胡蝶蘭原種を中心に月毎の出来事を記載したページです。内容は不定期に追加されますので常にページの更新をして下さい。

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気になった記事

 JOGA(日本洋蘭農業協同組合)レビューNo20の中で、Phal. bellinaについて「胡蝶蘭は栽培するのに温度が必要と思われがちですが、この品種は8℃位あれば十分栽培できます」との記事がありました。筆者の知る限り、胡蝶蘭で8℃で栽培可能なのはAphyllae属の高山性品種のみであり、しかもこれらは冬季の一定期間に10℃以下での環境が可能であって、通年でこの温度に耐えられるものではありません。また10℃以下での期間は通常落葉します。どのようにしてPhal. bellinaのようなボルネオ島生息の高温性の原種を、8℃で「十分」栽培可能なのか、趣味家のサイトではなくJOGA誌という権威のある刊行物の記事であるため、その栽培技術を教えて頂ければとつい考えてしまいました。つまり8℃で栽培可能な植込み材、鉢、潅水頻度、湿度、肥料、通風またその温度下での期間等です。8℃の環境で十分栽培が可能であれば、栽培コストは画期的に変わり、初心者にとっても容易に栽培ができるようになると思われます。おそらく冬季に一時的、それも数日であれば8℃程度になっても枯れることはないとは思いますが「十分」と言う表現が「元気よく」と同意語のようにも解釈できるため、はて?と気になった次第です。

属名変更

 今年の5月22日にRHS(英国王立園芸協会)のOHRAG(ラン交配登録に関する諮問委員会)において、ランの属名に関しての審議が行われ、DoritisSedirea属を胡蝶蘭Phalaenopsis属とすることになりました。DoritisはE.A.Christensonの著書Phalaenopsis A monographのなかで、すでにDoritis属3種をPhalaenopsis亜属のEsmeralda節として分類していました。しかしPhal. violaceaPhal. lueddemanniana系を含むPolychilos亜属や、Phal. amabilis系を含むPhalaenopsis亜属のそれぞれと形態的にはかなり異なることから、独立した属とするかPhalaenopsis属とするかは議論が続いていたようです。DNA分析による分類学以前は、形態的特徴で種の分類が行われており、可視的には分かり易かったのですが、今日ではDNA分析が主流であり、形態学的分類法は後退しました。今回の属名変更もこの結果によるものです。

 胡蝶蘭の先祖は何処で生まれ、現在の原種のどれに最も近いかは興味のあるところです。DNA分析による進化説では、先祖はAphyllae属で現在のチベット周辺で誕生し、タイ、カンボジア、マレー半島、ボルネオ島へと南下する過程で、それぞれ今日の属に含まれるランが誕生したとされています。すなわち胡蝶蘭の先祖はPhal. wilsoniiPhal. braceanaに近いことになります。

 話を戻し、Doritisは近年のDNA分析により、Phal. wilsoniiを含むAphyllae亜属と、上記したPolychilos亜属の中間に位置することが分かり、これら亜属はすでにPhalaenopsis属に含まれている以上、DoritisPhalaenopsis属と分離する根拠は薄れ、必然的にPhalaenopsis属へ組み込まれました。

 Doritis属とこれまでのPhalaenopsis属に含まれるそれぞれの原種との大きな相違は、Doritisが自然界においては着生ランではなく地生ランであることです。また生息域はインドからタイ、カンボジア、ベトナムで、生息地域では明確な乾季があり、Doritisは進化の過程で、そうした乾季に対処すべく地生化し、また僅かな水を成長点に集められるような葉様態となったとの説があります。これまでの分類によるPhalaenopsis属の中で地生のランは、オーストラリア・クイーズランド生息のPhal. amabilisの亜種であるrosenstroniiの一部に見られるのみ(但し筆者はこれまで自然界での地生様態の実写を見たことがありません)とされています。岩生はAphyllae亜属以外にPhal. sumatrana, Phal. maculata, Phal. lowii 等が知られています。この意味でもDoritisはこれまでの胡蝶蘭とはかなり異質な特性を持っています。

 一方、OHRAGにおいて、Sedirea属もまた胡蝶蘭に加わりました。Sedireaとは聞きなれない名称ですが、これを逆さに読むとAeridesで、Aerides属はodorataなど20種程からなる東南アジアに広く分布する良く知られた美しいランです。このことからSedireaとは洒落で付けた属名の如きです。Sedireaは1属2種で、その一つはナゴ(名護)ランとして日本人には良く知られています。伊豆諸島から南西諸島また朝鮮半島に生息し、着生および岩生です。学名もSedirea japonicaで「日本」がつく名前です。これまでPhalaenopsis属のランは日本に生息していませんでしたが、ナゴランが胡蝶蘭とされることにより、種名変更がなければ、日本名をもつ胡蝶蘭Phalaenopsis japonicaが生まれることになります。

冬季の浜松温室

 11,12月は胡蝶蘭原種の最も開花の少ない時期です。春から咲き続けていたPhal. bellinaPhal. cornu-cervi系のほとんどは11月に入って花期が終わり、Phal. violacea mentawaiPhal. lamelligeraだけが咲き残っています。一方でPhal. amabilis系とPhal. lueddemannianaが花茎を伸ばし始めました。4月の転居で胡蝶蘭原種を1株づつラべリングしないで種毎に纏めて梱包送付したため、これらを浜松で開封した際の手違いからPhal. lueddemanniana, Phal. hieroglyphica, fasciata, equestris, cornu-cervi系の一部が混在してしまい、花が咲くまではどれがどれなのか分からない状態となってしまいました。夏季咲きのPhal. hieroglyphicaはすでにほぼ同定できましたが、Phal. lueddemannianaは今月末あたりから開花が始まり、こちらもようやく決着がつきそうです。また昨年の今月の花のページを見ると、Phal. pallensの多くが12月に開花していますが、浜松ではまだ花茎の段階で1株も開花には至っていない状態です。

 この文を書いている12月1週目の浜松の気温は最高と最低でそれぞれ15℃と5℃ですが、晴れた日の寒冷紗をかけない温室では、9時ごろから25℃を超え、正午ごろには30℃以上となり、それが15時ごろまで続きます。浜松の最低温度が会津では最高温度となっています。しかも浜松では晴れの日が圧倒的に多く、全く気候が異なります。温度センサーで換気扇を制御し、外部の冷気を取り入れて27℃に押さえています。11月4週目からは寒冷紗は常時開放しています。浜松であれば2月末までこの状態を続ける予定です。一方、夜は灯油暖房で17-18℃に設定です。中空ポリカを2重にした壁に、さらにサニーコートで温室内部を密閉した冬期対応の構造が、断熱と保温効果を高め夜間18℃の温度設定であっても、12月初旬で比較して温室体積が会津の6倍ほど広いにもかかわらず灯油の消費量は会津よりも少なくなっています。

サニーコートで全面を覆った構造。自動天窓はコートの外側となり見えない。春から秋にかけては上部コートは取り外す構造となっている。左写真は1棟分で奥行き15m、右写真は4棟共通通路で奥行き22m。天井や壁空間に温室内部の空気が漏れないようにサニーコートの接続面はビニペットで密封している。

 4棟それぞれの温室には高湿度を得るため、水耕栽培用の発泡スチロールを利用した水盤をペンチの下に設けており、おそらく昼間の温度で水盤の水が温まり、夜間の温度の降下を弱める役割を果たしていると考えられます。現在と同じ体積の温室(15mx5.5mを4棟)を市販温室のカタログ仕様で会津にて建築し、最低温度を18℃に設定した場合、会津の知人の温室から推測して12月から3月末までの期間における灯油暖房消費は50万円/月以上になると思います。この経費は月毎ですから灯油による暖房はコスト的に到底困難で、重油による暖房システムが必須となります。一方、浜松では、前記の温室構造と温暖な気候により、会津の1/10以下となり、温室の体積に対しての仕様からはパワー不足と考えられる総和工業のSP-1210Aを各棟に1基、全体で4基使用していますが、これで十分です。

 温室建築前に保温以外で心配していたのは灯油暖房機の騒音です。会津ではポリカ1枚壁と2枚壁の2棟を独立して建て、灯油暖房は1枚壁の方に、2枚壁はエアコンを使用していました。暖房器は総和工業製でしたが、冬の深々とした温室の外ではかなりの騒音がありました。園芸用の暖房機であっても住宅街において温室が隣家と近接していれば、例えば上記のSP-1210Aを4基同時に稼働した場合、間違いなく騒音のクレームがでると思われます。1台でも可能性があります。会津若松で問題がなかったのは、冬季はマイナス8℃以下となる地域であり、新興住宅地域で殆どの家では窓や出入り口は2重サッシや特殊な断熱設計で建築されており、遮音効果も高いことによるものでした。浜松の現在の温室は、10㎝離した2重の中空ポリカを壁と天井とし、さらに温室内部をサニーコートで密閉状態に覆って断熱・保温する構造とすることで、音漏れも同時に抑えました。この結果、温室外での音は一般のエアコンの室外機と同等かそれ以下の音になりました。建築前はクレームの心配から、夜間は23畳用のエアコンに切り替える目的でこちらも4基取り付けましたが冬季にこれらを使用する必要はなくなり安心しています。

 浜松であっても寒冷地並みの温室の断熱・保温対策と、その結果としての光熱費のかなりのコストダウンは厳冬の会津での10年の温室栽培の経験が生かされたと思っています。

Cleisocentron merrillianumに見る価格 

 商品の価格は需要と供給で決まるのは言うまでもありませんが、時としてランのような趣味家を対象とする商品は、それに加えて誰よりも早く手に入れられるかどうかのタイミングもまた値踏みに強く影響を与えるようです。Cleisocentronの小さな青い花が今年の東京ドーム国際蘭展で話題になったそうで噂によると、時期は不明ですが当初1株が20万円程で販売されたとのことです。現在ネットでも本種が販売されており、それでも20㎝ほどの株で6千円以上、大きな(背の高い)株では数万円するそうです。ランの中ではかなり高価な部類となります。下写真は10月の歳月記で掲載した本種で、マレーシアにて25㎝-40㎝高を30本程購入しました。写真左は現在順化中の一部です。国内の販売価格から考え、順化が非常に困難な種かとも思いましたが、写真中央および右上段に見られるように凡そ1ヵ月で全く根のない状態から根が出始めました。緩やかな風通しと比較的明るい場所に置いています。現在はミズゴケに向かって伸長しているところです。1株も順化に失敗する様子はありません。下段中央は蕾が出始めたもので、これらの様態から本種は順化の容易な原種に入ることが分かりました。

 マレーシアのラン園に9月末にこの原種を、価格を知らないまま発注した時、入手は困難ではないかと思いましたが、あっさり発注本数が用意されており、尋ねたところボルネオ島産で特に入手難ではないとのことでした。価格は20㎝から50㎝高の株で一律、1株30リンギッド程度であり、日本円で1,000円程でした。国内への持ち込みを考えると、歩留りやドキュメント、搬送費、その他の費用から原価としては倍の2,000円程度になると考えられます。写真下段右に示すように一花が1㎝ほどの小さな青い花で、多輪花ではあるものの見た目地味なランと感じたので、30リンギッドは高いとラン園オーナーに言ったところ、次回の価格は20リンギッドでも良いとのことでした。つまり700円程です。日本では子株であっても現在5,000円以上すると説明したところ目を丸くして驚いていました。

 容易に手に入る本種に対し当初のウン十万円という価格は、このランを目的にマレーシアに出向き持ち帰ったのかと、昔のイギリスのサンダー商会のように貴族からラン探しを頼まれ中南米や東南アジアにハンターを派遣し、アンデスやボルネオ島の熱帯雨林から命がけでランを持ち帰る様子をついイメージしてしまいました。現在ならば、さしずめ航空運賃と滞在費が、1株のランにそっくり反映された?のかと。同じボルネオ島Sabah州からの胡蝶蘭原種のPhal. amabilisより安価ということは、おそらく現地では関心が無いだけでなく、入手も容易であることを意味しており、果たして日本の購入者がこのような状況を理解しているのか、それとも1年後には価格が2ケタ近く安くなっても、誰よりも早く手に入れることこそ価値があるのだとの目論みで購入しているのか、人は、特に趣味の世界では、様々と言いますが、同じ趣味家としてはそのあたりの心境に興味があります。

害虫

 晩秋から初冬を迎え夜間の外気が10℃を下回るようになると、温室ではナメクジや小さいカタツムリをよく見かけます。乾燥と太陽の直射光を嫌うこれらの害虫は梅雨時期に最も盛んに活動すると言われます。しかし温室では晩秋から初冬に、花や新芽の被害が一番多いように感じます。これは外に出していた鉢を室内に戻したり、寒い季節を迎えると常時温度・湿度共に高い温室を狙っての外部からの侵入があるのか、春先の産卵前の越冬に対してより多くの食物を摂取する必要から動きが活発になるのか、あるいはそれなりの数は温室に通年居るものの、温室では外気が冷えることでカーテンに水滴が付き、そこを這うとナメクジやカタツムリの粘液跡が残り、その存在が認識しやすく特に晩秋から冬季に多く見かけるように感じるのかなどいろいろ考えられます。市販のナメクジ退治用の防虫剤を撒けば対応できますが、特に小さいカタツムリ類は完全駆除とはいかないところが厄介です。問題は2年前の歳月記にも書きましたが、この種の害虫は軟腐病など細菌性の病気を媒介するとされています。確かに齧られた痕跡の周りに水浸状の病気がしばしば発生しているのを見受けます。会津では10月頃、粒状のメタアルデヒド粒剤を撒いてきました、浜松では1ヵ月半後の11月中旬になります。

 秋以降浜松での害虫被害は上記以外に主茎先端を食害する3-4㎜ほどの幼虫によるものです。頂芽の生え際付近が黒変化し、頂芽がスッポリと抜け落ちる症状です。こうなると単茎性の胡蝶蘭は致命的です。頂芽が抜ける段階ではすでに広範囲に進行している細菌やカビ系の病気と異なり、頂芽周辺だけの狭い範囲がダメージを受けているため、その後の対応(2次感染を防ぐための薬剤散布)が良ければ、やがて脇芽が発生し再生もあります。しかし脇芽が開花株までになるには2年あるいはそれ以上の時間がかかります。このためこの被害は最も深刻です。今回被害のあった株からこの虫をピンセットでツマミだしマクロレンズで撮影した写真が下記です。

 写真はPhal. bellinaで左が主茎の頂芽の部分です。葉はすべて取っています。写真からは芯が黒変しているものの根自体はダメージを受けておらず新根もあり、この点が疫病等とは異なります。芯の黒くなった部分は幼虫のフンも混じっていると思います。また中央写真は葉元が食害されて欠損し、その周りが黒く変色しており、写真中央左の葉に孵化幼虫の侵入跡のような傷穴があります。どうやら頂芽周辺の葉元に卵を産み付け、孵化すると幼虫は穴を開けて芯に入り込むか、あるいは親が穴を開けてそこに産卵したかのようです。

 これまで、この種の被害をたびたび受けており、幼虫はハモグリバエ類と思っていました。しかし右の幼虫の写真からは頭の部分から甲虫類のように思われます。書籍(福田著:洋蘭の病害虫防除)によると、ランにおいて茎の成長点部に侵入して食害し頂芽がすっぽりと抜ける代表的害虫としてハモグリバエ以外にゾウムシの幼虫がいるとのことから、右写真はこの虫の可能性があります。ゾウムシ類はかって米櫃の中にしばしば見られたコクゾウムシや、ドングリの実などに穴を開けて食害する長い口吻を持った甲虫で知られていますが、ランを食害するのは雑食性のヤサイゾウムシという種らしく全国に生息し、越冬に入る晩秋から活動を始めるのが特徴とのことで、時期的にも合います。

 今回被害を受けたのは胡蝶蘭5株ですが、興味があるのは(と言っても腹立たしいのですが)数百株が密集した栽培環境の中で、なぜかPhal. bellinaPhal. violacea mentawiを、またこれらは野生と実生株が混在して同じ場所に置かれているのですが、野生株のみを食害し、実生株には見向きもしません。相当なグルメと思います。グルメは冗談ですが、雑食性とは言え50種以上胡蝶蘭がある中でこれらを選んだには何か選択する要因があるのかも知れません。ゾウムシに対しては殺虫剤アクテリックは指定されておらず、オルトランを使用します。この害虫による頂芽の無くなった株はそれまでと同様の環境に置いて栽培を続ければ季節にも依りますが2-3か月で脇芽を発生することがあります。それでも発生の無い場合は芯の深部までが齧られており再生不能と思います。

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長期間植え替えのなかった株の植え替え

 浜松に引越しの際、会津の知人から引き継いだデンドロビウムの植え替えについて取りあげてみます。素焼き1,200鉢(プラスチック鉢を含めると凡そ1,500株)相当のデンドロビウムを引き継いだことは7月の歳月記に記載しました。9月から植え替えを連日行っているのですが今だ半数も達成していません。その原因は、素焼き鉢とミズゴケ栽培で5年近く植え替えが行われなかったため、鉢内は根が回って固まり、手の施しようがない状態からの作業であるためです。5年間の植え替え無しは一般の栽培家には経験が無いと思いますが参考のため、どのようにして植え替えを行っているかを取りあげてみました。

 潅水、温度、通気は温室にて管理されてきた反面、植え替えと施肥を一切行わなかった株は、株の大小に関わらず成長した脇芽が鉢からはみ出し、根は鉢外周に、多くは空中に伸長したままです。当初に植え込まれた鉢内の茎の半数は老化で枯れ、品種によっては多くの高芽を付けたり、殆どが鉢外にせり出した茎だけが葉をつけている状態です。


Den. laxiflorum2株を横に寝かせた写真です。写真上は5号、下は4号鉢です。はみ出した根で写真上の鉢は見えなくなっています。

鉢表面は厚いコケに覆われミズゴケは見えません。鉢内の茎は老化、あるいは葉の無い状態です。こちらは左写真下の4号鉢です。

このようになった鉢の植え替えには金槌、剪定鋏、ドライバーが必要で、剪定鋏も植木用です。およそランの植え替え道具とは言えません。

金槌で素焼き鉢を割り、株を取り出した状態。根は隙間なく張り巡り、金槌で叩いてもびくともしません。素手で根をほぐすことは不可能です。

左写真のようにドライバーを深く差し鉢底方向に割きます。バリバリと音がし、剪定鋏で切るよりは生きた根が残ります。ほぐした後の写真です。

左とは別の株の写真です。この段階で根の2/3はちぎり落とされ1/3が残る状態です。鉢内部の根は大半が切断されています。

別の株の鉢内の根の写真です。根のほぼ全てが死んでおり、これを整理すると根が殆ど無い状態となります。

上段の株で鉢外側にはみ出した部分を株分けした後、ホースシャワーのジェットモードでミズゴケを取り除いた状態です。

根を剪定後、バリダシンとタチガレンエースの液に15分ほど浸けます。これは切断面からの病気感染を予防するためです。

薬剤液から取り出し、一旦根の表面を乾かします。ここまでで一般の入荷株同等の状態です。1株当たり平均30分を要します。写真の根は鉢外の部分です。

大きな株の場合、今回はクリプトモス大サイズと中サイズを2:1で混ぜ合わせたコンポストとしました。活性剤入りの水桶に暫く浸したのちに取り出した状態です。

 植えつけ後の写真です。30株分の鉢を割って株を取り出し、株分けで4-50株程にし、植え付け完了までの時間は朝8時から夕方4時まで作業をし3日間で、内訳は消毒までが2日、癖のある茎を垂直に矯正しての植込みに1日です。通常の購入株の30株程度であれば5-6時間で全て終わるところです。

 上記写真のDen. laxiflorumは大きく成長する株です。一方で小さな品種の場合は簡単に根がほぐせるように思われがちですが、こうした品種は根が細く鉢内ではさらに密に交差して殆どが大株以上の硬さとなっています。大きな問題は2つあり、一つは茎数が増えて株分けが必要であるものの特に小型の種では根元が複雑に入り組んでおり、4茎程度を一単位として株分けする適切な切断箇所を見つけるにはかなりの経験を要します。このため、この作業を学生アルバイトで対応することができません。2つ目は、切断しても固まった根をほぐすには大変な力が指先にかかり、9月から始めているのですが、連日の作業で右手の中指と薬指は関節炎となってしまいました。最近は朝起きた時、指が曲がったままで真っ直ぐ伸ばすことができません。メールやサイトの更新文も痛みが走るため右手は人差し指一本でキーボードを打つこともあります。このような状態の株が1,200株程ある訳ですから、上記の手法で1日8時間かけて約120日間を要します。9月から毎日のように作業して3ヶ月経過しましたが3割程しか進んでいません。この状況では年末から正月も植え替え作業に追われそうです。知人で浜松城の庭を手がけている庭師の方が頻繁に訪れてこの植え替え作業を毎回見て、好きでなければできないねぇ、といつも同情して帰って行きます。今年の夏から本サイトの会員に温室を公開するとした当初計画が大幅に遅れている原因です。しかし胡蝶蘭の植え替えは8月末で完了しているため、デンドロの植え替え途中からでも来年早々には公開する予定です。

 一つ幸いであったことは、皮肉なことですが植え替えをしなかっただけでなく肥料も施さなかったこと、また潅水で水が全体に行き渡らない程、根が固まっていたため、鉢内のミズゴケは腐敗が少なく、その結果根の老化や枯れはあるものの病気が発生しなかったことです。おそらく通常の施肥をしていたら殆どの株は枯れていたかも知れません。

 胡蝶蘭で5年間も植え替えをしない経験がありませんので分かりませんが、水分をデンドロ以上に要求する胡蝶蘭で、ミズゴケと素焼き鉢の栽培ではまずコンポストが腐敗し3年目程から弱り出し、やがて株が小さくなって4年程で枯れると思われます。コルクやヘゴ板等への取付は長くもちますが、それでも4年程度が限度で植え替えがやはり必要となります。

フィリピン巨大台風30号被害について

 フィリピン中部を直撃した台風30号の空前の被害については周知のことと思います。レイテ島タクロバンの状況は連日、テレビニュースで取り上げられおりその惨状は想像を超えるものがあります。フィリピンには隔月で訪問しており、お世話になっている複数のラン園に被害状況について、また援助できることがあればとの問い合わせを先週末に行いました。マニラ周辺のラン園は家族、農園共に無事であることが確認できました。園主によればニュースには余り取りあげられていませんが、レイテ島以上にサマール(samar)島の被害は甚大なようです。現在日本が行っている援助・救済活動について大変感謝しているとのメールももらいました。

