いますが立ち上げる予定です。

 さて2月は東京ドーム国際ラン展が18日(土)-26日(日)に開かれます。国内では入手が困難な胡蝶蘭原種が数店舗(特に台湾系のブースにて)で販売されると思います。コレクターは、できれば初日に出かけることをお勧めします。良いものは目の肥えた趣味家に先を越されてしまいます。

 一方、フィリピンでは2月24日(金)から3年毎に開かれるラン展Flora Filipina 2012がケソン市で開催されます。今回は筆者や本サイトの会員を含め8名ほどで出かけます。またついでにマニラ周辺のラン農園を見学を兼ねて買い付けも行う予定です。この様子は本ページで写真を含めて2月末にご紹介いたします。

 上記のような年初めの計画ですが、今年の大きな課題として、それぞれの海外の農園にカメラとPCを貸与し、膨大な品種と数のある農園にて毎週開花した花(胡蝶蘭だけでなく可能な限りすべての蘭)をネットで転送してもらい、会員ページに更新して、会員はそれを見て注文。1-2ヶ月毎に一度、注文品をEMSで送付あるいは現地受け取りを行う、新しいIT環境を利用したシステムを立ち上げることです。会員であれば海外送金の前払いは不要であり、安心して安価に購入ができると思われます。出来るだけ早く実現したい考えです。取り敢えずフィリピンから、次にマレーシア、インドネシア、タイ、中国とこれまでの取引や人脈を生かして広げていきたいと思っています。

 

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