順化3

 10月の順化2で掲載したランのその後を報告します。順化には大きく分けて3段階ほどあり、第一段階は植え付け後2週間程の間、3ヶ月間および1年間です。最も重要な期間は最初の2週間ほどで、この期間の観察と対応で大半の胡蝶蘭原種は順化の成否が決まります。

 最初の2週間程は、根や葉は移植後すぐに動き始めるamabilis系の一部を除いて余り変化はありません。通常は古い葉がその先端部から黄変し始めるのもこの時期です。この度合いは根の状態に依存します。根が健全であれば黄変は起こりません。ごく僅かに頂芽が動きます。問題がなければ、全体としては植え付け時に比べて葉に張りが出るといった変化です。この期間の最も重要な条件は通風です。植付けた根元を揺らすような強い風はダメです。

 一方、全く変化が無くむしろ全体が弱まってきた場合は、環境が合わない、植込み材の誤り、感染あるいは潜在的な病原菌が移植による弱体化等によって表面化したことが原因となります。この場合は直ちに対応しないと1ヵ月程で枯れてしまいます。しかし対応と言っても実際は対応のしようがないのが普通です。言い換えればそのような株を選んだことや、順化方法(植え込み材と鉢の選択)にすでに誤りがあったということになります。一方、種によっては移植を嫌うものがあり、順化でしばしばとり上げているPhal. doweryensis, cochlearisおよびPhal. appendiculataなど小型のランがそれらです。これらは順化が済んだものを入手するのが重要で、ポットや支持体に取り付けてあればそのままで数ヶ月間自分の環境に慣らし、その後植え替えが必要ならば春あるいは初秋に植え替えを行います。

 最初の2週間ほどと、その後の栽培方法の違いは、最初の2週間は植え付け時、1回活性剤を与え、葉散布の液肥を通常の1/2から1/3の濃度で週1回程度与えます。水は通常通りです。この液肥と潅水は、一般の書では1-2週間は控えるようにとあります。この点は筆者の栽培法とは異なります。

 何故違うかと言う点ですが、植え付け時に根を整理する際、死んでいる根と生きている根の境目を切ります。よって生きた根の一部も切ることになります。そのため筆者は、切断した後に根の殺菌を行います。時間が無く面倒な場合や、植え替えの株数が多い時もあり、この場合は前に取り上げたバリダシンとタチガレンエースの規定希釈に株か、それとは逆にミズゴケやヘゴチップを数分浸けたもので植え付けを行います。よって切り取られた場所から雑菌が入り、根が腐ることを極力避けているため、ほぼ通常通りの潅水と液肥を当初から与えることをしています。むしろ、1-2週間も潅水を控えたりすることの方がその後のダメージが大きいという経験からの判断です。これはカトレアなどのバルブに水分を含んだ種とは異なる対応です。もっとも筆者はカトレアでも植え付け時から数日間も潅水を控えることはしません。1週間以上も水を控える理由が根の切断面が閉じるのを待つためというのであれば、根を消毒した後、半日ほどそのままにして乾かしてから植付ける方が確かです。

 2週間ほどでやや張りが出てきたかなと感じれば、第2段階となりますが週に1回程度の葉散布の液肥を与える程度で様子見となります。3か月間での問題は病気の発生の可能性です。この間、頂芽の伸長、新しい芽の発生、根の伸長が盛んに見られます。もし植え付け後3か月の間、何も変化が無いようでしたら環境に問題があり、温度、湿度および植込み材(あるいは植込み方法)が適切ではないことになります。植え替えから2-3ヶ月の間に、花芽が発生し、花が付くこともあります。植え替え初回は2-3日観賞したならば株に負担をかけないように切り落とします。ましてタネを採るために交配することは作落ちの可能性が極めて高くなりますので避けます。

 第2段階が終われば後は四季のある1年間を如何に無事に栽培するかで、温度、湿度、潅水、輝度、通風のそれぞれを株の状態を見ながら経験を積むことになります。この間の注意点は、株が少しでも元気がないと感じた時は直ちに何らかの対応が重要で、かなりヘタってしまってからでは手遅れです。病気を除き株が弱まっている場合は、生きた根がすでに1-2本しかない場合がほとんどです。そのままでは間違いなく全ての根が死に枯れます。鉢のサイズ、種類、植え込み材を変える、また輝度を下げるなどの対応が求められます。葉に水浸状や黒い斑点が発生した場合は病気で小さいうちに切り落とし、切断面に薬品を塗布します。前にも述べたように特に水浸状の細菌による病気はその部位に例え原液薬を塗っても殆どのケースで止まることはありませんので切断することが最善です。葉は新しく生まれますが、茎まで病気が進行しては再生はできません。

 以上が大筋です。順化期間は葉や根の伸長が確認された後、1-2ヵ月間となります。移植の難しい品種では根が支持体に十分に活着する期間が必要であり、また発病の可能性もあるため3-4か月は環境を変えない方が無難です。一方、amabilis系は1ヵ月程度で根が張り出し、順化期間は2ヵ月もかかりません。

 上記の内容からは、ランを育てるのは大変だと思うかもしれません。しかし、問題が発生するにはそれを引き起こす原因がその前にある訳ですから、その原因を予め取り除いておけば手間はほとんどかかりません。ランも必死で生きようとしている筈ですので人が思う以上に丈夫であり、わずかな栽培のコツを会得すれば、庭の草木と変わりません。筆者は今年のような夏の猛暑では庭の木を育てる方がむしろ難しいと感じています。

 下写真は9月および10月の歳月記で植え付け直後の状態を取り上げた原種のその後の状態を示します。


Phal. doweryensis 10月21日撮影。植え付けは9日。

Phal. doweryensis 11月8日撮影。左と比較して、頂芽の伸長が見られます。すでに古い葉は落ち、その後は順調と言えます。

9月掲載の21株のPhal. schillerianaクラスターのその後。2ヵ月程でかなり葉に張りが出てきています。

Phal. doweryensis 植付け1ヶ月後新しく発生した頂芽

Phal. doweryensis 植付け1ヶ月後新しく発生した頂芽

Phal. celebensis 植付け1ヶ月後の新芽

Phal. celebensis 植付け1ヶ月後の根の伸長

9月掲載の13株Phal. schillerianaクラスターのその後

Phal. fimbriata 植付け1ヶ月後の葉の伸長

9月掲載の15株Phal. schillerianaクラスターのその後

 

Phal. Chibaeについて

 ベトナムの固有種Phal. chibaeは千葉雅亮氏によってダラットで発見・採取され、氏の名が付けられた胡蝶蘭です。ダラットは北緯12度、海抜1,500mに位置し、年間平均最高気温は24℃、最低気温は16℃と、夜間は肌寒い期間の長い地域です。このためPhal. chibaeを国内で栽培するには、例えば東京の初夏6月から晩夏9月の間は、生息地と比べかなりの高温環境となり、この期間は可能な限り温度を下げることが好ましいと思われるかもしれません。

 しかし今年、2月に海外から入手したフラスコから5月に苗を取り出し栽培した限りでは苗に高温対策が必要と感じたことがなく、浜松の温室栽培では4月から昼間で30℃、夜間20℃前後となり、また今年の夏は猛暑で34℃もしばしばでしたが、この環境であっても苗は休むことなく順調に成長しました。フラスコから取り出した苗はマレーシア原種専門ラン園での手法に習い、小さな半透明プラスチック鉢にミズゴケという組み合わせです。ポットはベンチの下段に置き、かなり低輝度となっています。プラスチックポットにミズゴケの場合、ヘゴチップとは異なり過水状態になると思いましたが、これが意外に良く成長します。フラスコ出し苗は4年ほど前まではオーキッドベース、それ以降は細断したヘゴチップで植えつけを行っており、ミズゴケは浜松に来てからとなります。

 ミズゴケでの植付けはPhal. appendiculata、deliciosa等でも、いずれもこれまでにない安定した成長をしています。この安定とは、成長サイズがほぼ均一で、バラつきが少なく、落ちる苗がほとんどないと言う意味です。それまでは成長によるサイズはかなりバラツキがでました。この結果からこれらの原種小苗はかなりの水分を必要とするのか、あるいは一時的であっても水切れを非常に嫌う性格があるかのようです。写真はPhal. chibaeの5月末に移植した苗です。


Phal. chibae deflask seedling 6月12日撮影

Phal. chibae deflask seedling11月8日撮影

 Phal. chibaeのように中サイズの原種でこの写真が示す約半年間の成長としては、これまでのフラスコ苗には稀な速さと言えます。特に今年は猛暑が長く続いた中での成長でもあります。

 一方、会津でのPhal. chibaeの栽培は、上記写真のサイズに成長した段階でヘゴ棒に移植する方法を採っており、1年間程は順調に成長し続け、開花も毎年しました。しかし3年程経過するとやがて根が棒上でオーバラップしたり、青苔が付着したりし次第に株が弱まって行き、成長が止まる傾向が見られるようになり、ほとんどが弱体化しました。このヘゴ棒に取り付けての栽培はPhal. chibaeだけでなく、Phal. appendiculata、parishii、 lowii、minusなども時間的経過と共に同じような傾向となっています。この弱まったPhal. chibaeを1年ほど前に一部をヘゴ棒から外し、やや大き目のプラスチックポットとヘゴチップの組み合わせの移植を行いました。その際のリーフスパンは凡そ12-3㎝ほどと記憶しています。下写真はその後の株の状態です。


Phal. chibae

  写真ではヘゴ棒ではまず得られないサイズに成長しており、リーフスパンで19㎝ほどとなっています。特に全体としてしっかりとした葉幅と厚みを感じます。この株もここ半年間は、かなり低い輝度の下で栽培されたものです。このような栽培を通して推測できることは、水分過多を避けるためコルクやヘゴ板に取り付けるという考えは、必ずしも人工栽培において技術的に最適とは言えず、Phal. chibaeはポット植えが適していると思われます。これは本サイトの植え付けページで述べており、1-2年はコルクやヘゴ板(棒)でも良いのですが、株の張り出しや、植込み材の交換が難しいことに一因があります。しかし葉あるいは花茎が長く下垂するタイプや花が葉の下で開花する種はBSサイズともなればポット植えは適しませんので、かなりのミズゴケやヘゴチップ等で根の周りを覆ってヘゴ板やコルク等に取り付けることが好ましいと考えられます。

 フィリピンのラン園やマレーシア趣味家を訪問してヘゴ板に取り付けられた原種を見ると、これら国の高温多湿の環境であっても、良く成長している株は根をかなりの量のミズゴケ類あるいはヘゴチップで覆っており、かってビディオで見た、根が枝に貼りついていたボルネオ島の自然環境での着生蘭の映像とはかなり異なることに気付きます。自然界では人工的な環境とは違い自由に根を張る空間があり、生きた根全体の体積は我々の想像以上に大きく、こうした違いが栽培方法(植え込み材や支持体の種類と方法))に影響するのではないかと思っています。

 下写真はフィリピンにて自然環境と同じような野外での栽培で、支持体(木の枝)に取りついた胡蝶蘭原種の根の様態を示したものです。ヘゴ棒などによる人工栽培では古い根は2年も経てば死んで乾燥し、その上に新しい根が張っていきますが、この写真の株は根が何層にも重なっており、また殆どの根が生きています。根の塊自体が、隙間に入り込んだ雨水を保水する構造となっているかのような密集度です。一株から生えた根は葉や茎のサイズと比較してアンバランスな程長く且つ多く、その体積を考えると保水性と、光合成で得た炭水化物を根菌によって栄養素に変える十分な容量があるように思えます。人工栽培ではこのような根張りを得ることはまずありません。

 最近の栽培でフラスコから出した直後から1年程度の小さな苗は立ち性、下垂性に関わらず、プラスチックポットとミズゴケで良い成長がみられるものの、この問題点は、やがてミズゴケの表面が苔で覆われ、一部ではやがてこのコケがヘドロ状になり見た目に良くないことです。これを避けるため潅水を控えては意味が無く、ミズゴケに代わり得るものとして現在、クリプトモス(杉皮)の中サイズでテストを始めています。クリプトモスでは苔の付着はあまり見られません。クリプトモスは数年前までは大サイズしかなく、小苗の植え込み材としては不適でした。現在は中サイズや小サイズが市場で得られるようになり、小サイズに至っては粉末状となっています。この小サイズは使用できませんので、フラスコから出した直後の苗には中サイズを用い、やがてリーフスパンが10㎝程度となった段階で中サイズと大サイズを混合調整して植え込みを行う予定です。ヘゴチップも入手難になりつつある現在、クリプトモスは日本固有の植え込み材で豊富にあり、また胡蝶蘭原種のほとんどで実績があるため、サイズの組み合わせが容易となれば次の植え込み材として期待しています。

野生株と栽培株との違い

 昨年6月の歳月記(マレーシア訪問その4)にも記載したように野生株(自然状態に近い環境での栽培)と栽培株(ポット等による園内栽培)との大きさの違いには驚かされます。野生株は、既存出版物に書かれたサイズよりも遥かに大きく、定期的な施肥を行う人工的な環境で育てた方が大株になるのではと思われがちですが、実際はその逆となっています。

 自然環境において大小さまざまな支持木に着生する胡蝶蘭にとって、自然からの栄養源は自らが光合成で生成する炭水化物以外に、腐葉、昆虫の死骸、鳥や林冠を移動する小中動物のフンなどが考えられます。しかしこれらはいずれも確実に保障されるものではありません。とすると、我々が見ている株は、栄養源がたまたま豊富な場所で大きく成長した株が、オーキッドハンターの目にとまり選択的に収集されたのかも知れません。日本では春と秋に葉や根が伸長し活発に成長しますが、生息地では成長に適した環境条件が1年の大半を占め、そのため成長持続期間が長く、大株になるのではと言う見方もあります。確かに熱帯雨林などの地域を除いて、明確な乾季や雨季あるいは休眠期間のある地帯に生息するランで、葉そのものが異常に大きくなった株は余り見たことがありません。

 それでは人工的に成長に適した温度や湿度を与え、十分過ぎるほどのミネラルやビタミンを含む肥料を与えた場合にどうなるのかと3年ほど前に試みたことがあります。結果は、葉や根といわずコンポストまで苔に覆われ逆に成長が阻害されてしまいました。単にそうした条件だけでなく、温度、湿度、肥料の微妙なバランスや、成長ホルモンを活性化する自然界でしか得られない菌の働きや酵素も必要なのかもしれません。それほど単純ではなさそうです。

 葉の伸長以外で野生株と栽培株に良く見られる違いは、野生株はやや細長い長楕円形で、一方、栽培株では野生株と比較して幅広の楕円形となります。これは野生株を栽培した場合でも、そこに新しく発生した葉は丸みを帯びてしまい、野生株ほど長くはなりません。Phal. giganteaPhal. bellinaでしばしばこの違いが現れます。さらに詳細に観測すると、野生株の葉に比べ栽培株はやや厚みを感じます。自然界では光合成によってより多くの養分を生成するために、必然的に大きな葉になるのかとも考えましたが、幅広の栽培株と、細長い野生株の面積や体積比までは調べたことはないため不明です。葉が長く伸びるか、やや厚みのある幅広になるか、何らかの要因があっての変化であるのは間違いないと思いますが、自然と人工の環境の違いによる形状差がなぜ生じるのか興味があります。

 かってVandaなど根が垂れ下がるランで、十分な水分があれば根は水を敢えて求める必要が無く長く伸長しない、よってやや不足気味に与えたほうが根の成長が盛んになると聞いたことがありますが、この説は甚だ疑問です。水分の多少にかかわらず、環境条件が良ければ殆どの着生蘭は驚くほど根は長く下に向かって伸長します。フィリピンの農園でのVandaは1mを超える根はごく普通に見られ、健康な株は、茎の一番上の根の根元から頂芽までの長さと少なくとも同じか、それ以上の長さの根になっています。胡蝶蘭原種ではPhal. cornu-cervi系、fuscata系、またPhal. equestrisに見られ、気が付くとベンチの下にかなり長く伸びていることがあります。

 下写真はPhal. modestaの野生株(左)と温室栽培株(右)を示しています。いずれもFSサイズです。野生株は葉元から先端まで27㎝あり、一方、栽培株は12㎝程です。我々がマーケットで見る株はまず例外なく後者です。凡そ2倍の葉の伸長差があり、温室栽培ではPhal. modestaを左のような葉長30㎝に近い大株にすることは困難です。

 下写真は野生株のPhal. viridis(左)とPhal. kunstleri(右)です。前者は30㎝以上、後者は28㎝程あります。これでも順化過程でより長い古い葉(前者が36㎝、後者が42㎝)が落ちており、両者とも既存書籍に書かれた葉長の1.5-2倍ほどの大きさです。実生株との比較では2倍以上の、まるで別種のような違いです。必然的にこれら多輪花系の品種では、輪花数も実生とは大きく異なります。

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順化2

 順化とはこれまで育ってきた環境から、新しい栽培者の環境に適応させることを言います。特に植物は環境の異なる場所から場所への移植によって受けるストレスは大きく、順化と言う栽培の入り口で多くの栽培者はまず苦労します。順化については5月歳月記でも取り上げました。若干別の視点で捉えてみます。

 これまでの経験から順化の成功の可否は、生育に必要な温度・湿度・通風条件は整っているとして、根の健全性に大きく依存することは本サイトでも取り上げています。根が健全であることはランを購入する際の必要条件であり、往々にしてこれが期待する程は満たされていません。国内のラン店で株を購入する場合、多くの人は鉢に入った状態のままであると思います。私ならば購入すると決めた段階で、その場で株を鉢から外し根を見せてもらいます。購入はベアールート以外しません。これは一般のラン店であれ、東京ドーム蘭展の海外ブースで購入する場合でも同じです。透明ポットで根が見える場合は別ですが。中心部が死んでいたり、黒ずんでいたりして2-3本しか生きた根が無い場合は、せっかく鉢から出してもらっても購入しません。一度東京ドーム蘭展で、台湾出展者から数万円する胡蝶蘭原種を購入した時、その場で咲いている花を切り、鉢から株を取り出しミズゴケを除いてもらう様に要求したため、気でもふれたのではと売り子が驚いた様子で店主に相談にいきました。店主は私の態度を見て分かったとばかり平然と要求通りの作業をしました。彼はそうした購入者に慣れているようでした。花を全て切ったのは今後の順化に株の負担を避けるためです。花は写真に収めました。

 生き生きとしている株は問題無いものの見た目に普通の状態では株の大きさの割に生きた根が少ないことがしばしばです。もし株を鉢から取り出し植込み材を除くように要求した場合、店側は嫌がるのではないかと思いがちですが、買うと伝えたにも拘らず、根を見せることを拒む店は避けるべきです。店主にそれだけの自信がなければ根は健全とは言いきれません。逆に購入者の立場からすれば、せっかく購入して1ヵ月も経たないうちに枯れてしまうようでは悔しい思いをすることになります。

 海外で購入する場合、多くのラン農園では出荷する際、植物検疫の関係から黒くなった古い根を切ります。この切り方がアバウトであり、生きた根共々大きく切ってしまうのが普通です。国内のラン店でもこのようなランを仕入れているとすると、輸入直後のランは順化が必須であり、順化中のランは余程の栽培経験のある趣味家以外は購入すべきではないと考えます。言い換えれば、原産国から輸入したての株を、その状態であることの説明なしに販売することは間違いです。順化中のランを購入することはランにとって2重3重の環境変化が生じることになり、特に高価な稀少種であるほど失敗の危険性が増します。一般論として希少であるということは環境変化に弱い種であることを意味します。

 順化の成功は、まず葉の伸長が観測され、次に根の伸長や、新しい葉や根の発生です。この状態から1ヵ月程経てば完了です。よって国内でランを購入する場合、新しい根や葉の伸長が見られるかどうかがチェックポイントとなります。このような購入のためのガイダンスをすると販売者からは嫌われるかもしれませんが、さらに嫌われそうなことを言えば、花の付いていない株は、店主自身が花を一度は確認しているかどうか窺うことです。確認していないのであれば入荷直後の可能性が高く、次の問として順化は済んでいるのか、あるいは入荷後どれだけ経っているのかです。順化期間を十分経ても葉や根の伸長が無い場合はどこかに問題がある株で、購入を控えるべきです。根を取り出して見せてもらいたいとまで要求するほど強気になれない方は、少なくともこの程度の質問と確認は必要です。

 一方で販売側の立場からすれば、順化にはコストがかかります。順化済みのランは2-3割高価であっても、購入者にとっては順化前のものや根の良くない株を入手するよりは遥かに有益です。順化コストとは主に歩留り、また順化期間中の栽培に要するコストです。歩留りとは、通常、たとえ枯れなくても順化後に小さい葉だけになってしまい、すぐには販売できない株が2-3割は出てしまいます。2-3割の価格比較だけで購入先を決めない方が賢明です。

 海外から仕入れる場合、実生の苗や株はそれほどではありませんが、野生からの栽培株などは根がほとんどありません。胡蝶蘭はまだ良い方で、デンドロ等はさらにひどい状態です。ここからの順化は経験が必要で私の最近の対応は、通常の移植と同様に根を整理する関係から、バリダシンとタチガレンエースの規定希釈に根を20-30分浸けてから一旦乾かし、植え付けています。かってはダコニールやスターナの混合液に1-2分浸けていました。前者の方が2つとも液体で、スポイトで簡単に溶液が得られることで使用頻度が高まっているのが理由であり特別な意味はありません。順化処理を適切に行っているラン店から順化済みの株をベアルートで購入する場合はこのような処理は不要です。植え付け後は僅かに活性剤を与え、1-2週間後から葉面散布肥料も通常通り始めます。立ち性、下垂葉タイプいずれも、通風で茎が植込み材や支持体に対してぐらぐらしているようでは順化は困難です。

 根が健全であれば問題ありませんが、順化期間中に古い葉が落ちることは再三述べています。根を整理する際、多少の生きた根もカットする以上、これは避けることができません。胡蝶蘭の順化の失敗は、その後の細菌性等の病気です。また頂芽の根元が黒く腐敗して落ちることもあります。いずれも進行が速い病気です。このため最近では、順化に弱い品種は植付けと同時に主茎にナレート剤を塗っています。順化完了後にこの黄色い薬は洗い落とします。ちなみに、順化中ではなく、2-3年経過した株で頂芽の根元付近だけが黒ずんで落ちるのは主に2つ原因が考えられ、一つは疫病、他は害虫です。害虫は1-2㎜の幼虫が主茎の頂芽部分に入り込んでおり、これが頂芽や芯を齧ることで、そこに炭そ病や細菌性病気を誘発した結果です。もし頂芽が落ち、つけ根が黒ずんでいた場合は主茎側の黒くなった芯部分を調べることも重要です。もし害虫であれば1株だけが被災する可能性は低いため、直ちに他の株も防虫処理が必要となります。またこのような害虫が原因で頂芽が落ちた株は、その場所にナレートなどのカビと細菌に有効な薬を塗ると、新しく脇芽がでる可能性が高いように経験的に思われます。理由ははっきりしませんが、害虫による2次感染の部位と、カビや細菌が当初からの原因による部位の病気進行度合いとは、頂芽が落ちる時点で異なるようで、他の葉や主茎へのさらなる病気進行が止められるか否かが問題のようです。

 今月マレーシアで購入した原種の順化中の写真を示します。撮影は10月21日です。すべてミズゴケによる植付けです。ミズゴケは最も無難な植込み材です。根が問題ない立ち性の品種はヘゴチップやクリプトモスでも植付けます。栽培未経験の品種は、例外なくミズゴケと素焼き鉢です。


Phal. doweryensis

順化が最も難しい胡蝶蘭原種であり、今年の猛暑で半数を失いました。現在20株ほど順化中です。


Phal. celebensis

この品種はそれほど順化が難しくはありませんが、順化中に細菌性病気が発生しやすいグループです。


Cleisocentron merrillianum

会員の方からの依頼で入手したボルネオ島Sabah原産の青いランで今年の東京ドーム蘭展で話題になったそうです。30本ほど順化中です。背丈50㎝以上が10本、40㎝程が10本、他は25㎝程です。初めての取り扱いのため輝度と通風量の異なる3か所にミズゴケ素焼き鉢で分散しての順化です。順化に適した条件が分かれば全てをそこに移動です。立ち性で細長いので支持棒で固定しています。

 


Phal. schilleriana purpurea

順化はそれほど気にする必要はありません。根無しからでも再生する力があります。purpureaと言う稀少種のため慎重に扱っています。


Phal. fimbriata

ラン園にあるようでないのが本種で、今回は余り大きくない株です。ヘゴ板で通常順化をするのですが、今回はミズゴケと素焼き鉢の斜め吊りです。

胡蝶蘭以外のラン収集

 マレーシアやフィリピンに出かけて入手するランは胡蝶蘭原種が中心ではあるものの最近はそれ以外の原種の購入量も増えています。交配種はカトレアを除いて購入していません。そのなかでコンスタントに集めているのがBulbophyllumの仲間のCirrhopetalumです。Bulbophyllumは6年ほど前に、その花形状の多様性からある程度栽培していたものの、余りに種類が多い属のため纏まりがつかず、そのままとなっていました。一方、Cirrhopetalumグループは胡蝶蘭原種と同程度の種類があり収集には適度な数です。また現在でも変種や新種の発見が多いのも特徴です。Bulbophyllumグループは国内では2,000円から8,000円ほどしますが、これらの現地価格は殆どが500円程度かそれ以下で、それを超える品種は新種や変種以外にありません。価格がどのランよりも安価な一つです。生息国で1,000円を超えるような価格をつけているとすれば、国際蘭展に頻繁に出店をし先進国の価格を知っているラン園です。いずれも小型のランがほとんどでそれぞれの個性的な花形状が魅力です。このような新発見も多い小型のランで国内価格も1,000円ほどになればネット上にSNSをつくり、仲間同士で情報や株の交換などをするに適しているように感じます。以前国際的にブームになったことがあるそうですが、日本でも好まれそうに思います。胡蝶蘭に比べ丈夫で同じ栽培環境でも良く育ちます。今回の訪問で入手したCirrhopetalumは下記となります。

1. Cirr. contortisepalum (yellow)
2. Cirr. callichroma
3. Cirr. mirum (Sabah)
4. Cirr. macolima (名称不明。おそらくBulb. masoniiのblack color form)

などです。いずれも国内で販売されているかどうかがネットからは不明です。筆者温室で栽培しているCirrhopetalumおよびその仲間の幾つかを紹介します。いずれも複数の花弁が円形に展開する形状が特徴で、俗称としてUmbrella(傘) orchidとも呼ばれています。

海外訪問事情

 海外に旅行に行く人の多くは日本あるいは訪問先の空港で両替を行います。筆者も初めてフィリピンやマレーシアに行ったときは、成田空港の外貨両替所で、それなりの金額をペソやリンギッドに換金してからチェックインしました。しかし最近は成田で予め換金することがありません。これには2つの理由があって、交換レートが国や場所によってかなり異なること(空港内やホテルでは割高)と、ラン園での購入は希望すれば円で直接支払うこともできるからです。もっとも露天商や蘭展会場では円は通用しません。しかしラン園であればその時点の交換レートで円を受け取ってもらえます。もしダメであれば、町の両替所に園主の車で一緒に行って支払えばそれで済みます。日本は銀行ですが、フィリピンやマレーシアはモールを始め小さな町でも至る所に両替所があり、これらの国では円からの両替は何の問題もありません。一般住民が住む町の両替所の方がレートが良いです。

 一方、早めに両替すると困ることもあります。例えば10万円は一万円札10枚ですが、リンギッドは100リンギッドが通常両替所での最高単位ですので30数枚となります。フィリピンでは500ペソで100枚となります。これを財布に入れなければなりません。では変種を含む高価なランを今回は買うので20万円を交換しなければならないと考えると、それだけの札束を2-3日持ち歩くのは気疲れします。2年ほど前、同行した友人が展示会で入賞したVandaを購入するためにフィリピンのTagaytayの両替所で円をペソに換えた時は、ここでは最高単位が100ペソしか取り扱っておらず、片手では掴めない程の札束となり、これを園主に支払ったときは、園主が札束を抱えながら冗談で、今日から大金持ちになったと笑っていました。さらに問題は帰国時に残金を再び空港内で円に戻せば、行きと帰り共に両替手数料を支払っていることになります。このため換金するのは最小限に留め、円のままで持っていき、露天商での購入やお土産などはその都度、町の交換所に行き必要な額だけ交換します。

 予め必要な両替額は空港からホテルまでのエアポートタクシー料金、チップ代とミネラルウオータ等の購入費程度となります。この予め用意しなければならない額は5,000円程度と少額ですから訪問国の空港でも成田でも、為替レートの差による損得を気にする程のことはありません。ちなみにクアラルンプール国際空港から市中心のツインタワーまでは高速道路で50分ほどかかり、エアポートタクシー料金は高速料金を含め75リンギッド、およそ2,200円、セレンバンまでは同じ程度の距離で65リンギッドの安さです。一方、フィリピンでは出国の際、いわゆる空港使用料のような料金が500ペソ必要です。よってチェックイン前に全て円に戻してしまうとペソの手持ちが無いことになります。良くしたものでその料金を払う場所に両替所があります。フィリピン、マレーシア共に市内の買い物は少額でもカードが圧倒的に便利で現金は不要です。5年以上前はJCBカードはマニラ市内の大型店以外ほとんど使用できませんでしたが現在はTagaytayやBatangasのような地方でも取り扱う店が増えています。マレーシアのセレンバン市でも広く利用できるようになりました。

 フィリピンは10回以上訪れていますが治安上の安全面から運転手付きレンタカーを必ず利用します。ここ2年間は同じフィリピンのレンタカー会社とドライバーを利用しています。この会社はラン園主に紹介され、初回はBooking(予約)もしてもらいました。それまでは日本からインターネットで日本人が経営するレンタル会社に会津の仲間が予約していました。8時間運転手付のバンレンタルで一日4万円程であり、1時間毎の超過で一定料金が加算されるものでした。3-4人で行けば一人当たり1日1万円程度となり、安全を買うと思えばとその料金を気に掛けることはありませんでした。一方、フィリピン地元の人に予約して頂いたフィリピン人経営のレンタル会社では、車は日本車のバンで毎日、ほぼ朝8時頃から夜9時ごろまで運転してもらい3日間の総額が2万5千円程度です。よって3人ですと一日当たり2,800円となります。高速代は別料金であることはいずれも変わりません。と言っても例えばクアラルンプール国際空港から市内まで高速代は100円もしません。一体、このとんでもない価格差は何かということになり、これを日本人旅行者向け価格と言うものかと理解しました。さらに言えば、現在利用している運転手は日本に3回ほど来たことがあるそうで片言ですが日本語が話せます。それまでの会社で日本語が話せる運転手を頼めば、さらに1日当たりそれなりの料金が加算されます。海外にランを買い付けに行かれる方はこのような状況もあることを覚えておくとよいと思います。だからと言って、現地に着いてからホテルタクシーやエアーポートタクシーで知り合いになったドライバーに数日間のハイヤーを頼むことは、よほどの海外経験がある人以外避けるべきでしょう。これらの国ではタクシーやハイヤーは同じ距離であっても倍以上料金が違ったり、乗り心地が全く異なる車であったりが当たり前で、適切な料金を支払いたいと思えば自己努力が必要です。

マレーシア訪問

 4日から7日までマレーシアを訪問しました。4月に浜松に移ってから3回目となります。目的は8月の猛暑で失った原種を補てんすることと、従来から依頼しているいくつかの原種、また複数の会員から依頼された原種を入手することでした。その依頼品の一つはPhal. cochlearisです。フラスコ苗であれば台湾やタイから入手が出来ますが、現在では野生種(山採り株を含め、その高芽や脇芽などの増殖栽培株)となると入手はほとんど不可能です。5株入手したとの情報で農園を伺いました。しかしすでに2株は枯れており、残り3株も葉を1枚残すのみでその葉も風前の灯と言う有様でした。Phal. cochlearisPhal. doweryensisと並んで移植を嫌う原種であるため、国内であれば早春か初秋以外での植え付けは難しく、生息国のラン園と言えども容易ではないようです。活着後は丈夫です。

 訪問のもう一つの目的は、フィリピン生息のランをマレーシアで購入する場合の価格を知ることです。フラスコ苗として育成された実生株は現在生息国だけでなく、他国においても容易に入手できる時代になりつつあります。Phal. schilleriana purpureahieroglyphica alba等の変種では、通常一般種に対して3-4倍程高価ですが、変種であるにも拘らずこれらの価格はフィリピンにおける一般種の価格と同等で、このままではフィリピンの原種ラン産業の衰退は時間の問題であることを再認識しました。

Phal. schilleriana purpureaについて

 6年ほど前、東京ドームでのラン展でダークピンクのPhal. schilleriana purpureaを台湾の業者から当時価格5万円を3万円にディスカウントして購入しました。この株は今月の花のページにしばしば登場しています。ところが野生種では容易に自家交配からタネを得ることができるものの、6年間毎年自家交配を続けているのですが一度も胚のあるタネをつけたことがありません。赤味を出すために他品種との交配(例えば赤い胡蝶蘭ハイブリッド種あるいは別属種とPhal. schilleriana間との交配)で得た雑種F1 から、花は交配種に、葉はschillerianaに似た株を選別したか、これを花茎培養したものではないかと今では疑っています。

 今回、生息国フィリピンではなくマレーシアからpurpureaの情報が入り、興味があって何本かを注文しました。訪問したところラン園では一般のschillerianaschilleriana purpureaの2種類が区別されて栽培されており、色違いを認識した上での販売品であることは間違いないと思いました。これが果たして純正株であるかどうかは分かりません。園主によれば野生株とのこと。株数が20ほどあり虫食いや病痕もなく、大きさが整っていたので野生株ではなく実生の可能性が高いと思い、良く調べて見ました。するとほとんどの株に花茎の一部が付いており高芽であったことが分かり、1本の親株からクラスタ状に子株が増えたものを1株づつ株分けした様子が窺われました。逆に考えて、もしフラスコ培養の実生株であれば何本でも得られる訳ですから、それを販売すれば良く、わざわざ大きく育ててから高芽を採って販売する必要はありません。比較的大きな野生株の高芽の可能性が高くなります。50本から100本に一つ出るかどうかのダークピンクを大株に育てた後、株分けしたと考えられます。それほどの大株であれば一斉に200輪近いダークピンクの花をつけた様子を見たかったものの、小分けにされてしまい残念です。フィリピンでは折角の大株は切らないでもらいたい旨を伝えてありますがマレーシアでもそう伝えるべきでした。


Phal. schilleriana purpurea

Phal. schilleriana 一般種濃色選別

Phal. schilleriana 一般色

デンドロビウムとParaphalaenopsis

 デンドロビウムの会津からの受け継ぎがあり、こちらの原種にも関心があって海外に出かけるときはラン園に対し稀少種や国内の販売がまだ行われていない品種を探してもらうようになりました。今回入手できたデンドロビウムは、

  1. Den. uniflorum alba 花がこれまでのalbaの2倍ほど大きい
  2. Den. kenepaiense
  3. Den. moquetteanum alba
  4. Den. rutriferum

 などです。前回の訪問ではDen. piranhaDen. igneonivieumでした。

 今回の品種4点は訪問前に情報がなかったため、持ち帰りは大変でした。いわゆるCITESや植物検疫書類が用意されてなく、急遽帰国当日にクアラルンプールの、日本で言えば農林水産省のようなAgriculture Dept.に行き、当日の発行をお願いしました。通常マレーシアでのCITES認可手続きは最短で3日を要しますが、国際蘭展では当日であってもこれらの書類が海外からの購入者に発行されており出来ないはずはないと園主に無理やりお願いし、関係省と園主の電話のやり取りの末に許可が出ました。1月の歳月記で述べたコーヒーは砂糖入りカフェオレしかない社員食堂のようなところで1時間待ちましたが、無理を通してのこの1時間は非常に短く感じました。マレーシア到着が金曜日の夕方で土日を挟んでの訪問であったため、帰国日である月曜日しか申請ができなく、帰りの飛行機が午後便であったためこのような手続きとなりました。

 今回、クアラルンプールのラン園に伺って様々な原種を見ていたところ1株1,000円もしないデンドロビウムのベンチ下の片隅にParaphal. labukensisのような形状のParaphalがプラスチックポットに木炭で立ち植えされ無造作に置かれていたため、これは何かと尋ねたところ、Paraphal. deneveiであるとの返答でビックリしました。deneveiは2年程前、シンガポールのラン園から一株10万円の高値で売られていたもので、それだけ現在入手が困難な原種の一つです。ネットで見る数千円から1万円程の多くの本種とされるdeneveiは偽株(他のparaphalや、その小苗)が多いと言われています。本物は他と異なり立ち性、葉は短く、花は黄褐色でリップのMidlobeが前に長く飛び出ているのが特徴です。値段を聞くと20リンギット(600円)と言い、信じがたい安い価格を聞いてさらに驚きましたが、その安さから果たして本物かどうか疑わしくなり花が咲くまでは分かりません。私は5本購入しましたが、同行した別の園主は顔色を変えることなく、残りすべてを躊躇なく引き取っていきました。おそらくこの園主も内心驚いていたと思います。このようなことは日本のラン園では起こりえません。現地でのラン園めぐりは、当たり外れがあるものの、こうしたサプライズがあるため面白く、何度でも訪問したくなります。

 下写真は筆者温室で5年ほど前に撮影したParapahl. deneveiです。


Paraphalaenopsis denevei

Paraphalaenosps denevei

 他のParaphalも下写真に示します。laycokiiを除き、いずれも会津温室での撮影です。


Paraphal. labukensis

Paraphal. serpentilingua

Paraphal. laycockii

稀少種

 今月のマレーシア訪問で入手した稀少種は胡蝶蘭より他の原種の方が多く、胡蝶蘭ではPhal. violacea mentawai coeruleaフォームです。Mentawai産のPhal. violaceaの花はpale pinkで7月の歳月記に写真を掲載しました。この原種に青いcoeruleaフォームが出現したというものです。園主の話ではシンガポールの業者か趣味家かが、かなりの数を購入していったそうです。また開花株を見ましたが、この株はアメリカ人の予約済とのことでした。

 原種かどうかは分かりませんが、セパル、ペタル共に全面ソリッドレッドのPhal. bellinaがありこれも入手しました。雑種である可能性の方が高いと思います。交配して検証します。最近OchidViewを始め多数のベンダーからviolaceabellinaのソリッドレッドが出ています。いずれも交雑種と思われます。

 胡蝶蘭ではありませんが2mを超えるParaphalaenopsis labukensisを初めて見ました。日本でこれだけの長さまで育成するのはまず無理であろうと思われます。

マレーシア滞在記

その一:
 今回のマレーシアのホテルでは散々な目に合いました。これも初めて訪れる方のために参考と思い触れておきます。よってホテルは実名で記します。まず初日はクアラルンプール市内ツインタワー近くのPrince Hotelに泊まりました。このホテルは日本に予約センターがあり日本語で予約ができます。ここでJALマイレージ会員専用のプレミアムエグゼクティブルームがあり300マイルのサービスが付く部屋に予約を申し込みました。Prince HotelはShangri-La Hotelが満室であったため初めての宿泊です。マイレージサービスを受けるにはチェックインの時、その旨を要求するようにとの予約センターからの説明があり、またその旨のメールも送られてきていましたので、到着してチェックインの際、フロントでそのように説明しました。しかしJALのマイレージサービスは行っておらず、サービスをしているのはトラベルドットコムグループのリストにある企業のみであるとの説明で全く話がかみ合いません。到着時間が遅かったため、翌朝のチェックアウトの際に再度確認すればよいと思い部屋に向かいました。するとドアに日本人によるサービスが用意されている旨が書かれた手紙が置かれており(どのホテルにもあるWelcom Greeting Card)、さすがはPrince Hotelは日本人への対応が良いと感心しました。翌朝、英語でやり取りするよりはスムーズにいくと思いチェックアウトの前にこの日本人スタッフに電話し、マイレージサービスのことを述べたところ、この担当者もそのサービスのことは聞いていないとのことでした。そこで常時持参しているPCに記憶した予約センターからのメールを見せ説明し、結果としてはそのスタッフはセンターと現地とのコミュニケーション不足であったと謝罪しました。現地の上司にメールを見せたいので私のPCからそのメールの再送や、マイレージカードのコピーをお願いしたいとのことで慌ただしいチェックアウトでした。電話一本を日本のセンターにかけて確認すれば良いのにと腹の中では思いつつも、フッと気になったのは、それでは、はたして泊まった部屋が本当にJAL会員専用プレミアムルームであったのか疑心暗鬼になってしまいました。料金は専用だからと言って安いことはなく、Shangri-La Hotelよりも高価で、ルームの前についたプレミアムと言う文字が妙に気になってしまいました。

その二:
 今度はセレンバン市のRoyal Bitang Hotelでの出来事です。チェックインし部屋に入り、洗面台のお湯を出したところ茶色のお湯が出てびっくりし、パイプが錆びているのかと思い、しばらくすれば無色になると期待したものの一分以上たっても茶色のままです。それも気味が悪いほど濃い茶色です。さらにバスタブの蛇口を開けたところこちらも茶色であり、急遽フロントに行き状況を説明しました。担当者を見に行かせるとのことで部屋にもどっていたところ、しばらくして二名の作業員が現れ顔色も変えず蛇口を外したりお湯を出したりと作業をしていましたが5分ほどたち無色になったとのことで見てもらいたいと、コップにお湯を入れてどうかと差し出しました。確かに普通の無色に見えたので、一体何が原因なのかと尋ねたところ、たどたどしい英語で、水と異なりお湯は屋上の水を下まで降ろし、ボイラーでお湯にしてから上の階に送るためだと、訳の分からない説明でした。取敢えずその日はシャワーだけを使い、その後、もう一度洗面台のお湯をコップにとり、じっくり眺めたところ黒い小さな粒子状の粒がいくつも交じっており、とにかくこのお湯や水を使うことは危険と思い、ミネラルウオータボトル3本を使用して洗面は凌ぎ、取りあえず朝にもう一度抗議をするつもりで寝ました。ところが今度はトイレのタンクに水滴が落ちるピシャピシャと一定間隔で聞こえる音が寝静まった深夜にはかなり大きく響き、今度はこちらが気になり始め、今回は2泊だがこのホテルにはもう泊まるものかと自分に言い聞かせながら睡眠不足状態でなんとか翌朝を迎えました。当然起きるとすぐにまずフロントに行き、夕方戻るまでにお湯とトイレの音が解決されていなければ部屋を変えるよう要求をしました。

 案の定、夕方もどったところお湯は無色でしたが、ごみは無くなっておらずトイレの水音も解決されていませんでした。3回目の抗議となるフロントに行き、これまで5回このホテルに宿泊したがこれほど酷い待遇はないと抗議し、ようやく部屋を変わることができました。ところが今度は電子カードで開ける仕組みのドア-ですが硬くて開きません。4回目のフロント通いです。ボーイと共に戻り、今度はボーイが再挑戦です。4-5回カードを入れたり出したりドアを押したりしてようやく開きましたが、力いっぱい押さないと開かないと私に説明。けっして開かない訳ではないという顔で戻って行きました。さらに災難は続き今度はそれから10分ほどしてドアがノックするので開けたところパスポートを見せてもらいたいと先ほどのボーイがやってきました。フロントから先ほど同行したスタッフでありパスポートを渡しましたが、5分ほどでパスポートを返しに戻ってきました。申し訳なさそうな顔をしていましたが、パスポートをチェックした理由を問いただしても何も答えません。私のクレームが多いのでブラックリストの人物かどうか確認したのかもしれません。安い宿であれば兎も角、4星ホテルではあるものの11階のエグゼクティブルームでありセレンバン市ではこのレベル以上のホテルはありません。それにしてもひどい体験でした。ラン農園の園主にこの状況を説明したところ、最近政府管理のホテルになったとのことです。それがずさんな管理の原因かどうかは別として、ホテルフロントの人たちはチェックインの時から笑顔が全くなく、またこのようなトラブルでも一言の謝罪もないのは飽きれました。無論このような経験をすれば、このホテルに今後宿泊することはありません。すべての抗議は英語でのやり取りであり、このような環境ではホテルに戻り気が休まるどころか疲労が増すばかりです。

その三:

 特にマレーシアでは地方に行くと、モスリム(イスラム教信者)の人と話す機会が増えます。女性と違い、男性は我々とは目立った日常の服装の違いは無く、白や黒のイスラム帽を被るのは儀礼的な場合のようです。私は国内外を問わず、よく日本の漫画家が被っているような黒か灰色の庇や縁なしシルクキャップを頭に付けています。このためかフィリピンでもマレーシアでも入国審査であなたはモスリムかとよく問われます。これらの国でこれまでキャップを被ることの問題はありません。トレードマークのようになり、2-3ヶ月に一度これらの国を訪問していると、空港内の土産売り場の店員に顔を覚えられてしまいました。一方、マレーシアでは目と手足以外の全てを黒い布で隠した女性をまず見ることはありません。しかし殆どの女性は頭髪を隠すヒジャブというスカーフのような布を着けています。気が付けば不思議なことに街を歩いていてもイスラム圏の女性の笑い顔はあまり見たことがありません。

 初めて面と向かって笑い顔を見たのは前回の訪問時、クアラルンプール国際空港メインターミナルの換金窓口でした。窓口には担当の男性と女性がそれぞれ1名づつ座っており、ここでも男性からあなたはモスリムかと質問されました。いつものことなのでまたかと思いつつ冗談ぽく、最近は頭の毛が薄くなってきたのでキャップで隠していると言ったところ、隣の女性が笑うと言うよりも突然吹き出し、男性が換金勘定をしている間、ずーっと笑いが止まりません。私の頭をチラチラと見ながら何を想像しているかは容易にこちらも想像できます。その遠慮のない、しかし可愛らしい笑いに、さらに冗談でも言って見る気持ちになりましたが、こちらの思う冗談も国が違えば宗教上の禁句という恐れもあるので思い留まりました。20代前半と思われるその女性の笑い顔に、失敬と思うよりむしろ親近感を覚えました。

その四:

 マレーシア料理が口に合わず、いつもマレーシア風中華料理を食べていることは前に書きましたが、大衆向けの中華料理店での華系マレーシア人の食事の有様は、しばしば言語に尽くしがたいものがあります。日本では子供は箸の持ち方から食べ方など祖父母や親に日常の食事を通して躾けられ、自然に最小限のテーブルマナーを身につけていくものです。しかし彼らの食後のテーブルの周りは、さながら狂宴の終わりの如く、食べ残りの肉の切れ端、骨、殻またティッシュは皿にではなく、テーブルクロスと言わずテーブル下の床にまで散乱し、特に魚、貝、エビ、カニ等の海産物を中心とする店ではその散らかしようには絶句します。最近では郷に従いスプーンをナイフ代わりとすることもしばしばの筆者としては、自分もやがて食べ方までこうなるかも知れないと、まるでアニメの世界のような滑稽さにも思えてしまいます。子供がテーブルや床に食べ残りを捨てても親は何も言わず、それどころか親自身がそうしています。日本人には分からない別のマナーがあるのかも知れませんが、なぜ彼らは食事の際のマナーを教えないのか全く理解できません。マナーは内にも外にも必要な所作であり、これは子供の時に身につけないと社会人になってからは本人自身が苦労します。これが彼らのエネルギーの裏返しと思えばそれまでですが。このような批評をすると、高級なレストランに出かける華系の人たちは、一部の人はそうかも知れないが我々はそうではないと反論するかも知れません。生活圏の違いによることも確かでしょうが、日本では例え路地裏の飲み屋であっても、食べ残しを所構わず散らかすことはありません。

 海外に行く度に、日本でのホテルの環境や従業員の対応、、また人それぞれの日常のレストランや乗り物内でのマナーなどが如何に良いことかとつくづく感じます。東北大震災において援助物資を受ける列に誰も割り込むことなく整然と並んでいる日本人をテレビで見て、これはヤラセに違いないとフィリピンの多くの人は思ったとフィリピンのかたが言っていました。帰国の際、2020年の東京オリンピックバラリンピックはこれらの優れた日本の慣習を外国の人々に知ってもらう最大のチャンスではないかと思いました。ヤラセではない真実の姿を見てもらいたいものです。

 *会員ページ、原種リストを更新しました。

9月

秋の新芽

 50種以上の胡蝶蘭原種全体で見ればそれぞれ成長の最も盛んな時期は様々ですが国内では大別して春と秋となります。今年は猛暑が続いたこともあり、9月に入って平年並みの日中の最高気温が30℃以下となったのに伴い、多くの原種で新芽や根がこれまでになく盛んに伸長し始めています。そこでいくつかの原種の新芽の様子を写真にしました。今月21-23日の撮影です。ヘゴ板で新しいミズゴケが付いてる株は今年6月に購入し、順化が完了したばかりのものです。このような成長期間(浜松では10月末頃まで)は有機肥料の置肥とは別に規定希釈の活性剤を中心とした液肥(活性剤:液肥=1:0.5)を1週間に1回与えています。


Phal. amboinensis v. alba

Phal. bellina

Phal. corningiana

Phal. cornu-cervi

Phal. deliciosa v. alba

Phal. doweryensis

Phal. equestris

Phal. fimbriata

Phal. fuscata

Phal. gigantea Sabah

Phal. lueddemanniana
Phal. maliponensis

Phal. pantherina

Paph. sanderianum

Phal. philippinensis

Phal. schilleriana

Phal. stuartiana

Phal. venosa

Phal. amabilis

Phal. bastianii

Epigeneium lyonii v. alba

Phal. javanica

Phal. floresensis

Paph. hangianum

Phal. inscriptiosinensis

Phal. lindenii

Paph. michranthum

Phal. sanderiana

Phal. tetraspis

Vanda javierae

Phal. maculata

Phal. violacea blue

Phal. violacea mentawai

Phal. modesta

Phal. zebrina
 

 

世界初? Phal. gigantea v. alba 映像

 世界のラン趣味家が集うOrchid forumでしばしばPhal. gigantea v. albaの存在の有無が問われています。おそらく世界中の人々がまだ見ぬ胡蝶蘭と思われます。そこで今回、世界初となるかも知れない筆者が撮影したalba写真を公開します。右下の写真は比較参考用に一般的なPhal. giganteaを示しました。


Phal. gigantea v. alba


Phal. gigantea v. alba

Phal. gigantea Sabah (normal type)

後記: 再度、ネットでPhalaenopsis gigantea albaで検索しところ、同じようなスポットが薄緑のgiganteaの写真が数枚(2009年頃掲載)されていました。2008年頃のForumには世界で二人程所有しているのではないかとの情報もありました。自然界での確率的な可能性から考えると出所は同じかもしれません。それらの株のその後は不明です。

秋季の施肥

 1年を通して施肥の最も必要な時期は春と秋となります。猛暑が過ぎて日中の最高気温が30℃以下となると、それまで動きのなかった株から一斉に新芽また新根が伸長し始めます。この葉や根が動いている時期に施肥が適切でないとひ弱な株になってしまします。

 気密性の高い現在の住宅では冬でも暖かい時間が多く、春秋だけでなく冬も施肥が重要になりつつあります。マニアル本では冬は施肥を控えるとあります。季節が問題なのではなく気温そのものが重要です。室内が15℃以下となれば成長が停止する多くの胡蝶蘭にとって施肥は意味がないだけでなく根を痛めます。しかし15℃以上(高温タイプは18℃以上)あれば冬季の施肥は大きな効果があり、翌年の株は丈夫になり、作落ち(翌年の春になっても今一つ葉に元気がない、花が咲かない、あるいは葉数が増えないなど)も見られません。特に温室栽培では通年で施肥を行い、若干施肥の頻度が変わるだけです。

 原種の場合、液肥よりは有機肥料の置肥が良いと海外のラン園では必ず言われます。このサイトでも何度も取り上げています。筆者も最近は液肥よりは置肥の使用量が増しています。しかし初心者の方々にとって一般室内で置肥の使用は難しいと思います。置いた時点から2-3日は鶏糞の交じったような匂いがし、また匂いが消えても次には肥料に白いカビが生え、見た目にも不衛生です。確かにリビングに、たとえ小さな塊だとしてもカビはいただけません。よって有機肥料が良いことは分かっていても、室内では液肥が依然として利用価値がある訳です。なぜ有機肥料が液肥より良いかとの根拠はその暖効性にあるため、濃度を薄くして回数を増やすことができれば液肥であっても有機肥料であっても効果は変わりません。また温室で数多く栽培している場合も鉢の置き場所によっては固形肥料と液肥を併用して使用せざるを得ないことがしばしばあります。

フィリピンでの植物検疫

 9月2日にマニラのNアキノ国際空港において出国の際、いつもならば植物検疫カウンターに行き植物検疫とCITES書類を提出し検疫書類にサインを、あるいはこの歳月記1月に記載したように検疫書類が間に合わない場合は予め担当官に事前通知し、書類を出国当日空港にて申請し、同時に荷物に検疫済のスタンプを押してもらっていたのですが、今回はマレーシア同様に何の確認もなく荷物を航空会社のチェックインカウンタに持っていくように言われました。事前に検疫書類は用意していたので書類の確認をしてもらうだけでしたが、それもないこのようなプロセスは、これまでの10回以上の出国で初めてです。

 驚いたことは検疫カウンタに行って書類を提出したところ、カウンタにいた職員が、担当者がいないので分からない、同じ階にある空港案内カウンタに行って聞いてもらいたいとのことで、そこに行って植物検疫書類の確認サインはどこでもらうのかと尋ねたところ、案内嬢が携帯を打っていたのを邪魔され腹が立ったのか驚くほど無愛想且つ不遜な対応で書類を見せるようにと言い、ざっと見てこれ以上必要ないとのことでした。検疫官でもない案内係の判断で良いのか唖然としましたが、検疫される側が無理に、検疫しないのはおかしいと言うのも何か変ですから、そのままJALのカウンターに向かいチェックインしました。その結果いつもならばフィリピン側で控えるコピー1枚がそのまま残ってしまいました。

 思えばJALカウンタでは大きな荷物を預ける場合、中身を問われます。植物のランと言うと前々回から植物検疫書類とCITES書類を見せて下さいと言われます。その際、書類のコピーをしても良いかも聞かれます。JALは検疫とは無関係ですがコピーを控えるようです。このため最近は出国時の検疫を植物検疫所が行うのではなくJALが行うのかと皮肉にも思ってしまいます。もちろんJALからは荷物を開封するような要求はされません。

 フィリピン発行の検疫カウンタに置かれたパンフレットによれば輸出入が制限された動植物の輸出は、まず検疫カウンタに行き出国確認をしてもらうことになっています。次回、今回のような処理に変更されたのだと信じて直接、航空会社カウンタに向かえば、何が起こっても不思議ではない国なので、しばらくは嫌われても形通り検疫カウンタに向かってからチェックインするつもりです。

*会員ページ、原種リストを更新しました。

今季猛暑の影響

 9月も1週目が過ぎ漸く日中30℃を下回る気温となってきました。今年はこれまでにない猛暑が続き、多くのラン栽培家はその対策に大変苦心されたと思います。浜松は特に全国でも4位となる猛暑地帯となり、窓としては天窓しかない筆者の温室にとってはこれまでにない対応に追われました。日中の温度が35℃を連日で超えた期間は、エアコンは朝9時頃から夕刻5時頃まで動作し続け、約16℃の井戸水で散水を一日3回から4回行うことになりました。32℃以上となった7月中旬から今月初めまでは一日平均で2回の散水が必須となり、会津では豪雪に、浜松では猛暑にと悩みは尽きません。

 この中で最も影響を受けた胡蝶蘭原種はPhal. doweryensisです。温室の中で35℃が1週間程度続いた後に、まず20株ほどある中の約半数の大きな葉が黄色く変色し始めました。温室では35℃を超えないようにと、超えた場合は散水を行うことにしています。高温そのものが影響を与えたことも考えられますが、むしろ高温下の中での散水の冷水やエアコンの冷気とによる温度変化が最も作用したと思われます。時として36-37℃から散水で30℃まで急速に下がる状態と、20畳用のエアコンの冷気がファンによって大きく変化しているため5℃以上の温度変化が短時間で繰り返し発生していたことになります。

 葉は先端や外縁からゆっくりと黄変する老化で見られる状態とは異なり、緑の葉上に黄色がまだらに現れ、やがて全体が黄変し落下するものです。いわば生理的障害でよく見られる症状です。若干異なるのは斑が現れてから全体に広がるまでが急速です。変化が現れ始めた時点で直ちに場所を変えましたが、20株あったPhal. doweryensisはおよそ半数が全ての葉を失い、残った株も小さな新芽2葉程度を残すのみで大きな葉は殆どが落下してしまいました。これまで経験にない打撃です。幸い同じ場所にあるPhal. giganteaは何の変化もなく、むしろ8月末頃からこの暑さの中、新芽が出始めています。改めてPhal. doweryensisの環境順化の難しさを痛感しました。

 一方、エアコンの冷気を浴びた影響と考えられる落葉はPhal. micholitziiです。これもPhal. doweryensisと同じで葉が緑と黄色(白黄色)の斑となり、次々と葉が落ちていく症状です。高温、高輝度下でPhal. micholitziiは良く成長するため、高温で弱まるとは考えにくく、高温と冷気の変化が原因と見なし症状が出始めた時点で温度変化の少ない場所に移動したところ、他の株にこの症状は現れませんでした。一旦黄変した葉は元に戻ることはなく落下を待つのみとなります。Phal. micholitziiと同じ場所に置かれたPhal. florensensisinscriptiosinensisなどにはこのような症状が全く発生しませんでした。フラスコ苗から長く栽培し植え込み材や鉢もおなじであることから、Phal. micholitziiもまた短時間内での温度変化の繰り返しには弱いことが分かりました。

 今後、このような品種は高温そのものよりは温度変化を極力少なくするあるいは緩やかにする物理的環境をどのように造るかが課題です。温度変化のない場所を見つけてそこに置くことですが、限られたスペースの中では難題です。おそらく冬は逆に冷気ではなくエアコンの暖気で問題が生じそうであり、数ヶ月で何らかの対策を考えなくてはなりません。

 クラスター状の大株について

 最近のラン展示会のコンテストでは、大株で多輪花の株が常に上位を占めています。胡蝶蘭原種で1株から大株に成長する品種はPhal. amabilis系やcornu-cerviが知られており、稀に2012年9月の歳月記に掲載しましたPhal. lueddemannianayahieroglyphicaも大株が見られます。しかしマーケットでの大株の入手はまず困難で、これまで過去10年近く、国内や海外共に、クラスター状(元親1株から茎を介して複数株が繋がったもの)になった原種が売られていたラン園を知りません。

 クラスター様態の大株を得ようとすれば生息国においてもBSから5年以上、よって苗からは8年以上の栽培、あるいはすでに大株になった山採り株以外困難です。ラン農園では大きな株が入荷しても販売が難しく、結局一株づつ株分けし販売します。また今日では大半が実生株であることから1株単位で苗からBSサイズまで栽培されて売られることから大株になる機会もないと思われます。よって趣味家か、ラン園のオナーの個人的な嗜好で栽培された株を譲ってもらうのが唯一の入手法となっています。

 一方、国内において大株に胡蝶蘭を育てることは結構難しく、殆どの原種は新しい芽は毎年出るものの同時に古い葉が枯れてゆくのが普通で、温室があってもPhal. pulchraなど一部の品種を除いて大株になるための高芽が容易に発生しません。生息国の大株を観察すると、高芽と共に胡蝶蘭では稀な脇芽の成長がしばしば見られます。高芽は花茎が発生する時期に、高温で且つ昼夜の温度差が少ない場合に出やすいことが分かっていますが、頂芽に異常がないにも拘らず脇芽の発生する原因は良く分かりません。苗からの人工栽培では、脇芽の発生は頂芽が病気などのダメージを受けた時や、かなり年月が経った古株に見られるもののそれ以外では極めて稀です。胡蝶蘭ではPhal. cornu-cerviは自然界ではコロニーをつくるとされています。面白いことに入手しているPhal. cornu-cerviではクラスター状に成長するものと、しないものがありハッキリわかれています。自然界でも大株になる性質のものと、そうでないものがあるのか興味のあるところです。

 筆者は現在多くの大株を所有しています。これらは何年も前から生息国の園主に大株を集めるように依頼しており、他農園や趣味家からも集めてもらうことにしています。4年ほど前に山採りの大株ではどうかと言われたことがあります。Phal. schillerianaでした。山採り株は大株になればなるほど6月の歳月記に取りあげたように状態が酷く、とても観賞には耐えられません。輸出規制もあります。葉が綺麗な大株に成長するには5年以上生息地に似た環境で人工的に栽培され、新しい高芽や脇芽からの葉が必要です。

 下写真は現在筆者が栽培しているクラスター株のPhal. schillerianaPhal. aphroditeです。上段と中段はPhal. schillerianaで、上段は入荷後3ヵ月のもので、いずれも活着中です。写真からも分かりますが葉にはほとんど傷が無く、山採り固有のカビや傷痕は見られません。

 一方中段と下段は今回の訪問で入手したものです。取付直後の状態です。ややヘタっていますが葉はいずれも目立った病痕や傷はなく、今後3ヶ月ほどで上段のように張りが出てくると思います。下段のPhal. aphroditeも園内の露地栽培で育てられたもので山採りと比べて整った形となっています。


9株

8株

8株

21株

15株

13株

4株

7株

13株

 原種は交配種に比べて地味ですが、Phal. schillerianaaphroditeは多輪花であり、これら大株が順調に成長し花芽を着ければ10株で平均10程度の花茎を発生し、それぞれに8-10輪開花するため、80輪ほどのかなり豪華な見栄えになると思います。いずれも活着後に会員分譲用としての栽培株です。

フィリピン食事情

 マレーシアに続いて少しフィリピンでの食事で気が付いたことを取りあげてみます。まず初めてフィリピンやマレーシアを訪れる方は、食卓やテーブルにホークとスプーンが置かれているもののナイフがないことに気づきます。これらの国ではフォークとスプーンがペアーであり、食事の際、食べ物を細断する道具はスプーンの外縁を用い、ナイフを使いません。海外旅行者向けやホテルのレストランではホークとナイフがおかれていますが、町中では相当高級なレストランであってもナイフがありません。一般の家庭でも同じです。慣れていない者にはほとほと困惑します。実際に始めて訪問する日本人がスプーンのエッジで肉を上手く切れる筈がなく、スプーンと皿とがぶつかり合ってカチカチと音を立てるだけで、やがてはgive-upとなり、食事どころではありません。しかも魚、鶏肉、牛肉共に多くは骨付きです。ある日、骨付きの大きな肉をテーブルの上で切って客に分ける品を注文した際、ウエイターが良く切れそうなナイフを使用していたので皮肉を込めて、スプーンできってもらえないか、それを見たいと言ったところ首を横に振って苦笑いしていました。私はいつもウエイターにナイフを要求しますが、場所によっては頼みにくいこともあります。

 前回の訪問で、マニラ湾を望むレストランで、ラン園オーナーがタイガーエビ程の大きさの有頭エビを、このスプーンとホークで皮を見事に剥いているしぐさを見たときは驚きました。ナイフでも難しいエビの皮むきを職人のようにスプーンを操り、巧みに実だけを取り出す技はスプーンが子供のころからの日常でなければ無理です。感心して見ていたらそのむき海老を私の皿に乗せてくれました。私の方と言えば手でエビを掴み、皮を剥ぐのがやっとでした。

 もう一つ不思議に思ったのは、食後にデザートを注文する際には、いつもアイスクリームと同時にホットコーヒーを注文します。人によって好みがあるとは思いますが、食後に限って言えば、この冷たいアイスと、熱いブラックコーヒーを交互に味わうことが甘味を引き立たせ、良い組み合わせと思っています。しかしフィリピンの人には理解できないようです。レストランでこの2つを注文すると例外なく、アイスクリームを食べ終わった後を見計らってコーヒーを持ってきます。そこで同時に持ってきてもらうように毎回頼むのですが、驚いた表情と、なぜと言う顔をして本当に同時で良いのかと必ず尋ねられます。どうもフィリピンでは熱いものと冷たいものを同時に味わうことが理解できないようです。思えばフィリピンでブラックコーヒーを頼んだフィリピン人をまだ見たことがありません。確かにアイスクリームと砂糖の入ったカフェオレの、冷たさと熱さでは合いません。ちなみにマニラから2時間ほど南のTagaytay市のそれなりのホテルの上階ではいつもシャワーのお湯の出が悪く、これをフィリピンの知人に言ったところ、この暑い国で熱いシャワーを浴びる方がおかしいと、真面目なのか冗談なのか分からないような返事でした。笑って言われたので冗談だと思います。

 フィリピンの食事は酸味の強いシニガン・スープはダメですが、幸いに多くの料理でマレーシアと比べると独特のスパイシーさは無く、マレーシアと違って中華料理を食べなくても過ごせる点で落ち着きます。

フィリピン訪問 

 8月29日から9月2日までフィリピンを訪問しました。今年に入ってフィリピン訪問は3回となります。今回はQuezon市でのPOS(Philippine Orchids Society)主催のMid-Year Orchids Showの見学と、BatangasおよびAlfonsoの農園に伺いました。日本は猛暑が続いていたため、むしろフィリピンの方が涼しく感じた程でした。

 最初にフィリピンを訪問したのは2008年でした。この6年間の間にフィリピンのラン産業は台湾、タイに押されて大きく様変わりしています。展示会の規模は年々縮小しており、ラン展示会と言っても販売コーナーでは、観葉植物が7割以上を占めるようになりました。インターネットのOrchids Mall(http://www.orchidmall.com/plants2.htm)でラン店を検索すると、台湾が20、タイは50以上、シンガポールで10の販売サイトが掲載されているのに対して、フィリピンは僅か3つであり、その中でも最初のリストにあるOrchid Keepersは実体がなく、Tecsonもすでにランからは撤退しており、Purificacion Orchidの1農園だけとなっています。有数のランの自生地であり、また人件費も前記した国よりも低く、国際的に見てコスト的に有利な立場にあるにも関わらず、ネットには1農園しか実体がない現状は異常なことです。マニラ周辺でも今年に入ってすでに2農園がラン栽培から撤退し、短期で販売可能となる観葉植物や野菜栽培に転向したそうです。「バイオ技術を制する者はラン産業を制する」という10年近く前に筆者の感じたことが現実となっているように思います。すなわちクローン技術に対する遅れとこの分野の人材不足です。

 世界最大のラン生息国マレーシアでも台湾やタイの侵攻が目立っています。6月歳月記で報告しましたPutrajaya Flower & Garden Festivalは市や産業界の支援もあって大きな規模となっており花木産業を盛り立てていますが、原種に関してはフィリピン同様の状況です。すなわち自生地でありながら他国からフラスコ苗を購入し育て、これらを海外や自国のマーケットに出荷すると言う図式です。胡蝶蘭だけでなく例えば出荷までに時間が掛かるカトレアは、タイが今や世界への供給国で、苗はクローン技術が最も進んだハワイからが多いとのことです。国際競争力は、バイオ技術と人件費がビジネスの要となっており、日本がこれまで行ってきたリレー栽培(開花株の大きさまでコストのかかる栽培を海外に委ね、花が咲く直前で輸入する方法)の相手国が、より人件費の低い国とリレー栽培を行う時代に移りつつあります。こうした中で、行政の強力な支援を基にラン産業の世界進出を目論む台湾等と比較して自生地である、特にフィリピンの国際的なマーケッティング戦略は残念ながら皆無と言えます。このままで行くと、筆者の予測ではフィリピンでは後5年程度でインターネットから国際的に取引可能なラン農園の名は消えると思います。この現状をどう見るか、むしろ台湾やタイの努力を、皮肉なことではあるものの、誉めるべきなのかも知れません。

 日本に目を転じると、ラン産業では慶弔用胡蝶蘭がこれまで主流商品であったように思います。こちらも近年では海外の低コスト化に苦しんでおり農園の撤退がかなり進んでいるようです。

 筆者はかねがね一体誰が、白い大きな花が2列に並んだ慶弔用胡蝶蘭を頂いて嬉しいのだろうかと疑問に思ってきました。これまで贈られたかなりの数の方に伺いましたが、とりたてて嬉しいと言った方を知りません。生き物として考えれば後の世話はかえって迷惑であり、切り花ではないのであるから花が散れば捨てると言うのも心苦しいし、そうするにしても鉢は燃えないゴミで面倒であり、あるいはお礼にもらったものを3週間ほどでポイと捨てるのは憚りがあるので部屋の片隅に置いておけば、これも邪魔になるだけと、頂いた中にはこんな思いをした人も多いかと思います。中には花後の扱いが分からないので、庭に植えたところ枯れてしまったと言う人もいました。失礼に当たらない程度に高価な儀礼品として便利であるかも知れませんが、それならば他に商品は幾らでもあり、敢えて洋蘭であればカトレアの方がよほど華やかで多様な色や香りもあり、置き場所も選びません。仮に来年も咲かせてみようと思えば、胡蝶蘭より栽培は容易です。最近はお祝い品をあれこれ考えるのが面倒なので、手っ取り早く胡蝶蘭を送るのが無難ではないかと、言わば胡蝶蘭は真心の無い贈答品の代名詞のようと、穿った見方すらしてしまいます。

 一方、胡蝶蘭交配種は日々改良が進み、白や赤だけでなく驚くほど多彩な色とパターンが海外では生産されています。おそらくバラ等の人工改良種と並んで最も多様性を持った花の一つです。反面、色やパターンが多様で複雑になればなるほど贈答には送られる側の好みの問題が生じ選択が難しくなります。しかし儀礼的な贈答用ではなく、日常的なプレゼント(母の日や知り合い同士のお祝い事等)にはこれら改良品種は大変美しく良いと思います。問題は価格です。今日の胡蝶蘭に見られるような2-3株の寄せ植えで1万円以上になっては日常的プレゼント品とは成り得ません。

最近の胡蝶蘭交配改良種

 儀礼として贈答するものであればこそ高価でなくてはならず、現在の価格がほどほどで安すぎてもダメとの考えもあります。しかし気楽で日常的な贈り物とするのであれば3本立て程度で5,000円を切らないと無理です。東南アジアの栽培国からの輸入価格は、上記写真の胡蝶蘭で10輪の花がついて日本円で一株300-400円です。同じく国際取引がある現地農園で胡蝶蘭原種Phal. equestrisが一株1,000円程度であることを考えると、その価格の低くさが分かります。すると台湾やタイ勢と組んだ企業、あるいは海外と直接取引ができる新興園芸店にとっては、今こそバラのように大衆商品として多様な色彩をもつ胡蝶蘭を低価格で市場に出すチャンスとして捉えることができます。1/10の価格で仕入れたものを10倍にして販売をしなければならない設備費に数千万円を投資し、光熱費に毎年数百万円を、また人件費には生息国の5倍ほどを費やしている国内の従来型経営のラン農園は、フィリピンとは違った意味で、一層厳しくなると思われます。 


8月

猛暑2

 フィリピンやマレーシアを上回る(少なくとも農園のある場所と比較して)気温が続いており、昨日(10日)は37.9℃を記録しました。今日(11日)は朝9時過ぎですでに35℃となっています。温室の大きさからエアコンの能力には限界があり、また散水で下がる温度も一時的とならざるを得ません。温室は寒冷紗だけであれば45Cを超える状況で34-35℃を保つのがやっとです。この結果、多くのランに影響が見られます。特に環境に敏感なPhal. doweryensisは大きな葉が黄化し始めており、32℃を超えるとPhal. doweryensisは栽培困難であることが分かりました。

 昨日夕刻、胡蝶蘭、デンドロ、カトレア、バンダ等それぞれの葉に触りましたがいずれもかなり高温で、温かいと感じるのは36℃以上と考えられます。趣味家の方々もおそらく今回の異常気象でかなり落とされる方が出ると思われます。少数の鉢栽培であって暑さだけならばエアコンのある場所に移動する等の対応ができますが、鉢数が多いとそれも困難です。いずれにしても下記したように病気には注意が必要です。

 特に筆者の所では現在カトレアの植え付けを行っている最中でもあり、またそれぞれがかなり傷んだ根からの植え込みであるため、「盛夏には植え替えは避ける」というマニアルに反しての作業となっています。この最悪の環境をネガティブに捉えても仕方がなく、温度に強いランと弱いランがどれとどれで、どのような変化を見せるのか、見方を変えれば栽培ノウハウを得る貴重な時と思い対処しています。

 追記: 11日の浜松は国内4番目の高温となる39.8℃の記録的な猛暑になってしまいました。東京でもピーク時、38.3Cとなったそうです。寒冷紗は70%遮光、扇風機を1棟当たり4台、天窓から室外に強制送風する換気扇をそれぞれ2台、エアコン20畳用を各棟毎にフル稼働させており、午前9時から2時間おきに5回の散水(井戸水16℃)を、ランだけでなく温室の天井、寒冷紗、壁4面に行いました。散水時は32-33℃に低下するものの2時間ほどで再び36℃を超え始めるため、その度に散水の繰り返しです。たまたま別件でクロネコ便が届き、受け渡された段ボール箱表面に触れたところかなりの熱を持っていました。この時期の購入は、持ち帰り以外難しいと思います。いずれにしても栽培家の皆さんも同じような状況と思います。しばらくは猛暑との戦いが続きます。

植え込み材ヘゴチップ

 ヘゴ板やヘゴチップ(Cyathea属)は原種胡蝶蘭に最も適した植え込み材の一つです。しかしCITES「絶滅 のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」の登録植物(AppendixII)となっており、東南アジアからの入荷はこれまで制限されつつも一定量は輸入されていました。特にヘゴチップ(ファイバー)は台湾からが主ですが、この制限が厳しくなり、現在は50L袋を超える商品の殆どが入荷出来ない状態が続いています。いずれ10Lタイプも入手が困難になる可能性が高いと予測されます。

 フィリピンに先月訪問した際にはAppendixIになるのではないかと園主が話していました。またランをヘゴ材に活着させた状態で海外輸出する際、ヘゴ材は土ではないため日本を始め輸入が認められる国が多いため、ランを取りつけたヘゴ材(主に板状の小片など)はフィリピンでは輸出は認めるものの、植え込み材についてCITES許可書が添付されている訳でないので輸入国の税関でクレームがついても責任はもてないと言われたとのことでした。確かにランの根に取りついた板片やチップの欠片であれ、ヘゴ材がCITES登録植物であればそのようなこともあり得るのかと考えさせられました。

 一方、ヘゴ板に取り付けたままでは輸入できないとすると、植え替えを嫌う一部のランにとっては厄介なことで、例えばPhal. doweryensisや小型の原種では順化が非常に難しくなり、移植が上手くいかない確率が高まります。

 また問題は国内の栽培家が、それなりの株数を所有している場合、今後50Lや80Lサイズ袋入りのヘゴチップが入手できないとすると、植え込み材としてのコストが高くなり利用困難となります。このため現在ヘゴチップに代わる植え込み材を見つけ出すのが急務となっています。同じような植え込み材の問題が2年前のオーキッドベースの生産中止です。パフィオの植え込み材としてこれに勝るものはなく、これに代わる植え込み材を今もって探し求めている状況です。

 ヘゴチップはプラスチック鉢に利用されますが、多くの場合、バークで代用できます。しかしバークは立ち植えの場合は良いのですが、下垂性の原種の斜め吊りでは株の抑えが弱く根や葉の成長によってはいずれ落下してしまう可能性があります。ヘゴチップはバークと違い、植え込みの際、かなり強く抑えつけても気相は保てるため斜めにしても落ちることはありません。マレーシアの蘭園のようにプラスチック鉢にミズゴケの組み合わせも考えられます。しかしこちらは過潅水となる恐れが高く一般的ではありません。現在、会員の方から新しい素材の提案を頂き、数種類の原種に適用し栽培テストを開始したところです。根張りの状態が良いことが確認できればいずれ本ページにて報告をします。

猛暑対策

 ここ2週間ほど浜松西地区では、天気予報に反しピーク時には連日35℃の猛暑が続いています。最高気温30C程の曇りの日もあるものの少なく、まして昼間の雨天は極めて稀です。温室内では遮光70%の寒冷紗を掛けたままでも40℃近くになり、夜6時頃でも29Cあたりを保っています。温室内が32℃になると涼しいと感じるほど異常な状態が続いています。エアコンでの冷房と頻繁な散水が必須となっています。いずれにしてもランは1-2日は37-8℃に耐えられますが35℃以下を目標に温度をコントロールしなければなりません。

 ここで問題なのは病気対策です。このような高温下で冷却のため頻繁に散水を行うと細菌性の病気が多発する可能性が高まります。いわゆる水浸状の黒点あるいは茶褐色の小さなシミが葉に現れ、これが2-3日で一気に広がり、古いレタスの腐りかけた葉のように融けたようになり、主茎まで2-3日で達します。早期発見が必須で、見つかれば細菌性殺菌剤の使用が必要で、発生部位に規定希釈で散布、あるいは原液を上塗りしただけでは進行を止めることはできません。対策はただ一つ、部位を完全に切り取り、切り取った葉断面に殺菌剤を塗る以外、方法はありません。

 細菌性殺菌剤は、ナレート、スターナあるいはマイコシールドなどですが、これにベルクートあるいはダコニールと混ぜたものを使用します。殺カビ剤のベルクートやダコニールは切り口に対しての二次感染防止用です。筆者の経験からは原種胡蝶蘭はナレート水和剤(オキソリニック酸と有機銅の混合剤)でもっとも良好な効果を得ています。ナレートは殺カビ効果もあるため単体でも十分です。ナレートをダコニールで溶いた原液は毒々しい黄色をしています。しかし病気の進行が止まるとしばしば救世主のようにも感じることがあります。この色が嫌な人はスターナでも有効です。

 病気が出てからでは葉をカットしなければならないため予防が大切で、6月の歳月記でも書きましたが、通風が最も有効な手段となります。30℃を超える暑さに加えて湿度も高くなりがちな状況下では風がなければ病気は極めて高頻度に発生します。この結果、家の扇風機は温室に借り出され人よりもラン優先となっている始末です。胡蝶蘭原種の中では、Phal. mariaeが最も細菌性の病気に罹り易く、次いで比較的厚手の葉をもつ品種となります。カトレアでは、通風の殆ど無い35℃近辺となると、特に根が弱っている株は葉よりもバルブが黒褐色化し水浸状になる病気が多発します。通風があっても密集して鉢が並べられていれば、内側に置かれた株は無風状態と同じです。鉢間隔を空ける必要があります。

 一方、頂芽がポロッと落ちてしまう病気も発生することがあります。落ちた葉の基部は黒く腐っている反面、基部以外の部分は緑色を保っている症状です。良く見ると主茎から根の出ている境目が黒くなっていることがあります。この病気は根や葉のはえぎわがまず腐敗します。これは細菌性の病気ではなく疫病の可能性が高く、頂芽が落ちてからでは対処方法はなく、定期的な殺菌剤(ナレート、ダコニールなど、特効薬としてリドミル)散布による予防が必要です。

 


7月

Phal. mariae

 今月の22日よりフィリピンに再訪問しました。これで今年春からは毎月1回マレーシアかフィリピンに出かける状況となっています。来月は30日からPhilippines Orchid Society主催のMid-Year Orchid Showがケソン市で開かれるため再度訪問します。

 Phal. mariaeの少し変わった様態を取りあげて見ます。Phal. mariaeはSulu-archipelago(歳月記6月のMapを参照)からミンダナオ島に生息します。一般的に本種は多輪花で、順調な育成では2-3本の分岐をもつ30㎝程の花茎を弓なりに2-3本伸長させ、それぞれに5-10輪程度の花を同時につけるため、全体としては非常に多くの花となり、原種胡蝶蘭の中では華麗な種の一つです。慶弔用胡蝶蘭とは異なり、全体として小型であるため置き場所を問わない点で日本に向くと思います。このような多数の花数をつける大株はフィリピンでも稀で、市場でもめったに見ることはありません。今回の訪問の農園で久しぶりに纏まって置かれていました。

 通常本種は白あるいはクリーム色地に丸みのある赤あるいは栗褐色の棒状斑点が横縞風に入っています。問題なのは、この棒状斑点の色に不思議な株が幾本かありました。多くの原種では花が終りかけの頃と、交配した後のさく果が生成されるときに花の色が変わります。Phal. mariaeは白地ベースと赤い斑点の内、赤色斑点がやや色あせた橙色に変わっていきます。ところが50本ほどある株の中に開花時点から、黄褐色の斑点となっているものが4本程ありました。この写真を通常の株と比較して下写真に示します。園主も開花当初からこのような色をもつmariaeは初めて見るとのことでした。


一般の花柄

黄褐色の変種

通常色との色比較

 考えられるは、本種のflavaタイプなのか、栽培時の環境温度に影響を受け生じた変化なのか、その他の要因によるものなどですが、中央の写真に見える蕾から透けて見える斑点は通常の蕾の色と変わらないにも関わらず、開花時点では斑点が黄褐色となっています。Phal. maculataのflavaやPhal. luteolaなどと同じような斑点色です。原種の中に混じったflavaにしては1割程の数は多すぎて考えにくく、一方、栽培温度によるものであれば全てが同じ環境に置かれていたことから、逆にもっと多くても良い筈でいずれにしても不明です。この色の株を全て入手したため次回の開花色で再確認するつもりです。

Phal. reichenbachiana

 本種はPhal. fasciataとの区別が非常に難しく、別種であるべきかどうかが問われる(亜種あるいは変種?)原種の一つです。ミンダナオ島にのみに生息するとされていますが、ミンダナオ島には本種とともにPhal. fasciataも生息し、このためかその中間体が多数見受けられ、本サイトの58種別ページの本種にあるType1の写真のようにどちらとも言えないようなMidlobe(中央弁)の株がミンダナオ島からの入荷株には多数含まれます。最近になってやっとMidlobe形状がH.R.Sweet(1969)のイラストに書かれたPhal. reichenbachianaタイプのものが入手できたため写真に示します。SepalやPetalの幅はfasciataとほとんど変わりがなく幅広ではありません。Midlobe形状が長楕円か写真のようなひし形なのかで変種となるのはPhal. pallensPhal. pallens v. trullifera)ですが、本種はPhal. pallensのような変種としてではなく、種名そのものが変る別種とされます。


Phal. reichenbachiana

 *会員ページ、原種リストを更新しました。

Phal. violacea mentawai 

 先月インド洋Mentawai島からのPhal. violacea mentawaiを入手しました。Mentawaiはメンタワイともムンタワイとも発音します。Mentawi島は更新世氷河期にはスマトラ本土と陸続きでしたが、これが終えると海面上昇で本土から分離され、70程の小さな諸島となりました。陸続きであった時代にPhal. violaceaはスマトラからMentawai地域に広がり、その後、それぞれが島として分離することでMentawai島に生息するPhal. violaceaは本土とは異なる独自の進化をすることになります。これが今日のPhal. violacea mentawaiとされています。

 マーケットでのPhal. violaceaはほぼ100%が、地域間やPhal. bellinaとの交配種と推測される中でPhal. violaceaの原種(野生種)は稀で、特にmentawai島からの本種は筆者の知る10年間程で初めて聞く入荷です。それまでの日本国内入手ルートの多くはUSAのラン園からでした。Phal. violacea mentawaiは、スマトラ島やマレー半島のviolaceaとはかなり様態が異なり、花茎はPhal. violaceaのように扁平ではなく、50㎝以上にもなる円筒状で、しばしばアンジュレーションが見られる長い披針形の葉形状など、Phal. violaceaの変種というよりは別種あるいは亜種に位置づけられる程の違いがあります。E.A.Christensonも分類学的に検討(study)が必要とPhalaenopsis A Monographで述べています。

 時折、本サイトで取りあげていますが、人気の高い品種は改良が重ねられ、野生の姿からは程遠い形や色に変わっていきます。Phal. bellinaも同様です。こうしたなかで数万年、人の手に触れないで自然のなかで進化してきた原種を見ると華やかさとは異なる別の美しさを感じます。


Phal. violacea Mentawai

 Phal. sumatranaについて

 Phal. sumatranaはミャンマー、タイ、ベトナム、インドネシア、マレーシア、フィリピン(Phal. zebrina)と広域に分布する種で、セパルやペタルはベースが黄緑、淡緑、クリーム、白のそれぞれの色と、同心円状に水平に走る褐色から赤褐色の棒状斑点があります。セパルおよびペタルの基部中心はいずれも白色です。リップのMidlobeには赤褐色あるいは紫色のストライプが4本基部から繊毛のある先端に向かって走っています。下写真のそれぞれはインドネシアからのPhal. sumatranaです。花の中心に縦に向かって走る棒状斑点が無いことがPhal. corningianaとの違いとの説があり、大半はそうですが、本種も稀に縦線が入るものもあります。

 一方、Phal. zebrinaは分類学的には存在せず、これらはPhal. sumatrana v. paucivittataとされ、Phal. sumatranaの変種に分類されています。このpaucivittataとは’僅かなストライプ’という意味だそうです。

 ボルネオ島Sabah州とフィリピンPalawan諸島に生息する種は上写真のような黄緑がベース色ではなく、白色で、またストライプ(棒状斑点)の数は僅か、あるいは細くなります。この地域偏差による特徴はかなり明確で、ボルネオ島全域からマレー半島の一部に分布するとの説もありますが、SabahからPalawanの狭い地域以外で白色ペースに僅かな棒状斑点のセパル、ペタルをもつタイプは筆者が知る限り見つかっていません。ボルネオ島全体としてみると、Sabahにはzebrinaがその他の地域には比較的緑色のあるsumatranaが生息しています。

 現在は海で隔てられているもののボルネオ島とPalawanは5百万年前までは陸続きであったため、Phal. zebrinaタイプが、これらの地域に生息することになったとする説が理解できます。遺伝子的には同種か、かなり近縁と思われます。下写真で左がSabah、右がPalawan産です。分類学的にはこれらは前記のPhal. sumatrana v. paucivittataであり変種とされます。本サイトでは、上写真のsumatranaと下写真のzebrinaでは様態が余りにも違いすぎるためマーケットでの名称でPhal. zebrinaとしています。


Phal. sumatrana v. paucivittata (zebrina) Sabah

Phal. sumatrana v. paucivittata (zebrina) Palawan

 これまでPhal. sumatranaPhal. corningianaPhal. speciosatetraspis)と混同された歴史があるそうです。上のSabah産の写真をを見ていますと斑点入りのPhal. tetraspisに間違える理由も分かるような気がします。ボルネオ島はPhal. tetraspisの生息域ではなく、インド洋アンダマン諸島とスマトラ島以外には生息しません。さらに変わり種を下記写真に示します。

 左はセパルおよびペタルの棒状斑点がリング状の模様になっています。このパターンは一過性のものではなく、この株固有で毎年同様のパターンが再現されます。また右は白色ベースに赤色の棒状斑点であり、ベースが白色だけをもって前記の変種であるPhal. sumatrana v. paucivittataあるいはzebrinaとするのはこの写真からは適切ではないことが分かります。するとベースが白色で、棒状斑点が太く多数あるこの株は、これも他とはパターンが異なりすぎるため、一体何というフォーム名を付けるのがよいでしょうか?

 広域分布をもつ種は、他のPhal. amabilisPhal. cornu-cervideliciosa等も同様ですが、ここで取りあげたPhal. sumatranaのように多様な様態が見られます。

デンドロビウムの搬入

 浜松に転居し温室を建てたのを契機に、会津のデンドロビウム栽培家からの要望で全株を引き取ることになり、130種以上、凡そ1,500株を1mx60cmx45cmの段ボール65箱に梱包し、4トントラックを用い3人掛りで移動しました。現在温室は胡蝶蘭原種ほぼ全種と、バンダ(主にフィリピン生息原種約250株)、Cirrhopetalum(約300株)、カトレア(原種と交配種で1,500株程)に加えて、デンドロビウム原種が1,500株増え、また胡蝶蘭栽培の合間に集めた多輪花系および雲南省生息パフィオ原種が混在し、さながら温室は原種植物園と化し、胡蝶蘭やデンドロビウムの原種を見たければ、フィリピンやマレーシアに行くよりも浜松に行けば良いと言われかねない様子となってきました。

 このような状況のため、ここ2ヵ月程の間で素焼きとプラスチックを含む鉢が約5,000個、ミズゴケが30Kg、ヘゴ板100枚程を用意しました。移植は手作業で行う訳ですからかなりの重労働です。4月初旬の胡蝶蘭移植から今日まで、胡蝶蘭、バンダおよびパフィオの植え替えが完了したばかりで、カトレアやデンドロはこれからという状況です。さらにランではありませんがホヤが今月末から30種ほど入荷します。ここまでで一段落となります。

 これだけ胡蝶蘭以外の原種が集まると胡蝶蘭原種だけでなく、これまでに集めた資料もあり、胡蝶蘭と同じようにデンドロ、多花性パフィオ、カトレアなどのそれぞれを属別に分けたページあるいはサイトを新たに起して見ようかと思っています。広く浅くでは趣味家としては意味がないため、数年かかると思いますが内容を日々充実していけば良いのではと思案中です。

未整理状態の1500本以上のデンドロビウム。これから数か月かけて新しい植え込み材とポットに移植。

フィリピンからの搬入

 5月の歳月記でEMS搬送トラブルについて取り上げました。最も気温が上昇する時期にEMS搬送を行うことの恐ろしさを体験しました。このため出荷を依頼していたカトレア交配種を一時ストップしてもらい対策を考えていましたが、結果として輸出入業者(フィリピンでは簡単にBrokerと呼んでいる)を介しての輸入となりました。

 今回は800本のカトレアと150本ほどのCirrhopetalumおよび前回の高温障害でダメになった胡蝶蘭原種の補償分の一括搬送で、12箱分、総重量450Kgとなる航空荷物となりました。一連の手続きは次の通りです。まず蘭園からの荷物をフィリピンの輸出入業者(ブローカー)が受け取り、航空貨物としてフィリピン側の税関、検疫、CITES書類審査等での立ち合いを代行します。検査が終われば航空便の輸送を手配します。ここまでの処理と荷の成田到着までが凡そ1日半です。一方日本ではフィリピンとは別業者の国内のブローカーが担当し、成田に荷が到着するのを待って、到着後直ちに税関での各検査に立ち会うと共に納税を代行します。通関後は成田から自宅までの配達となりますが、今回は一箱当たりの荷物が大きかったため宅配便ではなく日通を利用しました。これらの蘭園からの受取と、成田からの運送手続きまでがブローカーの業務となります。荷の成田到着から自宅に向けての発送開始までは半日、日通は翌日の午後着となるため国内での所要時間はおよそ1日半です。電話は1回のみ取引を始めるに当たり確認のため、国内のブローカーと話をしました。フィリピン側ではラン園がブローカーとの交渉を行いますので、海外での詳細な情報のやり取りや状況はメールで確認でき、ほとんど私は何もしないで荷物を待つだけであり、これはEMSと同じでした。

 驚いたことにはこれだけの量の荷物にも関わらずラン園から自宅到着までは4日間(正味3日)であり、国際蘭展に出店する海外の殆どのラン園がEMSではなく、それぞれの開催国へブローカーを利用したAir cargo方式で搬入する理由が分かりました。ハンドキャリーの場合、現地での梱包が出発1日前に行われ、これを出発前日あるいは当日早朝にホテルに持ってきてもらい、帰国後、成田で宅配便に依頼して翌日に自宅着となることを考えると、ハンドキャリーと比べてこれだけ大きな荷物であっても1日程度の遅れとなります。またブローカへの支払い費用は荷物の量で変わりますが凡そ4-5万円(関税、一時倉庫使用料などを含む)プラス日通の搬送費程度となります。よって格安エコノミー航空運賃程度の費用となり、貴重品種を除く少量輸送には適しませんが、荷物の量によっては最もリスクの少ない有望な搬送手段となります。

 そこでブローカーは書類さえ準備できれば、ランだけでなくどのような商品でも同様な手法で輸出入が可能とのことで、入手が困難になっているヘゴチップやヘゴ板を船積み貨物として輸入することはできないか検討することにしました。ヘゴ材は通常インドネシアからですが、マレーシアでもCITESを申請すれば輸出ができるそうで、その業者と交渉を始めました。日本国内と海外(マレーシアやインドネシア)ではヘゴ材は5-10倍ほどの市場価格差があり、日本国内では極めて高価です。また入手自体が困難になっています。ミズゴケのように1-2年で交換の必要も無く、潅水時の水量調整も不要でありヘゴ材は胡蝶蘭等の着生蘭にとっては最も有効な植え込み材です。問題は輸入単位が船積みのコンテナ1個分となることで、最小容量のコンテナにするにしても一人では使い切れないため、ラン仲間と分割することを思案中です。


前回の入荷を含め、凡そ1200株のカトレア交配種。花色が赤、白、黄、青、混色系の5系統で、最近改良された大輪花品種。掌を大きく広げたサイズよりも大きい。趣味家の温室というよりはラン農園の風景と化している。奥は原種カトレアが置かれている。

 今回は横浜税関(成田空港の植物検疫所管は横浜税関)にでココナッツハスク(ココナッツの殻そのもの)植え込み材が付いた状態の受け入れが可能であることの確認と、蘭園に対して根を決して切らないことを条件に出荷を依頼したため、ココナッツ殻付で送ってもらいました。このため梱包は倍程度のスペースとなり12箱450Kgとなった訳です。この結果、生きた根が多数見られ、順化は順調にいくと思われます。上写真は素焼き鉢に収めてから、カビおよび細菌病の予防としての薬剤散布を終えた翌日の光景です。ココナッツハスクはすでに古くなっており、今後はこれらの株分けを含め、3か月程かけて新しいミズゴケと素焼き鉢への植え込みとなります。

 下写真は前回と今回の根の状態を示したものです。ハンドキャリーではなくEMSや貨物の場合、検疫での受け入れ拒否を恐れ左のように根をカットして出荷するため、梱包の条件が悪いと写真のようになってしまいます。一方、根を切ることを最小限に留めて出荷した状態が右です。白い根は死んでいるものもありますが、その中でも新しいバルブからの白い根はほとんど生きており通常の植え替え時のポットから取り出した状態と変わりません。

 写真はカトレアですが、胡蝶蘭でも左のような根をカットする状態が4年ほど前は一般的で、胡蝶蘭で2-3㎝、Vandaは10㎝程度、Mokaraは根無しなど。現在では根を切らない通達がかなり行き届くようになったものの、時折、未だにカットされる場合があります。それほど輸入国での通関拒否による損害のトラウマが蘭園にはあるのでしょう。


5月入荷のカトレア交配種の根。大半が壊死状態。ここから新しい根を出すには2ヵ月必要。かなり高度な順化技術を要す。

今回の根の状態。白い根の多くは生きており、ここからの順化であれば通常の植え替えと変わらないため容易となる。

 


6月

Phal. sanderianaについて

 Phal. sanderianaはミンダナオ島およびその周辺に生息のAmabilisグループに属しています。進化的にはPhal. amabilisPhal. aphroditeに近い謎の多い種で、本サイトの「原種胡蝶蘭類似種とグループ」でも記載していますが、遺伝的にはよりPhal. amabilisに近いとされています。このPhal. amabilisに近いという説が謎を深めています。というのはPhal. amabilisは今日のPalawan諸島においてPhal. aphroditeから進化し、さらにPhal. sanderianaはPalawanからルソン島を南下したPhal. amabilisから進化したことになるのですが、この説には現在ミンダナオ島とその周辺の狭い地域のみに生息するPhal. sanderianaの、地理的移動と進化説の論理性に疑問が残るからです。

ルソン島からミンダナオ島に分布するPhal. fasciatalueddemannianaなど多くのフィリピン固有種は5百万年前のフィリピン諸島がボルネオから分離した後に誕生した種であるためフィリピン諸島のみに分布生息します。これらがフィリピン諸島に広く分布した過程はルソン島からミンダナオ島に至る南下説です。一方、Palawanで誕生したPhal amabilisも同様に、ミンダナオ島まで南下し、そこでPhal. sanderianaに進化したとする説が正しいのであれば、Phal. amabilisも他の固有種同様にルソン島やミンダナオ島に生息している筈ですが、ルソン島にもミンダナオ島にもPhal. amabilisは現在生息していません。一方、Phal. aphroditeは生息しています。

 そうするとPhal. amabilisではなく、Phal. aphroditeからPhal. sanderianaが進化したという仮説のほうが説得力があります。しかし遺伝子学的にはそうではないと言うのです。今日のフィリピン諸島の南下説を採る限り、Phal. aproditeがPalawanからルソン島を経てミンダナオ島に移動し、そこでPalawanで起こったようにPhal. amabilisが生まれ、さらにこのPhal. amabilisPhal. sanderianaに進化したということになります。この説によれば、異なる2つの地域でPhal. aphroditeからまったく同種のPhal. amabilisが進化したことになりこれは考えにくいと言わざるを得ません。

 一方、フィリピン諸島はルソン島からボルネオ島に繋がるPalawanとは異なり、ミンダナオ島からボルネオ島に繋がるSulu-archipelagoのボルネオ島寄りとなる小さなTawi-Tawi島にP. amabilisが現在生息しているそうです。ボルネオ島にはPhal. aphroditeは生息していませんし、ミンダナオ島にはPhal. amabilisは生息していません。よってTawi-Tawi島のP. amabilisはボルネオ島からの移動と考えられます。Phal. sanderianaPhal. amabilisにより近い近縁種であることが正しい前提で考えると、ボルネオ島からSulu-archipelagoを経てミンダナオ島にPhal. amabilisが移動してゆく過程で、現在のミンダナオ島(Zamboanga)近くでPhal. sanderianaに進化し、同時に起こった氷河期が終わり、ボルネオ島はSulu-archipelagoを挟んでミンダナオ島と分離され、Phal. amabilisはボルネオ島寄りのSulu-archipelago西端に、またPhal. sanderianaはミンダナオ寄りの東端に残ったのではないかとする仮説のほうが論理性があり、この説であれば、ルソン島やMindano島にはPhal. aphroditeが生息していてもPhal. amabilisが生息していない理由が説明できます。

 さて、本題に入る前になぜ再度上記の問題を取りあげたかと言うことですが、最近不可思議な現象がPhal. sanderiana原種に見られるからです。5年ほど前から今日までにPhal. sanderiana albaタイプの原種をフィリピンにてかなりの数を見ており、昨年では数株が纏めて原種専門のラン園にPhal. aphroditeとして置かれていました。最初は7年ほど前に東京ドーム蘭展でフィリピン業者からPhal. amabilisとして購入したものです。今日においてもフィリピンラン農園の殆どの園主はカルス形状には関心がなく、Phal. aphroditePhal. amabilisとして扱っています。私自身は現在5株程それぞれ異なる入手ルートで保有しています。先週もフィリピンの原種収集家からPhal. sanderiana albaではないかとメール写真で意見を求められました。自然界で数千、数万株に1つと言うalbaタイプがこれほど多く見られることは考えにくく、人工培養による実生の可能性や、albaが特定地域で一つの元親から繁殖し、そこで採取された株が異なる業者の手を通りマーケットに出た可能性がないとは言えませんが、albaという認識もなく、比較的低価格なPhal. aphroditeとして扱われている現状ではいずれも考えにくいです。カルス形状はPhal. sanderianaであり、セパル、ペタルの形状色はPhal. amabilisあるいはPhal. aphroditeであり、またMidlobeはPhal. aphroditeです。

 治安問題をもつミンダナオ島も開発が進みこれまで未開であった地域からの原種が入荷するようになり、ますますそのalbaタイプが見られるのではないかと思われます。このような状況から大胆な仮説ですが、これほどalbaタイプが多いと言うことは、albaではなく、これがPhal. amabilisPhal. sanderianaの進化の過程における中間体ではないかと最近思うようになってきました。ミンダナオ島周辺にはPhal. aphroditeと共に、この中間体がかなり生息しているのではないか言うことです。筆者は分類学者ではなく科学的解明の方法については分かりませんので、この分野の研究者がおられれば、遺伝子等分析の検体として所有するalbaタイプを提供したいと考えています。


Phal. sanderiana

Phal. sanderiana alba ?

マレーシア胡蝶蘭原種ラン園での栽培(植え込み材)

 胡蝶蘭やカトレアなどの着生ランの栽培方法について、素焼き鉢にミズゴケが一般的な組み合わせとして知られ、プラスチック鉢を用いた場合はヘゴチップあるいはバークが適当とされています。プラスチックとミズゴケの組み合わせが適さないのは、プラスチック鉢では潅水により保水したミズゴケの水分蒸散が鉢上面と底穴のみで、根が長く濡れた状態となり、根腐れの可能性が高くなるためです。特に大きなプラスチック鉢にミズゴケを100%使用することは保水過多となり最も不適当な組み合わせとなっています。

 一方、マレーシアの原種ラン園ではPhal. bellinaを始めほとんどの胡蝶蘭はフラスコ出し苗からFSサイズまでそれぞれの株サイズに応じた大きさのプラスチック鉢とミズゴケ100%で植えつけており、一般常識とは異なる栽培方法となっています。写真下の上段右と下段はマレーシア蘭農園のそれぞれPhal. amabilis, Phal. cornu-cervi, Phal. aphroditeです。鉢サイズは3.5-4号相当です。

 クアラルンプールでは1年の大半が昼間30C、夜間は25C以上であり、湿度も高く、いわゆる熱帯気候です。農園では寒冷紗がかけられ雨が直接当たることはありませんが、この高湿度のなかでの4号相当のプラスチック鉢にミズゴケは驚きです。潅水は1日に一回ホースから作業員が直接散水をしています。出荷の際に株をポットから剥がし根を取り出す作業を手伝って見ますと、ミズゴケは適度に湿り気があり、ぐしょ濡れの状態はありません。この加減が重要なのでしょうか、一方でミズゴケがカラカラに乾燥した鉢はありません。

 日本国内での栽培マニアルでは(表面の)ミズゴケが乾燥したら1日を置いて水をたっぷり与えると教えられますが、1日置くのは中心部まで乾燥するのを待つことを意味します。マレーシア農園ではミズゴケが乾燥してから潅水を行うことはありません。

 ミズゴケが乾燥とグショグショに濡れた状態を繰り返すことが良いとは思えません。鉢内では同じような湿り気を保つ状態をどのように作り出すかが栽培の技術と思われます。筆者は現在、本サイトで述べているように、このような状態を作り出す方法として、素焼き鉢を用いる場合は、根の中心部にヘゴチップを使用し、その外側にミズゴケを覆ってから鉢に入れています。これは中心部に水を長期に保水しないためで、素焼きに接する面は陶器を通してゆっくりと蒸散させることを目論むためです。素焼き鉢に100%ヘゴチップでは乾燥が進み、潅水頻度をあげる必要があります。このヘゴチップとミズゴケの2層巻きは鉢内の湿度を長時間一定にするため手段の一つです。環境に合わせた調整はミズゴケの量で行います。乾燥する室内ではややミズゴケの厚みを増すことになります。

 問題はヘゴ材の供給が国内だけでなく世界的に不足しており、マレーシアではヘゴ材の輸出にはCITES認可が必要と聞きました。プラスチックにヘゴチップ100%はコスト的に難しくなりつつあります。ヘゴチップに代わるものとしては、鉢の中心部にバークやココナッツハスク(ヤシガラ繊維)が考えられます。まだ試してはいませんが、いずれヘゴに代わる植え込み材が必要になるように感じます。

山採り株の様態

 山採り株の直接海外輸出はそれぞれの生息国において基本的に許可されませんので多くの方は実際の山採り株の様態を見ることはないと思います。5年以上前にネットに、自然に生息するランの葉は病気が無く綺麗であると書かれたページを見たことがありますが、下写真に示すように、山採り株の大半は虫食い、葉枯病がしばしば見られ、また写真の右側に見られるように無数の苔がこびり付き壮絶な印象を受けます。綺麗な葉は新芽だけです。写真の病痕のような白いコケや、最下段右の泥のような汚れ(これも苔)はスポンジで何回も拭けば除くことができます。これらコケ類を洗い落とした葉を見て、販売者は山採り株は病気が無く綺麗と思われたのでしょう。

 根はさらに悲惨です。高い木や崖によじ登り採取するからと思われますが、支持木からむしり取られた状態で殆どがブツ切れ状態で、傷の無い健全な根はまずありません。高い木の上で根を傷つけないようにナイフ等を用いて1本づつ剥がしていたのではハンターの身の危険が増します。


Dimorphorchisの山採り株。新芽を除き殆どの葉は苔に覆われている

胡蝶蘭原種。右の葉の白いシミのようなものは苔。新芽も基部が病気

胡蝶蘭原種。右が洗浄前。奥が洗浄後。これから栽培が始まる

左の同種の原種の葉の拡大写真

多数の種類の苔が葉全面に付着

黒いシミのような部分は病痕ではなく苔で、スポンジで擦ると取れる。右側の綺麗な葉のようになる

 このような壮絶な自然環境で何十万のタネから1つの確率で生き抜いてきた野生種は順化に成功すれば交配種以上に強健である理由も分かるような気がします。

マレーシア再訪問

 6月22日からマレーシアクアラルンプール近郊で始まりましたPutrajaya Flower & Garden Festival 2013 に出かけました。この花の祭典はマレーシアでも最も大規模なもので、花の展示、デコレーションまたランドスケープなどそれぞれの作品を展示するだけでなく、夜には湖上に華やかな船を浮かべ、歌や踊りが催されます。花はマレーシアですので必然的にランが中心となります。下記に現場で撮影した写真を載せました。解説は追って記載します。

Putrajayaは行政機関が集まった行政新首都です。クアラルンプールから南へ車で40分ほどに位置します。


6月末の昼間の気温は高いため夕方の5時過ぎに出かけました。夜10時ごろまで開催しています。大きな会場ですが入場はすべて無料です。

延べ100万人が訪れるという祭典の初日は土曜日ということもあり、駐車場はすべて満車状態でした。マレーシア以外の外国人も多くいました。
会場内の様子です。東京ドームを遥かに上回る広さでマレーシア生息植物、ランドスケープ、コンテストコナー、生息環境など6つのゾーンに分かれて展示が行われていました。
 
各国からの展示作品
 
下写真は販売コーナー。価格は日本国内の1/3程度ですが、それでも祭典価格であり、交渉によっては半額ほど安くなります。原種とMokaraやカトレアの交配種に分かれており、初日であったせいか、マニア風の買い手も多く見られました。地元の買い手を対象としているため持ち帰れないランも多く販売されていました。匂いと共に人気があるそうで胡蝶蘭原種は圧倒的にPhal. bellinaが多い印象。

 

 


 会員専用ページの株リストにPhal. petelotii、Phal. deliciosa hookeriana、Phal. bellina full red type等追加しました。


会津と浜松の栽培環境の違い

 浜松に移ってから2ヵ月半ほど経過しました。日照時間が日本一という浜松と会津とは気温の違いは当然ですが、太陽光の質に違いを感じています。会津はシャープな光に対して、浜松は重い感じです。妙な表現ですが他に言い方が見つかりません。光が重いと言えば、どんよりと晴れている状態かと思われるかもしれませんが、ここ浜松は空気は淀んでいませんのでそれとは違います。光量の違いのような感覚ですがこれも科学的には説明つきません。おそらく気温と光の相関がそのように感じさせるのかも知れません。

 温室に関して、床は会津ではコンクリート、浜松では地面にシートを張った簡易的なものとしました。温室を建てるに当たって問題としたのは、温室が家屋と見なされるのか、農家の野菜や生花栽培用ビニールハウスやガラス温室のように家屋とは見なされないかです。殆どの県では4面壁のある温室を宅地内に建造した場合、家屋と見なされ固定資産の課税対象となります。温室の敷地面積が大きくなればこの問題は深刻です。幸いにして会津とは異なり浜松は4面壁のある温室であっても倉庫や仕事場ではなく植物栽培の専用の建造物であれば家屋と見なされないため、この分の加算税がありません。昨年の市との相談ではコンクリート床であっても良いとのことでした。同じ植物を栽培する温室であっても農家の温室は非課税で、その他の温室は家屋と見なし課税するのは矛盾します。近年の野菜等の生産では自動制御型室内栽培が注目され、それまでの畑が冷暖房完備のコンクリート建造物に変わろうとしています。これはさて農家であっても家屋なのかどうか、固定された4面壁のある建物を家屋と定義する多くの県の、今の解釈は果たしてどうなるのか、これから温室を建てられる人にとっては関心事ではないでしょうか。

 6月の梅雨に入って雨天日を除き、晴れ間の温室の温度は窓を閉め切れば45Cを超え50Cとなります。これは会津でも同じです。70%遮光寒冷紗をかけて、天窓を開き、外気を取り入れて会津では30C以下、浜松では34-37Cです。なんとか32C程度に持っていこうとすれば霧か、エアコンでの冷房が必要です。おそらくこのような状態が10月まで続くと思われます。

 一方夜は、窓を閉め切っていれば昼間の地熱で外気が20C程度の場合、6月中旬時点で24C以下になりません。温室での胡蝶蘭栽培では梅雨期は別として、窓を閉め切るのは湿度を高める上で必要です。会津では6月であれば夜間は18-20C程度に降下しました。

 上記のような温度環境のため、今月の花のページに掲載の、これまでの月の開花種の開花時期が変わっていくと思います。現在温室ではPhal. violacea、Phal. bellina、Phal. fasciata, Phal. pulchra, Phal. maculata, Phal. tetraspis, Phal. cornu-cervi系が開花期となっています。


販売サイトで思うこと

 久々に胡蝶蘭原種に関しての幾つかのネットの販売サイトを拝見しました。驚くほどの誤った情報が記載されていることに気づきました。例えば Phal. schillerianaで検索したところ、本種の葉の大理石風模様を斑入りと称したり、スマトラ産としたり、 Phal. violaceaでは四季咲きで10C(最低温度?)とし、しかし添付写真はbellinaであったり、手に持って原種として紹介しているランは交配種であったりと、中にはそれを信じて栽培すれば間違いなく枯れてしまう情報まで様々です。

 趣味家のホームページならばともかく、商品に対してこのような情報では販売店がどれほどの知識を持って栽培のアドバイスを顧客にしているのか首を傾げたくなってしまいます。しかし人の命に係わるほどのことでもなければ、公正取引に反することでもないので、これが現状なのか、他の商品であったならどうなのかなと考えてしまいました。

 また販売サイトに掲載されている殆どの胡蝶蘭原種の販売写真は素焼きあるいはプラスチックポットに立ち植えされています。Phal. schillerianaもそうでした。5月の歳月記で取り上げましたが葉が立ち性と下垂性があり、Phal. schillerianaは下垂系です。これを立ち植えで栽培すると、葉は左右に開いて成長はしますが、当然自然に見られるような20㎝を超える大きな葉が何枚もついた状態にはなりません。また立ち植えであるため主茎先端に常に潅水による水が溜まり、いずれ成長点や葉の付根が病気になる確率はかなり高くなります。

 室内でこのような下垂系の胡蝶蘭を栽培するには潅水の方法が難しく、立ち植え以外難しいとは思いますがすこし残酷な気もします。ミズゴケを根に巻いたものをボール状のヤシガラ製のポットに入れて吊るし、潅水するときはこのボールごと水に浸し、水滴を切ってから吊るすような栽培ができれば自然に近い状態での栽培ができるのですが、このような商品があるのかどうかは不明です。

 


マレーシアラン原種農園訪問

 マレーシアのラン農園は数多くありますが、原種とりわけ胡蝶蘭を中心に扱う農園となると限られておりクアラルンプール近郊で2軒ほどとなります。このため稀少種を含めた多くの種類を求めようとすれば農園だけでなく趣味家宅にも訪問することになります。日本国内と異なりランは1年を通して野外で栽培されており、寒冷紗のみが設置されています。比較的風通しの良い涼しい場所を選んで栽培されており、これはフィリピンも同様です。

 下写真はマレーシア訪問時の工程と農園風景を示したものです。クアラルンプールから南へ1.5時間ほどのSeremban市は地方の小さな町です。早朝にはホテルの室内にいてもコーランが毎日聞こえてきます。海外では極力、食事は地元の人と共に出かけ、現地の人が行くレストランと私は決めています。このため地元の人と行く場合は必ず意識してレストランの客を眺めてみるのですが、外国人と思われる人は我々を除きこれまで一人として見たことがありません。一方、このような行動はその国の食文化に関する発見と共に後悔することも多く、例えばマレーシアの家族が普段出かける地方の料理店に入ったときはモスリムの人たちばかりで、暑い日中を過ごした後の夕食で、何にもまして取りあえずビールをと注文したところ、この店では宗教上の理由からビール等の酒類を始めコーラすら無く、鶏肉に飲み物は果物(スイカ)ジュースといった苦い経験があります。 

 一方、地方とは異なりクアラルンプールは国際都市のため外国人を意識した味のレストランが多数あり、いわゆる旅行ガイドブックに紹介されているレストランですが、これらと地元の人が家族で行くレストランとは、食事の値段にではなく、全く異った食文化であることが分かります。日本では日本料理は銀座の高級料亭でも、町の大衆レストランでも新鮮さや味付けの多少の違いはあっても味が別物のように大きく変わることはありません。これがマレーシアでは違います。ホテルも同様でクアラルンプールのホテルの朝食は国際的に共通したメニューと味ですが、Serembanのホテルではその町最大のホテルにも拘らず、マレーシア色が濃く、メニューも味もかなり異なります。困ったことにマレーシア独特のスパイスがどうも合いません。

 最初にクアラルンプールに宿泊した時、ガイドブックには代表格として2つのマレーシア料理専門店が紹介されており、一つは味で勝負する店、他の一つは民族ショーのある店です。前者の店に行くべくホテルでも本物のマレーシア料理を出す店であることを確認して出かけました。味は確かに美味しくこれでマレーシアでは食嗜好には困らないと思ったのですが、これは大きな誤りでした。確かにこの店には見るからに現地の人らしき客はいなく外国人ばかりでした。ガイドブックはその意味でその国の真の食文化を紹介しているとはかぎらないことを悟りました。 一方、マレーシアはインド系住民も多く、彼らの行く店に行ったときは全員が直接手で食べており、さすがにこれを真似することは無理で、なれない者が試みても口に運ぶまでにほとんどがこぼれて落ち、指を噛むだけです。スプーンを要求しましたが、スプーンで食べる我々が如何にも外国人と言った違和感がありました。

 見方を変えれば多民族国家での当然の成り行きなのかも知れません。 結果として地方では、初日は兎も角、次の日から私は、中国系マレーシア人の行くマレーシア風中華料理ばかりを毎日食べる羽目になっており、なぜマレーシアまで来て中華料理なのかと半ば諦めています。しかしこれにめげず、郷に入っては郷に従えでいろいろと試みを続けていくつもりです。 


Kuala Lumpur訪問工程 GPSカメラからの情報

Kuala Lumpur Twin Tower

Shangri-la HotelからのKuala Lumpur 市内光景

Seremban Bitang HotelからのSeremban市内光景

Seremban市内

Seremban市内。この町にもセブンイレブンがあります。

ラン農園光景1 すべて胡蝶蘭原種

ラン農園光景2 すべて胡蝶蘭原種

ラン農園3 左はPhal. gigantea

自然栽培光景 ラベルもなく聞かなければ品種不明

趣味家宅の庭での栽培光景1

趣味家宅の庭での栽培光景2

ラン園主宅庭での栽培光景

Mokara農園栽培光景

 


病気対策について

 梅雨に入り、ランの病気が最も多発する時期となりました。多くの方は胡蝶蘭栽培に夜間湿度を高める工夫をされており、この時期は一日を通して湿度が高く同居する他のランを含め、細菌性の病気(葉に水浸状の斑点が現れ、やがて古いレタスの葉が融けたような症状となる)に掛かりやすくなります。

 これまでの経験で病気対策の最も有効な手段は何かと問われれば、定期的な防疫薬品散布以前に、まず通風と答えます。通風は病気予防の最も有効な手段であり、これに勝るものはありません。葉あるいは花茎が微かに揺れる程度の風を送ることが病気対策だけでなく成長にも大きな役割を果たします。綿を葉に付けて風の有無を調べ、微かに風で動くだけでもその効果は違います。

 幸いにして市販されている扇風機は多種多様な形状や機能があり、また消費電力も小さいため必需品です。しかし扇風機の問題は多くがタイマー付で数時間で自動的に止まってしまうことです。このため連続モードで動作する扇風機を求める必要があるのですが、この機能があるのか無いのかが中々分かりにくく電気器具販売の店員に聞いて確認してから求めないと失敗をすることになるかも知れません。

 病気にかかってしまった場合は薬品対応となります。薬品については、細菌性とカビ系の病気で商品が異なり、これを確認して利用しなければなりません。薬を使用したがダメであったとする原因には、手遅れである以上に薬品の選択ミスが考えられます。特に細菌性の病気は進行が速く葉の付根まで病状が広がると手遅れです。ホームセンターで販売されている多くの薬品は細菌とカビ系のそれぞれ専用で、両方に効く商品は多くありません。よく見かけるベンレートやダコニールはカビ系であり、細菌性には効きません。アグリマンシンやスターナが細菌病に有効です。しかしこれらの薬品はホームセンターではあまり見かけません。また筆者はマイシン系の薬品を使用するとカブレるような症状がでることがあるので最近は使用していません。両方に効くもので良く見かけるものはビスダイセンです。

  筆者が最近最も使用しているのはナレート水和剤で細菌病には極めてよく効きます。これとカビ系のダコニールとの混合液を患部を切り取った後に塗布します。耐性菌の発生も無いようです。問題はナレートもホームセンターには余りなく、ネットでの購入となります。またサイズの小さい商品が無く500gが最少なので、株数の少ない栽培では割高になってしまいます。一方、ナレートは黄緑色、ダコニールは乳白色で、これを散布すると葉が汚れますが、効き目が第一ですので止む無く利用しています。

 どの薬品であっても、室内での散布は出来ませんので室外で散布し、乾燥するまで外に置いてから取り込むことになります。最初に戻りますが、予防と言うことであればどの薬品よりも通風に勝るものはありません。 


 4月と5月それぞれフィリピンおよびマレーシアのラン農園や趣味家宅を訪問しました。胡蝶蘭原種に関しての収穫は、これまで野生種の入手は不可能と思われていたPhal. javanicaおよびPhal. violacea mentawaiを得たことでしょうか。これらはインドネシアからマレーシアを経て入荷したものですが、Phal. javanicaはこれまでのJava島中央での生息域では絶滅したと言われており、同島北部の生息種とのことでした。今後の入荷は無いと思います。Phal. violacea mentawaiも同様にMentawai島からの入荷は珍しく、最後かもしれません。またPhal. giganteaPhal. doweryensisのインドネシアからの入荷は現在は全く止まっており、Sabahから若干入荷することもあるとのことで、これらも入手できなくなるのは時間の問題と園主や現地趣味家の方々が話されていました。現在市場で入手できるこれら品種は主に台湾やタイで培養された実生です。

 胡蝶蘭ではありませんが、デンドロビウムの原種でDendrobium piranhaDendrobium ignea-niviemも入手できました。デンドロビウムのなかでは高価でマーケットでは数万円するものです。2013東京ドーム蘭展への出品目的で日本の業者が買い付けに来ていたそうですが、その折には無かったそうです。

 前にも述べましたが、原種愛好家の悩みは台湾やタイの実生がセルフ交配あるいは同一生息域株との同種間の他家交配ではなく、奇を衒うことや実生を得やすくするために異種間あるいは異なる生息域間の交配が、情報なく行われていることです。Phal. bellinaに至っては、フラスコ苗から開花する花はフラスコ毎に違う程で、飽きれるほどです。東京ドーム蘭展出展常連のラン販売業者のフラスコ苗ですらラベルとは異なる交雑種であった経験は何度もあります。2013年の東京ドーム蘭展では、お詫びにとPhal. chibaeのフラスコと数本の胡蝶蘭原種を無料で頂いた程ですが、原種の自家交配とされた株が交雑種であった経験を一度でもすると、花が咲くまでの2-3年の努力と期待が裏切られたことになり、その業者の商品に対して疑心暗鬼となってしまいます。また変種が何度自家交配をしても胚が得られない株を幾つか所有していますが、これらも果たして原種なのか怪しいと思っています。

 温室の整理やレイアウトも終盤に近づいており、今月は幾つかの写真を掲載してみました。 


胡蝶蘭原種吊り下げ取付。左(西)はPhal. zebrina, bellina, fimbriataなど、右(東)はPhal. gigantea, doweryensis, violaceaなど

Phal. gigantea Sabah取付は9割以上がヘゴ板。ベンチ上は主にPhal. bellinaviolacea

温室南壁から北方面の様子。手前はPaph. rothchildianum

Phal. cornu-cervi

Phal. fasciatapulchraなど

Laelia anceps

Vanda sanderiana (奥)

Cattelya hybrids

Paph micranthum系。後ろの黒ポットはPaph. hangianum

Vanda javierae

Phal. schileriana

 

下写真は4-5月胡蝶蘭入荷株の一部です。


Phal. cornu-cervi solid red ポット径12㎝

Phal. zebrina Sabah 23-4㎝

Phal. violacea mentawai 19-22㎝

Phal. gigantea Sabah 35㎝

Phal. javanica 18㎝

Phal. pantherina ポット径9㎝

Phal. bellina alba ポット径9㎝

Phal. appendiculata ポット径5.8㎝

Phal deliciosa alba ポット径5.8㎝

Phal. corningiana solid red ポット径9㎝

Phal. venosa 22㎝

Phal. bellina coerulea ポット径9㎝

Phal. doweryensis 25-6㎝

Phal. inscriptiosinensis ポット径9㎝

Phal. fimbriata 22-24㎝

Phal. amboinensis flava ポット径9㎝

Vanda javieraeの新根
左写真は上の写真にあるVanda javieraeで、4月にフィリピンよりハンドキャリーで持ち帰ったものです。入荷時点では商品には到底ならない程に全体が弱っており、順化できるかどうかと思いましたが、Manilaの暑い所に置かれるよりは良いと思い持ち帰りました。取付から40日ほどで芽の伸長と新根が発生し始め、新しい温室で息を吹き返したようです。栽培が難しく絶滅の危機にある種ですので、なんとか栽培法を確立したいと挑戦しています。今のところ幸先が良いようなので、成長が確認できれば1年後には海外を含めて栽培法を発信したいと思います。

 胡蝶蘭以外ではフィリピンやマレーシアでは切り花として知られたMokaraを根の付いた苗として何点か購入しました。写真は一部です。MokaraはVandaを含む3属交配種ですが新作が次々と出ており、新作の中には400リンギットという現地価格としては非常に高価なものもありました。多くはその1/10以下の価格で1/30程度の品種もあります。原種だけですと温室がやや地味ですので明るくするための展示用です。

 


 会員専用の株リスト(胡蝶蘭原種40種/タイプ以上)を会員ページに掲載しました。


5月

順化(移植へ経て新たな根や芽が発生するまで)処理について

 引越しに伴う数千株の移植が終わりに近づくとほぼ同じくして、先月のフィリピン訪問で注文した株の入荷が始まり、4月から5月は手を休めることのできる時間がない状況です。25日からは再びマレーシアを予定しており、さらに6月中旬には1500本を超えるデンドロビウムの原種が友人から譲渡されますので、落ち着くのは7月以降になりそうです。

 さてこのような状況で移植作業を進めていますが、十年近い体験を通し胡蝶蘭原種については凡そ植え込み材と植え込み方法は3種類程度になっています。これらの情報は順次本サイトで掲載していく予定です。

 浜松と会津との最も顕著な違いは、浜松は晴れの日が圧倒的に多く(4月9日から5月20日までに雨らしい日は5日のみ)、曇りの日も少ない)ことです。会津では4-5月は年間で晴れの日が多いものの曇りがちで、温室の窓を開けることはありません。このため輝度が低い反面、高湿度が得られることです。一方、浜松は殆ど毎日が晴れで温度上昇が避けられず、これを抑えるため外気を取り入れる換気を行う必要があります。このため湿度が下がり乾燥します。光熱費は、予想ですが浜松での暖房費は1/5以下、おそらく1/10程度、但し夏季には冷房が必要のように感じています。浜松では輝度が制御できる点で、ランの成長にはかなり有利と思われます。こうした環境の違いによる対策や、温室を拡張したため新たに海外からの入荷と、それらの移植について、今後順次取り上げていきたいと思っています。 

 今回の移植や入荷株の植え付けは、立ち性の胡蝶蘭原種については2種類の植え込み方法を採用しています。

  1. プラスチック鉢にヘゴチップ100%
  2. 中心部をヘゴチップとし、外側をミズゴケで覆っての素焼き鉢への植込み(植え込み材のページの「ヘゴチップとミズゴケのミックスコンポスト」に写真説明が有り)

  一方、葉が下垂する種では下記の1種類としました。

  1. ヘゴ板

 立ち性あるいは主茎を立てて栽培が可能な原種は表1に示す色つきの種となり、黒色は基本的にコルクやヘゴ板あるいは前記立ち性2項の斜め吊りとなります。従来はヤシガラマットも使用しましたが、ロール状のマットの入手が出来なくなり、利用していません。

 色つきの中で紫色は立ち植えでも可能ですが、垂直あるいは斜め吊りとした支持体が好ましいものです。表1からは多くの原種が立ち植え可能との印象をもちますが、自然界では殆どの種の葉は下垂して生息しており、自然と同様の生態あるいは大株にしたいのであれば葉が下垂する取付が必要で、これは単茎の胡蝶蘭の頂芽に水を溜めないことで、病気を避ける点でも有利です。一方、立てて植えつけたほうがむしろ良い種はpolychilos亜属のpolychilos種です。

 Phal. amabilisは交配種に見られるように市場では殆どが立ち植えですが、交配種と異なり殆どの原種は下垂取付が好ましく大株にするにはコルクやヘゴ板が有利です。入荷時でのSabah産の葉は全て下垂しています。栽培ではいずれでも問題はありません。

表1.Phalaenopsis分類
亜属
phalaenopsis
proboscidioides
lowii
aphyllae
braceana
hainanensis
honghenensis
minus
stobartiana
taenialis
wilsonii
parishianae
appendiculata
gibbosa
lobbii
parishii
polychilos amboinenses

amboinensis
bastianii
bellina

doweryensis
fasciata
floresensis
fimbriata

gigantea
hieroglyphica
javanica
luddemanniana
luteola
maculata

mariae
mentawai

micholizii
modesta
pallens
pulchra
reichenbachiana
robinsonii
venosa
violacea

fuscatae
cochlearis

kunstleri
viridis

polychilos

borneensis

lamelligera
mannii
pantheriana

zebrinae
corningiana
inscriptiosinensis


sumatrana
tetraspis
zebrina

phalaenopsis
phalaenopsis
amabilis
aphrodite
philippinensis
sanderiana


stuartiana
deliciosae
chibae

mysorensis
esmeralda

stauroglottis
celebensis
equestris
lindenii

 植え付けでのページでも指摘していますが、室内栽培と温室あるいはワーディアンケースでの栽培法は異なり、室内栽培でコルクやヘゴ板を取付材にすることはできません。これは栽培湿度が異なるためです。水の落下が問題なく、夜間に高湿度が得られればコルクやヘゴ板が最善ですが、一般室内では鉢と鉢受けでの立ち植えとなります。

 さて順化について取り上げます。国内で苗から育てた株、あるいは順化済の株の移植は容易です。一方、ほとんどの直輸入株は順化処理が必要です。海外からのEMS等での輸入では、相変わらず本サイトの「植付け法と順化」で記載したように、根が根元で切られた状態で入荷します。この状態の株を再生させるのはかなり高度な技術が必要となります。ハンドキャリーで持ち帰る株は現地で出荷方法を指示できることと、問題がある場合は入管手続の際に本人が説明ができるため、根を切らないで持ち込めます。この場合は一部の移植を嫌う株を除いて特に順化処理は不要です。一方、国によっては多少とも傷や病痕のある根の株は認められないことから、輸出国の農園では根を短くカットして出荷するのが慣例となっています。

 本サイトの会員の方からしばしば入荷株を希望されます。入荷状況によっては大変頭の痛い問題で、輸入直後の株を果たして順化できるかどうかです。直輸入株の順化には、ごく一部の強健な種は別として、基本的に温度は20C-30C、高湿度の空間、24時間の通風できる環境を1か月以上保持することが、言い換えれば新たな根や芽がでるまで必須であり、またこの間、細菌性の病気が発生して当然と考え病害防除のための薬品の用意と処理が求められます。もっとも難しいPhal. doweryensisに至っては持ち帰り株であっても筆者の順化率は70%です。EMSでは全く自信がありません。EMSの場合は順化後の株は一回り小さくなり、大型株では元のサイズになるには2年以上かかります。順化後の株は貧相な様態で、これらを希望者に出荷しても良いものか躊躇せざるを得ません。このため浜松では会員の方に限り温室を公開し、こうした入荷株については確認してから入手して頂くことを始める予定です。

 昨年から、このような順化問題を避けるため、海外に直接でかけ、移植を嫌う種についてはそれまでの支持体からの取り外しやトリミング、出荷の手伝いまで極力自分で行うこととしました。自分で剥がした株ではこれまで順化に失敗したものはありません。ポイントはハサミを極力使用しない、根を切らないことです。こうした持ち帰りの場合、出荷作業の手伝いをしばしばするようになり、作業が夕刻や夜遅くなり、蚊の大群に腕や顔が襲われひどい思いをしたことがあります。

 こうしたちょっとした配慮で順化率は一気に上がりますが、農園にとっては受け入れ国での検疫での通関拒否をまず第一に恐れるため、EMS搬送に関してだけは病気ではないが病気と見なされそうな特に根は大半を取り除いてしまいます。生息国での環境であれば、根や葉が2-3本しかなくても通常の栽培で十分再生すると思いますが、日本では前記したような環境をつくり、その中での順化が必要となります。

EMS搬送トラブル

 今月15日に到着したフィリピンからのEMSでは、これまでに経験のない最悪の入荷状況となりました。梱包を開けた時点で50%以上の胡蝶蘭原種が死滅状態、残りの株も7割程度は再生可能と思いますが、多くの葉は短くカットせざるを得なく、元の株サイズに再生するまでには2年以上必要と思われます。原因はマニラ空港での管理に問題があったようで、長時間高温下に置かれたためと思います。4-5月のフィリピンは学校が夏休みとなる盛夏であり、おそらく梱包内では50C以上になる場所に長時間置かれたものと考えられます。成田税関からの報告では、すでに検疫のため梱包を開けた時点で段ポール箱上部の株は葉が融けて取り出しできないということでした。金曜日に成田に着き、土日の2日間倉庫に置かれたことも手遅れの原因であることは間違いありません。これは病害によるものではなく、高熱障害であるため検疫は通りましたが、結果は同じことです。浜松郵便局の課長が見えられ、損害賠償請求を行うのであればと、荷と共に申請書類を持ってこられましたが、箱を開けて写真撮影を行い、原因を調査してから報告することを伝えました。

 こうした生き物の場合は、現地に行き選別した唯一の株であることに価値があり、失われたものをお金で代償することはできません。ここしばらくEMSは行わず持ち帰りを続けていたため、熱帯性植物が高熱で障害を受けるようなことは全く配慮していませんでした。初めて4-6月のフィリピンからのEMSは避けるべきという教訓を得ました。このため第2便と3便のEMSを予定していましたが全て中止とし、この期間はラン園とも相談し、ブローカーに依頼してでもハンドキャリーが必要との結論となりました。このため再度自分で出かけるかどうか、成田から午後便で22時マニラ着、翌日現地で確認し、3日目の朝便で14時に成田に戻るという2泊3日の強行スケジュールを思案中です。

 この時期東南アジアからのEMS搬送のリスクについて参考になると考え、取り上げてみました。

EMSでの高温による障害 (左:胡蝶蘭原種、右:カトレア交配種)

 尚、明日(25)からはマレーシアを訪問します。帰国次第、農園の近況を報告をします。


4月

 今月は月末になっての更新です。4月9日に会津から浜松に移転しました。4月1日からランの移植を開始し、まず、会津ではこれまでの植え込み材からの取り外しと、一部の根の整理を行い、9日から浜松にて植え込みを行いました。想像していた以上に株数が多くまた取り外しに手間がかかり、3日目からはデンドロの栽培をしている知り合いに手伝ってもらい何とか8日までに間に合うことができました。また浜松に着いてからも大変で、温室工事が遅れていたこともあり、鉢を置くベンチやランを吊り下げるフレームなどの組み立てが同時進行となり、静岡大学学生4名に連日手伝ってもらい、4月20で7割が終了したところです。

 上記のような状況のため13日から予定であったマレーシア行は中止となり、22日からのフィリピン行きは植え込み途中の状態で出かけることを余儀なくなりました。フィリピンからの持ち帰りはVanda sanderianajavieraeの2種類のみですが、合わせて190本あり、その他の胡蝶蘭を中心とする株は連休明けからEMSで4回に分けて送ってもらうことになりました。


新温室に並べた会津からの株

ベンチから溢れた株

ベンチは12mx2mが3列、床にも2列

パフィオの植え込み材(蝦夷砂、バーク、焼き赤玉、炭、ゼオライト)

  浜松に建築した温室は15mx5.5mの連結型4棟で、天窓を除き中空ポリカーボネイト板を2枚(よって外部と内部との間は3層となる)構造とし、またベンチ下の床には水耕栽培で使用される発泡スチロール製の桶を連結して6mx1.8mとし、これを1棟当たり4台置き、ここには2‐3㎝の水を常時張り、湿度を高める造りとなっています。

 国産の中空ポリカは高価なため、今回は中国から直輸入を行い、凡そ半額としました。中空ポリカを2枚使用するのは会津での経験で、保温率を高めることと、高湿度を保つ目的と、苔が着きやすい保温カーテンが不要となり、メンテナンスが容易となるためです。


中空ポリカ2枚構造の外壁の温室4棟

温室ベンチは単管パイプでフレームを製作、台はエキスパンドメタル

植え付け後の状態

P. schilleriana中心の吊り下げ種

上右写真に続く

Phal. giganteadowerynensis

Paph. sanderiana

Vanda javierae

Vanda sanderiana

湿度を確保するための床の水盤

 連休明けからは、フィリピンから胡蝶蘭原種、キルホベディラム(約20種)、ホヤ(約80種)、カトレア(交配種1250株)が入ります。カトレアはさらに2‐3株に株分けするため凡そ3000本が温室1棟分を占めることになります。全体が完成しましたらまた報告をします。


 3月 東京以南では1ヵ月程早く、以北では今がPhal. amabilisグループの開花最盛期となります。最初にPhal. amabilis,Phal. aphroditeが、次にPhal. schillerianaが開花を始め、1か月程遅れてPhal. stuartiana、最後にPhal. philippinenseと続きます。これらは全て多輪花性であるため、この時期の温室は最も華やいだ景色となります。

 Phal. amabilisはJava, Sumatra, Borneo, Malucca産のそれぞれで地域固有の特徴のある形状をもっていますが、特にBorneo島Sabah生息種が最も花被片のサイズが大きくダイナミックです。原種として市場に多いのはJavaやSumatra産で、滅多に見ないのがリップ中央弁が一般の先細り形状ではなく、長方形状のMalucca産です。また、フィリピンPalawan産の野生栽培種は今日では入手不可能となっています。写真下段の左2枚と右端がいずれもBorneo島(Sabah)産で、右から2枚目がフィリピンPalawan産です。

 一方、Phal. schillerianaPhal. amabilisとは異なり、生息域はフィリピンに限られており、地域偏差が見られません。海外ネットでインドネシアに生息、あるいはBorneoからの入荷と書かれた記事がありますが、フィリピン以外の生息地からとする信憑性には極めて疑問です。ボルネオ島の業者からの株をマレーシアから入手しましたが、何らフィリピン産との違いを見出すことはできません。多輪花でその華やかさから、どこかの農園がフィリピンから入荷したか、あるいはフラスコ苗を育てて販売しているものと思われます。Phal. schillerianaはフィリピン1国を生息域としているため、花弁の色やサイズに僅かな個体差がある程度で、際立った変種はありません。本サイトでもしばしばこの時期に取り上げているpurpureaフォームが赤紫色が濃く特徴のある色合をしている程度です。このような色は原種50本に1株程度交じることがあります。これらを選別して交配をしてみようと考えています。ただ市場で見られるほとんどの濃い赤紫色をした原種とされる株は慶弔用胡蝶蘭改良種と原種の交配種のように感じています。この品種の自家交配を4年間試みているのですが種(胚)が全く得られません。純正種では容易に得られます。Phal. violaceabellinaと同じように、市場性の高い品種は、さらに大きく派手にするための改良が進められ、系統が分からなくなっているのが実状のようです。

 まだ会津ではPhal. stuartianaが開花し始めたところで、Phal. philippinenseは花茎が現れたところです。追って開花後にこれらについて掲載します。


2月 

Phal. speciosaについて

 Phal. speciosaはインド洋AndamanおよびNicobar諸島に、近縁種のPhal. tetraspisと共に生息する胡蝶蘭で、これら地域は野生ランの輸出を禁止しているインド領であることから野生種の入手はできません。現在市場にある多くのPhal. speciosaは、台湾、タイ、マレーシアを中心に培養された株です。E.A.Christensonの著書によれば、本種に関し下記の2つの変種を挙げています。

  1. Phal. speciosa v. christiana
    本種とPhal. tetraspisとの自然交配種の可能性

  2. Phal. speciosa v. imperatrix
    花被片の全てが赤紫色で棒あるいは点状斑点を持たないもの

 現在、我々が入手できるPhal. speciosaは花被片が白色をベースに赤い大小の斑点や、セパルあるいはペタルの一部がソリッドレッドとなっているものです。Phal. speciosaは比較的多輪花で、その内の2-3輪がソリッドレッドとなることはしばしばありますが、全輪の花びらがソリッドレッドとなる株(上記2の変種)は極めて稀で、これを実際に見た人は世界にも殆どいないのではないかと思います。時折ネットで本種名のソリッドレッドの花びらをもつ株の写真があるものの2-3輪までの撮影ですし、花被片形状からその多くは交雑種のように見受けられます。

 赤色についても、鮮やかな赤から色あせた赤、紫色が混ざった色など様々です。価格は7-8年以上前ではまだ野生栽培種(野生種を長年栽培した株)が市場に出回っていたようですが、胡蝶蘭の中では極めて高価で、特に赤色の鮮やかな株は10万円以上の値が付いていたと記憶しています。現在は実生化(人工増殖)が進み、一般的な白と赤の混在した株は2,000円程度で入手ができます。

 下写真上段左は一般的な本種を、右はおそらくこれまで見たもののなかで最も赤味の鮮やかなもの、下段は筆者も初めて見る全ての花がソリッドレッドのものです。このように全輪がソリッドレッドであっても毎年そうであるかどうかは写真の株の開花が初花であり現時点では不明です。これまでこのような全輪がソリッドであっても、近縁種のPhal. tetraspisの斑点と同様に年が変わると変化する様態を見て来ていますので3回(年)ほど同じ状態が続き、且つ自家交配株もソリッドレッドであることを確認するまでは前記2の変種imperatrixであるかどうかの断言はできません。来季には自家交配を行い確認してゆく予定です。

Phal. speciosa

世界らん展日本大賞2013

 今月は東京ドームでの国際蘭展(世界らん展日本大賞2013 )が開かれる月です。この歳月記を書いている17日(日曜日)は開催2日目で、大勢の方が出かけているのではないかと思います。筆者はパフィオペディラムの販売で良く知られた米国Orchid Innからオープニングセレモニーの招待状を頂いて、金曜日の4時半に出かけました。ブースエリアへの入場開始は5時半頃でした。 会津までの帰宅時間があり、会場には1時間しか留まれず、2ヵ月近く前に注文したランをそれぞれのブースに出かけ受け取るのが精一杯で、グランプリや入賞花を一つも見ないで帰宅しました。今回前もって注文した業者はOrchid InnとBela Vista等です。それぞれパフィオとカトレア系の業者ですが今年からカトレアも本格的に始めるためです。

東京ドーム 世界らん展日本大賞2013 (オープニングセレモニー)

 この展示会は国内で原種を得る最も良い機会であり、趣味家の方は関東だけでなく遠方からもこられているのではないかと思います。また、数年前に本サイトで述べたように、もし纏まった数のランを海外出展者から購入される場合は、会場で新たに購入するのではなく、あらかじめネットで注文しておき、展示会でそれらを受け取るのが良いと思います。東京ドームという都心での展示会は海外業者にとって出展・渡航・滞在費がかなり重く圧し掛かり、それぞれ販売コーナの商品はその経費回収の目的でやむを得ないのでしょう通常価格と比べて極めて高価になっています。原種については国内業者も同様です。

 殆どがマレーシア、フィリピン、インドネシア等の現地購入価格の10倍以上(デンドロビウムで今回、約20倍もありました。つまり500円で買えるものが1万円です)です。展示会で10本購入した支払で海外では100本買うことができるという勘定です。 よって会場ではそうした価格を覚悟した上で購入するか、一般種は控え入手が困難な変種や稀少種が見つかった場合のみ購入するという方法が賢明と思います。 前もってメールで注文する場合の支払額はサイトで世界に公示された価格ですので、現地での直接購入の2-3倍に、平均的にはラン展価格の半額程度に収まりますし、支払はすべてその場で行えます。また最低注文料等の制限もありません。

 もうひとつ気になったのはオープニングセレモニーでの出来事です。開始時だけで300人以上が参加し、セレモニーであっても見学だけでなく5時半から売買が始まります。上記の写真右に見られるように、土曜日からの展示期間と変わらない混雑さの中、多くの人たちが商品を購入します。招待客ですから、おそらく栽培経験が豊富な趣味家や、コレクターの方々が多いと思われます。この結果、前夜祭でめぼしい品種は買われてしまうのでないかと言う点です。出展者がこのような状況を理解し、前夜祭向けと一般展示期間向けとを区別して目玉商品を日替わりに提供してくれるのであれば良いのですが、稀少種は1品もので高価であり、果たして売れるかどうか不確実な状況では日替わりに出す余裕はないと考えるのが普通で、まず期待は出来ないでしょう。

 目当ての品種を購入するため、開会当日朝早くから並び、入場を待ちわびる人もいるかと思い上記のような状況を危惧しました。趣味家の方で出展業者と長い付き合いがあれば、来年は招待状を数ヶ月前から依頼されるのが良いと思います。


1月 

会津の大雪

 今年、会津はテレビ大河ドラマの舞台となり観光客が増えています。藩校日新館では週末でも1日4-5人の入館であったのが、今や100人を超えるそうです。25日(金曜日)の夜は久々の大雪となりました。写真は誇張ではなく一晩の積雪です。金曜日の夕方まで庭の地面が見えていました。門扉の7割がたが雪に埋もれてしまいました。積雪は1mほどと思います。下の写真は本日26日(土曜日)朝の撮影です。まだ雪は降り続いています。磐越西線は止まり、高速道路は通行できず、まさに陸の孤島状態になっています。このような場所での洋ラン栽培は狂気の沙汰という方がおられるかもしれません。


一晩1mの積雪

門扉前を除雪した後

大雪で喜ぶのは我が家では犬だけ

温室屋根の寒冷紗パイプに積もった雪

 ランの病気の一処理方法

 冬季は比較的乾燥した環境で栽培されるため病気の発生は少ないと思いますが、温室では15-18Cを最低温度とし、また高い湿度を保っているため冬季でもしばしば病気が発生します。葉に炭そ病や細菌性の病気が出た時、本サイトでは病気の出た部位に薬を塗るよりは、その箇所を周辺を含めて切り取り、切断面に薬を塗ることを勧めています。これは黒くなった病痕は進行が止まっても元の緑色には再生できないため、美観上残しても意味がないという考え方からです。

 一方、意外と解説が無いのが、その切り取り方です。これまで筆者は鋭利なハサミで病部とその箇所から数ミリの周辺を切り取っていましたが、この場合ハサミには葉の汁が付くため、感染特にウイルスが恐ろしいこともあり、2年ほど前までは携帯ガスコンロを温室に1台置いて、1回の処理ごとに炎でハサミを殺菌していました。結構これは面倒でした。

 海外の農園で園主と歩きながら、購入するランを選別していた時、園主が病気を見つけると、ハサミではなく葉を手でパキッと二つに折ってから破り取るのを見て、なるほどこの方法であれば、いちいちハサミを使うことはなく、また気をつけて操作すれば手に汁が着くこともないと思い、それ以来潅水作業のとき、時折見つけた病気箇所はこのようにして取り除いています。この作業を写真で紹介します。鉢数が少なければ病気は頻繁に発生するものでもないのでハサミで十分ですが、異なる株で2か所以上ある場合は参考になります。また葉がしな垂れて皺になっているような場合やバンダ系は、折っても破れないのでこの方法は使えません。


炭そ病と思われるPhal. hieroglyphicaの病気

病気の箇所から適当に離れた位置で2つに折る

折った後、破るようにして切り離す

切り離した後の状態

切断面にダコニール原液を塗る
 
 

最近の海外からの輸入事情

 インターネットのオンラインショップでランを購入し航空便でdoor to door(ラン園から自宅まで)の搬送を希望する場合、 これまではEMS(Expree Mail Service)が一般的でした。しかしマレーシアから日本への植物の輸入にEMSは難しくなっているようです。マレーシアの複数のラン園から、植物のEMS搬送は拒否されるとのメールをもらいました。

 3年程前、海外からの購入額が20万円を超える場合は、ランも一般貨物と同様な課税対象になり、受け取り人が郵送で到着通知を受けてから、成田まで行き直接、納税と受け取りを行うか、あるいは振り込みをし郵便局がこの入金を確認した後に自宅に配送するというシステムになりました。その間、荷物はEMSを担う郵便局が保管します。

 最初、このシステムに出合ったとき、施行後2ヵ月程度でしたが、成田に着いてから自宅に配送されるまでに1週間程度を必要とするとの説明に、それでは海外からの搬送を含めると合わせて2-3週間かかることになり植物が弱体化し枯れてしまうことを説明し、ATMでの振込と電子メールによる振込通知を認めてもらい3日で処理した経験があります。カトレアやバルボフィラムとは異なり、水分を茎に蓄えることのできない胡蝶蘭やパフィオ系ランにとって3週間近い段ボール箱中での環境は、その後の順化が困難であり、今後EMSによる20万円を超える注文品の輸入は致命的と思いました。それから今日まで20万円を超えるEMSによる購入がないためその後の事情は調べていません。

 一方、1年半程前、オンラインショップでマレーシアに、20万円以下の金額でしたがランを注文した際、成田までの搬送ならば問題はないが、自宅までの搬送は出来ない。よって成田から自宅までは知り合いの人が成田で受け取り、国内は宅配便で送るとの回答でした。それまで20万円以下の取引はEMSで何度も購入していたため、おかしなことと思い成田郵便局に問い合わせしました。しかし規定が変わったことはなく、植物であるから取り扱わないことはないとの返事でした。その時は海外ラン園と郵便局との説明の整合性に疑いをもち注文を諦めましたが、背景に上記のような長期間の搬送日程によるダメージや、USAのように厳しい植物検疫のため入国許可がしばしば出ないことによるトラブルからマレーシアのEMS担当局では責任問題を避けるため植物の取り扱いを避けることにしたのかも知れません。

 今回、マレーシアのラン園によれば、EMS以外の搬送で依頼すれば可能とのことですが、多くの国際搬送は、送り主の責任範囲は成田までであり、成田に行って受け取れるのであれば兎も角、成田から自宅までをどうするかの問題が残り暗礁に乗り上げたままです。一方、フィリピンからは、注文金額20万円以内でしたが昨年3月にはEMSで自宅までの配送ができました。このことからもマレーシア固有ののEMS事情とも考えられます。

 2011年後半以降はこのフィリピンからのEMS搬送1回を除き、全て直接現地に出向いての持ち帰りであるため、ここ1年程上記の問題について考えたことはありませんでしたが、今年からはマレーシアからの輸入が増えそうでもあり、来月末から3月初めにかけてマレーシア訪問予定であるためこれら事情を詳しく調べる予定です。

 フィリピンからの持ち帰り

 フィリピンではCITES許可申請に2週間、植物検疫に1日が必要と言われています。よって現地から持ち帰る場合は2週間以上前に購入予定のランとその数量のリストをラン園にメールで知らせ、CITES申請を依頼します。現地では申請した同種の中から気に入ったものを帰国2日前までに選び、これをラン園に預け、パッケージ(植物が入った段ボール箱)と共にCITES、検疫書類、Invoice(送り状)を帰国前日あるいは当日までに用意してもらうことになります。

 帰国時、フィリピンのアキノ国際空港までは、通常タクシーで空港ビルの出発エリアのビル入り口まで向かい、ここで荷物を降ろしカートに乗せてビル内に入ります。空港ビル入り口で1回目のパスポート、航空券、簡易的な荷物チェックがあり、これを済ませてビル内の植物検疫窓口(Quarantine Office)に向かいます。アキノ国際空港では搭乗便チェックインカウンタと植物検疫カウンタは同じフロアです。ラン園で受け取ったCITESと植物検疫書類をカウンターの事務員に提出し、検疫担当責任者から確認のサインをもらいます。サインをもらった後は搭乗便カウンタで一般荷物と同様に預け入れします。

 ラン園ではランを箱詰めする前に殺虫と殺菌処理を行い、同時に植物検疫(確認)書類を市内の検疫オフィスに行き申請します。しかし現実の問題として購入者のラン選別に予定以上の時間を要し梱包までのプロセスが前日の夜遅くまでかかったり、休日が入り帰国出発時間までに検疫書類が間に合わないことがしばしば発生します。この場合、ラン園は植物検疫書類の代わりに購入者に検疫書類申請書を渡します。すなわちラン園が市内の植物検疫オフィスに申請書を持っていき必要書類を得る行為と同じことを、購入者が空港内の植物検疫オフィスで行うことになります。

 このイレジュラーな処理はラン園が検疫担当責任者に対し購入者(申請者)氏名やその搭乗便(時間)を前もって連絡し、相互に了解していることが必要で、空港内オフィスの一般事務員では対応できません。よって購入者側もあらかじめ責任者の氏名をラン園から聞いておき、空港内の検疫カウンターでその担当者を呼んでもらいます。こうして責任者が、空港内オフィスで植物検疫書類を作成し、それにサインしてくれます。おそらくこのような緊急処置を受け入れてくれるのは相当の海外実績と植物管理について信頼性のある大手ラン園に限られると思います。検疫書類が用意できれば、パッケージに検疫済のラベルが貼られます。

 その後、このパッケージを搭乗便のチェックインカウンターで一般の荷物(luggage)として預けます。ここまでがフィリピン国内空港での輸出プロセスです。搭乗後は以下となります。

 通常、到着前の機内で税関に提出する「携帯品・別送品申告書」を用意しますが、ランは「日本への持ち込みが禁止または制限されているもの」に当たり成田では荷物を受け取った後は、植物検疫カウンタに向かいパッケージ、Invoice(あるいはパッケージリスト)と検疫書類を提出します。

 検疫カウンタでは、すべてのパッケージの梱包を解き、植物の検証が行われます。植物に付けられた名前・員数と、パッケージリストとの照合です。この際、ラン園によっては株毎にラベルをつけることが時間的にできないことがあり、新聞等で同種の植物は一まとめに包んでいる場合があります。持ち帰りは大半が時間ぎりぎりの作業のため、むしろこのケースが一般的です。現地で時間が無く、ひどい時は属ごとに一纏めされたことがありました。CITES規格はほとんどが属ごとにその付属レベルが規定されていますので、なんとか通りましたが、私が株の名前を述べてはフロアに分けて並べ、検疫官がその名前とリストと照合する作業です。さすがにこれには今後はラベルをつけるようにと検疫所でクレームがでました。

 検疫所で毎回問題となるのは、梱包から植物を一旦取り出すと、それまで現地の作業員が隙間なくそれらを並べて詰めているため、検査後、同じパッケージに詰めようとすると、入りきれない問題が生じることです。無理やり抑え込めば葉や茎が折れてしまいます。このためやや余裕をもった段ポール箱にしてもらう必要があります。しかし問題はその加減が現地では分かりません。2012年9月の輸入の際は、検疫官の一人から事務所にあった空箱を頂いた程でした。

 時折冷や汗がでるのは、カイガラムシや蟻シダです。カイガラムシは殺虫処理をしても殻は落ちず一部が残ることがあります。また同様に蟻シダのようにバルブ内に蟻が住み着いている場合、薬品が完全にバルブの内部まで浸透することは困難なこともあり、小さな蟻が段ポール内をうろついていることがあります。シダ蟻は害虫でもなく、また国内の通常の栽培環境では生存はできないので大目に見てもらう以外ありません。いずれも程度の問題です。ルールさえ守っていれば海外購入の常連ともなると検疫官の対応は皆親切です。

 検疫で問題無しとなれば、関税の事務窓口に移動し、CITESの書類検査とInvoiceから購入総額の確認に移ります。CITES書類が正しいかどうかをチェックし、Invoiceから20万円を超える場合、輸入目的が趣味あるいはビジネスかどうか確認等を行い、納税の有無を決めます。

 これですべてのプロセスが完了します。荷物受取場からここまでに1.2m x 60cm程のパッケージが2-3個となれば1時間弱を要します。最近は検査の要領が分かってきたためこちらの説明もうまくなったせいか40分ほどで済むこともあります。しかしいずれにしても念入りな検査が毎回行われます。

 検査がすべて完了し、成田から自宅までは車が用意できれば良いのですが、無い場合は、検疫所と同じフロアに日本航空の宅配便窓口(実際の宅配はクロネコ等が行う)があり、ここにパッケージを預ければ翌日に自宅に届きます。ハンドキャリーによる持ち帰りのためランがパッケージに詰められた期間は2-3日程度であり、このため植物にはダメージがなく、順化はEMSと比較して遥かに容易になります。

マレーシア(クアラルンプール)からの持ち帰り

 マレーシアのクアラルンプールでは最短で3日ほどでCITES書類が、また1日で植物検疫書類が得られるそうです。しかしマレーシアからの出国手続きはフィリピンと全く異なっています。マレーシアは日本の出国と似ており空港ビル入り口での荷物検査がなく、搭乗便チェックイン・カウンターでランのパッケージも一般荷物として、そのまま預けることになります。植物検疫所もなく、経費節減のための人員削減によるものか、荷物の預け入れフロアではそれぞれの航空会社の職員以外の職員をほとんど見かけません。このため出国ルートにはCITES、植物検疫書類、Invoiceを提出する場所はなく、これら書類はすべて輸入国である日本で必要とされるのみです。

 出国の際の植物検疫オフィスが無いため、時間が無いからと言ってフィリピンのように検疫申請書で対応することはできません。空港から車で1時間程離れたクアラルンプール市内にある植物検疫オフィスに行き、書類を予め得ておくことが必須です。クアラルンプールからの日本航空の夜便を利用すれば夜22時過ぎ(2013年度)出発となるため、当日の午前中に検疫所に行き書類を得ることもできると思いますが、申請者はラン園ですし、週末や祭日にかかれば窓口は開いていませんのでリスクが高すぎます。

 2012年度9月の訪問の際、ラン園が間違えて植物検疫書類に日本での受け入れ空港が大阪となっており、これに私が気づいたのが前日夜で、成田空港と修正するため出国当日の午前中、ラン園オーナーと、空港とは反対方向のクアラルンプール市内の植物検疫オフィスに向かい、1時間ほど書類が発行されるのを待ったことがありました。ちなみにこのオフィスの社員食堂のような場所で待ちましたが、3人がそれぞれ異なるコーヒーを頼んだところ(私はアメリカン)、店員は注文時に有るとも無いとも言わず、出てきた全員の飲み物はかなり甘いカフェオレでした。注文と違うと言ったところ、ラン園オーナーがここはコーヒー原料が良くないのでクリームと砂糖を入れないとまずくて飲めないので何を頼んでも同じものを持ってくると言っていました。これは冗談だと思います。

 日本における検査は、輸出国に関わらず、フィリピンからの輸入に記載した成田空港でのプロセスと全く同じです。よってフィリピンに比べると不慣れな海外での申請が無い分、マレーシアの方が気が楽です。

 

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